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先輩編
しおりを挟む生徒会長とのお茶会から数日後、俺は王宮に来ていた。
第一王子生誕祭に出席するためだ。他でもない第一王子本人に誘われてしまっては行かないという選択肢は無いだろう。
パーティ用の煌びやかなスーツに身を包み、会場へと向かった。
「ミレクシア!来てくれたんだな、嬉しいよ!」
どこから見ていたのか、俺が会場入りした途端に第一王子が駆け寄ってきた。犬かな?
「アレン王子、お誕生日おめでとう!呼んでくれてありがとう、お祝いできてよかった。」
「はは、ありがとう。今年もミレクシアに祝ってもらえるなんて、俺は幸せだな。」
本当にな。アダムなんか俺が折角祝ってやっても、「ありがとう。」の一言で終わりだぞ?…まあ、嬉しそうに笑ってくれるから、別にいいけどな。
「じゃあアレンがもっと幸せになれるようにプレゼントを贈るね。自室に届いてると思うから楽しみにしてて?」
「本当か!ああ、パーティの後にも楽しみができたな!」
第一王子はまぶしいほど笑顔だ。感情表現がストレートで見てるとこっちまで嬉しくなってしまう。この素直さは美徳だな。
それから少し話をしたが、第一王子は本日の主役だけあって挨拶に来る人が多く俺は壁際の華となることにした。要は端の方に逃げたのだ。社交辞令は得意だが好きではない。
壁際のソファに腰かけソフトドリンクを飲む。ラズベリーのジュースだ。
そんな俺に近づいてくる影があった。
「ね、キミ学園で見たことあるんだけど、生徒だよね?すっごく綺麗な子だから印象に残っててさ。公爵位なんでしょ、俺と一緒だね。」
この声…そして金髪赤目にホストのようなこの容姿…まさかゲームの攻略対象の一人、先輩ポジションのキース・バレンタインか!?
キースの名前は聞いたことくらいある。公爵位にも関わらず許嫁もおらずフラフラ遊び歩いている問題児として有名だ。まさか攻略対象の一人だったとは…。
「はい、そうですよ。貴方はキース先輩…ですよね、こんにちは。」
「こんにちは。俺のこと知ってるみたいだね、有名だし俺。まあ有名度で言ったらキミも相当だけどね。氷の王子アダム・R・クリストフの婚約者、地上に舞い降りた麗しの天使様ってね。ミレクシアくん?」
お茶目なウインクと共に先輩は俺の隣に腰かけた。確かキースルートに入ると今まで遊んでばかりだったキースが突然遊ばなくなるらしいから、主人公はキースルートを選ばなかったんだな。
妹曰く先輩は、「今まで浮気性だったキースが主人公に対しては一途になって真実の愛を知る描写がたまらないの!」とのことだ。真実の愛が得られなくて残念だったな、先輩。
可哀想だから世間話くらいなら付き合ってやろう。婚約者がいる人間に手は出してこないだろう。
「大袈裟ですね、誰が言ってたんですか?もう。」
俺が綺麗なんて当然のことだろう。
「あはは。ね、どうして一人でこんなところに座ってるの?キミのフィアンセは?」
「アダムは来ないそうです。俺はちょっと疲れちゃって、休憩してるんです。」
「へえ、来ないんだ。俺ならこんなに美人な婚約者、放っておかないけどなー。誰かに盗られちゃったりしたら嫌だし。…例えば、俺とか。」
おっとナンパか?節操無しだな、こいつ。
「信用されてるんですよ、俺なら放ってても他の誰かに着いて行ったりしないって。だから先輩にも盗られたりしません。それに…俺は高いんですよ?」
「おっとこれは失礼。…でも俺、フィクションでよくある怪盗みたいに、高くてガードの堅いお宝ほど盗みたくなっちゃうんだよね。どう、今夜一緒に遊ばない?楽しい夢、見させてあげるよ。」
口説かれている…!たまに勘違いしたやつが身の程知らずにも美しいこの俺を自分の物にせんと口説いてくることがあったが、今世では一度も無かったからちょっと新鮮だ。
憐れみから世間話には付き合ってやったが、これはダメだ。今の俺はアダム一筋なのである。だいたいこんな奴と遊んで変な噂が立ってみろ、今度こそ婚約破棄だ。
「ふふ、すみません。ありがたいお誘いですが断らせてもらいますね。俺、婚約者がいるので。」
「そっか、残念!あーあ、こんな綺麗な子と一緒に遊べたら楽しかっただろうにな。まあ断られちゃったんなら仕方ない、他を当たるよ。…でも、気が変わったらいつでも言いに来てね?キミなら大歓迎!」
先輩はそう言って颯爽と去って行った。
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