何故か正妻になった男の僕。

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#23

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「ちょ、ちょっと待ってルイス。」
船を降りる直前、僕は青ざめる。
「どうした、ウィル。」
「僕、お金なんて1セントも持っていませんよ!!」
中央棟にいる間は、お金と無縁の生活を送っていたから、僕は結構焦る。
「安心しろ、金なら私が持っている。」
そう言って船の乗務員に差し出したのは、ポケットから取り出した一枚の金貨。
乗務員はちょっと目を見開き驚いてから、お釣りの銀貨を沢山集めて袋に入れてくれた。
僕達は船を降りて、ようやくライモンダ共和国に足を踏み入れた。

・・・

「凄い……!!」
白いレンガで敷き詰められた道に、並び立つ建物も落ち着いた色で統一されてある。
各家の窓には必ずと言っていいほどプランターがぶら下げて固定されてあり、そこには色とりどりな小さな花が咲いていた。
(僕らからすれば)異国風の衣装を身にまとった人達で賑わう市場も、素敵な景観と同じくらい魅力的だった。
「ルイスは、ここへ来たことがあります?」
「いいや、私も1度もないはずだ。」
新鮮、といった様子でルイスも興味津々に辺りを見渡す。
「あ、見てくださいルイス!」
「なんだ。」
市場を歩いていると、あるものが目に止まった。
「ザクロ、ですよ!」
木のかごいっぱいに濃い赤色の小さな実が沢山あった。
気前の良い店のおじいちゃんが僕達にひと粒づつくれた。口に入れると、酸っぱくて甘かった。マーガレットに飲ませてもらった紅茶の味を鮮明に思い出す。
ルイスもうまい、と食べているようだ。
「本当に素敵な国だなあ……。」
と僕は呟く。
「そうだろう?兄ちゃん。」
と、ザクロを売っていたおじいちゃんがふんわりとした笑顔を浮かべてそう言ってくれた。
「今朝、マーガレット様が帰国されてな。国中大喜びじゃ。」
「マーガレットって……。」
「兄ちゃん知っているのか。この国のプリンセスじゃよ。重い病気を抱えるサリア様の代わりによく頑張ってくれている。」
マーガレットは、国民からも愛されているようで心がじんわりと暖かくなった。
「……そういえば兄ちゃん達は観光かい?それなら良いガイドを捕まえてやるよ。」
「いいや、私達は観光目的ではない。この地で生活しようと思っている。」
ルイスはザクロ屋さんのおじいちゃんに、そう言った。
「おや、そうなのかい!だったら、この先の広場まで行くと、この街で1番大きな不動産屋がある。そこで家を借りるといい。」
おいしいザクロまで貰えて、さらに不動産屋さんの情報も教えてくれて、このおじいちゃんはいい人だなあ、と思った。ルイスに続いて僕もありがとうございます、とお礼を言った。
「そう言えば兄ちゃん達は仲がいいようだが、兄弟かい?」
僕の心臓がドキッと跳ねた。
それからルイスが僕より先に振り返り、おじいちゃんに笑みを浮かべながらこう言う。
「私達は夫婦だ。」

・・・

人混みをかき分け、やっと広場に到着した。
「ふう、意外と人が多いな……。」
「おい、ウィル。離れるな。」
僕は少し離れたルイスから強引に腕を引かれる。
僕より背の高いルイスを見上げると、目が合いそうでぱっと下を向く。
面と向かって、夫婦、と言われたのが僕の胸を鷲掴みにした。ドキドキが止まらない。
「どうして目をそらす?」
人混みの波が過ぎ、広場は人と人に押しつぶされないような、適度な混み具合になっていった。
ルイスはわざわざ片膝を地面につけて僕の顔を覗き込むようにする。
「…… ……僕達、夫婦なんですね。」
「何?当たり前だろう。……もしかして、お前……。」
両腕を軽く掴むルイスの手を振りほどいて、もう離れないようにと僕から手を繋ぐ。
「そ、その話はもういいから、早く行きましょう!!」
脈がバクバクいって、顔や耳が熱くなるのが自分でもわかる。
「そんなことで照れていては先が思いやられるぞ……。」
意地悪く微笑んだルイスはそう言った。
そんなことって……先ってなにがあるんだよ……。
いざ不動産屋さんに着いて、家を借りたい、と言うと案外すんなり貸してくれね て、もう今日の夕方からはそこに住めるそうだった。
ルイスと話し合って、これから家具屋さんに行って夕方まで家具や必要なものを取り揃える事にした。
それと、ルイスの左目を完全に義眼にする事も決めた。
元々のルイスの赤い目を摘出して、ノアさんの左目を埋め込んだからといって視神経が繋がっている訳じゃないから、長い間放っておくと腐ったり、とかするらしい。
次の日は、ライモンダ共和国の宮殿に戸籍届けを出しに行くことにした。 
「その目、やっぱりもう見えないんですね。」
「ああ、もちろんだ。しかし私はあの赤い目から解放されてすこし嬉しいよ。」
「え?嬉しいんですか?」
ちょっと、いやかなり意外だ。
あんなに綺麗な目をしていたんだから、自慢に思っていたりとかしているんだと思ってたのに……。
「一部の流れる噂の中では、呪われた身の証だと言われていたらしい。もともとアードラースヘルム家の遠い先祖の目は右目と同様、両目共に黒い色をしていたらしい。それがいつしか左目が赤く染った。……それは今まで殺してきた幾千の人々の血で精製されは呪い、だとかな。」
ため息混じりにルイスはそう言った。
「僕は、ずっと綺麗だと思ってましたよ。だから、もうあのルイスを見れないんだなあと思うとちょっと寂しい。」
ルイスは黙って少し遠くを見つめ、下を向いてガシガシと頭をかいた。
「…… ……そんなことを言われたことは今までに1度もない。……ので、こういう場合は、ありがとう、で良いのだろうか。」
照れるルイスなんて、レアだぞ。
僕はルイスが堪らなく可愛くて繋いでいる方の手を大きく振って歩いた。

・・・

「……この左目は、どうなされたのですか?」
街の病院にかかると、先生はちょっとびっくりしたような顔をして聞いた。
……でも、これまずくないか?なんて答えるんだルイス。「自分がルイス・アードラースヘルムだということを隠すために目玉をくり抜きました」なんて口が裂けても言えない。
「私は軍人であり、左目を負傷した。自分はその最中の意識は全く無いが医療係の者がそうしたらしい。」 
「そうですか。……しかし、私はそこに居合わせなかったためどの程度の傷だったのかは見当もつきませんが、視神経の繋がらない実物の人間の眼球を埋め込むことに意味があるのか、と……少し疑問に思いまして。」
一歩後ろの席に座って先生の話を聞く僕もドキッとして心臓がバクバクと言う。
真実を告げるならば、「摘出したとはいえ、執事を装う人間の左目がちょうど無いとなると怪しまれるから」だ。残念だけどこれも先生に洗いざらい話せるようなことではない。
僕もなにかフォローしようと思ったけど、ここで下手に出てまずいことになるといけないから、僕は黙って先生とルイスの話に耳を傾けた。
「……たしかに、この左目の視神経は繋がっていない。しかしこの左目は私を思い、庇い死んで行った恩人の左目なのだ。」
先生は顎に手を当て、考えるような素振りを見せてから納得したように頷いた。
「そうですね。戦場という非日常の世界であれば、目をくり抜いたあと、内部の粘膜を剥き出しにしていると、なんの細菌やらが入り込むかわからない。ほかに応急処置ができない環境であったならば、他人の目を埋め込む、というのも一理ありますね……。」
ルイスが言ったことは、あながち間違っていない。ノアさんの顔が脳裏に浮かび、ちょっと悲しい気持ちになる。
先生はルイスが喋った事をサラサラと紙に書き留める。
「それでは義眼適用手術の許可を出します。これから1時間程かかります。お連れ様の方、よろしいですか?」
机から顔を上げた先生が僕を見ながらそう言う。
「はい、よろしくお願いします。」
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