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第二章 保元の乱及び新院配流のこと②
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仁和寺覚性法親王の語る(二)
西行をご存知と伺いましたが、その時なのですよ、西行が新院を心配し駆け付けたのは。まかり間違えば咎(とが)を受けるかも知れないというのに………。
「義清、よくぞ会いに来てくれた」
憔悴し切った新院は、弱々しい視線を西行に投げ掛けた。
西行はしばらく黙っていたが、堰(せき)を切ったように想いを告げた。
「鳥羽本院様の葬送に参列しようと高野山から出て来てみれば、これは一体どうしたことです。本院様のご葬儀からわずか十日しか経っておりません。国を導かなければならない新院様が、どうして国を乱すような大それたことをなされたのです」
叱責するような強い口調だった。だがその一言一句には、主従を越えて培(つちか)われた友情、いや肉親に近い愛情が溢れていた。
新院は西行の言葉に、静かに頷いた。
「もっともなことだ。が、朕にはどうしようも無かった」
「私が武士のままでいましたなら、どこまでも新院様とともにいて命を投げ出していたでしょう。それが出来ない辛さは身を捩(よじ)るほどでございます。私はすでに佐藤義清ではない。西行という、出家した一介の歌詠みに過ぎません」
かかる世に
かげも変らずすむ月を
見るわが身さへ恨めしきかな
そう紙に写し取り、西行は差し出した。
受け取った新院は何度も声に出して読み、しみじみと言った。
「闇に燈(とも)る灯明を見る思いがする。朕のために命を賭してまで尽くしてくれようという、そなたの真情が心に沁みるようだ」
「歌によって新院様をお救いする。それが私の願いでございました。新院様もまた歌に生きようとなされていたではありませんか。それが全て無に帰してしまった。私は悔やまれてなりません」
西行の眼に、うっすらと涙が滲んでいる。
「朕は重仁を天位に就けたかっただけだ。しかし、本院様や美福門院、忠通に騙された。偽りごとがまかり通る、そんな世なのだ。怒りが全身の毛穴という毛穴から噴き出した。腸(はらわた)が煮えくり返る思いをしたのだ! その時の朕の胸の内は、義清、いや西行、そなたなら分かるであろう」
西行は新院の激昂を諌(いさ)めるように、歌を一首声に出した。
瀬をはやみ
岩にせかるる滝川の
われても末に
あはむとぞおもふ
「この歌には、新院様の想いが込められています。今は巌(いわお)に裂かれ離れ離れになろうとも、二つに別れた流れがいつかは一つになり想いを遂げることが出来る。恋の歌に見えながら、実は新院様の皇統が必ずや実現するという信念を詠ったものでございましょう」
「その通りだ、西行」
「新院様。歌はこのように人の心を綾織りながら、真実を真正面から見据えるものでなければなりません。後にも先にもない、この一瞬を捉えた歌こそが人の心の奥底に響くのです。その響きは波紋を広げ、人から人へと伝わり、後の世まで光となり残ってゆくのです。このような歌を歌を詠われる新院様をお慕いにならぬ誰がおりましょう。新院様はあまりに身の近くに眼を奪われ、事を急がせ過ぎたのです」
「重仁は第一皇子である朕の子だ。正統な血筋を引いているばかりではない。成長するにつけ、王たる者の資質ありと誰もが認めるようになった。ところが、次に帝位に就いたのは雅仁ではないか。今様にうつつを抜かす第四皇子の雅仁だったのだぞ。美福門院の言いなりになるあまり犯した、それは父の罪だ!」
「本院様には本院様のご苦悩がおありになったのです」
「美福門院を寵愛するからだ。混迷に輪を掛けただけではないか」
「本院様は女院様を愛しておられました」
「ならば、なぜ愛し切らぬ」
「愛はひと括(くく)りには出来ません。一方的に押し付けるものでも、強要するものでもありません。退くことによって全(まっと)うしなければならない愛もございます」
新院は、西行の真情から出た言葉に、自分の言葉を続けることが出来なかった。
西行は眼を閉じた。瞼(まぶた)の裏には、想う人の姿がくっきりと浮かんでいた………。
二人は夜の更けるまで語り合っていたのですが、果たして顕仁兄の心が慰められたのかどうか。明け方近く、西行は心を残しながらここを立ち去りました。
乱後十日余りで、兄の讃岐下向が奏聞(そうもん)されました。二度と内裏に戻ることなく仏門に帰依(きえ)する道を選んだにもかかわらず、です。兄にとっては非常に厳しい処遇でした。遥か島国に流されて行く兄に付き添う者は、わずか女房三名のみ。それはあまりにも寂しい行列でした。
御車が父を祀る鳥羽離宮安楽寿院の北の楼門に差し掛かった時、兄は警護として随行していた佐藤重成を召して、こう頼んだのです。
「故院の御墓(みはか)に参り、最後の暇(いとま)を申し上げたい。出来るであろうか」
「宣旨の時刻を過ぎておりますれば、立ち寄ることは叶いません。御車を御墓の方へ向けますゆえ、せめてここからお別れなされますよう」
重成は憐れに思いながらも、そう答えるしかなかった。
「そうか。叶わぬか………」
御車の中からむせび泣く声が漏れ、付き添う女房たちや重成ばかりか供の兵たちも鎧の袖を濡らしたと言います。
一行は草津の船着場に到着しました。そこから船で讃岐に向かうのです。
重成が、思い詰めたように御車に声を掛けました。
「申し上げます。重成、讃岐までお供するよう申し付けられておりましたが、もはやこれ以上は忍び難く、これにてご無礼仕(つかまつ)ります」
「都へ帰るのか」
「何とぞご容赦下さいますよう、お願い申し上げます」
「任の途中では、そなた咎を受けるのではないのか?」
「覚悟の上でございます。この重成、この度の戦では新院様に弓引く者でありましたが、決して新院様に仇(あだ)なす思いはございません。罪人を扱うがごとき役目に、もう耐えられないのです。どうかお聞き届け下さいますよう」
「そうか………。そなたにも苦しい思いをさせてしまったのだな。許せよ」
「勿体(もったい)のうございます」
「重成。そなたの心遣い、有り難く思う。ご苦労であった」
重成はいかにも心細そうな兄の声を耳に留めて、出迎えた讃岐国司藤原季能(すえよし)の方へ足を向けたのです。
船に乗り込んで、女房たちは泣き崩れました。船内の御座所があまりにもひどい代物(しろもの)だったのです。四方は打ち付けられた板で囲われ、戸には鎖が掛けられている。まるで牢獄そのものの中に、兄は押し込められたのでした。
「これでは罪人扱いではないか」
女房たちはそう申し立てたのですが、讃岐国司は取り付く島もない。人の情の欠片(かけら)もない扱いに声を失いただただ涙に暮れ、そうして兄を乗せた船は讃岐へと向かったのでした。
院も朝廷も摂関家も、貴族という貴族、武士という武士、世の中全てが腐っているのではあるまいか。この度の争乱は、腐ってどうにもならなくなった体から膿を出すためのものだったのではあるまいか。
時代の奔流に呑み込まれてしまったとはいえ、多くの命が、才ある若い命が消えて行ってしまった。私はこの頃、こう強く思うようになったのです。泡沫人(うたかたびと)にも華やぐ花のひとひら、添わせてやることは叶わないのであろうか、と。
西行をご存知と伺いましたが、その時なのですよ、西行が新院を心配し駆け付けたのは。まかり間違えば咎(とが)を受けるかも知れないというのに………。
「義清、よくぞ会いに来てくれた」
憔悴し切った新院は、弱々しい視線を西行に投げ掛けた。
西行はしばらく黙っていたが、堰(せき)を切ったように想いを告げた。
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叱責するような強い口調だった。だがその一言一句には、主従を越えて培(つちか)われた友情、いや肉親に近い愛情が溢れていた。
新院は西行の言葉に、静かに頷いた。
「もっともなことだ。が、朕にはどうしようも無かった」
「私が武士のままでいましたなら、どこまでも新院様とともにいて命を投げ出していたでしょう。それが出来ない辛さは身を捩(よじ)るほどでございます。私はすでに佐藤義清ではない。西行という、出家した一介の歌詠みに過ぎません」
かかる世に
かげも変らずすむ月を
見るわが身さへ恨めしきかな
そう紙に写し取り、西行は差し出した。
受け取った新院は何度も声に出して読み、しみじみと言った。
「闇に燈(とも)る灯明を見る思いがする。朕のために命を賭してまで尽くしてくれようという、そなたの真情が心に沁みるようだ」
「歌によって新院様をお救いする。それが私の願いでございました。新院様もまた歌に生きようとなされていたではありませんか。それが全て無に帰してしまった。私は悔やまれてなりません」
西行の眼に、うっすらと涙が滲んでいる。
「朕は重仁を天位に就けたかっただけだ。しかし、本院様や美福門院、忠通に騙された。偽りごとがまかり通る、そんな世なのだ。怒りが全身の毛穴という毛穴から噴き出した。腸(はらわた)が煮えくり返る思いをしたのだ! その時の朕の胸の内は、義清、いや西行、そなたなら分かるであろう」
西行は新院の激昂を諌(いさ)めるように、歌を一首声に出した。
瀬をはやみ
岩にせかるる滝川の
われても末に
あはむとぞおもふ
「この歌には、新院様の想いが込められています。今は巌(いわお)に裂かれ離れ離れになろうとも、二つに別れた流れがいつかは一つになり想いを遂げることが出来る。恋の歌に見えながら、実は新院様の皇統が必ずや実現するという信念を詠ったものでございましょう」
「その通りだ、西行」
「新院様。歌はこのように人の心を綾織りながら、真実を真正面から見据えるものでなければなりません。後にも先にもない、この一瞬を捉えた歌こそが人の心の奥底に響くのです。その響きは波紋を広げ、人から人へと伝わり、後の世まで光となり残ってゆくのです。このような歌を歌を詠われる新院様をお慕いにならぬ誰がおりましょう。新院様はあまりに身の近くに眼を奪われ、事を急がせ過ぎたのです」
「重仁は第一皇子である朕の子だ。正統な血筋を引いているばかりではない。成長するにつけ、王たる者の資質ありと誰もが認めるようになった。ところが、次に帝位に就いたのは雅仁ではないか。今様にうつつを抜かす第四皇子の雅仁だったのだぞ。美福門院の言いなりになるあまり犯した、それは父の罪だ!」
「本院様には本院様のご苦悩がおありになったのです」
「美福門院を寵愛するからだ。混迷に輪を掛けただけではないか」
「本院様は女院様を愛しておられました」
「ならば、なぜ愛し切らぬ」
「愛はひと括(くく)りには出来ません。一方的に押し付けるものでも、強要するものでもありません。退くことによって全(まっと)うしなければならない愛もございます」
新院は、西行の真情から出た言葉に、自分の言葉を続けることが出来なかった。
西行は眼を閉じた。瞼(まぶた)の裏には、想う人の姿がくっきりと浮かんでいた………。
二人は夜の更けるまで語り合っていたのですが、果たして顕仁兄の心が慰められたのかどうか。明け方近く、西行は心を残しながらここを立ち去りました。
乱後十日余りで、兄の讃岐下向が奏聞(そうもん)されました。二度と内裏に戻ることなく仏門に帰依(きえ)する道を選んだにもかかわらず、です。兄にとっては非常に厳しい処遇でした。遥か島国に流されて行く兄に付き添う者は、わずか女房三名のみ。それはあまりにも寂しい行列でした。
御車が父を祀る鳥羽離宮安楽寿院の北の楼門に差し掛かった時、兄は警護として随行していた佐藤重成を召して、こう頼んだのです。
「故院の御墓(みはか)に参り、最後の暇(いとま)を申し上げたい。出来るであろうか」
「宣旨の時刻を過ぎておりますれば、立ち寄ることは叶いません。御車を御墓の方へ向けますゆえ、せめてここからお別れなされますよう」
重成は憐れに思いながらも、そう答えるしかなかった。
「そうか。叶わぬか………」
御車の中からむせび泣く声が漏れ、付き添う女房たちや重成ばかりか供の兵たちも鎧の袖を濡らしたと言います。
一行は草津の船着場に到着しました。そこから船で讃岐に向かうのです。
重成が、思い詰めたように御車に声を掛けました。
「申し上げます。重成、讃岐までお供するよう申し付けられておりましたが、もはやこれ以上は忍び難く、これにてご無礼仕(つかまつ)ります」
「都へ帰るのか」
「何とぞご容赦下さいますよう、お願い申し上げます」
「任の途中では、そなた咎を受けるのではないのか?」
「覚悟の上でございます。この重成、この度の戦では新院様に弓引く者でありましたが、決して新院様に仇(あだ)なす思いはございません。罪人を扱うがごとき役目に、もう耐えられないのです。どうかお聞き届け下さいますよう」
「そうか………。そなたにも苦しい思いをさせてしまったのだな。許せよ」
「勿体(もったい)のうございます」
「重成。そなたの心遣い、有り難く思う。ご苦労であった」
重成はいかにも心細そうな兄の声を耳に留めて、出迎えた讃岐国司藤原季能(すえよし)の方へ足を向けたのです。
船に乗り込んで、女房たちは泣き崩れました。船内の御座所があまりにもひどい代物(しろもの)だったのです。四方は打ち付けられた板で囲われ、戸には鎖が掛けられている。まるで牢獄そのものの中に、兄は押し込められたのでした。
「これでは罪人扱いではないか」
女房たちはそう申し立てたのですが、讃岐国司は取り付く島もない。人の情の欠片(かけら)もない扱いに声を失いただただ涙に暮れ、そうして兄を乗せた船は讃岐へと向かったのでした。
院も朝廷も摂関家も、貴族という貴族、武士という武士、世の中全てが腐っているのではあるまいか。この度の争乱は、腐ってどうにもならなくなった体から膿を出すためのものだったのではあるまいか。
時代の奔流に呑み込まれてしまったとはいえ、多くの命が、才ある若い命が消えて行ってしまった。私はこの頃、こう強く思うようになったのです。泡沫人(うたかたびと)にも華やぐ花のひとひら、添わせてやることは叶わないのであろうか、と。
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