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序章
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あれから何度も城へ通い、何度もイヴァングと手合わせをした。ただお茶だけ飲む日もあった。
そうして俺たちは仲良くなり、今では親友と呼んでも差し支えのない仲になった。
そんな俺は現在十二歳。今年から中等部として小中高一貫の学園に入学することとなった。
元々俺の学力が高すぎたため入学が遅れたものの、良家の子息子女たちはみなこの学園に入学するのがしきたりである。
当然イヴァングもこの学園に通っている。不安もあるがイージーモードな俺にはいじめなんて無縁…のはずだ。うん。
ここで俺はできるだけコネクションを広げ、可愛くてお金持ちの彼女を作るのである。絶対。
「着きました、レオンハルト様。」
「ありがとうございます。それでは行ってまいりますね。」
俺は使用人相手にも礼儀正しいのである。
入学式を終え、クラス分けが発表される。残念、イヴァングとは違うクラスのようだ。
俺の席は窓側から二列目の後ろから二番目である。中々良い席ではないだろうか。
早速隣の席の奴が話しかけてくる。なんだ男か…。
「や!俺ヨルハ・マクスウェル。中等部からだろ?珍しいから噂になってる。よろしくな!」
「ああ、よろしく。僕はレオンハルト・アルム・スティルヤード。わからないことだらけで迷惑かけるかもだけど、よろしくね。」
マクスウェル!現宰相の息子か、これは良い席だったな。
「おう、じゃんじゃん頼ってくれよな!なあレオンって呼んでもいいか?」
「もちろん。僕もヨルハって呼んでも?」
「いいぜ。なあレオン、お前ってなんで中等部からなんだ?聞いていいのかわかんないけどさ。」
来た、この質問は来るだろうと思っていた。周りの連中も心なしか聞き耳を立てているような気がする。
「家は良い家庭教師を雇っててさ、折角だからってキリのいいところまで教えてもらったんだ。残念ながら大した理由じゃないよ。」
「へえ、そんなに優秀な家庭教師だったのか?この学園の教師もそれなりに著名な人達だから期待してていいと思うぜ。」
上手く誤魔化せたらしい。流石に面と向かって、「学力のレベルが違いすぎてね。」とか言えない。
「そっか、それは楽しみだな。担任は誰になるんだろう。ヨルハは知ってる?」
「ああ、たぶんラインバッセ先生だと思う。去年そんな噂を聞いたから。」
「ラインバッセ先生…ああ音楽家の、有名な。」
「そう、そのラインバッセ。元宮廷音楽家で賞をいくつも取ったお偉い先生さ。結構優しいし適当だから当たりだと思う。」
ラインバッセ・アルコ・テイムブラン。
若くして音楽界の巨匠にまで上り詰めた天才で、今はこのアルストロ学園の教師をしている。実家は皇族に連なる一家だ。
これまた良い人選である。親しくしておいて損は無いだろう。
それから当たり障りのない会話を楽しんでいると、ガラリと教室の扉が開いた。
ラインバッセ先生だ。緩くウェーブのかかった茶髪、丸眼鏡の奥に光る深い緑色の目がこちらをぐるりと見渡した。
「皆さん静かに、席に着いて。今日から一年間君達の担任になりました、ラインバッセ・アルコ・テイムブランです。よろしくお願いしますね。」
丁寧にお辞儀をして先生は出席を取り始めた。
「名前を呼んだら返事をして手を挙げてください。自己紹介の代わりとします。それでは──」
廊下側から一人ずつ名前が呼ばれていく。そろそろ俺の番だな…イヴァングに会った時以来の華麗な笑みを見せてやる!
「レオンハルト・アルム・スティルヤード。」
「はい。」
完璧な微笑みとともに声変わり前の澄んだ声で返事をする。
教室が一瞬、時が止まったかのように静かになる。大成功だ。
「…では次、レイナ・クルッカス──」
一拍置いて再開される。隣のヨルハはこちらを見て唖然としていた。どうした?
《ヨルハside》
今日は朝から憂鬱だった。休みが終わってまた面倒な学園生活が始まる。
ただクラス分けを見て面白そうだと思った。
隣の席があの噂のレオンハルトだと知ったからだ。
噂というのは、彼は天から二物三物と与えられた神童で、文武両道、眉目秀麗を地で行く天才で、実は天使なのだというものだ。
巫山戯ている。特に最後。
そう思って見てみれば、確かに天使とも見まごう白銀の美少年がそこに居た。
けれどそれだけ。話してみれば礼儀正しいただの少年で、世を安寧に導く天使様なんかじゃあなかった。
きっと彼自身もそんな噂があると知れば迷惑がるだろう、そんな感じだ。
…じゃあ、もうひとつの噂はどうなのだろう?
なんでも彼はあの第二皇子と非常に仲が良く、唯一心を開かれているという。
確かに見目はいいが特質する個性も無さそうだ。なのにどうして第二皇子は…?
ぼんやりと考え込んでいると自己紹介を兼ねた出席取りが始まった。
そして隣の彼の番になった時、俺はどうしてそんな噂が出来たか理解することになる。
「はい。」
たった一言。たった一言で彼は教室中を虜にしてしまった。それくらい強烈だった。
ふわりと微笑んだその顔が、声が、静かに響く。伝える。
この人は特別なのだと。
最初に声をかけて良かった。たぶんこの後では純粋な興味だけで話しかけられなかっただろうから──。
それからいくつかの連絡事項を受けた後、それぞれが寮に戻ることとなった。俺とレオンは部屋が隣だったから一緒に歩いた。周りが羨望のまなざしを向けているのが分かる。少し優越感を感じた。
俺だってこの国の現宰相の息子なのに…いや、だからこそ皆遠巻きに見ているのだろう。高貴な身分の者同士、せいぜい仲良くするとしようじゃあないか。
そうして俺たちは仲良くなり、今では親友と呼んでも差し支えのない仲になった。
そんな俺は現在十二歳。今年から中等部として小中高一貫の学園に入学することとなった。
元々俺の学力が高すぎたため入学が遅れたものの、良家の子息子女たちはみなこの学園に入学するのがしきたりである。
当然イヴァングもこの学園に通っている。不安もあるがイージーモードな俺にはいじめなんて無縁…のはずだ。うん。
ここで俺はできるだけコネクションを広げ、可愛くてお金持ちの彼女を作るのである。絶対。
「着きました、レオンハルト様。」
「ありがとうございます。それでは行ってまいりますね。」
俺は使用人相手にも礼儀正しいのである。
入学式を終え、クラス分けが発表される。残念、イヴァングとは違うクラスのようだ。
俺の席は窓側から二列目の後ろから二番目である。中々良い席ではないだろうか。
早速隣の席の奴が話しかけてくる。なんだ男か…。
「や!俺ヨルハ・マクスウェル。中等部からだろ?珍しいから噂になってる。よろしくな!」
「ああ、よろしく。僕はレオンハルト・アルム・スティルヤード。わからないことだらけで迷惑かけるかもだけど、よろしくね。」
マクスウェル!現宰相の息子か、これは良い席だったな。
「おう、じゃんじゃん頼ってくれよな!なあレオンって呼んでもいいか?」
「もちろん。僕もヨルハって呼んでも?」
「いいぜ。なあレオン、お前ってなんで中等部からなんだ?聞いていいのかわかんないけどさ。」
来た、この質問は来るだろうと思っていた。周りの連中も心なしか聞き耳を立てているような気がする。
「家は良い家庭教師を雇っててさ、折角だからってキリのいいところまで教えてもらったんだ。残念ながら大した理由じゃないよ。」
「へえ、そんなに優秀な家庭教師だったのか?この学園の教師もそれなりに著名な人達だから期待してていいと思うぜ。」
上手く誤魔化せたらしい。流石に面と向かって、「学力のレベルが違いすぎてね。」とか言えない。
「そっか、それは楽しみだな。担任は誰になるんだろう。ヨルハは知ってる?」
「ああ、たぶんラインバッセ先生だと思う。去年そんな噂を聞いたから。」
「ラインバッセ先生…ああ音楽家の、有名な。」
「そう、そのラインバッセ。元宮廷音楽家で賞をいくつも取ったお偉い先生さ。結構優しいし適当だから当たりだと思う。」
ラインバッセ・アルコ・テイムブラン。
若くして音楽界の巨匠にまで上り詰めた天才で、今はこのアルストロ学園の教師をしている。実家は皇族に連なる一家だ。
これまた良い人選である。親しくしておいて損は無いだろう。
それから当たり障りのない会話を楽しんでいると、ガラリと教室の扉が開いた。
ラインバッセ先生だ。緩くウェーブのかかった茶髪、丸眼鏡の奥に光る深い緑色の目がこちらをぐるりと見渡した。
「皆さん静かに、席に着いて。今日から一年間君達の担任になりました、ラインバッセ・アルコ・テイムブランです。よろしくお願いしますね。」
丁寧にお辞儀をして先生は出席を取り始めた。
「名前を呼んだら返事をして手を挙げてください。自己紹介の代わりとします。それでは──」
廊下側から一人ずつ名前が呼ばれていく。そろそろ俺の番だな…イヴァングに会った時以来の華麗な笑みを見せてやる!
「レオンハルト・アルム・スティルヤード。」
「はい。」
完璧な微笑みとともに声変わり前の澄んだ声で返事をする。
教室が一瞬、時が止まったかのように静かになる。大成功だ。
「…では次、レイナ・クルッカス──」
一拍置いて再開される。隣のヨルハはこちらを見て唖然としていた。どうした?
《ヨルハside》
今日は朝から憂鬱だった。休みが終わってまた面倒な学園生活が始まる。
ただクラス分けを見て面白そうだと思った。
隣の席があの噂のレオンハルトだと知ったからだ。
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巫山戯ている。特に最後。
そう思って見てみれば、確かに天使とも見まごう白銀の美少年がそこに居た。
けれどそれだけ。話してみれば礼儀正しいただの少年で、世を安寧に導く天使様なんかじゃあなかった。
きっと彼自身もそんな噂があると知れば迷惑がるだろう、そんな感じだ。
…じゃあ、もうひとつの噂はどうなのだろう?
なんでも彼はあの第二皇子と非常に仲が良く、唯一心を開かれているという。
確かに見目はいいが特質する個性も無さそうだ。なのにどうして第二皇子は…?
ぼんやりと考え込んでいると自己紹介を兼ねた出席取りが始まった。
そして隣の彼の番になった時、俺はどうしてそんな噂が出来たか理解することになる。
「はい。」
たった一言。たった一言で彼は教室中を虜にしてしまった。それくらい強烈だった。
ふわりと微笑んだその顔が、声が、静かに響く。伝える。
この人は特別なのだと。
最初に声をかけて良かった。たぶんこの後では純粋な興味だけで話しかけられなかっただろうから──。
それからいくつかの連絡事項を受けた後、それぞれが寮に戻ることとなった。俺とレオンは部屋が隣だったから一緒に歩いた。周りが羨望のまなざしを向けているのが分かる。少し優越感を感じた。
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