何故か正妻になった男の僕。

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#20

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「さあ、その長い前髪をよけてみせなさい?その左目、果たしてあの忌まわしい深紅かしら?!」
エレナは剣を片手にズカズカとルイスに近づく。
「案ずるな……。」
ルイスは左目に巻いていた包帯を勢い良く解いた。瞼をゆっくりと開けると、そこにはたしかに深紅に染った瞳があった。
時が止まったかのようにエレナは立ち止まり、「へえ」と感嘆の声を漏らした。
「私は正真正銘、ルイス・アードラースヘルムだ。」
朝日が、昇ってきた。
ルイスの姿は清々しい白い光に照らされて、一層輝いて見えるようだ。
「……目が充血しているようだけど……何かあって?」
まるでジョークを吐くようにエレナが言った。
ルイスは顔をしかめながら言う。
「白々しい。お前らの攻撃が建物の一部に当たり砕けた破片が直撃したまでだ。」
「ふーん。まあこれで貴方が本物のルイス・アードラースヘルムだということは確かに証明されたわ。」
エレナは高い位置で髪を2つに束ねているのにも関わらず、「どうでもいい」と言うようにガシガシと頭をかいた。

「それじゃあ……」

表情が一変した。
目と口は三日月を描く。
悪魔の様な笑みを浮かべる、エレナ。
「首を跳ねても、よろしいかしら?」

・・・

「…… ぅっ……。」
嗚咽が、漏れた。
その瞬間、全身の毛穴がブワッと開くような感覚に陥った。
この空間一帯は音のない世界。常に静寂が漂っている。
王室の隣のこの部屋で少しでも音を立ててしまえば……気づかれる。
「……今、誰かの声が聞こえませんでした……?」
「メル、アタシもそれ聞こえた。……もしかして、他の軍人が潜んでいるんじゃ……?」
切りそろえられたストレートのボブカットに、大きな耳飾りを揺らしながら、猫目の部下もメルという女性に共感する。
エレナの部下達が徐々にざわめく。
興奮状態になっていたエレナには聞こえていなかったようだが、彼女達は感づいた。
そんな……。まずい。
静かにしなければいけないのに、こんな時に限ってガタガタとからだが震えだして仕方が無い。震えは段々大きく、収まらないものになっていく。
いつ音が出てしまうか分からない。
その緊張がかえって状況を悪化させた。
「おい。」
そんなとき、地の底から轟く様な怒りをぶつけるルイスの声がした。
散漫になっていた意識が、またルイス一点に絞られる。まるで、僕を助けてくれたみたいに。
「この私を目の前になにをごちゃごちゃとやっている、恥知らずめが……さっさと決断を下せ。」
そんな……なんで、そんなこと言うんだろう。
まるで、早く死にたいみたいに。
「何から何まで気に触る男ね!そんなに死に急がなくても、その首、切り落として上げる!!!!」
ヒュオン、と何かを振り上げる時の独特な風を切る音が聞こえた。
「……何か、言い残すことはあって?」
辺りはより一層静けさをました。
「そうだな……。強いて言うのならば、だか……」

「お前達が間抜けで、本当に助かった。」

音がした。
金属が、何かを切り裂く音。
それから、床に液体が飛び散る音。
僕の息は止まった。
全身に入っていた力は一気に抜けていく。
僕は、人生初、走馬灯のようなものを見た。
最初はとても幼い時の記憶だった。
あれは、僕とセレンが初めて2人きりで市場にお使いに言った時の事だ。
セレンは無駄に姉さんぶって先走って、あいつは迷子になった。……まあ、必死こいて僕が探しているうちにあいつは家に戻って、何故か僕が迷子になったみたいな扱いを受けたけど。
それから、世界的に流行った感染症で母が死んだ。
自分の母を含めた身の回りの大人達がバタバタ倒れていくもんだから、僕は逃げられない恐怖が怖くて怖くて仕方がなかった。それから僕とセレンと親父、3人で頑張って生活した。セレンが妙に大人っぽくなったのはその頃からだった気がする。
母を追うように親父も死んだ。
無事嫁いで行ったセレンを見届けてから安心するように眠りについた。フリード家は一気に寂しくなった。
僕は親父のコネのおかげで厨房棟で働くようになった。
元々料理は好きだったけど、家での料理担当は全てセレンに奪われ続けていたから、自分の好きなことが生かせる仕事って素敵だと思ってた。でも現実はそんなに甘くなくて、僕は末端の庶務係に任命されていた。
そこでバラードと出会った。
仕入れ係というのもあって、すごい社交的な奴だった。あまりにもコミュニケーション力が高いもんだから、正直最初はちょっと苦手だったけど、ちゃんと関わってみればとっても良い奴だった。
あいつとは仕事も同じだし、よく遊んだ。
よく一緒に出かけたし、お互いの家にもよく行った。今思い返してみれば、1番の僕の友達はバラードだ。
それから僕は中央棟に召集された。
あの時は何が起こっているのか全くわかっていなかった。
ただただ言われるがままにここまで来たけど、なんだかんだいって僕は幸せだった。
ルイス・アードラースヘルム国王は何をしでかすか分からない、支離滅裂・冷酷不動、みたいな人かと思っていたけど、案外そうでもなかった。人は絶対どこかに優しい一面を持っているのだと言うことを身にしみて感じた。
ルイスとの思い出が脳内いっぱいに広がる。
舞踏会に出て、プールに飛び込んだ日。
それから彼にロールキャベツを振舞った。
ルイスは恋愛物語が好きだった。あんなに厳格のある人が意外のものを読んでいてちょっと可愛らしかった。
僕は初めてキスをした。ファーストキスはもちろんルイスだった。
皆で書類を片付けて、お茶を飲んだ。
夜遅くになるまで、僕とルイスとノアさんで話した。とても楽しかった。
ルイスと菜の花畑にいった。
その時から僕はルイスの正妻になった。短い間だったけど、僕はルイスの1番になれて、心がはち切れるくらい嬉しかった。
中央棟に来てから、素敵な人にたくさん出会った。
ルイスを初めとする、各軍最高責任者のゼリムさん、ゲルガーさん、ゼルダさん。それから、ライモンダ共和国からきたマーガレット。
ノアさんには……本当に悪いことをしたな、と思う。
あんなに優しくしてもらったのに、僕は何も返すことができなかった。ましてや、僕はノアさんから全てを奪ってしまった。

そして、僕が招いた最悪の結末。

だんだん遠のく意識の中、鳥が羽ばたく音がした。
そして、僕の意識は完全に途切れた。

・・・

「ルイス、聞いてください。」

「なんだ。」

「私がもしも貴方よりも早く死んだら、ここに埋めてください。」

「……私より先に死ぬことは許さない……と言いたいところだが、互いの身分上大いにありえる。分かった。ではこの丘の上に埋めよう。」

咲き誇る菜の花の中で、今より少し若い彼らはそう誓った。

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