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第一章
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予選が終わり、本戦の日。
ミレクサン学園は大盛り上がりだった。お祭り騒ぎである。
「さあ始まりました模擬決闘大会本戦!各グループごとの予選を勝ち抜いた上位二十名の猛者達が己が武勇を競うこの大会、初戦は期待の新入生ヨルハ・マクスウェル対、二年の魔導士の卵マリック・エンリコ!実況は惜しくも予選落ちした放送部と教師の皆さんでお送りします!」
「さて注目の一戦ですが、先生方はどうですか?」
「やはりヨルハ君の魔法ですかな、一番の障害は。」
「確か五つの属性を扱えるとか…その多種多様な魔法に翻弄されて負けた生徒も多いのではないでしょうか!」
「魔法で言えばエンリコも負けてはいませんよ。彼の土魔法は二年でも随一だ。」
「どうなるのか見ものですね~!」
すごいな、実況までされるのか。これは目立つな、あまり無様な負け方はできないぞ…。
今俺は出場者用の観覧席から試合の様子を見ていた。勝った方が俺と当たる可能性もあるのだ、よく見ていなければ。
「それでは…試合、開始!」
開始の合図と共に両者一斉に魔法の詠唱を始める。これは魔法対決になるな。
ネックなのはヨルハは器用貧乏で様々魔法が使えるが突出したものがない、ということだろう。対するエンリコ先輩は土魔法専門らしいから、長引くと不利になるのはヨルハの方だ。
「『──氷よ、突きさせ!』」
先に詠唱を終え魔法を発動させたのはヨルハだった。強ければ強い魔法ほど詠唱に必要な時間が長いのだ。
「『防げ!ウォール!』」
瞬時に土の壁ができ、氷でできた槍は防がれてしまった。
「チッ。『雷よ、撃て!』」
続けて砲撃のような雷が飛来するも防がれる。不味いな、エンリコ先輩の詠唱が終わりそうだ。
「『──叩き潰せ!』」
その一言の後、津波のように地面が大きくうねり、ヨルハに向かって突進してきた。
「くっそ、『吹き荒れろ!』」
咄嗟に風の魔法でガードするも結構な衝撃だったのだろう、ヨルハは片膝をついた。
歓声が大きくなる。ヨルハを応援する一年の声が聞こえる。俺も声に出して応援するか。
「負けないでくれ、ヨルハ!頑張れ!」
するとどうやら声が届いたらしい。ヨルハがこちらを向いて笑った。これだけ騒がしいのに地獄耳か?
「『燃え上がれ!エンチャント!』」
すると地面がごうごうと燃えだした。フィールド全てが炎上している。
エンリコ先輩は熱そうだ。しかしヨルハは自分の周りだけ水の魔法で炎を消していた。成る程、持久戦に持ち込めないようにしたのか。
炎を消そうにもエンリコ先輩はその場にある土を使う。炎が付加された土を使って消したところですぐにまた炎上するだけだ。
「一年のくせに…くそ!『ぶん殴れ!』」
土の塊がヨルハを殴らんと迫る。しかしヨルハはこれを避け魔法を放った。
「『焼き尽くせ!』」
炎の塊がエンリコ先輩に直撃する。見ているだけで痛い…。
最終的に炎で消耗したエンリコ先輩が降参し、ヨルハの勝利となった。
「勝者はヨルハ・マクスウェル!どうでしたか先生方、今回の一戦は!」
「フィールドのそのものに炎をエンチャントするという発想が良かったね。エンリコの弱点をよく見破った。」
「エンリコも途中までは良かったんだけどね。やはり一度焦って炎の塊を受けてしまったのは痛手だったかな。」
「ありがとうございました!それでは五分後、次の一戦を始めたいと思います!何か──」
試合を終え、疲れた顔をしたヨルハがこちらへやって来た。
「お疲れ様。手に汗握る良い試合だったよ。」
「レオン~!聞こえたぜ、お前の応援する声。ありがとな!」
「どういたしまして。」
ヨルハが抱き着いてすり寄って来る。やめろやめろ、犬かお前は。
「…おい。マクスウェル、レオンから離れろ。」
地を這うような低い声でイヴァングが言った。怖っ。
「はいはい、全く皇子殿下ってばおっかないんですから。」
ヨルハはやれやれと言わんばかりに首を振って俺から離れた。怖かったがナイスだ、イヴァング。
次の次が俺の試合だ。三年生と当たりませんように…。
何戦か試合が行われ、遂に俺の出番が来た。相手は三年のレインドル・エクスブロー。
最悪だ、三年のエクスブローといえば魔法使い一家の長男で光と闇属性のスペシャリスト、魔法の天才と呼ばれている。勝てるか…?
いや、勝たなければならない。初戦敗退だなんてこの俺のプライドが許さない。
「これまた注目の一戦!一昨年の大会優勝者であるレインドル・エクスブロー対、一学年主席のレオンハルト・アルム・スティルヤード!先生方、これはやはり…?」
「スティルヤード君はくじ運が悪いようだね、初戦で優勝候補と当たるとは…。」
「いや、スティルヤードは予選で一切魔法を使っていない。実力は未知数だ、まだ分からないぞ。」
「レインドルは強いぞ~。下手な魔導士よりもな。」
「ありがとうございます!さて結果はどうなるのか、今から楽しみですね!」
好き勝手言ってくれるな。まあ全力で事に当たるだけだ。
エクスブロー先輩は制服に黒いローブを羽織っており、片手には白い石のはめ込まれた杖を持っている。
紺色の髪を後ろで緩く縛っており、長さは腰ほどまである。正しく麗人といった出で立ちの男の人だ。身長は俺より少し高いくらいか。
美人系のイケメンである。爆発しろ。
「よろしくお願いしますね、エクスブロー先輩。」
にこやかに笑って挨拶をする。俺は誰に対しても礼儀正しいんだ。
「ええ。こちらこそよろしくお願いします。」
カツリとヒールを鳴らしながらこちらへ歩み寄ってくる。握手か?
「いい決闘にしましょう。」
握手だった。ゆるく握り返す。
「はい、もちろんです。」
再びある程度離れたところで試合開始の合図だ。
「両者位置について!…開始!」
先手必勝!俺はすぐさま斬りかかった。
ちなみに俺は普通の制服に細身の西洋剣という装備だ。
斬る直前、先輩はローブを翻し内側に刺繍してあった魔法陣を発動した。剣が弾かれる。腕が痺れるように痛んだ。
流石に近接武器対策はとっていたか…まあ予想の範囲内だ。
すぐにバックステップを踏んで距離をとる。すると追撃とばかりに光の矢が飛んできた。危ない!何とか避けられたが直撃していたらダウンしていた。
これはやはり剣術だけでは勝てない。魔法を使うか…。
「『──光あれ!』」
詠唱が終わると同時に俺の持っている剣に光が宿る。そのまま思いきり先輩の方へ振りかぶった。斬撃が先輩へと飛んで行く。それを五、六発繰り出すが全て闇魔法の障壁でガードされたらしい。くっそ強いな。
「中々いい魔法を使いますね…では次は私から行かせていただきます!『暗黒よ、飲み込め!』」
先輩の詠唱が終わると、真っ黒な球体が無数に空を覆った。その全てが俺に向かって飛来してくる。拙い!
「『光よ、守護神となれ!』」
俺が使える中で最も強い防御壁をはる。ヒビが入ったものの何とか受けきれた。
だがこのペースだと俺の体力が持たない。早めの決着が望ましいだろう。
「『氷河よ現れよ、煌々と照らせ!』」
水と光の呪文を同時に唱える。氷の河が空中に現れ先輩へと流れてゆき、眩い光がフィールドを等しく焼いた。
しかし。
「『相反する二つの力よ、我を守る盾となれ!』」
先輩も二属性で防御し、俺の魔法は防がれてしまった。
だがこれも計算内!
防御魔法を解く一瞬の隙を狙い斬りかかった。
「ぐっ!」
咄嗟に先輩は腕でガードしたものの、もろに剣撃を受けることとなった。そのまま追撃する。
「『──光あれ!』」
至近距離で斬撃を放つ。しかしこれはローブで防がれた。チッ。
「『闇よ、切り裂け!』」
先輩からの反撃だ。真っ黒な衝撃波が飛んでくる。慌てて剣でガードしこちらも斬撃を飛ばすがそれもガードされる。
「『穿て!抉れ!刃よ!』」
最大級の魔力を込めて魔法を放つ。光で出来た刃が複数生まれ、回転しながら先輩に向かって飛んでいく。
第一撃はローブ弾かれる。しかし怯まず連続で刃を叩きつける。そして出来た隙をついて剣撃を叩き込む。腕に当たった一撃が先輩の杖を弾き飛ばした。
…不味い!
「ッあ!」
先輩が焦ったような声を出す。
何故かは分からないがどうやら先輩はあの杖で自分の魔力を押さえ込んでいたらしい。異常なまでに膨大な魔力が溢れ出し濁流のように流れだす。
俺は慌てて弾け飛んだ杖を掴む。体制を崩したが何とか空中で一回転し着地する。そして先輩へと杖を投げ返した。
先輩は杖が戻ってきたからか、安堵した表情で息を吐いていた。
俺としてもあれだけの魔力を持った人間と真正面から戦いたくはない。押さえ込んでくれるならば好都合というものだ。
俺は剣を構え直した。先輩は驚いた表情でこちらを見ている。なんだ?
こういう訳の分からない時はとりあえず笑っておけばいい。俺はとっておきの慈愛に満ちた笑みを先輩へ向けた。
先輩は驚いたように目を見開いている。若干泣きそうにも見える。どうしたんだ、俺のあまりの美しさに感動でもしたか?
何を思ったのか先輩が問いかけてきた。
「キミは、勝ちたいのですか?」
当たり前だろう。俺の成績と名誉のため、なによりも約束を守るために俺は負けられないのだ。
「はい、もちろん。先輩は違うのですか?」
先輩は何かを考え込んでいる様子だ。流石に今は攻撃しちゃダメだよな?
「…すみません、体調が悪いので棄権します。降参扱いで構いません。」
先輩の言葉に会場中がザワつく。俺も動揺を隠せない。えええ。
「せ、先輩、大丈夫なんですか?」
本当に体調が悪いなら心配だが、あれはどう考えても仮病だろう。そしてここでの棄権は先輩にとってなんのメリットもない。
「…杖のこともあります。これ以上キミに迷惑をかけられません。」
いや、力を抑えてくれるなら俺としては迷惑どころかありがたいんだが?
まあ本人がそう言うなら止めはすまい。…ちょっと勿体無い気もするけどな。こんな実力者と戦うこともそうそうないだろうし。
「急に動きが止まったかと思えばエクスブロー降参宣言!勝者はスティルヤード!おめでとうございます!」
「途中まではいい勝負だったんですけどね…残念です。ですが体調が悪いのなら仕方がありません、負傷しない代わりに疲労が溜まるシステム上、こういう事もあるでしょう。次の試合ですが──」
騒ぐ実況をよそに先輩はスタスタと歩いて出ていってしまう。俺も出るか。
出場者用の席に戻ってくると、ヨルハとアレクがそこに居た。イヴァングは次の試合の準備に行ったようだ。
「お疲れさん。すげえ試合だったぜ。」
「ありがとう。中途半端に終わっちゃったけどね。」
ヨルハが労いの言葉をかけてくれる。本当に中途半端だった。まだ噂で聞いたエクスブロー家に伝わる特殊な魔法とやらも拝んでいない。
「そういや次の皇子殿下の試合、相手は誰だか聞いたか?」
「いや、まだだけど…誰か知ってるの?」
対戦相手は試合の直前に発表されるのだが…。
「レオンの試合が終わってからここを出たのは二人だけだからな。相手だってわかるさ。」
ああなんだ、そういうことか。てっきりどこからか情報が漏れたのかと思った。
「で、だ。相手、どうやらローライズ帝国の第一皇子殿下の将来的な臣下になるとかっていうやつだ。」
「三年のシンドワ・アルム・レングタールのこと?」
同じアルムの名を持つのは、遠い先祖が同じ人間だからだ。同じ公爵家の人間でもある。
「ああ。騎士としての能力は今すぐ帝国騎士団に入団できるくらいだってみんな言ってる。」
「確か彼も優勝候補だったよね。まあイヴァングも優勝候補の一人なんだし、いい勝負になるんじゃないかな。」
「本物の皇族の力、見せてもらうとするか。」
会場のざわつきが一層大きくなる。二人が入場したようだ。
イヴァングがこちらをチラリと見る。とびっきりの笑顔と口パクで頑張れと伝えた。
「…フ。」
小さくイヴァングが笑う。どうやら俺の応援はしっかり届いたようだ。
今か今かと試合開始を待つ俺達は知らなかった。この後、あんな事件が起きるということを──。
ミレクサン学園は大盛り上がりだった。お祭り騒ぎである。
「さあ始まりました模擬決闘大会本戦!各グループごとの予選を勝ち抜いた上位二十名の猛者達が己が武勇を競うこの大会、初戦は期待の新入生ヨルハ・マクスウェル対、二年の魔導士の卵マリック・エンリコ!実況は惜しくも予選落ちした放送部と教師の皆さんでお送りします!」
「さて注目の一戦ですが、先生方はどうですか?」
「やはりヨルハ君の魔法ですかな、一番の障害は。」
「確か五つの属性を扱えるとか…その多種多様な魔法に翻弄されて負けた生徒も多いのではないでしょうか!」
「魔法で言えばエンリコも負けてはいませんよ。彼の土魔法は二年でも随一だ。」
「どうなるのか見ものですね~!」
すごいな、実況までされるのか。これは目立つな、あまり無様な負け方はできないぞ…。
今俺は出場者用の観覧席から試合の様子を見ていた。勝った方が俺と当たる可能性もあるのだ、よく見ていなければ。
「それでは…試合、開始!」
開始の合図と共に両者一斉に魔法の詠唱を始める。これは魔法対決になるな。
ネックなのはヨルハは器用貧乏で様々魔法が使えるが突出したものがない、ということだろう。対するエンリコ先輩は土魔法専門らしいから、長引くと不利になるのはヨルハの方だ。
「『──氷よ、突きさせ!』」
先に詠唱を終え魔法を発動させたのはヨルハだった。強ければ強い魔法ほど詠唱に必要な時間が長いのだ。
「『防げ!ウォール!』」
瞬時に土の壁ができ、氷でできた槍は防がれてしまった。
「チッ。『雷よ、撃て!』」
続けて砲撃のような雷が飛来するも防がれる。不味いな、エンリコ先輩の詠唱が終わりそうだ。
「『──叩き潰せ!』」
その一言の後、津波のように地面が大きくうねり、ヨルハに向かって突進してきた。
「くっそ、『吹き荒れろ!』」
咄嗟に風の魔法でガードするも結構な衝撃だったのだろう、ヨルハは片膝をついた。
歓声が大きくなる。ヨルハを応援する一年の声が聞こえる。俺も声に出して応援するか。
「負けないでくれ、ヨルハ!頑張れ!」
するとどうやら声が届いたらしい。ヨルハがこちらを向いて笑った。これだけ騒がしいのに地獄耳か?
「『燃え上がれ!エンチャント!』」
すると地面がごうごうと燃えだした。フィールド全てが炎上している。
エンリコ先輩は熱そうだ。しかしヨルハは自分の周りだけ水の魔法で炎を消していた。成る程、持久戦に持ち込めないようにしたのか。
炎を消そうにもエンリコ先輩はその場にある土を使う。炎が付加された土を使って消したところですぐにまた炎上するだけだ。
「一年のくせに…くそ!『ぶん殴れ!』」
土の塊がヨルハを殴らんと迫る。しかしヨルハはこれを避け魔法を放った。
「『焼き尽くせ!』」
炎の塊がエンリコ先輩に直撃する。見ているだけで痛い…。
最終的に炎で消耗したエンリコ先輩が降参し、ヨルハの勝利となった。
「勝者はヨルハ・マクスウェル!どうでしたか先生方、今回の一戦は!」
「フィールドのそのものに炎をエンチャントするという発想が良かったね。エンリコの弱点をよく見破った。」
「エンリコも途中までは良かったんだけどね。やはり一度焦って炎の塊を受けてしまったのは痛手だったかな。」
「ありがとうございました!それでは五分後、次の一戦を始めたいと思います!何か──」
試合を終え、疲れた顔をしたヨルハがこちらへやって来た。
「お疲れ様。手に汗握る良い試合だったよ。」
「レオン~!聞こえたぜ、お前の応援する声。ありがとな!」
「どういたしまして。」
ヨルハが抱き着いてすり寄って来る。やめろやめろ、犬かお前は。
「…おい。マクスウェル、レオンから離れろ。」
地を這うような低い声でイヴァングが言った。怖っ。
「はいはい、全く皇子殿下ってばおっかないんですから。」
ヨルハはやれやれと言わんばかりに首を振って俺から離れた。怖かったがナイスだ、イヴァング。
次の次が俺の試合だ。三年生と当たりませんように…。
何戦か試合が行われ、遂に俺の出番が来た。相手は三年のレインドル・エクスブロー。
最悪だ、三年のエクスブローといえば魔法使い一家の長男で光と闇属性のスペシャリスト、魔法の天才と呼ばれている。勝てるか…?
いや、勝たなければならない。初戦敗退だなんてこの俺のプライドが許さない。
「これまた注目の一戦!一昨年の大会優勝者であるレインドル・エクスブロー対、一学年主席のレオンハルト・アルム・スティルヤード!先生方、これはやはり…?」
「スティルヤード君はくじ運が悪いようだね、初戦で優勝候補と当たるとは…。」
「いや、スティルヤードは予選で一切魔法を使っていない。実力は未知数だ、まだ分からないぞ。」
「レインドルは強いぞ~。下手な魔導士よりもな。」
「ありがとうございます!さて結果はどうなるのか、今から楽しみですね!」
好き勝手言ってくれるな。まあ全力で事に当たるだけだ。
エクスブロー先輩は制服に黒いローブを羽織っており、片手には白い石のはめ込まれた杖を持っている。
紺色の髪を後ろで緩く縛っており、長さは腰ほどまである。正しく麗人といった出で立ちの男の人だ。身長は俺より少し高いくらいか。
美人系のイケメンである。爆発しろ。
「よろしくお願いしますね、エクスブロー先輩。」
にこやかに笑って挨拶をする。俺は誰に対しても礼儀正しいんだ。
「ええ。こちらこそよろしくお願いします。」
カツリとヒールを鳴らしながらこちらへ歩み寄ってくる。握手か?
「いい決闘にしましょう。」
握手だった。ゆるく握り返す。
「はい、もちろんです。」
再びある程度離れたところで試合開始の合図だ。
「両者位置について!…開始!」
先手必勝!俺はすぐさま斬りかかった。
ちなみに俺は普通の制服に細身の西洋剣という装備だ。
斬る直前、先輩はローブを翻し内側に刺繍してあった魔法陣を発動した。剣が弾かれる。腕が痺れるように痛んだ。
流石に近接武器対策はとっていたか…まあ予想の範囲内だ。
すぐにバックステップを踏んで距離をとる。すると追撃とばかりに光の矢が飛んできた。危ない!何とか避けられたが直撃していたらダウンしていた。
これはやはり剣術だけでは勝てない。魔法を使うか…。
「『──光あれ!』」
詠唱が終わると同時に俺の持っている剣に光が宿る。そのまま思いきり先輩の方へ振りかぶった。斬撃が先輩へと飛んで行く。それを五、六発繰り出すが全て闇魔法の障壁でガードされたらしい。くっそ強いな。
「中々いい魔法を使いますね…では次は私から行かせていただきます!『暗黒よ、飲み込め!』」
先輩の詠唱が終わると、真っ黒な球体が無数に空を覆った。その全てが俺に向かって飛来してくる。拙い!
「『光よ、守護神となれ!』」
俺が使える中で最も強い防御壁をはる。ヒビが入ったものの何とか受けきれた。
だがこのペースだと俺の体力が持たない。早めの決着が望ましいだろう。
「『氷河よ現れよ、煌々と照らせ!』」
水と光の呪文を同時に唱える。氷の河が空中に現れ先輩へと流れてゆき、眩い光がフィールドを等しく焼いた。
しかし。
「『相反する二つの力よ、我を守る盾となれ!』」
先輩も二属性で防御し、俺の魔法は防がれてしまった。
だがこれも計算内!
防御魔法を解く一瞬の隙を狙い斬りかかった。
「ぐっ!」
咄嗟に先輩は腕でガードしたものの、もろに剣撃を受けることとなった。そのまま追撃する。
「『──光あれ!』」
至近距離で斬撃を放つ。しかしこれはローブで防がれた。チッ。
「『闇よ、切り裂け!』」
先輩からの反撃だ。真っ黒な衝撃波が飛んでくる。慌てて剣でガードしこちらも斬撃を飛ばすがそれもガードされる。
「『穿て!抉れ!刃よ!』」
最大級の魔力を込めて魔法を放つ。光で出来た刃が複数生まれ、回転しながら先輩に向かって飛んでいく。
第一撃はローブ弾かれる。しかし怯まず連続で刃を叩きつける。そして出来た隙をついて剣撃を叩き込む。腕に当たった一撃が先輩の杖を弾き飛ばした。
…不味い!
「ッあ!」
先輩が焦ったような声を出す。
何故かは分からないがどうやら先輩はあの杖で自分の魔力を押さえ込んでいたらしい。異常なまでに膨大な魔力が溢れ出し濁流のように流れだす。
俺は慌てて弾け飛んだ杖を掴む。体制を崩したが何とか空中で一回転し着地する。そして先輩へと杖を投げ返した。
先輩は杖が戻ってきたからか、安堵した表情で息を吐いていた。
俺としてもあれだけの魔力を持った人間と真正面から戦いたくはない。押さえ込んでくれるならば好都合というものだ。
俺は剣を構え直した。先輩は驚いた表情でこちらを見ている。なんだ?
こういう訳の分からない時はとりあえず笑っておけばいい。俺はとっておきの慈愛に満ちた笑みを先輩へ向けた。
先輩は驚いたように目を見開いている。若干泣きそうにも見える。どうしたんだ、俺のあまりの美しさに感動でもしたか?
何を思ったのか先輩が問いかけてきた。
「キミは、勝ちたいのですか?」
当たり前だろう。俺の成績と名誉のため、なによりも約束を守るために俺は負けられないのだ。
「はい、もちろん。先輩は違うのですか?」
先輩は何かを考え込んでいる様子だ。流石に今は攻撃しちゃダメだよな?
「…すみません、体調が悪いので棄権します。降参扱いで構いません。」
先輩の言葉に会場中がザワつく。俺も動揺を隠せない。えええ。
「せ、先輩、大丈夫なんですか?」
本当に体調が悪いなら心配だが、あれはどう考えても仮病だろう。そしてここでの棄権は先輩にとってなんのメリットもない。
「…杖のこともあります。これ以上キミに迷惑をかけられません。」
いや、力を抑えてくれるなら俺としては迷惑どころかありがたいんだが?
まあ本人がそう言うなら止めはすまい。…ちょっと勿体無い気もするけどな。こんな実力者と戦うこともそうそうないだろうし。
「急に動きが止まったかと思えばエクスブロー降参宣言!勝者はスティルヤード!おめでとうございます!」
「途中まではいい勝負だったんですけどね…残念です。ですが体調が悪いのなら仕方がありません、負傷しない代わりに疲労が溜まるシステム上、こういう事もあるでしょう。次の試合ですが──」
騒ぐ実況をよそに先輩はスタスタと歩いて出ていってしまう。俺も出るか。
出場者用の席に戻ってくると、ヨルハとアレクがそこに居た。イヴァングは次の試合の準備に行ったようだ。
「お疲れさん。すげえ試合だったぜ。」
「ありがとう。中途半端に終わっちゃったけどね。」
ヨルハが労いの言葉をかけてくれる。本当に中途半端だった。まだ噂で聞いたエクスブロー家に伝わる特殊な魔法とやらも拝んでいない。
「そういや次の皇子殿下の試合、相手は誰だか聞いたか?」
「いや、まだだけど…誰か知ってるの?」
対戦相手は試合の直前に発表されるのだが…。
「レオンの試合が終わってからここを出たのは二人だけだからな。相手だってわかるさ。」
ああなんだ、そういうことか。てっきりどこからか情報が漏れたのかと思った。
「で、だ。相手、どうやらローライズ帝国の第一皇子殿下の将来的な臣下になるとかっていうやつだ。」
「三年のシンドワ・アルム・レングタールのこと?」
同じアルムの名を持つのは、遠い先祖が同じ人間だからだ。同じ公爵家の人間でもある。
「ああ。騎士としての能力は今すぐ帝国騎士団に入団できるくらいだってみんな言ってる。」
「確か彼も優勝候補だったよね。まあイヴァングも優勝候補の一人なんだし、いい勝負になるんじゃないかな。」
「本物の皇族の力、見せてもらうとするか。」
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私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
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初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
青春異世界学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
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