猫耳のfind

とらねこ

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3. 狐の少女の探し物

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 穏やかな風の吹く、日差しの暖かな日だった。雨の降る季節に差し掛かり始めたシルヴァ村は、雨への準備と対策で、大忙しであった。雨の漏る屋根を修復し、作物への影響が出ないよう水路を整備し、農耕に利用する雨水を溜める大きな瓶を買った。いつの時代も、水は貴重な恵みであり、それと同時に災厄をもたらすものなのだ。
 その雨への備えも終え、カウンターで頬杖ほおづえをつく猫耳の店主、フィーナ・フォレストは小さく溜息を一つ。
「はぁ…。この時期は、お客さん減っちゃうからつまらないなぁ。」
 やっぱり、雨が降ると客足は遠のくんですよ。売れないって事よりも、一人だとつまらないんだよねぇ。と──
─カラカランッ─
「た、たいへん!大変なの…!フィーナ、助けて!!」
凄い勢いでドアを開け、店に飛び込んで来たのは、息を切らせた手鞠ちゃんだった。本当に急いで来たのだろう。高い身体能力を持つ獣人が息を切らす事など滅多に無いのだから。
「ど、どうしたの手鞠ちゃん‥?」
「たいへんっ、なのっ…はぁ…」
「ひとまず落ち着こう?」
「そんな事…私はいいの。つくもが、つくもが大変なのっ!」
「……それ、詳しく聞かせてくれるかな?」
 手鞠ちゃんを奥に通し、お茶を出して落ち着かせる。一息ついて貰ってから話してもらおう。
「それじゃあ、話して貰えるかな?」
「うん…実は、つくもが………」
 手鞠ちゃんが話してくれた事を要約すれば、こうだ。
 ・つくもちゃんが高熱を出し、倒れた。御両親は仕事柄、遠出しているので鬼である母にも頼れない。村の人達が診てはいるが、医者もいなければ病院も無いこの村では何も出来ない。暁さんにも病気が解らず、薬の出し用がない。
 …との事だった。確かにそれは大変だが、鬼特有の病気の場合、薬を作る材料が無い…いや、あの人なら持っている?……。ううん。今は考えるよりも、今はつくもちゃんの容態を詳しく知りたい。
「私も診てみる。案内して。」


「───っ。これは…!」
 リャノ婆のお宅へ着き、つくもちゃんの元へ。
「角が熱をもってる…。鬼特有の病気だ。放っておくと命が危ないかも…。」
「そんなっ…なんとか、なんとかならんのか!?」
リャノ婆が慌てた様に私に問う。
「今の手持ちでは何とも…。治療法はあるけれど、その薬を作るのに必要なものを採るのに、凄く時間と手間がかかるの。私では、応急処置もほぼ効果は…」
「ど、どうにか出来んか?」
「どうにか、ですか…」
私は、一瞬のうちに思考を巡らせる。薬に必要なのは、世界樹の葉とユグドラシルの皮、そして純粋な"木"属性の魔力だ。言い忘れていたが、この世界には、魔法を使う際に属性と言うものが関係する。それは、"木"や"火"、"風"や"光"…など、人により様々に分類される。例えば、つくもちゃんは"木"、手鞠ちゃんは"火だ。因みに私は"精霊"である。更に、同じ属性を持つ人は、自分以外に世界に1人と言われている─。
 材料が解っていても、揃えられるかは別の話だ。世界樹は大陸に一つ存在している。ここからだと、獣人のスペックをフルに使っても往復4日は掛かる。そして、ユグドラシルはこの世界が創られてた時から存在する霊樹だ。
 世界樹はユグドラシルの子….とも言われており、強い魔力を身の内に宿し、分厚いバリアで邪を秘めた物を跳ね除ける。根や葉はある程度流通してはいるが、とても高価だ。そして希少でもある。今手に入るかと言われると厳しいものがあるのだ。先程述べたように、非常に希少であるため、王都にでも行かないと売っていないだろう。いや、それでもあるかどうか怪しい─。……だが、それについて、私にはあてがある。
「方法はある…かも知れません。」
「ほ、本当か!?」
「はい。…心当たりがあります。少し、失礼しますね。」
 そして私は、身に付けていたブレスレットの石を一つ、砕いた。石は綺羅々きらきらと輝き消えて──私は、ツカツカとドアへ歩み寄り手を掛け、開ける。──眼前には、虚空より身を投げ出し、ふわりと着地してみせた一人の少女が居た。その少女は美しく輝く金髪を両サイドに三角を描くようにまとめ、顔の脇に垂らした髪は、肩ほどまで伸びている。その小柄な身体は、黒を基調としたフリル付きのドレスの様なものを纏っている。背は手鞠ちゃんより少し小さい。つくもちゃんくらいだろうか。だが、その見た目で受けた印象は、次の瞬間には崩れ去る事になる。
「──やっぱり。来てくれたんですね、。」
「うむ。たった一人のに、呼ばれてはのぅ。」
 それを聴き、理解が追いついた皆は目を丸くして固まっている。それはそうだろう。この小柄な、つくもちゃんと同じ様な見た目の少女を私は、師匠と呼んだのだから。
「あ、皆さん。紹介します。私の師匠、魔女のレーラズです。」
「紹介に預かる。レーラズ・フォレストじゃ。ラズ、とでも呼ぶが良いぞ。」
「因みに、この人『(ラズ)わぁぁぁぁぁ』歳でこの見た目なので、これぞ俗に言うロリバb─」
「くぉぉらぁぁぁ!!お主、再開早々に何を言う!わらわの歳について口に出すなど!!」
「肝心の年齢の所に合わせて騒がないで下さいよ。良い感じに聴こえなくなってるじゃないですか。」
「お、お主、一体何のために妾を呼んだ?からかう為か?妾の授けた貴重な石まで砕いて、からかう為に呼んだのか!?」
 泣きそうな顔でそう語る少女(?)もといラズとの関係については、私が幼い時にまで遡る事になるが、今はそれどころではない。
「いえ。少しからかったのは事実ですけど、今日は別件です。つくもちゃん……鬼の子が病にかかりまして」
「診る。妾を案内せよ。」
言い終わる前に診ると言ってくれた。これなら、何とかなりそうだ。


 「…うむ。これは、ちと不味いのぅ。」
レーラズは、つくもちゃんを人目見るなりそう言った。
「確かに鬼特有の奇病に掛かっておるの。妾には症状を抑え、時間を稼ぐ事しか出来ん。この手の事については、お主の方が遥かに詳しいはずじゃ、フィーナ。妾を呼んだ、ということは、何か策があるのじゃろぅ?」
「はい。これに効く薬はあります。材料は世界樹の葉、ユグドラシルの皮、そして純粋な"木"の魔力……。だから貴女を呼んだの。師匠、貴女は何故か、ユグドラシルについてとても詳しかった。必要とあらば、どこからともなく葉や根を持ってきた。─何かあるのでしょう?」
「──はぁ、お主も感が良く働くのぅ…。まぁ良い。そこは力を貸そう。ちと、待っとれ。」
 そう言ってラズは横たわるつくもちゃんへ手をかざす。手のひらが淡く光り、その光がつくもちゃんを包む。
「これでよし。暫くは大丈夫じゃろう。…フィーナ、外へ。」
 外へ出ると、ラズがおもむろに手を空中へかざし、何かを開くように空間を押した。その場所から漏れ出るように発生した霧が周囲を包み、その霧が晴れてくると、巨大な何かがある事が伺えた。─大きな…木…?─
「これって、─まさか…」
「うむ。これこそは霊樹、ユグドラシルじゃ。」
「これは…いったい、どういう事なんですか!?」
確かに師匠には何かがある。そう勘ぐってはいたが、ここまでとは…。それより、リャノ婆が入り口で固まってるからちゃんと説明して欲しい。
「説明が欲しいか?うん。そうだろうな。驚愕の二文字が顔に張り付いとるぞ。」
ニヤニヤしながら言わないで欲しい。
「妾はある時からユグドラシルと時を共にしておる。聞きたい事は山とあるじゃろうが、今は話しておるいとまはないじゃろう。ユグドラシルの皮と魔力、貰い受けるがよい。」
「は、はい…。」
「ほれ、さっさとせい。」
私は、ユグドラシルにゆっくりと近づき、師匠に促されるまま腰に差していたナイフで少しだけ、皮を剥いだ。これで皮はクリア。あとは魔力だが………
「ほれっ。」
小さく振りかぶり、ラズが投げたのは小瓶だった。その小瓶は綺麗な放物線を描きそして──。
「きゃあっ」
「ないすきゃっち 。じゃ!」
ギリギリ受け止められた…。正直落とすんじゃないかとヒヤヒヤしました…。小瓶の中には、鈍く発光する液体が……?
「お主の疑問に答えてやろう。その液体は何か。じゃろう?それは、ユグドラシルの樹液じゃよ。魔力そのものじゃ。」
「これが……ユグドラシルの魔力…。これで二つは揃った……?」
「うむ。そのようじゃの。」
いつの間にやら霧が消え、ユグドラシルも姿を消している。それにしても、いきなり過ぎて私もついていけてないよ…。
「して、残りの一つ。世界樹の葉は、どうするつもりじゃ?」
「あ、それは私が今から採りに向かいます。4日ほどで…」
「いや、正直妾が魔法で世界樹の元へ転送した方が早いぞ?」
……全くこの人は…。人の苦労が馬鹿みたいに思えて来るよ…。
「まぁ精神と身体に大きな負荷がかかるがな。普通のニンゲンなら耐えられるか怪しい所じゃが、幸いお主は獣人じゃ。それに妾の魔法じゃから、耐性ついとるはずじゃ。ま、大丈夫じゃろ。」
判断基準適当だなぁ…。まぁ、その通りなのだけれど。
「あれ、でもそれだと師匠が行った方が早くないですか?」
「そのことじゃが、つくもにかけた魔法の維持をしなきゃいかんから、妾は行けぬ。」
だそうです。
「ま、待ってくださいっっ!」
大きな耳にふわふわの揺れる尻尾。そう、手鞠ちゃんです。
「手鞠ちゃん?どうして?」
「あの、私も役に…つくもの為に動きたいんです!」
「ごめんなさいねぇ。」
「あ、暁さん。」
「手鞠はこうなると聞かないのよ。─それに、やっと出来た友達だって喜んでいたんです。出来ることがあればしたい、と…。」
「お願いします!」
決めるのは私ではない。術者となるレーラズだ。
「お主は─見たところ東国の獣人か?」
「はい、そうです。」
「─東国の獣人は魔力、魔法に強い耐性を持つと言うが…。」
「ええ。そうですよ。」
暁さんが答える。
「我々、東国の獣人は、他の種族に比べ魔法に強い耐性があります。鬼には劣りますが、そこそこの魔力も備えている。」
「うむ、そうか。なら大丈夫そうじゃの。フィーナは残って皮を潰し樹液と混ぜよ。手鞠とやら、世界樹のもとへ送ろう。ただ、負荷は大きいぞ。」
「はい。私は大丈夫です。お願いします!」
──こうして手鞠ちゃんは、無事世界樹の葉を持ち帰り、私は薬を作ることに成功したのです。

 「つくもちゃん、これを飲んで…。」
 そっと口を開き、薬を流し込む。コクコクと小さく喉がなる。飲んでくれたみたいだ。
「この薬なら、あと数時間もすればよくなるじゃろ。」
器に残った薬を見て、ラズが言った。
「予備は、とっておけよ?」
「はい。勿論そのつもりです。」
その後、つくもちゃんが回復したとの連絡をうけ、1度家に帰っていた私はつくもちゃんのもとへ向かいました。
「つくもちゃん、体調はもう大丈夫なの??」
「フィーナ!!」
つくもちゃんの顔がぱぁぁと明るくなる。と、同時に体が光って‥…ん?なんで体が明るく発光してるの?え?顔が明るくなる(物理)?
「あぁ、これこれつくも、落ち着け。落ち着かんと"どかん"じゃぞ?」
いや、その歳でどかんって……。っていやいや、それよりも!
「つ、つくもちゃん…?どうしてこんなことに?」
「つくもの代わりに妾が説明してやる。心して聞け?──実は、この薬の副作用らしくての‥。純粋な魔力としてユグドラシルの樹液を使ったじゃろ?ユグドラシルの樹液は、高圧縮した魔力じゃから、濃度が高すぎて‥その‥つくもが興奮状態になると、魔力が暴走しかけて、発光するようになったみたいじゃ…」
「あー……成程。ってうん?師匠、それって、手鞠ちゃんに会ったらまずいんじゃ…?」
「あ。………すまん、もう───」
と、その時。
「つくも!?」
「てまりーーー!!」
つくもちゃんが煌々こうこうと輝き出しました。
「「あっ…….」」
私達の中の最大の懸念けねんが現実に……その後はレーラズ師匠のお陰で、何とか落ち着きました。たまーに、光るけどね。

「全く…。お主が余計なふらぐを立てるから…」
あ、なんか私にヘイトが向いてる。
「いいじゃないですか~。師匠のお陰で治まりましたし~。」
「今回は良かったものの…全く。対策は考えておるのじゃろ?」
ラズ片目をつむり、答えを促す。
「はい。木の魔力と相性の悪い、水の魔力を使って薬を作りました。これを、毎日一回と、気分が高揚した時に飲んでもらおうかと。あ、水の魔力はセイレーンのものです。」
「んむ。流石は、妾の弟子じゃのっ♪」
「と、言っても、師匠は薬についてはからきしでしょう?」
「………」
あ、黙った。
「うるさいのぅ。これからは嫌がらせにちょくちょく顔を出してやるわっ。覚悟せい。」
「なーんて言って、寂しいだけでしょう?」
「………」
あ、また黙った。師匠が黙る時は、大体図星なんだよね……。
 そんなこんなで、つくもちゃんの体調も完全に回復!私も師匠と再会できて……。私達の日常は、もっと騒がしくなりそうです。



*手鞠の探し物─つくもの薬─*
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