Observer ー観測者ー

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アルダ

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炎天下。太陽の光を遮るように砂埃が視界を奪う。しかしその中で様々な物が、中には生きたままの生き物が燃える匂いがした。音がした。声がした。
それと火薬の匂い、薬品の匂い、汗の匂い、血の匂い。
砂埃が晴れた。晴天と照った太陽の下、一面には焼け野原が広がった。
俺はずっと付けっぱなしだったゴーグルを外した。クリアな視界が広がる。
そして彼女に語りかける。
「やっと終わったな、アルダ。」
世間では地獄と呼ばれる光景を眺めたアルダは振り返った。
鍛え上げられた肉体に、汚れて絡まった二つ縛りの長い黒髪。
破けた軍服の下には傷だらけの肌、いつかの地雷で吹き飛ばされて所々無くなった指。
町にいる着飾った誰よりも、そんな彼女が魅力的に見えた。
「ケイ、帰ろう。」
虚ろな瞳の彼女がそう言った瞬間、辺りが真っ白に光った。
逆光で彼女のシルエットが黒く浮かぶ。
あ、まずい。
瞬時に頭の中で最大級の警報が鳴り響く。
それはアルダの表情を見ても、彼女の頭の中が俺と同じ状況に陥っていることがすぐに分かった。
時差爆弾だった。
この場所はずっと基地だった場所だ。きっと前回の戦争で埋められたものだろう。
咄嗟にアルダを抱き締めた。爆弾の威力は分からない。俺ごときの体ではアルダを守れないかもしれない。俺もアルダも全て吹き飛んでしまうかもしれない。
それでも俺は長い戦争で疲弊した体に鞭を振り、目一杯力を込めて抱きしめる。

最後の記憶はケイに圧迫死させられそうな力で潰されそうになったこと。そもそもあの時、体力も気力も消耗しきっていて、かなり意識が朦朧としていた。
ただひとつ明確なのはあの時、時差爆弾が爆破したこと。
それでもこうして意識を張り巡らせていられるということは、私は助かったのだろう。
きっとここは本部の医療ベッド。ここでこんな風に、自分が生きているか死んでいるかを自分自身に問いかけるのはもう慣れっこだった。
大丈夫。私は“また”生きている。
「…ミレルさん…居ますか…?」
「起きた?アルダちゃん、大変だったね。今回眼球に異常は無いから、目を開けても大丈夫だよ。」
そう言われてゆっくりと瞼を押し上げる。
数秒、部屋の照明の光に耐えられずぎゅっと目を瞑った。そしてまたうっすらと目を開いた。
「お疲れ様。これからは今までの分も含めてしっかり体を治していこうね。」
そう優しく話してくれたのは、元冷凍人間、ミレル・レヴィア博士だ。
彼女はこの国の最重要人物であり、国宝人間であり、そして軍事本部の総合医療部隊司令官でもある。
先祖ニンゲンが冷凍され未来に知識人を残し故郷の再建を託された、所謂先祖の叡智の結晶だ。
「ただ今回の損傷箇所は大きいね…。四肢の骨折と全身打撲にその他諸々。内蔵に目立った損傷が無かったのが奇跡なくらいだよ。これだと全治6ヶ月はかかるかな。」
ミレル博士は私の損傷の状態などが書かれた書類を難しそうな顔で眺めてそう言った。
「そうですか。通りで全く手足が動かせない…。そういえば、ケイは?」
ミレル博士のため息をかき消すような大きな音がした。医務室の扉が開く音だ。
「アルダ!!!!!!!」
耳がキーンとした。「アルダちゃんを庇ったお前がなんでその傷で済んだわけ?」と呆れるように笑った博士。
松葉杖を付いて、朧気な足取り。全身包帯でぐるぐる巻きでズンズン近づいてくる。
「お前、命に別状は?大丈夫なのか?」
「ケイ…。時間はかかるけど、ちゃんと治るよ。大丈夫。」
私か寝ているベッドの前に膝を着き、ケイは包帯で巻かれた腕で優しく私の頭に触った。
「はいはい、あんたも全治4ヶ月の大怪我人でしょうが。ちゃんと座って。」
ミレル博士に無理矢理椅子に座らされるケイ。
そして、自力で起き上がることも出来ない私と、頭からつま先まで包帯に巻かれたケイを交互に見つめた。
「アルダ、ケイ。やっと…やっと戦争は休戦だよ。今まで最前線でよく頑張ったね。」
そう言って博士は私たちの傷に触れないように、そっと慰めるように撫でた。
彼女の表情は怒りと懺悔と悲しみを混ぜたような不思議な表情だった。
博士がそんな顔をする必要は無いのに。私はそう思った。
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