小犬の気持ち

はづき惣

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その後の小犬

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 放課後の踊り場で、二人の間に一瞬の静寂が漂う。

 九条は手紙の事を、何となく分かってはいたのだ。
 
 だけど、那月が何も言わなかったから、嘘かもしれないとは思っても、九条も何も言わなかっただけで。


 それなのに九条君は……。


 今も、悲しそうな顔で微笑みながらも、那月のことを優しく見つめている。そんな九条を見ていられずに、那月はそっと視線を床に落とした。
 

「……那月、……もし那月が、俺のこと嫌いじゃないのなら、このまま俺と恋人でいて欲しい」

「……おれ」


 九条の事は嫌いではない。最初は美形過ぎて、近寄りがたいなと思っていたけど、今は少しだけ、そんな事ないのかもしれないって分かってきた。

 それにいつでも優しくて、躊躇う那月の事も気遣ってくれる。距離が近すぎて、慌てる事も多いけど。
 
 しかも、あんなに美形でモテるのに、こんな平凡で普通な那月を、可愛いや好きだと言ってくれる。

 だけど、二人とも男同士だから、やっぱりどうしても躊躇ってしまう。

 那月は言葉が喉につかえて、なかなか出せない。


「俺と付き合って欲しい。恋人になって下さい」

「…………でも、……おれ、……嘘を」

「それは、多分、どうせ斉木がやったんでしょう?」

「…………それに、……九条君の事」


 どうしよう、好きじゃないって言えない。
 言ったらきっと悲しませてしまう……。


「分かっているよ。それでも俺は、那月の事が好きなんだ」

「……っ」


 那月の下げていた右手を取り、そっと九条は握りしめる。それから甘く優しい声で、なおも那月に語りかける。

 それに那月は顔を上げられずに、握られたその手をぼんやりと見つめた。

「絶対に大切にするよ。嫌がるような事はしないって約束する」

「……っ、ぅ」

「もし付き合ってみて、どうしても嫌なら、その時はきちんと諦める」

「……っ、ぅ、う」

「だから、俺と付き合って欲しい。本当の恋人になって欲しいんだ。ね、お願い、那月」

「……ぅ、ぅ、う、……ぅん」

 
 九条のお願いに、何故だか那月は思わず頷いてしまった。
 
 でも好きじゃないと分かっているのに、それでも付き合って欲しいと言う九条を、こんな風に言われた那月が、これ以上拒めるわけがない。
 

 な、何だか、頷いちゃった?!


 そんな、自分が自分でもよく分からなくて、慌てる那月を優しく引き寄せると、九条はキュッと抱きしめる。

 それに那月は固まって、じっとするしかない。


「那月、本当に? 俺と付き合ってくれるの?」

「……ぅ、うん」

「ありがとう、すごく嬉しい。これからよろしくね」

「……ぅ、はぃ」


 優しい声に、那月がおずおずと返事をすると、九条は花が咲いた様に笑った。その全開な笑顔の、破壊力が本当に凄くて、那月は九条を直視出来そうにもない。


「那月、大好きだよ。絶対大切にするからね。これからは那月にも俺を、好きになってもらえる様に頑張るから」

「……っ、っだ、だい、すっ」


 小さく呟きながら、内心慌てる那月をよそに、九条は抱きしめる腕に、ギュッと力を入れたのだった。



     その後の小犬(那月)   おしまい
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