【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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太陽の国

魔法の師匠

迷いの森へと入った私とソラ。
探しものは案外すぐに見つかった。
それはケラケラと笑いながらバタバタと羽を動かしている。

「この森を出ることができて、なおかつまた森に戻ってきた人間は珍しいわね」

ソラが妖精の言葉を訳してくれて、私は妖精と話をすることが出来る。
とはいえ、ソラに対して友好的であったとしても人間には見向きもしない妖精がほとんどで、私からは話しかけたことはなかった。
だが、妖精が魔法を使えることは明らかで。
ソラのおかげでスムーズに話せることも事実だ。
それを利用しない手はない。
「魔法について教えてほしいんです。私は使い方も、自分になんの魔法があるのかも分かりません」
「あら、どうして人間が妖精に教えを請うのかしら。人間のことは人間が解決したらいいじゃない」
「それはごもっともなんですが、こちらの世界の言語が分からないんです」
妖精は態と驚いた様子で微笑んだ。
「まぁ、なんて憐れな子。いきなりこの世界に現れて、異物でいるしか出来ないのね」
「なんでそれを」
「森の入口から貴女は入ってない。突然現れたということは、そういうことだわ」
ふわふわと飛んだ妖精は私のおでこに指をつけた。
「私が魔法を教えたとして貴女は私に何をくれるのかしら?その目?寿命?記憶かしら」
妖精の瞳は真っ直ぐと私を見ていて嘘ではないらしい。
小さな羽を動かしてきらきらふわふわと飛ぶ可愛らしい妖精の要求は可愛くない。
そんな物騒な取り引きはごめんだ。
かと言って私には何もない。
「妖精が欲しがるものってなに…そもそも今あげられるものなんて何もないし」
妖精は少し黙ったあとこう聞いてきた。
「貴女、どこから来たの?言語がわからないということは別の国から来たのよね」
「日本ですけど、分からないですよね」

妖精は一瞬考えて、頷いた。

「それじゃあ取り引きしましょ。貴女の国の言葉を教えなさい。その代わり魔法を教えてあげる」
私からすれば願ってもない提案だ。
何かを欠損することなく魔法を教えてもらえるならば本望だ。
でも、どうして日本語なんか必要なんだ?
こちらの世界で日本語なんて使えるところは無いはずだ。
妖精の意図は掴めなかったものの、私はこの世界で魔法の師を見つけることに成功した。
「闇の力が一番強いわね。あの果実を美味しそうに食べられる訳だわ」
妖精は魔力を感じ取れるらしく、やはり私の魔力は闇なのだと分かった。
どうやら闇の魔法を持つものは、場合によって毒が効かなかったり、本来ならばありえない能力を発揮することから人間ではないと恐れられていたらしい。
「闇の魔法を持っている人間がよくこの迷いの森に送り込まれて来たわ。その人間たちは出ることが出来ず死を待つだけだった。妖精に騙されて寿命を取られて死んだ者もいたわ」
妖精は世間話のように淡々と語る。
迷いの森というのは処刑の場所として使われていたという訳だ。
「貴女は体内に取り込んだ毒を魔法として使うことが出来るはずよ」
「それって、危ないんじゃ」
「何を言ってるの。そんなもの火だろうが風だろうが関係ない。相手に攻撃する魔法というものは相手を傷付ける覚悟を持ってするものだわ」
妖精にまともな説教を食らい、確かにそうですが、と言い淀むしかない。
「貴女の魔法は未熟で貧弱。相手を殺せるほどの威力はまだ無いわ。それでもコントロールが上手くなれば相手を長く苦しめることも一瞬で殺すことも出来るようになる。人間の言葉で言えば努力次第ね」
魔法というものを学びながら、コントロールの方法を教えてもらう。
とはいえ、この世に存在するときから魔法を自由自在に扱える妖精は〈魔法の出し方が分からない〉というのが分からないらしい。
「そんなものは自分でなんとかして。私が教えられるのは魔法というものそのものだけだわ。それより、次は言葉を教えて。“あめ”とはなに?」



妖精はほぼ一方的に魔法についてを語り、一時したら言葉の意味を聞いてきた。
何日も何日もそれを繰り返し魔法の知識そのものは理解しつつあった。
「“つき”ってあれのこと?」
妖精が夜空を指差してそこに浮かぶ満月を見た。
「そうです。師匠は色んな日本語を知ってるんですね」
妖精は様々な単語を知っていた。
その意味だけを知らないようだった。
「以前貴女と同じ言葉を話す人間がいたわ、この森に」
その可能性は考えていたものの、実際に妖精の口から聞かされると驚いてしまう。
この森を彷徨う転移した者は私以外にもいたわけだ。
「ねぇ、それより師匠って呼ぶのやめてよ。人間の師匠なんて美しくないもの。“ツキ”って名前にするからそちらで呼んで」
「ツキさんですか。気に入ったんですか」
その問いかけにツキは月を見上げた。
「“きれい”って言ってたから、ツキがいいの」
彷徨っていた人間はツキにとってどんな人間だったのか。
少なくとも、言葉の意味を知りたい程には好いていたのだろう。
その人間は一体どうなったのだろう。
それを聞くのが怖くて、私はずっと聞けないでいた。


ツキに教えてもらって約3ヶ月。
ツキは突然終わりにすると言ってきた。
毒の魔法は出せるようになったもののまだコントロールできる訳でもなく、へなちょこの魔法のままだ。
「なんで急に!?」
「急じゃないわ。知りたかった言葉はもうあと一つしかないの。つまり、貴女は対価を払えなくなるってことよ」
その淡々とした様子はとても冷たかった。
この3ヶ月毎日一緒にいても、距離感は変わらなかったということだ。
「あの人が話していた言葉で聞き取れた言葉だけ知りたかった。ただそれだけだったの。さぁ、“さよなら”の意味をおしえてくれない?」
これで最後という時にその言葉が来るとは、なんとも皮肉だ。
「…その人はどうなったんですか」
最後になるのなら聞いてみようと思った。
もしかして、死ぬ間際の言葉だったんじゃ。
「森を出て行ったわ」
「え!?どうやって」
「私が案内したから」
その人が森を出られたというのは素直に嬉しかったが、妖精の行動としては違和感だった。
「なんでそんなことを?教えなければずっと一緒にいられたのに」
そんな恐ろしい思考になるのは妖精と過ごしたからだろうか。
けれども妖精は眉を顰めて言った。
「そんなことしたら死ぬじゃない。人間は脆いのよ」
随分とまともなことを言うツキは、それだけその人のことを想っていたと分かる。
妖精も人間のような思考をすることがある、というのが三ヶ月での学びだ。

「さよならは、別れの挨拶です」
「ああ、なーんだ。もっと気の利いた言葉かと思ったのに。それじゃあ、“さよなら”」

ツキは少し寂しそうにその場から消えた。
三ヶ月頑張って通訳してくれたソラを撫でて、私は夜空の月を見上げた。
ツキは最後の別れの時に、その人になんて言って貰いたかったのだろう。
気の利いた言葉とは何を示しているのだろう。
ツキが聞きたがった言葉は世間話のような単語だけだった。
おそらくその人は、ツキに何気ないことを話しかけていたのだ。

“雨が降ってきたね”

“寒い夜だ”

“ここは夢の世界なのかな”

“君は小さな神様かい”

お互いに何を言っているか分からなかったのだろう。
だから、お互いが一方的に話していたのだろう。
そうして、伝わらない言葉をお互いが呟いていたのだろう。

“月が綺麗だ”

言葉は通じなくても二人はお互いを想っていたのかもしれない。
「ツキさん、ありがとうございました」
ソラの背に乗って舞い上がる。
見下ろした森には小さな灯りが見えて、きっと月を見上げているのだろうと思った。

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