元勇者、悪役令嬢になる

白米サイコー

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最終章王立才華魔法学園 願いと絆と後悔と

第15話悪役令嬢の決断

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 ☆☆☆

 エピフィルムを無力化した後、教師陣を呼び、事態の収拾にあたった。
 リンデンさんはプラティーさんの証言と、俺のちょっとした口添えが力になったのかは分からないが、2週間の謹慎処分で済んだそうだ。
 学校に復学した後、色々と大変かもしれないが、リンデンさんにはプラティーさんも付いている。きっと大丈夫だろう。

 今回の事件に関わった一般人の方たちに関しては俺の方で、何とか罪に問われないように根回しをしておいた。今の彼らの状態はコリアンダー公爵預かりという形だ。
 被害を被ったのが俺だからコリアンダー公爵家の方で裁かせて欲しいと頼んだのだ。前時代的ではあるし、被害ならプラティーさんも被っているのだがこれがまかり通ってしまうのだから恐ろしい。

 仕事に関しては失うことになってしまったが、コリアンダー領でも仕事を斡旋する手筈になっている。
 今まで通りとはいかないまでも、懸命に生きて欲しい。
 一応、父様にはちゃんと人道に則った労働条件で雇用してと伝えておいた。

 …少し心配ではあるな。時々様子を見に行くとしよう。

 最後に、エピフィルムに関して、彼女とはあの後も色々と話した。話したうえで、平行線を辿ってしまった。
 けれど、最後
「俺はこの世界を良くしていきたい。前の世界では人類の味方しか出来なかったが、この世界では、出来るだけ多くの生き物を救いたい。悪神が食物連鎖から生物を解放したように、やりようはある筈だ。魔法もある。憎みあわなくて済む世界を作る方法もあると思うんだ。
 話を聞いて、皆で知恵を振り絞れば、きっと」
 そう伝えた俺に対し、
「どうせ、私には出来ることはないのだから、やりたいようにやればいいじゃない。
 まぁ、私が力をつければ、またあなたを殺しに行くわ。
 私の、魔族が人類へ抱く憎悪が消えることは無いもの」と言っていた。
 認めてはくれていないのだろう。でも、きっと彼女は見ていてくれるだろう。俺を殺さなければいけないのだから、きっと見ていてくれる。見ていてくれるのなら、世界が変わる中で彼女の考えも変えていけるかもしれない。

 彼女は魔法才華学園を退学することになったが、公爵家だけあって、あくまでもカリカルパ領に帰るだけ、それ以上の処分は無かった。
 だから、きっと、手を取りあえる日もある筈だ。

 教師に連れられ、去っていくエピフィルムを俺たちは見送った。

 隣にはリンデンさんもいる。

「そういえば、俺って?あなたの本当の一人称なの?」

 リンデンさんがこちらを見て声を掛けてきた。
 そういえば、今俺って言ってるな俺。

「(あ、ああ)ま、まぁ、そんなところかしら。」
「へぇ、あなたも努力していたことがあったのね」
「(そりゃあな)当り前じゃない。人をなんだと思っているの?」
「いえ、そうね。ごめんなさい。あなたのことは今でも嫌いだけど、一度ついた偏見、色眼鏡であなたを見たことは謝るわ。
 三年も経てば人も変わるのね。」
「い、いえ、私の方こそごめんなさい。」

 リンデンさんがあまりにも素直だったためか、この体も素直に返してくれていた。
 いつもこうだと嬉しいんだがなぁ。というか、一人称に気を付けて生きてきたと思われるのは若干罪悪感が、勝手にお嬢様言葉に翻訳されるだけだし…。

 ま、まぁ、いいか、色々俺なりに努力してきたのは確かだ。うん。

 プラティーさんとリンデンさんと少し話して、俺たちも学園に帰った。
 入学してからあまりにも怒涛というか、二日しか経っていないとは思えないハードスケジュールだったような気もするが、無事学園生活二日目も終わった。

 俺は寮で泥のように眠り、深夜。

 人気が無くなったタイミングでコッソリと起き出した。
 目的は一つ。居ても立っても居られなかったのだ。最低限必要な物品だけトランクの中に入れていく。

「お嬢様何をされているのですか?」

 ☆☆☆

 一年間アイリスの専属使用人として働いていたノエルには今日のアイリスが、否、エピフィルムとの会話の後から、アイリスが何処か思い詰めている、というか、何かを決断したような奇妙な雰囲気を纏っていることに気が付いていた。
 アイリスの場所を見事的中させたときのようにこれもまた勘、なのかもしれない。
 仮に勘であったとしても主人の変化は見逃さない。変化があれば、注視するのがメイドの務めだ。

 ノエルは、アイリスが変な行動に出ないか、主人にはバレないように意識を向け続けた。
 結果、夜。生徒が寝静まる時間、一人、旅支度を進めるアイリスを捉えることが出来た。

「お嬢様何をされているのですか?」
「えっと、これは」

 目を右往左往させて、分かりやすく狼狽える。
 ノエルには何処に行くか、は分からなくても、何をしに行くのかはなんとなく分かっていた。
 分かっていても、聞かねばならない。主人の口から何をしに行くのかを。
 ノエルのその言外の言葉がノエルの行動から、アイリスにも伝わったのだろう。伊達に一年共に過ごしてはいない。観念したように肩を落とすと、アイリスは口を開いた。

「今日、エピフィルムに言ったでしょう?出来るだけ多くの生物を救うって。
 私はあの言葉を口先だけにしたくないの。だから、一秒だって無駄に出来ない。」
「二日目…三日目でもいいですが、たったの三日で学校を辞めることに関して、ご両親にはなんと伝えるつもりですか?」
「…私は悪い令嬢だから学校を無断で辞められるのよ。」

 アイリスは自虐的な笑みを作る。
 ノエルはアイリスが悪い令嬢だとは、今はあまり思えない。いい所もいっぱい知れた。勿論、聖人君子なのか、は分からない。物語の登場人物のように清廉潔白とはいかないかもしれない。
 それでも、本人が言うような悪い令嬢ではない、と思う。
 記憶を取り戻して、変わった。変わろうと努力していた。
 ならば、仮に過去の過ちがあったとしても、過去が消えなかったとしても、今もまた、消えないのではと、思えてならないのだ。
 数千人の人間を救っても、その後一人殺せば人殺しになるように、今変わろうとしているという事実はきっと変わらないし、それ自体を否定することはノエルには出来ない。
 勿論アイリスを恨み続ける人間はいるかもしれない。それ自体も否定されるものではないのかもしれない。
 これから先、何人の人間を救ったとしても、アイリスに傷つけられた人間の傷が癒える訳ではない。
 過去の過ちが肯定されることは無い。

 過去を背負って生きていくしかないのだ。
 現在《いま》も背負って生きていくしかないのだ。

 両方背負った先に未来はあるのだから。

 ならば、ノエルに出来ることは一つだけだ。

「お嬢様。旅に出るというのなら。私も連れて行ってください。」
「え?い、いやダメでしょう!
 この先の旅はどれだけ過酷か私でも分からないのよ?」
「なんでも言うこと聞いてくださるんですよね?」
「え?」

 アイリスはぽかんと口を開けた後、顔を青ざめさせる。
 軽い気持ちで口にした言葉が今になって帰ってきた。今になってと言うほど時間は立っていないが。

「で、でも」
「お嬢様が連れて行って下さらないというのなら、今日のように、また自力で見つけるだけです。
 ですが、過酷な旅路を追うとなれば暴漢に襲われてしまうかもしれません。」
「~ッ。
 もう!仕方ないわね。」
「ありがとうございます。お嬢さま」
「一人で旅するためにこんな時間まで待ったのに。
 これじゃあ、意味ないじゃない。」
「私はお嬢様の専属使用人ですから、お嬢様が何か企んでいたら直ぐに分かります」
「何よ、それ。」

 下唇を突き出すアイリスの顔を見て、ノエルはクスリと笑みを浮かべた。

 ノエルにはアイリスが悪い令嬢には見えない。
 それでもアイリスは自分を悪い令嬢だと言い続けるのだろう。過去を背負う覚悟が出来た彼女は、もう自身を勇者だと名乗ることは無いのだろう。
 それでも、悪い令嬢という言い方は語弊があるとノエルもまた言い続ける。悪い令嬢などでは無いと言い続ける。世界の誰がアイリスを責めても、近くでアイリスの姿を見続けたノエルは彼女を悪い令嬢とは言わない。
 本人が言ったとしても、だ。
 だから、ノエルはアイリスをこう呼ぶことにした。

(お嬢さまは元勇者で、今はきっと悪役令嬢なのでしょう)

 そして、未来は。
 まだ分からない。今と過去、その先に何が待っているのかはノエルには分からない。

「あ、」
「どうしたの?ノエル」

 それでも直近で決まっている予定もある。

「学校を辞めたことはコリアンダー公爵には伝えておきますね?」
「は?え、ちょっと待って?噓でしょ?いや、いつかはいうつもりだったし、家にも帰ろうとは思っていたけれど、それは性急すぎないかしら」
「お嬢様。アイリスの花言葉を知っていますか?」
「な、なによ。急に」
「良い便り、ですよ」
「もう!便りがないのが良い便りともいうでしょ!」
「ですが、私はコリアンダー公爵に必ず手紙を出しますよ?お嬢様が私を置いていこうものなら。あ~、私みたいなうら若き乙女は雄の格好の獲物です~」
「自分で言うことじゃないでしょ!

 …そういえば、ノエルの花言葉は何なのよ」

 仕返しとばかりに、にやりと笑みを浮かべたアイリスがノエルに問う。主からの問い黙秘を貫くわけにはいかない。
 しかし――、
 
「ノエルは花の名前ではありません」
「え、そうなの?」
「はい。昔由来を聞いたときそういわれました」

 アイリスと、ノエルは互いに首を傾げる。

「なら、何の意味があるのかしら」
「さぁ」
「まぁ、ノエルはノエルだものね」
「ですね」

 二人はそれだけ言うと、荷物を纏め、立ち上がる。
 由来が何であれ、二人の絆は変わらない。
 この先、多くの苦難が待っていたとしても、きっと、いい結末を招いていてくれるだろう。
 それこそ、アイリスが悪役令嬢ですらなくなり、多くの人たちから感謝の念を向けられる。
 そんな世界も待っているのかもしれない。


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