千年の祈り、あるいは想い(うらみ)

うまうま

文字の大きさ
11 / 19
【前編】千年の祈り、あるいは想い(うらみ) 

第9話 あふれ出る

しおりを挟む
 調査班はあれから順調に火山口へと辿り着かんとしていた。
 三者とも無事だが、少し違和感を覚えていた。

 山頂へ近付くほどに毒瘴の影響は強く濃く出ていた。しかし、大きな毒瘴を断ち切ってからというもの、影響が弱まってきていたのである。
 しかも、三者へ道を開けるかのように、彼らの進路へは毒瘴が強く絡んで来ず、進路以外への毒瘴が強くなっているようだった。

 まるで、火山口まで毒瘴に誘導されているようだった。

「退路の確保が厳しくなっている。帰りはやはり迂回が必要となるだろう」

 ガーネットの声にあとの二人は頷いた。先のようなおためごかしは利きそうになかった。


 火山口まであと少し。
 そこまで来た時、火山が大きく揺れた。

「なっ、なんだ! ふたりともすぐにしゃがめ!!」

 ガーネットの焦った声が響く。
 三者で固まって地面の揺れに耐えているさなか。タンザは自身の目を疑った。

 ―――火山口から、人の手が見えている……??

 それは明らかに"人の"手ではなかった。人にしては大きすぎる、どす黒すぎるそれは、火山から這い出んと両手を火山口へ掛けていた。

「見てください! 兵士長! サフィヤ!」

 タンザが言うや否や、"それ"は身体らしきものを火山口から引き上げ始めていた。

「……!? なんだ! なんなんだあれは……!? 顔、か…?」

 どす黒い毒瘴に覆われた手、身体。
 地鳴りとともに這い出てきた"それ"には顔のようなものがついていた。人間で言うと両目、口あたりが白く光っている。毒瘴に包まれた中、そこだけが不気味に輝いていた。

 明らかに神とは異なる"それ"は、地鳴りのようなうめき声を上げた。すると、火山口から一気に爆風のような熱気と毒瘴が吹き出した。

「っ、下がれッ!!」

 ガーネットがタンザとサフィヤを庇って前へ飛び出し出た。塊となって襲い来る毒瘴を剣で払った。
 ――が。

「兵士長!!」

 火山口から吹き出た爆風が彼を直撃した。
 タンザは上官を必死に抱きかかえた。

「兵士長…!」
「お前たちだけで……先に帰れ」

 ガーネットは遠のく意識の中、仲間へ告げた。差し伸べられたサフィヤの手を力なく振り払い、早く帰れと促すばかりだった。 

「ガーネット兵士長を置いていくなんてできませんよ!」
「そうです、僕に回復させて――」

 地鳴りが激しくなり、三者の声を掻き消した。
 次の瞬間、タンザは自分の身体が宙を舞っていることにきづいた。
 火山が噴火し、爆風に吹き飛ばされていたのである。

「―――ぐっ!」

 彼は突如、胴への圧迫を感じた。
 ――"それ" の片手に、人形のように身体を握られていたのである。
 毒瘴と熱気に全身覆い尽くされ、タンザは"それ"と一体化したかのようになった。
 薄れゆく意識の隅で、蒼い光が見えた。

「タンザを、はなして……ッ!」

 サフィヤが必死に"それ"の手にしがみつき、タンザへ手を差し伸べていた。

「タンザ、しっかりして……! 僕を見て……!」

 毒瘴に覆われた視界の中、優しく光る蒼。そして、初めて会った時から変わらないまっすぐな双つの蒼玉ほうせきが彼を見つめていた。

 ―――そんなに力を使って、疲れてるだろ。

 命の危機迫る中、ぼんやりと彼は思った。

 ―――ああ、やっぱり疲れてるじゃねえか。

 少しずつ弱まっていく蒼い光。途切れて行く意識。

 ―――こんなことなら、ちゃんとお前に伝えておけばよかったな。

 いよいよ、タンザの意識が途切れようとしたその瞬間。


 ザァーーーーーーー。


 突如、土砂降りの雨が降り出した。

「う………っ」
「タンザ……!」

 熱気が弱まり、火山から溢れ出た溶岩が一気に固まった。
 雨に打たれ気を取り戻したタンザは当たりを見回した。

 火山から這い出た巨人のような"それ"は、タンザを掴み、這うように山を下っていることに気づいた。その視線の先には、トルマーレ王宮があった。

「お前ッ、王宮になんの用だ……ッ」

 "それ"はなにも答えない。ただ地鳴りがこだまするだけだった。

「タンザを、離してください……!」

 サフィヤは毒瘴を振り払い、タンザを捕らえる指へ手を押し当てた。
 毒瘴に覆われたそれが、少しだけほころんだ。
 すると"それは"驚いたのか、タンザを放り投げるように手放した。しがみついていたサフィヤとともに、彼らは再度宙へ投げ出された。

「うあああああああ!!」
「わあああああああ!!」

 二人の視界で、トルマーレの街が揺れる。地べたに叩きつけられんとした瞬間―――

 二人の身体は、宙に静止していた。

「サフィヤ! タンザ殿! 無事か!?」

 トパスと一人のエスピリカが慌てて二人のもとへ駆け寄った。

「おじい様……どうして」
「この状況ゆえ、エスピリカも地上の出入りが赦されたのだ。サフィヤ、苦労をかけたな。たくさん力を使って。エメラルの千里眼が時折状況を教えてくれたのだ」
「そうか……この雨、おじい様が……」
「ああ、そうだ。雨で噴火した熔岩を固めたのだ。この老いぼれの力が役に立つ日が来るとは。そして降り注ぐ岩を、このラピースが念動力で防いでいたのだ」

 ラピースと呼ばれたエスピリカが、涙を浮かべて微笑んだ。念動力を有する彼女は、二人の帰還を心から喜んでいた。

「そこにサフィヤとタンザ殿が囚われているのが見え、救い出す機を伺っていたのだ」

 タンザは荒い呼吸を繰り返しながら、トパスらへ伝えるべく身体を起こそうとした。

「タンザ殿、無理に動いてはならん。すぐに解毒ができる者を呼びますゆえ」
「トパスさん、ラピースさん……ありが……」
「礼には及びませぬ。さ、安静に」
「……っ、兵士長が、まだ」
「ガーネット殿でございますかな?」
「……げほっ、そうです…」
「心配なされますな。ガーネット殿をお助けに、すでにエスピリカが走っておりますゆえ。千里眼を持つ者が、おおよその居場所は掴んでおります」

 タンザは安堵した。安堵した勢いで、今一度意識が遠のきかけた。

「おじい様……、あの毒瘴の巨人は……」
「……ああ、私もそう思う。お前も感じ取っていたか。あれは我々と同じ匂いが――」

 トパスが何かを言いかけてはっと息を呑んだ。視線の先にはトルマーレの母子おやこがいた。母親は脚が悪いながらも、幼子の手を必死に引いて避難所へ向かっているようだった。

「逃げ遅れたか……!」

 タンザも瞬時に母子に気が付いた。言う事を聞かない身体に鞭打って、彼らに駆け寄った。

 その瞬間、なにか黒い大きなものが三者に突進していた。
 火山から噴き出した溶岩だった。吹き出された瞬間雨で固められたそれは、岩となって三者目掛けて突き進んでいた。

「あ、危ない……ッ!」

 タンザは母子を庇うように覆いかぶさった。
 民を庇った兵士は、岩の影が自らに落ちているのを一瞥し、来る衝撃を覚悟した。
 ――母子だけでも助かってくれ……!

 サフィヤが目を見開いてこちらに手を伸ばしているのが見えた後、タンザは静かに目を瞑った。

 数秒間、無音の世界に閉じ込められたようだった。来るはずの衝撃はいつまでも来ず、見ると、岩が三者に激突する直前で静止していた。

 ――時が、止まったのか?

 と、思ったが、トパスの叫び声でそうではないと悟った。

「でかしたぞ! ラピース!! そのままゆっくりと岩をどかすのだ!」

 ラピースは息みながら岩に向かって手をかざしていた。岩はゆっくりと動き出し、鈍い音を立てて着地した。
 ラピースが、超人的能力エスパーで岩を受け止めていたのである。

「助かったの……?」

 若い母親が信じられないといった様子で兵士とエスピリカを交互に見ていた。子どもの泣き出す声で我に返った彼女は、我が子を抱きしめた。

「ごめんね、怖かったね……! あなた方、ありがとう……ほんとうに、ありがとうございます……!」

 母親は涙をこぼしながら助けてくれた者たちへ何度も頭を下げた。

「またいつ岩が降ってくるか分かりませぬ。地下へ急ぎますぞ!」

 見上げると、毒瘴の巨人は今まさに王宮へ侵入せんとしていた。固く閉ざされた門の隙間へ、煙のようにその身体を滑り込ませていった。

「陛下が危ない……! トパスさん、その民をお願いします!」

 タンザはそう叫んで、王宮へと駆け出して行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レンレンは可愛い(*´×`*)四十路のおじさん♡Ωに覚醒しました!〜とにかく元気なおバカちゃん♡たぁくん爆誕です〜

志村研
BL
あるところに、高生さんという駄目なおじさんがおりました♡ このおじさん、四方八方に怒られてます。 でもちっとも懲りません。 自分らしさ炸裂にしか生きられなくて、分かっちゃいるけどやめられないんです。 でも、そんな人生だってソコソコ満喫してました。 \\\\٩( 'ω' )و //// …何だけど、やっぱりね。 色々もの足りなくて、淋しくて。 …愛されたくて、たまらなかったんです。 そんな時、Ωに覚醒♡ 高生さんの国では正斎子といいます。 これに成っちゃうと不幸になりがちです。 そんな訳で。 ろくな事をしない割に憎めないおじさんは、心配されてます。 だけど本人は気づきもせずに、ボケっとしてました。 そんなんだから、やらかしました。 そんな時に限って、不運を重ねました。 そんなこんなで、囚われました。 人生、終わった! もう、何もかもドン底だ! 。・゜・(ノД`)・゜・。 いや、ここからですよ♡ とにかく元気なおバカちゃん♡ 中欧のΩおじさん、たぁくん♡爆誕です! \\\٩(๑`^´๑)۶////

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...