君じゃないキミと覆面少女

雨宮零

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なし

君の言葉はバニラの味

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「なんでまた来たんだよ。」
予想通り、嫌な目つきで見てくる。イライラしているのか、先程まで読んでいたであろう小説を乱暴にとじ、窓際に置いた。

ー哀してやまない―
表紙にはそう書いてあった。愛ではなく、「哀」。
この小説は私も読んだことがある。人を愛せない主人公の虚しい日々が書かれた物語だ。特に主人公が成長する訳でもなく、ただ流れゆく日々が淡々と書かれている。読む側としてはつまらない小説だった。だが、どこか主人公と私が似ているような気がして、この小説を嫌いになることは出来なかった。
「この小説、好きなの?」
興味本位で聞いた。
「いや、あんま。タイトルにつられて買ったのが悪かったのかもな。ってそうじゃなくてさ。」
たしかにこの小説のタイトルは特徴的だ。私も、買った理由は零と変わらなかった。

「あ、そうだ。今日はさ、千羽鶴おってきたの。じゃーん!」
左手に持っていた茶色い紙袋からとても千羽鶴には見えないであろう物を取り出した。
「なにこれ。」
零は呆れた顔で自称千羽鶴を眺める。
「糸に通したたくさんの鶴を束にしただけじゃん。」
零の言いたいことはわかる。でも、1日で千羽も鶴をおるなんて超人じゃなきゃ出来ない。それに、作り方もわからないし。
「まあ、そんな細かいこと気にしないでさ、ありがたく受け取りなよ。」
千羽鶴を半ば強引に零に押し付ける。
だが、零は嫌がらずに受け取った。
「千羽どころかせいぜい20羽ぐらいしかなさそうだけど。」
「別にいいじゃん。」
さっきから文句しか言わない零に苛立ち始める。貰ったものっていうのは、その「物」がどんなものかが大切なんじゃない。1番大切なのは気持ちなのだ。そんなのもみじんも気にしていない零は人間じゃない。もはや悪魔だ。
「まぁシャンデリア見たいで綺麗ってことにしておくよ。ベッドの角に吊るしておいて。」
「……わかった。」
零からシャンデリア型千羽鶴を渡され、ベッドの角にかける。
少しは言い方を改めてくれた。悪魔じゃなくて、非常識人に昇格しておこう。
「でもどうせ、退院したら速攻ゴミ箱に投げ捨てるんでしょ。」
昨日のようにベッドの横に椅子を持っていき座る。そして、零を睨みつけた。
「ふっ。そうかもな。」
「……。」
この流れは完全に「いや、捨てないよ」って言うところでしょ。ほんと、本音しか言えない人だな。
「少しは否定してよ。」
「そんなことないよ~って言って欲しかった?」
別に女声で言わなくてもいいのに。わざと女子を馬鹿にしているような口調だ。
「一回死んで来た方がいいよ。」
私の冷めた口調で言ったのが面白かったのか、零が少し笑った。やっぱりその笑顔は花が満開に咲いているかのように「綺麗」だった。この笑顔は何度も見てきている。忘れることなんて絶対にない。あの頃、誰よりも私が近くで見てきた顔。やっぱり今日は来てよかった。

「なあ。」
自販機で烏龍茶を買って戻ってきた私に零が話しかけてきた。まるで、言うタイミングを探していたようだ。
「何?」
やけに硬いペットボトルの蓋を少し力を入れて開ける。カチッと音がした。
「お前はさ、何が楽しいの。」
ほんのり苦味のある液体が、冷たい感触を残して喉を通っていく。
「なんのこと?」
言おうか言わまいか、迷っている、そんな顔だ。
「……いや、自分隠してまで、周りに無理に溶け込んでるから。
今日はさ、逆に俺の質問に答えて。別にそこまで知りたい事じゃないけど。」
「……。」
喉に何かがつっかえて、言葉が出なかった。私は今の零の事、まだ全然分からないのに、彼は4月入ってからのこの短期間でそんなことまで分かってしまったのか。少し怖い。でも、知られて嬉しくなっている自分がいる。……何故?
「別に。クラスにうきたくないからってだけだよ。」
口が裂けても、みんなに好かれたいから、なんてこと、言えない。
「前のお前はそんなこと気にしていていなかった。いつも馬鹿みたいなこと言って、1人だけ頭の中お花畑で、なんでも一生懸命で、喜怒哀楽が激しすぎで、何より誰よりも幸せそうな顔してる奴だった。それなのに……」
「中学ってさ、一種の洗脳機みたいだよね。」
零の言葉を遮って言う。
これ以上聞きたくなかった。自分が傷つくだけだと思った。
「小学校卒業したばかりの頃はまだみんな純粋で、子供で、一緒にいるだけで、ほんとに楽しかった。でもさ、中学入学してから次第にそんな友達も離れていった。そりゃあそうだよね。最近の話題にもついていけず、ただ小学校気分で浮かれていた私といたら、向こうも浮いちゃうもんね。だから、内心悲しくても、我慢してた。陽キャラの子と小学校の時の友達が私の悪口を言っていても、我慢したんだよ。でも、悪口言われたことが、私から離れていったことが悲しいんじゃなかった。もちろんそれも悲しかったけどね。1番悲しかったのは変わってしまった友達。あんなに優しい子だったのに、あんなに面白い子だったのに、あんなに、私のそばにいて、これからも親友ね!って言ってくれたのに、みんなそれをまんまと無かったことにした。楽しかった思い出も全部。その代わり全く別人みたいにみんな生活してる。それが、1番悲しかったよ。きっと、中学校というものに洗脳されちゃったんだね。みんなも私も。」
初めて誰かにはいた弱音だった。言葉を止めようとしても、今までためていた思いが炭酸水が噴射するように溢れ出てくる。視界はぼやけ、今にも涙がこぼれ落ちてしまいそうだった。
さっと顔を隠すように後ろを向いて、見られないように涙を拭く。
そして、
「ごめんね。もう帰るね。」
と無理やり口角を上げて言った。
零の憐れむような瞳は今の私の心をより苦しませるだけだった。
「待てよ。」
呼び止める声を無視し、椅子を戻して扉の方へと向かおうとする。
しかし、何かが私の手首をつかみ、行かせてはくれなかった。

ひんやりとした手だった。
細く、長い指と少しくい込むくらいの爪。だが、掴む手の力は思ったより強く、振り解けない。
「離してよ。」
「スマホ出せよ。」
私の言葉には一切動じずに、手首をつかみ続けている。スマホを出すまでは離さないつもりのようだ。なんでこの状況でスマホを出さなければいけないのか。意味がわからなかったが、このままでは帰してくれそうにないので、仕方なくリュックからスマホを取り出した。

「LINE」
「ん?」
「交換してから帰れ。」
一瞬思考が止まる。あれほど嫌っているような態度をとられた相手から、そんな言葉が出るとは思わなかったからだ。
また仲良くしようなんて気になったのだろうか?でも一体なぜ?今のお前とは仲良くしたくないだとか言っていたくせに。
「わかったから、そろそろ手離して。」
「……ごめん。」
と、手を離した零も、スマホを取り出す。
そして、LINEの画面を開き、友達追加でふるふるをタップする。
「……。」
「……。っふ。」
あまりにもお互い無言で振り続けていたから耐えきれなくなって、ついふいてしまった。それにつられたのか、零もふきだした。

「これで登録完了だな。」
「うん。……でも零は私のこと嫌いなんじゃなかったの?」
はぁっとため息をつき、呆れたように零 は言った。
「そんなこと1度も言ってない。
ほら、LINE交換したかっただけだからもう帰れよ。」
私は零に促されるまま、扉の方へと向かっていく。
「空いてる日あったら、また来いよ。」
扉を閉める間際にそんなことが聞こえたような気がした。その言葉に心がほんの少し報われるのがわかる。そんな言葉言われるなんて思わなかったから、嬉しくてスキップして廊下を進んだ。そしたらナースの人に注意された。

1階の売店でバニラアイスを買って、食べながら駐輪場に向かう。
その甘さは、いつもより甘くて、優しい味だった。
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