千年の祈り、あるいは想い(うらみ)

うまうま

文字の大きさ
11 / 13
【前編】千年の祈り、あるいは想い(うらみ) 

第9話 あふれ出る

 調査班はあれから順調に火山口へと辿り着かんとしていた。
 三者とも無事だが、少し違和感を覚えていた。

 山頂へ近付くほどに毒瘴の影響は強く濃く出ていた。しかし、大きな毒瘴を断ち切ってからというもの、影響が弱まってきていたのである。
 しかも、三者へ道を開けるかのように、彼らの進路へは毒瘴が強く絡んで来ず、進路以外への毒瘴が強くなっているようだった。

 まるで、火山口まで毒瘴に誘導されているようだった。

「退路の確保が厳しくなっている。帰りはやはり迂回が必要となるだろう」

 ガーネットの声にあとの二人は頷いた。先のようなおためごかしは利きそうになかった。


 火山口まであと少し。
 そこまで来た時、火山が大きく揺れた。

「なっ、なんだ! ふたりともすぐにしゃがめ!!」

 ガーネットの焦った声が響く。
 三者で固まって地面の揺れに耐えているさなか。タンザは自身の目を疑った。

 ―――火山口から、人の手が見えている……??

 それは明らかに"人の"手ではなかった。人にしては大きすぎる、どす黒すぎるそれは、火山から這い出んと両手を火山口へ掛けていた。

「見てください! 兵士長! サフィヤ!」

 タンザが言うや否や、"それ"は身体らしきものを火山口から引き上げ始めていた。

「……!? なんだ! なんなんだあれは……!? 顔、か…?」

 どす黒い毒瘴に覆われた手、身体。
 地鳴りとともに這い出てきた"それ"には顔のようなものがついていた。人間で言うと両目、口あたりが白く光っている。毒瘴に包まれた中、そこだけが不気味に輝いていた。

 明らかに神とは異なる"それ"は、地鳴りのようなうめき声を上げた。すると、火山口から一気に爆風のような熱気と毒瘴が吹き出した。

「っ、下がれッ!!」

 ガーネットがタンザとサフィヤを庇って前へ飛び出し出た。塊となって襲い来る毒瘴を剣で払った。
 ――が。

「兵士長!!」

 火山口から吹き出た爆風が彼を直撃した。
 タンザは上官を必死に抱きかかえた。

「兵士長…!」
「お前たちだけで……先に帰れ」

 ガーネットは遠のく意識の中、仲間へ告げた。差し伸べられたサフィヤの手を力なく振り払い、早く帰れと促すばかりだった。 

「ガーネット兵士長を置いていくなんてできませんよ!」
「そうです、僕に回復させて――」

 地鳴りが激しくなり、三者の声を掻き消した。
 次の瞬間、タンザは自分の身体が宙を舞っていることにきづいた。
 火山が噴火し、爆風に吹き飛ばされていたのである。

「―――ぐっ!」

 彼は突如、胴への圧迫を感じた。
 ――"それ" の片手に、人形のように身体を握られていたのである。
 毒瘴と熱気に全身覆い尽くされ、タンザは"それ"と一体化したかのようになった。
 薄れゆく意識の隅で、蒼い光が見えた。

「タンザを、はなして……ッ!」

 サフィヤが必死に"それ"の手にしがみつき、タンザへ手を差し伸べていた。

「タンザ、しっかりして……! 僕を見て……!」

 毒瘴に覆われた視界の中、優しく光る蒼。そして、初めて会った時から変わらないまっすぐな双つの蒼玉ほうせきが彼を見つめていた。

 ―――そんなに力を使って、疲れてるだろ。

 命の危機迫る中、ぼんやりと彼は思った。

 ―――ああ、やっぱり疲れてるじゃねえか。

 少しずつ弱まっていく蒼い光。途切れて行く意識。

 ―――こんなことなら、ちゃんとお前に伝えておけばよかったな。

 いよいよ、タンザの意識が途切れようとしたその瞬間。


 ザァーーーーーーー。


 突如、土砂降りの雨が降り出した。

「う………っ」
「タンザ……!」

 熱気が弱まり、火山から溢れ出た溶岩が一気に固まった。
 雨に打たれ気を取り戻したタンザは当たりを見回した。

 火山から這い出た巨人のような"それ"は、タンザを掴み、這うように山を下っていることに気づいた。その視線の先には、トルマーレ王宮があった。

「お前ッ、王宮になんの用だ……ッ」

 "それ"はなにも答えない。ただ地鳴りがこだまするだけだった。

「タンザを、離してください……!」

 サフィヤは毒瘴を振り払い、タンザを捕らえる指へ手を押し当てた。
 毒瘴に覆われたそれが、少しだけほころんだ。
 すると"それは"驚いたのか、タンザを放り投げるように手放した。しがみついていたサフィヤとともに、彼らは再度宙へ投げ出された。

「うあああああああ!!」
「わあああああああ!!」

 二人の視界で、トルマーレの街が揺れる。地べたに叩きつけられんとした瞬間―――

 二人の身体は、宙に静止していた。

「サフィヤ! タンザ殿! 無事か!?」

 トパスと一人のエスピリカが慌てて二人のもとへ駆け寄った。

「おじい様……どうして」
「この状況ゆえ、エスピリカも地上の出入りが赦されたのだ。サフィヤ、苦労をかけたな。たくさん力を使って。エメラルの千里眼が時折状況を教えてくれたのだ」
「そうか……この雨、おじい様が……」
「ああ、そうだ。雨で噴火した熔岩を固めたのだ。この老いぼれの力が役に立つ日が来るとは。そして降り注ぐ岩を、このラピースが念動力で防いでいたのだ」

 ラピースと呼ばれたエスピリカが、涙を浮かべて微笑んだ。念動力を有する彼女は、二人の帰還を心から喜んでいた。

「そこにサフィヤとタンザ殿が囚われているのが見え、救い出す機を伺っていたのだ」

 タンザは荒い呼吸を繰り返しながら、トパスらへ伝えるべく身体を起こそうとした。

「タンザ殿、無理に動いてはならん。すぐに解毒ができる者を呼びますゆえ」
「トパスさん、ラピースさん……ありが……」
「礼には及びませぬ。さ、安静に」
「……っ、兵士長が、まだ」
「ガーネット殿でございますかな?」
「……げほっ、そうです…」
「心配なされますな。ガーネット殿をお助けに、すでにエスピリカが走っておりますゆえ。千里眼を持つ者が、おおよその居場所は掴んでおります」

 タンザは安堵した。安堵した勢いで、今一度意識が遠のきかけた。

「おじい様……、あの毒瘴の巨人は……」
「……ああ、私もそう思う。お前も感じ取っていたか。あれは我々と同じ匂いが――」

 トパスが何かを言いかけてはっと息を呑んだ。視線の先にはトルマーレの母子おやこがいた。母親は脚が悪いながらも、幼子の手を必死に引いて避難所へ向かっているようだった。

「逃げ遅れたか……!」

 タンザも瞬時に母子に気が付いた。言う事を聞かない身体に鞭打って、彼らに駆け寄った。

 その瞬間、なにか黒い大きなものが三者に突進していた。
 火山から噴き出した溶岩だった。吹き出された瞬間雨で固められたそれは、岩となって三者目掛けて突き進んでいた。

「あ、危ない……ッ!」

 タンザは母子を庇うように覆いかぶさった。
 民を庇った兵士は、岩の影が自らに落ちているのを一瞥し、来る衝撃を覚悟した。
 ――母子だけでも助かってくれ……!

 サフィヤが目を見開いてこちらに手を伸ばしているのが見えた後、タンザは静かに目を瞑った。

 数秒間、無音の世界に閉じ込められたようだった。来るはずの衝撃はいつまでも来ず、見ると、岩が三者に激突する直前で静止していた。

 ――時が、止まったのか?

 と、思ったが、トパスの叫び声でそうではないと悟った。

「でかしたぞ! ラピース!! そのままゆっくりと岩をどかすのだ!」

 ラピースは息みながら岩に向かって手をかざしていた。岩はゆっくりと動き出し、鈍い音を立てて着地した。
 ラピースが、超人的能力エスパーで岩を受け止めていたのである。

「助かったの……?」

 若い母親が信じられないといった様子で兵士とエスピリカを交互に見ていた。子どもの泣き出す声で我に返った彼女は、我が子を抱きしめた。

「ごめんね、怖かったね……! あなた方、ありがとう……ほんとうに、ありがとうございます……!」

 母親は涙をこぼしながら助けてくれた者たちへ何度も頭を下げた。

「またいつ岩が降ってくるか分かりませぬ。地下へ急ぎますぞ!」

 見上げると、毒瘴の巨人は今まさに王宮へ侵入せんとしていた。固く閉ざされた門の隙間へ、煙のようにその身体を滑り込ませていった。

「陛下が危ない……! トパスさん、その民をお願いします!」

 タンザはそう叫んで、王宮へと駆け出して行った。
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

偽りの聖者と泥の国

篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」 自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。 しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。 壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。 二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。 裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。 これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。 ----------------------------------------- 『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。 本編に救いはありません。 セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。 本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー