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第1章~2人の奇妙な関係~
もう逃れられないぞ
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──この度、我が息子である、学が結婚する運びとなりましたのでここで紹介させていただきます。
社長のそんな声が響くなか、あたしと学くんは壇上へと上がっていく。
学くんの腕を組みながら。
「お前、転ぶなよ」
コソッと歩きながら耳打ちされる。
「やめてよ、たださえ緊張でいっぱいなんだから」
「ふっ、見ろよ。すげぇ人数がお前のことを見てるよ」
学くんの言葉に壇上の前を見れば、見渡す限り人・人・人
「気づかないようにしてたのに」
会場に入った段階からわかってた。
大企業である、MMマネジメントには取引先が多数ある。
そして、令息である学くんの結婚。
報道陣もたくさんいて、壇上のあたし達に向かって無数のフラッシュをたいている。
「うっ……」
極度の緊張でどうにかなってしまいそうだ。
「大丈夫だから」
よろけそうになっているあたしの肩を抱いて、支えてくれる。
──まずは、我が息子遊佐学よりみなさんへ挨拶があります
会場に響き渡る、社長の声。
「手、離すなよ」
社長が立っていたマイクの前にあたしの手を握って移動する。
「ご紹介にあずかりました、MMマネジメント副社長、遊佐学と申します。この度は私と妻であるちとせのためにこのようなお披露目な場を設けていただきましてありがとうございます」
学くんは出会った頃とも違う。
家で見る表情とも違う。
ただ、作り笑顔ということだけはわかる。
でも、スラスラといつ考えたのか。
それとも即興なのかわからないけど、言葉を紡いでいく。
あたしは自分たちにカメラが向けられてることで既に頭は真っ白。
最初の言葉以降、学くんの言葉なんて聞こえてこない。
「礼するぞ」
コソッと耳打ちをしてくれた学くんの言葉を合図に、深々と頭を下げた。
話すのは、学くんだけでいいと言われていたからあたしはただ隣にいるだけでいい。
それだけでも慣れないこの場所は緊張でいっぱいだった。
✱✱✱
「あー!疲れた!」
用意されたホテルの部屋に着くなり、学くんがネクタイを緩めてベッドに座る。
「お疲れ様」
あたしは冷蔵庫にあるミネラルウォーターをコップに入れて、学くんに差し出す。
「さんきゅ……ってお前も疲れたろ、慣れない場所で」
「まぁね……でも学くんがいてくれたから」
「俺はいいんだよ。小さい頃から慣れてる」
幼いころから人に見られて生きてきたんだろう。
あたしとは全然住む世界が違うひと。
なるべく人へのに見られないように生きてきたあたしとは全然違う。
「来いよ」
ベッドの前に立っているあたしをグイッと引っ張ってベッドの上に座らせる。
すごい近くで、学くんの見つめあってる。
「ちとせ、これでもう逃れられないぞ」
「……わかってる」
「おいで」
優しく微笑んであたしに向かって両手を広げる。
あたしのことがすきじゃないくせに。
この人は夫として、あたしを見ようとしてる。
それならば、あたしはそれに乗るだけだ。
そこに愛がなくたって。
社長のそんな声が響くなか、あたしと学くんは壇上へと上がっていく。
学くんの腕を組みながら。
「お前、転ぶなよ」
コソッと歩きながら耳打ちされる。
「やめてよ、たださえ緊張でいっぱいなんだから」
「ふっ、見ろよ。すげぇ人数がお前のことを見てるよ」
学くんの言葉に壇上の前を見れば、見渡す限り人・人・人
「気づかないようにしてたのに」
会場に入った段階からわかってた。
大企業である、MMマネジメントには取引先が多数ある。
そして、令息である学くんの結婚。
報道陣もたくさんいて、壇上のあたし達に向かって無数のフラッシュをたいている。
「うっ……」
極度の緊張でどうにかなってしまいそうだ。
「大丈夫だから」
よろけそうになっているあたしの肩を抱いて、支えてくれる。
──まずは、我が息子遊佐学よりみなさんへ挨拶があります
会場に響き渡る、社長の声。
「手、離すなよ」
社長が立っていたマイクの前にあたしの手を握って移動する。
「ご紹介にあずかりました、MMマネジメント副社長、遊佐学と申します。この度は私と妻であるちとせのためにこのようなお披露目な場を設けていただきましてありがとうございます」
学くんは出会った頃とも違う。
家で見る表情とも違う。
ただ、作り笑顔ということだけはわかる。
でも、スラスラといつ考えたのか。
それとも即興なのかわからないけど、言葉を紡いでいく。
あたしは自分たちにカメラが向けられてることで既に頭は真っ白。
最初の言葉以降、学くんの言葉なんて聞こえてこない。
「礼するぞ」
コソッと耳打ちをしてくれた学くんの言葉を合図に、深々と頭を下げた。
話すのは、学くんだけでいいと言われていたからあたしはただ隣にいるだけでいい。
それだけでも慣れないこの場所は緊張でいっぱいだった。
✱✱✱
「あー!疲れた!」
用意されたホテルの部屋に着くなり、学くんがネクタイを緩めてベッドに座る。
「お疲れ様」
あたしは冷蔵庫にあるミネラルウォーターをコップに入れて、学くんに差し出す。
「さんきゅ……ってお前も疲れたろ、慣れない場所で」
「まぁね……でも学くんがいてくれたから」
「俺はいいんだよ。小さい頃から慣れてる」
幼いころから人に見られて生きてきたんだろう。
あたしとは全然住む世界が違うひと。
なるべく人へのに見られないように生きてきたあたしとは全然違う。
「来いよ」
ベッドの前に立っているあたしをグイッと引っ張ってベッドの上に座らせる。
すごい近くで、学くんの見つめあってる。
「ちとせ、これでもう逃れられないぞ」
「……わかってる」
「おいで」
優しく微笑んであたしに向かって両手を広げる。
あたしのことがすきじゃないくせに。
この人は夫として、あたしを見ようとしてる。
それならば、あたしはそれに乗るだけだ。
そこに愛がなくたって。
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