幼馴染は何故か俺の顔を隠したがる

れおん

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綾乃とデート③

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『好きなふうにアレンジしてね』

機械から出た俺達は、すぐに横のスペースに入った。

撮影後、スタンプやら落書きやら出来るスペースである。

いつもは香織に任せているので、こういのは苦手だ。何より、この状況が気まずい。

撮影が終わってから、俺達の間には静寂が続いていた。その理由は言うまでもなく、最後のポーズだ。

顔を真っ赤にして、俺の頬にキスをしている大塚さん。

こうして写真で見ると、錯覚では無かったんだと気付く。

「あ、あんまり、ジロジロ見ないでよ」

「ご、ごめん」

手の進まない俺とは違い、大塚さんは落書きをしたり、スタンプを押したりしている。俺はどうしようか。

「は、晴翔は、こういうの苦手?」

「う、うん。いつも人に任せてるかな」

「そっか。じゃあ私がやるよ、ちょっと外出てて」

そう言うと、俺を外に出し、落書きを再開する大塚さん。それから5分くらいだろうか、意外と早く出てきた彼女は、なにやらスマホを見てニコニコしていた。

何かあったのかな?
俺と目が合うと、慌てたようにスマホをしまう。そして、「お待たせ」と言ってプリントされたものを受け取った。

「や、やっぱり、家に帰ったら見て」

そう言うと、パッと俺の手からプリクラが回収される。大塚さんが言うならと、俺は素直に頷く。

「じゃあ、クレープ行こ」

そう言って彼女は手を出した。俺は戸惑うことなく、その手を取るとクレープ屋に向かった。

クレープ屋に向かう途中で俺は、あることを思い出した。

「そうだ、大塚さん。これ、あげるよ」

「え、これって」

渡されたキーホルダーを見て、何やら驚いている。確かにお世辞にも可愛いとは言えない、猫のゆるキャラのキーホルダーだが、お気に召さなかったかな?

「ぬいぐるみとか、特にいらないって言ってたから、これぐらいなら邪魔にならないでしょ?」

「そうだけど。そうじゃなくて。これ、なんだか知ってる?」

「いや、たまたま見つけて、クラスの人達もつけてる人居たなぁと」

「そ、そっか。ありがと」

大塚さんは、大切そうにキーホルダーを鞄にしまう。どうやら気に入ってくれたみたいだ。

再び歩き始めると、大塚さんはこちらの様子をチラチラと伺っていた。なんか顔についてんのかな?

顔をペタペタ触っていると、大塚さんが息を呑む音が聞こえる。そして、遠慮がちに口をひらく。

「い、今更だけど、晴翔って呼んでも・・・いい?」

なんだ、そんなことで緊張してたのか。
そんなのもちろんオッケーだ。

「別にいいよ」

そういえば、さっきから名前で呼ばれていたな。きっかけは俺でもわかる。あの時からだ。

あまり名前で呼ばれることがないため、気恥ずかしいが悪い気はしなかった。むしろ、すんなりと受け入れていた。

「わ、私のことは、綾乃、でいい」

「わかったよ、綾乃」

香織で慣れているからか、女子を名前で呼ぶことに対して抵抗はなかった。我ながらすんなりと出たものだ。

「こういうのも、いいもんだな」

「ん?どうしたの?」

「なんでもない」

前を見て歩く彼女の顔は、今までで一番輝いてみえた。

その笑顔をみて、香織を思い出したとともに、自分の胸にズキリと違和感を覚えた。


ーーーーーーーーーー


その後、クレープを食べた俺達は、少し早かったが帰宅することにした。

まだ遊んでもよかったが、今日はこのまま帰宅することが、俺たちにとって最善であると、言葉に出さずとも2人は確信していた。

出かける前とは違う感情に違和感を感じ、戸惑い、整理する時間が欲しい晴翔。

自分の気持ちに整理がつき、はっきりと気持ちが固まった綾乃。

両者の心の内は全く違うが、2人の関係は前進した。

俺は、綾乃を家まで送ろうとしたが、俺の家まで着いてくるとのことだった。なんでも、香織に用ができたとか。

それにしても、最近本当に仲がいいな2人は。
学校でも良く話すようになったし、今日みたいに2人で出かけることも許していた。それに、香織の言葉がどうしても頭から離れてくれない。


『もしハルくんを大切にしてくれる子が現れて、ハルくんも大切にしたいと思ったら、応えてあげてね』


今日、綾乃に目を奪われる度に、心はざわつき、あの言葉が脳裏をチラつく。今日は精神的にかなり消耗した。

香織と綾乃には申し訳ないが、今日は一人で考えたい。このなんとも形容し難い気持ちを。


ーーーーーーーーーー


「気持ちは固まった?」

「うん、よくわかったよ。この気持ちが何なのか」

つい先日とは打って変わって、とても清々しい表情をしている綾乃ちゃん。本当は、ハルくんを独り占めしたい。でも、もっとハルくんの良いところをみんなに自慢したいし、この気持ちを共有したい。私はそんな勝手なことを日頃思っていた。

そして、今まではハルくんを誰にも取られないように、出来る限りのことはやってきた。

でも、今日の綾乃ちゃんの顔を見たら、背中を押してよかったと、心からそう思った。

この気持ちに応えるかどうかはハルくん次第だ。きっと、今頃はいつもの所で、悩んでいることだろう。私の、私達の好きなあの人は、本当に優しい人だから。

「で、ハルくん親衛隊への入隊はいつですか?」

「やっぱりその変な組織名は継続なんだな。うーん、少し待って欲しいかな」

「なんで?」

「自分の気持ちはわかったさ。私は彼が好き。本当に大好き。だけど、だからこそ勇気が出ない」

確かに、気持ちは痛いほどわかる。
好きであれば、それだけ今の関係を壊したくはないだろう。

ぶっちゃけ、私もそうだった。
だから、自分から好きだとは言えなかった。

卑怯だけど、ハルくんが言ってくれるように誘導したところはある。だから、今回だけは協力してあげることにした。

「たぶん、今告白しても良い返事は来ないよ」

「なんでわかるの?彼女だからとか言わないでよ?」

ちょっとむすっとした表情の綾乃ちゃん。

まぁ、彼女だからわかると言いたいが、昔からの付き合いだからこそわかるんだ。

「ハルくんは一夫多妻やハーレムなんてもの、望んでないの。本当に好きな人と居れればそれでいいって人だから」

「まぁ、なんとなく、わかる」

「うん。だからね、きっとすごく悩んでると思う。まぁ、私のせいなんだけどね」

「どういうこと?」

「んー、まぁ、それは追々話すよ。それより、ちょっと様子を見に行こう」

「え?誰の?」

「ハルくんの。絶対にあそこにいるから。着いてきて」

私は、綾乃ちゃんを連れて外に出た。
私の家のすぐ裏にある、大きめの建物へ向かう。

近づくに連れて、大きな音が聞こえてくる。

パンッ!

パンッパンッッ!

ガシャンッ!!

「え、なんの音これ?」

「えっとね、ほらあそこ」

私達は物陰からこっそり覗き込む。
そこには、サンドバックに向かって打ち込みをする晴翔の姿があった。

私達の家のすぐ裏には、ハルパパが師範代を努める道場があるのだ。門下生たちには極真空手を教えているのだが、最近ハルくんとハルパパは、キックボクシングにハマっているらしい。

そして、ハルくんは悩みごとやストレスを感じたときには、必ずここで気持ちを整理している。

「す、すごいね、色々と。見てていいのかな、これ?」

「ま、まぁいいんじゃない?」

綾乃ちゃんは、頬を赤くし、手で目隠ししているが、指の隙間から見ているのはバレバレだ。

なぜ、こんなに照れているかというと、ハルくんが上半身裸で打ち込みをしているからだ。ハルくんの腹筋は綺麗なシックスパックで、本当にエロいんだ。特に腸腰筋あたりが最高!

私はいつもこっそり覗いているが、それは内緒だ。変態だとは思われたくないからね。

何度も何度も、サンドバックに打ち込むハルくん。いっこうに終わることがない、打ち込み。

これは相当悩んでるな。

「やっぱり、もう少し待った方が良さそうだね」

「うん、顔が険しいもんな。でも、そんな顔もかっこいい」

なんだかこいつ、遠慮なくなってないか?
ぽっ、じゃないよまったく。正妻は譲らないからなぁぁぁぁ。

私達は、また家へ戻り、今後の方針を話し合った。徐々に距離を詰めていく方法について、そして告白するタイミングについて。
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