何故か正妻になった男の僕。

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#22

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閉じた瞼を無理矢理こじ開ける。
瞳がその光量に耐えられず鋭い痛みが走る。
「……なんで……?!」
僕の目の前にはルイスがいた。でも、妙な格好をしている。
美しいダークブラウンの長めの髪はセンターで分けられ、襟足は刈り上げてある。
それから、彼はいつものスーツにマントを身につけていない代わりに、執事の制服を来ていた。
包帯の取られた左目には、瞳に光のないアメジストだったような眼が埋め込まれている。
それはまるでー
「ウィル。」
改めて、僕の名を呼ぶ。
姿はいつもと違ったけれど、それは間違いなくルイスだ。
迷いなくその胸の中に飛び込む。
お互いに強くだしさ気しめ合う。
痛いくらいに締め付けると、それに応えるようにルイスも僕を締め付けた。……ちょっと痛かった。けど、それが夢ではないことを証明してくれているようだった。
「ウィル、行くぞ。」
「えっ、ど、どこに?!」
まあ着いてこい、と僕を俗に言う『お姫様抱っこ』をして階段を駆け下りた。
裏門のある階まで降りると、ルイスは裏門から外へ出る。
もう街は朝で、太陽は新鮮に輝いていた。
「あそこだ。」
裏門の先には、1台馬車が止まっている。
「ん……?まさか?!」
「よおウィル!!急げ!」
「バラード!!!」
僕を抱き抱えたままルイスは飛び越えるように馬車に勢い良く乗り込むのと同時に、バラードは馬にムチを振るい走らせた。そのまま郊外を経由して、この先は……。
「バラード、どうしてここに?」
馬車の中から馬を走らせるバラードに聞く。
「それはまた後でゆっくり話すよ。」
「こいつの言う通りだ。まずはそれに着替えろ。」
ルイスはおもむろに執事の制服を脱ぎ捨て、馬車の中に畳んで置いてあった、菜の花畑に行った時のような如何にも平民らしい服装になった。
僕も真似して、高級スーツを脱ぎ、僕の分の服を着た。薄手で、生地の質はザラザラ。着心地はスーツよりも悪いはずなのに、僕の心はひとまず安心した。 
「ルイス…… ……目、どうしたんですか。もしかして、その目……」
心のどこかで真実を見つけているはずなのに、僕はわざとルイスにそう聞いた。
ルイスは思い出したように左目を触るような仕草をしてから、こう言った。
「私の左目と、ノアの左目を交換した。」
馬車があまり舗装されていない道を走る為、馬車の揺れが少し大きくなる。
「それってまさか……。」
「ノアは、『ルイス』として死んだ。」
「…… …… ……。」
全ての全貌が明らかになった気がした。
「じゃあ、王室で亡くなったのは……」
「ああ。私に化けたノアだ。」
ルイスは走る馬車の中、窓から外を見た。
空や海にはルスティカーナ帝国の戦闘機や軍艦の姿は無く、まるでいつも通りの朝が来ているようだった。
「……ウィル、お前には辛い思いをさせた。すまなかった。」
「辛かったですよ。とっても辛いかった。」
僕の脳内は展開し、今まで起きたことやルイスのセリフひとつひとつが歯車のように繋がりあっていく。
ルスティカーナが攻めてくる事は、アルヴァマー帝国からすると想定内、といった様子だ。それから、エレナ女帝にルイスに化けたノアさんを殺させることも。
彼女たちにノアさんを確実にルイスだと錯覚させるため、ルイスの特殊なオッドアイまでも再現しなければならなかつた。だから、お互いの左目を……。
そうすると、ルイス・アードラースヘルムは事実上この世から居なくなったと言うことになる。
アードラースヘルム家の血を継ぐ唯一のルイスが死んでしまえば、王家の血は途絶える。
国の方針や在り方は大きく変わり、国の主導権は、各軍の最高責任者のゼリムさん、ゲルガーさん、ゼルダさんになる。
「……でも、おかしな事がひとつあるんです。」
「なんだ、ウィル。」
僕は、マーガレットを港まで送った後、裏門から中央棟へ入った時のことを思い出した。
「裏門で、ノアさんにあったんです。」
ルイスは黙って僕の話に耳を傾ける。
「そのときノアさんは、ルイスが好きだから、僕の手に渡って欲しくないからルイスをエレナ女帝に殺させる、と言っていたんです。それなのに、何故左目を犠牲にしてまでルイスを庇ったのか……僕には分かりません。」
ルイスは聞くと、呆れたように笑った。
揺れる馬車の中、彼は僕を引き寄せた。
「あいつはそんな事を言ったのか……。ウィル、あいつは嘘が昔から下手なんだ。許してやってはくれないか。」
大きくてゴツゴツした手で僕の頭を撫でた。
「嘘……?なんで嘘なんてつくんですか?」
「そうでもせずに真実を伝えれば、お前はノアを助けようとするだろう。」
シャボン玉が割れたかのように、僕は全てを理解した。
「……そんな……。」
力なく項垂れる僕をルイスは受け止めてくれた。
「ノアは、そんな事思っていない。あいつは心の底から私達の幸せを願ってくれている人間の1人だ。」
馬車はそれからも揺れ続け、いつしか隣の国の港へ到着した。

・・・

「ウィル、これ。」
「バラード、ありがとう。……これは?」
船が出航する直前、バラードは僕に紙袋に包まれた何かを手渡してくれた。プレゼントってやっだと思う。
開けてもいい?と聞いて了承を得てから僕は袋の口を開けた。
「便箋と封筒?」
無難でシンプルな便箋と封筒のセットだった。
「これで、たまに連絡取ろうぜ。それと、セレンにもたまには手紙出してやれよ?」
バラードはそう言って僕に手を差し伸べた。
「ありがとう。大切に使うよ。」
僕はそう返し、その手を取って握手をした。
それから出航前を伝える汽笛が鳴った。
僕はそれじゃあ、といって船に向かった。
「ウィル、待ってくれ!」
「……なに?」
振り返ると、涙を浮かべたバラードが居た。さっきとは全く別な表情になっている。
「絶対、また会おうな……!!」
涙を強引に拭って笑顔を作ってそう言う。僕の中で、答えはすぐに決まった。
「当たり前だ!!絶対、また会おう!!」
汽笛に負けないくらい大きな声で、僕もそう言った。
船に乗り、僕とルイスはアルヴァマー帝国のある大陸から離れる。
大きく手を振るバラードに僕も大きく手を振り返す。
「ルイス、これからどこに行きます?」
「行く宛など決まっていない。これから考える。」
い、意外とこの先はノープランなんだなあ、と思ってちょっと笑えた。
「ウィル、どこか行きたい国はあるか?」
「うーん、そうだなあ……。」
考えていると、僕の頭の中には、向日葵のような暖かくて弾けるような笑顔を浮かべるマーガレットの顔が浮かんだ。
「ライモンダ共和国に行ってみたいです。」
「ほお、ライモンダか。悪くない。」
アルヴァマー帝国のある大陸はもう見えなくなっていった。
今朝出航して、もうライモンダ共和国には着いているかな。
僕は真っ直ぐな心を持つマーガレットが好きだった。
彼女ならきっと、ライモンダ共和国と国民を守ることが出来るだろうと思う。
船は確実に進んで行く。僕とルイスは潮風になびかれながら、ぼんやりとその先を見つめていた。
「ウィル。」
「なんですか、ルイス。」
「私は身勝手な国王か?」
「……ふふふふっ。なんかその質問、前も聞いたことがある気がします。」
僕は舞踏会で、まるでデジャブのような質問をされた時のことを思い出した。まあ、その時は上手く答えられなかったんだけど。
「ルイスは、身勝手です。とても身勝手。」
でも、と僕は言葉を続ける。
「……僕は貴方が大好きです。」
そういってルイスの方をむくと、突然唇が奪われた。
ルイスの右目から、涙が一粒頬ルイスの頬を伝い、今度は僕の頬に垂れ伝う。
初めて見る、ルイスの涙だった。
僕は慰めるように首に手を回した。
ルイスは離れるな、と言うように僕の腰を両手で自分に抱き寄せる。
「……私も……ウィルを愛している。」
唇を離し、今度は強く抱きしめる。
初めてルイスの口から『愛している』と言われた。
その最高の幸福感に僕も浸る。

僕はこんなにも素敵な人と結ばれて、幸せ者だと心から思った。
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