千年の祈り、あるいは想い(うらみ)

うまうま

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【後編】千年の追想、あるいは追悼

第1話 トルマーレの王子

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後編は、前編のキーパーソンのスピンオフです。
前世のトルマン、そして化け物になる前のルビーラ。
淡く切ない禁断の主従BLを描いた物語です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 時は今から千年前。
 トルマーレの国に、王子が誕生した。
 たくさんのトルマーレの民、そして王家に仕えるエスピリカからあふれんばかりの祝福を受けて彼は生まれた。
 淡いグレーがかった瞳が光を孕むと、ダイヤモンドのように輝いた。その宝石の名を冠して、彼は「ダイモンド」と名付けられた。

 厳しくも優しい父、美しさと愛嬌を兼ね備えた母。ひたすらに愛情を注いでくれる乳母。そして幼き頃よりともに育った"親友"。
 彼らに囲まれて、ダイモンドはすくすくと育った。彼は幸せだった。この幸せがずっと続くと思っていた。


*****

「ダイモンド様!」

 初老の女性の声が廊下から響く。
 十代後半まで成長したダイモンド王子は、王宮の執務室にて公務に励んでいた。

「私はここだよ! ばあや!」

 王子は羽根ペンを置き、顔を上げた。ノックの音とほぼ同時に勢いよくドアが開かれる。

「ああ、ここにおられたのですね王子。そろそろお時間ですわ。本丸においでくださいな」
「分かった。ありがとうばあや」

 ばあやと呼ばれた彼女は、人の好さがにじみ出る笑顔で王子を控えめに催促した。

「今年もまた、いちだんと成長なさった王子に相まみえると、民はとっても楽しみにしておりますわ」

 今日は年に一度の大祭り、「ポシーオ」に街はにぎわっていた。普段からお祭り好きな民らが、ひときわ華やかに火山神スピネルへ感謝をささげる日であった。

「それは光栄だ。私も毎年この日が楽しみだ」

 お祭り騒ぎが好きな母―――王妃カリナンに連れられ、幼いころより毎年ポシーオで民と交流するのが恒例行事となっていた。


 側近を連れ、王妃と王子は騒がしいほどの王宮前の大広場へ繰り出していた。歌う者、踊るもの、演奏する者。たくさんの民がこの祭りを楽しんでいた。

「カリナン王妃ーーッ!」
「ダイモンド王子ーーッ!」
「きゃああ! 相変わらずお美しいわあ!!」
「王子はまたいちだんと大人っぽくなられましたなあ」
「王妃に似て美形のイケメンよ! 楽しみだわあ」

 王家のために道を開けた民は口々に叫んでいた。
 王妃とともに王子は手を振り、笑顔を振りまいた。
 
「あらポンド。腰の具合はどう?」
「はあ、王妃様。おかげ様で、だいぶよくなりました。ありがたきお気遣いで」

 ポンドと呼ばれた初老の男は、先日腰を痛めて寝込んでいた。民の顔と名前、近況をしっかり把握していることから、王家、ことのほか王妃は民から熱い人気を誇っていた。

「それはよかったわ。でもあんまり無理しちゃだめよ」
「仰せの通りで。懲りましたわ」

 ポンドは農家だった。収穫した穀物で作った料理を王妃にお披露目し、あとで王宮へ送るとのことだった。

「ありがとう! あなたの作った食べ物はどれも美味しいわ。楽しみにしてるわね!」

 ポンド一家は王妃らへ深々と頭を垂れ、手を振りながら去ってゆく王妃を見送った。

 その後も大広場にいる民とあいさつを交わしては、「まあ! 大きくなりましたね!」と毎年のお約束のセリフを多く受け、母の身長をとうに抜いたダイモンドは、彼女の隣でひたすら微笑んでいた。

 民との交流が一段落ついた頃。ふと、少し離れた場所、広場の舞台から歓声が上がった。そちらに目を向けると、エスピリカ―――古より王家に仕える超人的能力エスパーを操る一族が、その個性豊かな能力で芸を披露していた。
 手を触れずに積上げられた木箱を宙に浮かせる者、ガマの油売りのように、自らを傷つけた仲間を瞬時に治癒する者。通り雨が来たかと思うと、瞬時に晴れ上がらせる者―――。
 人間離れしたその力に民は拍手喝采し、賛美の言葉を贈っていた。
 能力の披露が終わると、両目を布で覆われた
 エスピリカが一人、舞台上で静止した。
 ―――はじまる。

 ダイモンドは王妃へ一言告げると、返事を聞かないまま舞台へと続く細道へ駆け出した。
 息を切らし忍び込んだ舞台袖。高鳴る胸を隠すことなく、舞台に一人、威風堂々と剣を構える"彼"へ視線を集中させた。

 剣が大きく宙を舞う。
 剣そのものが人格を持って舞うかのような、躍動的な剣舞が始まった。

「族長おーーー!」
「かっこいいーー!」
「美しいーーー!」

 観劇の民からまたもや歓声が上がる。舞台へは次々と花が投げ込まれていた。視界を奪われているはずの"彼"は、投げ込まれた花へ舞いながら次々剣を振るい、舞台を花びらで染めていた。
 そして。
 おお、とか、うわあ、など、民から悲鳴まじりの声が上がる。
 "彼"は剣を上に放り投げては見事にキャッチした。これを何度も繰り返し、観客はスリルと興奮で釘付けになっていた。
 ダイモンドも、そのうちの一人だった。毎年、"彼"が大怪我をしないかヒヤヒヤしながら観るものの、その手元は決して狂わなかった。

「すごい……ほんとうにすごいよ……」

 王子は一人、舞台袖で囁いた。
 族長と呼ばれた"彼"が有するのは「予知能力」だった。その能力で、剣がどこに落ちるのか、宙でどんな動きをしているのか予知しているのだろう。
 後頭部で一つにまとめられた銀の長髪がひらめく。剣に当たって、流星の尻尾のようなそれが千切れてしまうのではないかとどきどきする。
 そんな杞憂を跳ね除けるように、"彼"は最後までかすり傷ひとつつかずに舞い終えた。

「すごいすごーい!」
「エスピリカ族長ーー!」

 割れんばかりの拍手と歓声、嵐のような花が舞い上がる中、"彼"は目隠しを外した。
 真紅の瞳が、宝石のように双つ、観客へ向けられた。深々と観客頭を垂れて観客への謝意を表し、エスピリカの芸は終焉を告げた。

「すごい……今年も素晴らしいよ……ルビーラ……!」

 そのエスピリカはとても美しかった。
 透き通るような白い肌、光をまとったかのような淡い銀色の長髪。人間と違い尖った耳は知性を感じさせた。 そしてなにより、真紅の宝石のような瞳を、たぶんこの世でいちばん美しいものではないかとダイモンドは感じていた。
 

 ダイモンドは、民を、トルマーレを愛していた。もちろん、王家に仕えるエスピリカのことも。今日この日も、エスピリカとトルマーレの平和な共存を続けて行こうと固く誓ったはずだった―――。
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