異世界ゴーストレイヴン ~不幸すぎる俺は幽霊に呪い殺され異世界転生!なぜかその幽霊まで憑いてきたので一緒に異世界で無双します!~

バルト

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始まりの呪い

第20話:トライデント

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 汗がまだ乾ききらないまま、俺たち三人はギルドの食堂へ向かった。

「ふぅ~っ、久々の運動気持ち良かったー! 良い汗かいたね」
「いや、お前は大して動いてないだろ……」

 サヤが伸びをすると、ポニーテールがふわりと跳ねる。俺はというと、正直ちょっと疲れてて、肩が落ちていた。

「にしてもルナちゃん、手加減なかったよね……絶対レインのこと焼き豚にしようとしたでしょー」
「当然です。真剣にやらないと意味がありませんから」

 凛とした声はいつも通りクールなのに、ルナベールの表情は少し柔らかい。

「ひでぇ……初対面して数時間でこの言われようって……」
「エッチなことしてルナちゃんを怒らせるのが悪い」
「ですです」
「しとらんわいっ!!」

 俺たちを食堂に誘ったのは、訓練管理もしているミランダの一言だった――『お昼はしっかり食べなさい。ギルドの食堂、最近メニューが変わって評判よ』。

 扉をくぐると、思った以上に賑やかだ。長テーブルに冒険者たちが並び、笑い声と食器の音が飛び交う。初めて来た時はいなかった顔ぶれも多い。

「おぉ~っ、めっちゃいい匂いすんじゃん!」

 サヤが鼻をひくひくさせ、掲示板のメニューを見上げるなり、きらきら目でカウンターへ小走り。

「カリカリ焼きチキンプレート……焦がしバターソース!? ウチ、これにするわ!!」
「ちょ、おまっ……まずは席取ろうぜ。混んできたら座れなくなるかもしんないし」

 俺は空いていた窓際のテーブルを見つけ、指さす。陽が心地よく差し込む三人席だ。

「じゃ、席取り頼む。ウチ、並んでくる!」

 サヤが列に並ぶのを見届け、俺とルナベールで席を確保する。木製の椅子に腰を下ろすと、背中にじんわり温もりが移った。

 しばらくして――

「お待たせ~! これ、ウチのチキン!!」

 香ばしい匂いとともにサヤが戻ってくる。続いて俺たちも注文へ。

「私は……じゃがいもと野菜の煮込みスープにします」
「俺は……うん、カツサンドでいくか」

 トレーを運んで席に戻ると、テーブルに並ぶのは、焦がしバターが食欲を直撃する焼きチキン、やさしい湯気の煮込みスープ、香ばしいカツサンド。腹の虫が素直に鳴いた。

「やっば、うまそ!! ……いただきま~すっ!」

 サヤはテンション全開で頬張る。

「うんま!! これ毎日食べたら幸せなやつじゃん!」
「……本当に、あなたは素直ですね」

 スプーンを置くルナベールの目が、サヤの真っ直ぐさに少しだけ細くなる。

「そ~? おいしいもんは素直に褒めた方がシェフも嬉しいっしょ?」

 無邪気な笑みに、俺も肩の力が抜けて苦笑した。

「……あれ、ルナベールじゃね?」
「ほんとだ。あの子が誰かと居るのって珍しいよね……?」

 食堂の片隅でざわめきが起きる。視線の先で談笑しているのは、俺たち三人だ。

「ていうか、隣の二人……あれが例の新人か?」

 金髪ギャルと所在なさげな青年――俺だ。そりゃ目立つ。

「なんか……視線を感じる?」

 俺はサンドをもぐもぐしながら、そっと辺りを見回す。

「なーんか、めっちゃ見られてるよね? ウチら」

 サヤもフォークを止めて周囲を見る。そんな時――

「ルナベールさーんっ!」

 元気な足音と弾ける声。短い茶髪にまっすぐな瞳――ギルド最年少、レックスが駆け寄ってきた。

「ほんとにルナベールさんだ! やっぱいつ見てもオーラが違うっつーか……!」
「こんにちは、レックス。クエストの帰り?」
「うん! 今日は先輩たちと門の見回りで、ちょっと早く終わってさ! 食堂に来たら、あれっ? って!」

 少年の視線が俺たちに向く。

「もしかして、この人たちが……! フレイおばあちゃんが特別に勧誘したっていう……」
「うっ……やっぱ噂回ってんのか……」

 俺は気まずく目を逸らす。

「え、そんな有名だったウチら?」
「そりゃそうだよ! “異世界から来た”“変わった職業”って話題だよ? なんだっけ……イレギュリストと、レヴナント?」
「おぉ、そんなことまで……」
「フレア婆ちゃんから周知あったから、みんな知ってるはず! オレ、聞いた時ワクワクしたもん!」

 拳を握るレックスの無邪気さに、少し救われる。

「異世界は……まぁ信じる人少ないだろうけど、オレは信じてみたいな。夢あるし、かっけーじゃん!」
「やっぱ信じられてねーじゃん……異世界」
「てか君……レックスだっけ? ウチらのファン第一号だね!」

 そのやりとりに、周囲の冒険者も注目し始める。

「ルナベールが……新人と一緒に?」
「あの派手な子、マジでギルドの人?」

 ざわめきの中、ルナベールが静かに立ち上がり、声を通した。

「……せっかくなので皆さんにご紹介します。通達の通り、昨日ギルドに加入された新しい仲間――幽鬼レインさんと、夜霧サヤさんです。そして、私たちはつい先程パーティを組みました」

 空気が一変する。

「パーティを組んだ!? “一匹狼”のルナベールが!?」
「うっそ、マジで……」
「別の男がしつこく誘ってたのに、新人を選んだのか」
「ルナベールが居るなら安泰だろ」

 視線が一斉に俺たちへ。俺は立ち上がり、緊張で喉が渇きながらも口を開いた。

「ど、ども……幽鬼レインです。えっと、頑張ります……よろしくお願いします……」
「やっほ~! 夜霧サヤで~す☆ ギルドの皆よろしく♪」

 ギャルテンションに一瞬戸惑いが走るが、すぐに和む。

「……すげぇノリ」
「でも逆に面白そう」
「今までにいないタイプだね」

「うん! 三人ともピッタリな組み合わせだね!」

 レックスが笑う。俺はサヤに小声で囁いた。

「……お前、目立ちすぎなんだよ」
「え~? ウチ、控えめだったよ?」
「どこがだよ……」

 ルナベールが微笑み、皆へ向き直る。

「……彼らは普通と違うところが多いと思います。でも信頼できる仲間です。どうか、よろしくお願いします」

 どこからともなく拍手が起き、食堂に広がった。音の波に包まれながら、俺は“ここにいていい”と、すこしだけ実感した。

 レックスが奥へ走っていった後、すぐにまた新しい声。

「おいおい、珍しいもん見せてくれるじゃねぇの」

 銀髪寝ぐせ、帯はゆるみ、だるそうな目の男がふらりと現れる。片手にジュース、もう片手はポケット。

「ギルマス直々スカウトの異世界コンビだろ? 冷やかしに来たわけよ」
「……えーと」

 俺が返す前に、勝手に腰掛けた。

「俺はモンベルン。職業セージ。特技サボり、趣味昼寝、モットー“働いたら負け”」
「えっ、働いて……ないんですか?」
「なぁにレインくん、仕事より大事なもんがあるだろ? 夢だ。夢は持ち方次第で見え方が変わる。俺の夢は“汗かかずに飯を食う”」
「どうやって!?」
「さぁね。誰か叶えてくれんじゃねぇかなって思って、今日も生きてる」

 脱力トークに、サヤが目を丸くする。

「ねぇ、ウチこの人好きかも。楽しそうに生きてそうで憧れる~」
「おうおう、サヤちゃん? ギャルにそう言われんのは光栄だね。一緒にゆるっと過ごそうや」

 そこで背後から無言の影――黒衣のヴァンガード、エジール。鋭い眼光に無表情。

「……喋りすぎだ、モンベルン」
「へいへい、そう言うなよ相棒。俺が前座で喋っとくと、あんたの寡黙キャラが映えるだろ?」

 エジールは応じず、俺たちを見る。

「……お前たちは期待されてる。見せてみろ、力を」

 さらに後ろから、紅の髪を高く結い、長弓を背負った少女――クリスティン。

「あなたたち、異世界から来たという噂は……本当?」
「本当っちゃ本当だけど、信じるかどうかは……」
「信じる」

 即答だ。

「……私には、わかる。違う匂いがする。異なる場所から来た者の匂い」
「え、ウチもしかして臭い!? シャワーしたんだけどなぁ」
「大丈夫サヤちゃん、それオレも最初に言われた。でも“酒臭い”って意味だったが」
「いやそれアンタの問題だろ」
「御名答」

 モンベルンがにやけてジュースを啜る。

「こうして並ぶと分かるな……俺たちのパーティは見事にバラバラ。やる気ない、感情出さない、口数少ない」
「それなのに、上手くバランス保ってそうってのがすごいよね」

 サヤが感心すると、モンベルンは肩を伸ばしてにやり。

「噛み合わない歯車ほど、回り出すと止まらねぇ。“腐れ縁”ってやつだ」
「んで――アンタらはどうなんだい? まだ“これから”って感じか?」
「……そう、だな」

 俺が答えかけた時――

「おーい! ここだな!? 新人たちが集まってるってのは!」
「もう、シャルさん! だから声が大きいって言ってるでしょ!!」

 勢いよく扉が開き、白銀の長髪の長身女性が登場。快活な笑顔、戦場の将みたいな風格。

「シャルロード、参上! 異世界の仲間って聞いて、オレも一目見てぇと思ってさ!!」

 三つ編みの黒髪少女、サンシャインが追う。落ち着いた口調に鋭い指摘、整った顔立ち。

「はいはい、声が大きすぎます! 食堂では静かにって何度言ったら……」
「サンシャイン、堅いぞ! 新人と仲良くするには、まずは拳を交え――」
「交えません! なんでいつもいきなり戦おうとするんですか!!」

「おいおいシャル姉、自己紹介代わりのバトルとかどこの戦闘民族だよ」
「オレが闘うのは“絆”ってやつとだ! ……まぁ魔物とも戦うけどな! ンッハハ!」
「……ハァ。ちょっと何言ってるか分かりません……」

 サヤはもう一瞬で惚れ込んでいた。

「うっわ~この人、めっちゃ姉御って感じするーっ!!」
「おお、お前ギャルだな!? オレ、ギャル好きだぞ! 自由で、まっすぐで、芯があって、ちょっと破天荒!」
「え、ウチらもう今日から姉妹ってことでいい?」
「よし! サヤはオレの妹分だ! 困ったら頼れ!!」
「その場のノリで人間関係を築かないでください!」

 俺は完全に圧倒されていた。

「な、なんかここのギルドの人ら、すげぇキャラ濃いな……」
「お前が地味だから余計そう見えるんだよ」

 モンベルンが肩をすくめる。

「こっちは普通にしてるんですけど!? 普通じゃダメなの!?」
「それが一番損する世の中なのよ――って、お前らにとっちゃここ異世界だな。俺が世渡り教えようか?」
「……騒がしすぎて、疲れる」
「エジールってなんかクールなタイプだね~」

 サヤがちゃちゃを入れ、クリスティンが視線だけで合図する。

「そういや、お前らのパーティ名って決まってんのか?」

 モンベルンがジュースを傾け、俺を見る。

「え? あ、いや……まだ……」
「なにぃ? まだ決めてねぇのか!」
「だってさっき組んだばっかだし」

 シャルロードが身を乗り出す。

「名前ってのは魂だぞ魂! オレたちは《雷雲の牙》だ!」
「“雷雲の牙”……中二感、すごい……」
「うるさい! 名前負けしないくらい本気で戦ってるからいいんだよ!」

 サンシャインが肩をすくめる。

「これでもマシになった方です。最初は《鉄壁姉さんと世話係》だったんですよ?」
「うお、わかりやすっ」
「さすがにそれは無理だな……」
「まぁ、あんたらも決めるといいさ。ちなみに俺らは《グレイフロスト》」

「《グレイフロスト》……?」
「クールで無口で情緒が薄い。けど情に厚い――そんな三人組。グレーでフロスト。地味に見えて、よく見るとやばい。そういう意味合い」
「へぇ~、ちゃんと意味が……」

 俺が呟くと、エジールが無言で頷く。

「……グレイフロスト。気に入ってる」
「ほらな、イケメンが言えば全部正解。人生そういうもんだ」
「……」
「悪くない」

 クリスティンも小さく呟く。

「ってことで、お前らも考えとけ。“名無し”だと仲間意識も薄まるぞ?」
「うーん……じゃあ今ここで決めちゃう?」
「お、いいじゃん。ウチ、ノリでいく派~☆」
「とはいえ……どうする? 三人を表すようなものがいいよな」

 俺はテーブルに手をつき、考える。

「戦い方も立ち位置も違うけど、妙にバランスはいい……よな?」
「確かに」

 ルナベールが頷く。

「特異だけど、噛み合うと思ってる」
「なら……三叉の槍はどうだ。三つの刃が一つになった武器」
「……《トライデント》」

 つぶやいた言葉に、サヤの目が輝く。

「それ、かっこいい! 響きも強そうでぴったり!」
「──《トライデント》、決まりですね」

 ルナベールが微笑む。

「よっしゃああ! 新パーティ誕生だあああああっ!」

 シャルロードが一番テンション高い。

「はぁ……また大声……」

 サンシャインは額を押さえつつ、口元に小さな笑み。

「《トライデント》ねぇ。お前らにしちゃ、いいネーミングじゃん」
「……三叉の槍。悪くない」
「お前たちの矢が外れないように祈ってる」

 モンベルン、エジール、クリスティンの言葉が、少し誇らしい。

 三人の新しいパーティ《トライデント》。その名と一緒に、俺たちは一歩踏み出した。

「でさでさ!」

 シャルロードがどんとテーブルを叩く。

「《トライデント》の誕生祝いってわけじゃねぇが――今から街に出て、雑貨屋でも冷やかしに行かねぇか?」
「雑貨屋?」

 俺が首をかしげると、サンシャインが補足した。

「最近ギルド近くに新しい店が。品揃えが“変わってる”と噂です」
「変わってるって……どんな?」
「戦闘アクセ、謎の護符、お香、占いグッズ、大量の鈴、キラキラ羽飾り……」
「わお、めっちゃ気になる!!」
「絶対そうだと思いました」

「ってわけで、オレら《雷雲の牙》と一緒に《トライデント》も行こうぜ! 今日はのんびりでいいだろ! どうする?」
「んー? 俺らはこのあと受けたクエストがあるからパスで」

 モンベルンがジュースを飲み干し、席を立つ。

「じゃあ、決まりだね」

 ルナベールが立ち上がり、俺も続く。

「えっ、まさかレインも来る気?」
「……ちょ、置いてく気かよ」
「うむうむ! 新人歓迎は“街を知ること”から! ギルドの外にも出会いと発見がある!」

 笑い声が広がり、みんなで出口へ向かう。

 陽が傾き始めた午後の街。
 仲間たちの背中が、これから始まる日常と冒険を予感させる。石畳を踏む足取りは、思ったより軽かった。
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