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しおりを挟むきらいなものをあげたらキリがない。
早起きも、学校も、集団行動も、クラスメイトの大きな声も、男も女もみんなきらい。
だけどなによりきらいなのは、ひとの視線だった。
私は、だれかと目が合うことがなによりきらい。
私はだれにも見られたくないのに、みんな私を見る。私を見ては、ひそひそと囁く。
『葉桜さんってさぁ……』
なにを言っているのかは、聴こえない。けれど、聴かなくても分かる。
『母親に似て』
『男狂い』
『やっぱりね』
愛人の子というステータスがあるおかげで、私はこの歳までずっと、後ろ指をさされ続けて生きてきた。
『泣くんじゃない』
いじめられるたびにべそをかく私を、母は慰めることもせずに叱った。
『泣いたら相手の思うつぼなのよ。言い返しなさい。相手が泣くまで』
そんなこと、できなかった。だって、みんなが言うことは事実だから。
やっぱり泣いて帰ってくる私を、母は呆れた顔でただ見ていた。庇ってはくれなかった。
私がいじめられるのは、ほかでもない母のせいなのに。
しかしそんな母も、結局世間の目に負けた。
母が妻子持ちの私の父と別れて実家のある栃木に逃げ帰ったのは、私が小学校四年生のときだった。
私が住むのは狭い田舎街だ。引っ越してきて間もなく、母の噂は広まった。
転校初日、私はクラスメイトとなった男子たちに、開口一番に言われた。
『イケナイことしてできた子どもがきたー!』
その日から、当たり前のように男子にはからかわれ、女子には仲間はずれにされる日々が始まった。
といっても、母に似てそれなりの容姿であったためか、ひどいいじめはなかった。
ひどくなる前に、先生が守ってくれる。ただ、守ってくれるのは、いつも男の先生だった。それが余計、火に油を注ぐかたちになった。
しかしそうなると、今度は保護者たちから『母親に似て娘まで男を惑わすのね』なんて言われた。
散々言われ続けたせいか、私は次第になにも感じなくなっていった。
クラスメイトからの暴言も、陰口も、先生からのありがた迷惑な励ましも、なにも感じない。
精神を病んで母が自殺したときですら、涙ひとつ出なかった。
そのときはさすがにじぶんでもどうかしているかもしれないと思ったが、出ないものは仕方がない。それに、感情に流されないのは、日常生活を送る上では案外楽だった。
高校生になってとなり街の高校に入学すると、さすがに私の内情を知るひとはいなくなって、私へのからかいや噂話はなくなった。
代わりに聞くようになったのが、『スキー部事故』と『雪女センパイ』とかいう単語。
なんでも、私が入学する前、スキー部の合宿で事故があったらしい。
全国ネットのニュースでも大々的に取り上げられたらしいが、私は受験勉強でそれどころではなかったのでよく知らなかった。
噂によると、スキー場での練習中、部員と引率の教師二名が雪崩に巻き込まれ、死亡したという凄惨な事故だった。スキー部員十二人中、生き残った生徒はたったのひとり。
それが『雪女センパイ』らしい。
『雪女センパイって、魔女みたいだよね』
『部員荒らしだったっぽいよ』
『スキー部の事故って、雪女センパイの魔力だったりしてね』
――くだらない。
だれもかれも、よくもまぁ噂の種を拾ってくるものだと思う。
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