明日はちゃんと、君のいない右側を歩いてく。

朱宮あめ

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第4章

8

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 綺瀬くんと会った翌日、私は登校してすぐに先生の元へ行った。
 おそるおそる、修学旅行に参加したいということを告げると、先生は最初驚いていたけれど、すぐに嬉しそうに笑って、「そうか、分かった。一緒に楽しもうな」と言ってくれた。

 そして、私はその場で先生に不安に思っていることを相談した。

「実は、海や水族館に行くのが怖いんです。私、事故のあと一度も海に行っていなくて……だから、それが少し心配というか」
「そうか。そうだよな。それなら、放課後時間あるか? 先生とちょっと話そう」
「……はい」

 放課後、先生は相談室に私を呼ぶと、さっそく旅行の計画を話し始めた。

 飛行機は大丈夫。あぁでも、できるなら窓際じゃないほうがいいか。学校全体で海に入る予定はないが、自由行動のときにそれぞれでマリンスポーツを選ぶ班もある。だから、それは同じ班の奴らと話し合おう。班決めはこれからやるつもりだが、揉めないよう、班を決める前にみんなの前で言うか……いや、でもそれはそれでちょっと辛いよな。班はだれとがいいとか決めているか?

 嫌な顔ひとつせずに真剣に向き合ってくれる先生を、
少しだけ意外に思った。

 そして、先生と相談した結果、私は班決めをする前に朝香たちに相談してみることにした。

 修学旅行には行きたいと思っているけれど、ただ、海や船に乗るのは怖い。だからきっと、同じ班になると迷惑をかけると思う。

 正直に胸の内の不安を吐き出すと、朝香は「なんでもっと早く言わないの!」と少し怒って私を抱き締めた。

「ご、ごめん……みんな楽しみにしてたようだったから、ちょっと言いづらくて」

 歩果ちゃんと琴音ちゃんも、
「もしかして、前に修学旅行の話をしたときに少し変だったのって、そのせい?」
「気付かなくてごめんね。そうだよね……怖いよね」

 三人の反応は私の予想と少し違った。もっと張りつめた空気になるかと思っていたのだが、三人はぜんぜんそんなことはなく、むしろ私の気持ちに気づかなかったじぶんに対して落ち込んでいるようだった。

「海が怖いなら、食べ歩きとか買い物に徹すればいーんじゃない?」
「そうだね。海はダメでも、動物園とか探したらあるかも。沖縄って、固有種とかたくさんいるんでしょ?」
「たしかに。沖縄の観光地とかぜんぜん知らないけど、これからたくさん調べるんだしなにかしらあるでしょ。とりあえず海と関係ない候補を上げていって、みんなで行けそうなところ中心に回る計画立てよう」
「えっ……ちょ、ちょっと待って。みんな、本当にそれでいいの?」

 さくさくと計画を立てていく三人を、私は慌てて止めに入る。

「いいって、なにが?」

 朝香も歩果ちゃんも琴音ちゃんも、みんなきょとんとした顔をして、私を見た。
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