人生イージーモードになるはずだった俺!!

抹茶ごはん

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第一章

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俺の人生は、イージーモードなんかじゃないかもしれない。


その事件が起こったのは、試合も終盤に差し掛かり、あと一撃叩き込めばどちらかが倒れる。そんな場面だった。
両者とも渾身の一撃を叩き込まんと魔法を発動させたその時、審判や先生たちがバタバタと動き出し宣言した。
「試合は中止だ!今すぐ決闘を止めろ!」
そんな言葉に反応し、詠唱を止めたイヴァング。しかし相手の方は丁度詠唱を終えてしまい、岩でできた槍がイヴァングへ飛来する。
怪我はしないと高を括ったイヴァングが避けずに大剣でガードする。地面に落ち砕けた岩が、受けきれなかった槍が、イヴァングの身体を切り裂いた・・・・・
!?
傷口から血が溢れ出ている。負傷はしないんじゃなかったのか!どうなっている?
たまらず観覧席から飛び出しイヴァングのもとへ駆け寄る。
「ちょ、レオン!」
ヨルハが何か言っているが無視だ。よし、三階程度の高さだったが飛び降りても問題なく着地できた。
会場中が、唖然としている。
「イヴァ!血が、今すぐ治すから!『癒せ、治せ──』」
「……レオン。」
動揺した様子のイヴァングはこちらを見て我に返ったようだ。よし、怪我は完全に治った。
それとほぼ同時に爆発的に会場中が騒がしくなる。うるさい。
「先生方、これはどういう事ですか?場合によっては国家反逆罪で──」
つい熱くなって教師陣を問い詰めていると、イヴァングに肩を叩かれた。落ち着け、ということだろう。
そうだ、冷静にならなければ。先生達はこうなる前に止めようとしていた。つまり何か不測の事態があってこのフィールドに掛かっている特殊効果が無くなり、慌てて試合を中止させにきた、という事だろう。
「スティルヤード君、私たちにも何が何だか分かっていないのだよ。先ほどここの特殊効果を生み出している装置を守る守衛から緊急連絡が入ってね、中でいきなり、何の前触れもなく爆発が起こったと。」
「そう、それで装置が完全に破壊されていることが分かって、慌てて止めに来たのさ。決して殿下に危害を加える気など、ありはしない。」
それはつまり、事故ではなく意図的にこの状況が生み出されたという事か?
…試合中だったこの二人の命を狙って?
大問題だ。どちらもそれなりの権力を持つことが約束され、この帝国において重要な人物なのだから。
「とにかく一旦ここを離れて安全な場所まで移動しましょう、殿下。ここは危険です。」
そう進言すればイヴァングは頷いた。誰だって狙われていると分かって、危うく死にかけた場所に長居なんかしたくない。
先生方と話した結果、学園の理事長室へ一旦身を置くこととなった。
関係のない生徒たちは全員寮で待機命令が出ているそうだ。俺だけはイヴァングの付き添いで理事長室にいるけど。
「さて、お二方。脅迫文などは届いていなかったですかな?」
今は理事長に事情聴取のようなことをされている。犯人を割り出すためだ。
「俺の方にはありません。殿下はいかがでしょうか。」
「無い。そうだろう、レオン。」
「はい。ここ数週間の殿下宛の郵便物に、そのようなものはありませんでした。」
「そうか…何か心当たりは?」
困ったように問いかけてこられても、皇族というだけで逆恨みしてくる奴や政権等に関する策略の場合は心当たりもくそもない。首を振った。
「そうか、二人とも無いか…。実はね、爆発の痕跡を調べたんだが…」
理事長の発言をまとめるとこうだ。
爆発は高度な時限式の魔法によるもので、痕跡等は爆発の影響もあり一切残っておらず、守衛は誰の侵入も無く物音も一切していなかったと証言している。また、脅迫状その他犯行をほのめかすものは事前に伝えられていなかった。
つまり…犯人は見当もつかないらしい。無能め。
「大した怪我もなく処置も適切で本当に良かった。今後はこのようなことがないように警備を三倍に増やすことになったよ、もちろん信頼のおける者達だ。帝国騎士団の人間も配属される。こんなことを言っても気休めにしかならないだろうが…安心してくれ、学園は君達を含め生徒諸君を守ると約束しよう。」
チラリとイヴァングの方を見れば、普段のように憮然とした態度のままだ。これは信用していないな?
…まあいい。何があろうと未来の上司イヴァングは俺が守るだけだ。

「改めて…申し訳ありませんでした、殿下。俺の不注意のせいで怪我を…」
「謝罪は必要ない。」
シンドワの謝罪をバッサリと切り捨てる。イヴァングは相変わらず容赦がないな。
「しかし、いえ、出過ぎた真似をして申し訳ありません。では俺はこれにて失礼させて頂きます。」
シンドワの深緑の短髪と同じ色の瞳が、一瞬迷うように揺れる。こいつもイケメンだよな、滅びろ。
きっちりと帝国式の礼をしてシンドワは去っていった。
「レオン。今日から俺の部屋で寝泊まりしろ。警護は任せた。」
イヴァングの手が俺の頬をゆっくりと撫でながら言った。
まあそれが妥当だろう。なにせ、この男は俺以外の人間を信用していない。それは比喩でもなく事実だ。
「わかった。ご期待に副えるよう、しっかり守ってみせるよ。」
そう言って甘く笑えばイヴァングは満足したように笑った。これでいい。

装置が破壊されたこともあり、模擬決闘大会は中止となった。俺の約束はどうなるんだろうか、来年に持ち越しとか?
事件のせいで今日は休みだ。イヴァングの部屋で暇を持て余した俺はトランプタワーを作っていた。俺は手先も器用なんだ。
「よし、完成。」
「器用なものだな。」
「イヴァもやってみる?」
「遠慮しておこう。俺は細かい作業は好かない。」
大剣使いであるイヴァングは不器用ではないが器用でもない。
雑談をして時間を潰しているとブザーがなった。来客だ。
「僕が出るね。」
「ああ。頼んだ。」
足を組んでベットに腰かけている様も絵になる。この男は相当な美青年の部類に入るのだろう。俺の方が美しさでは勝ってるけどな!
慎重に気配を探り扉越しに声を掛ける。
「どなたでしょうか?」
「その声、レオンか!殿下の部屋にいるってのはマジだったんだな。俺だよ、ヨルハ。ヨルハ・マクスウェル!遊びに来たぜー。」
暢気なものだ。まあ暇なんだろう、他の生徒も外出厳禁らしいしな。
「イヴァ、どうする?開けてあげる?」
「お前の好きにしろ。」
そういう返答が一番困るんだが…まあいい。暇だし入れてやるか。
「いいよ、入って。」
最大級の警戒と共に扉を開ける。そこにはヨルハとアレクがいた。アレクもいたのか。
「おじゃましまーす。」
「失礼します。」
二人はさっさと室内に入って来る。俺は素早く鍵を閉めた。
「二人とも待って。一応ボディチェックだけするから。」
「マジ?分かった。」
そういうとヨルハは両手を上げバンザイをした。協力的で助かるな。
アレクも黙って受け入れてくれる。まあ疚しいことが無ければ当然の対応だろう。
身体検査を終え、いつもの四人メンバーでトランプをする。当然俺の渾身のトランプタワーは崩された。くそう。

それから数週間経ち、七月。
犯人は見つからず、しかしこれといったこともなく日々は過ぎていき、生徒達にはたちの悪い悪戯だったと説明がされた。もちろん嘘だ。
面倒事はごめんだ。忍び寄る不穏な影に、俺は溜息をつくのだった。


第一章 完
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