【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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太陽の国

薬師の先生

植物収集の仕事が10回を越えてきた頃、エルデに奥の個室へと呼び出された。
「そろそろお仕事にも慣れてきましたか?」
「はい、まだ植物収集しかこなせてませんが、仕事の流れは掴めてきました」
「それは良かったです。是非、他の仕事も気になるものがあれば仰って下さいね。ところで本日は、依頼者の方から直接仕事をリビさんにお願いしたいと申し出があり、それを引き受けるかどうかのお話をさせて頂きたいのですが、お時間宜しいでしょうか」
エルデは少し疲れた様子で微笑んでいる。
「はい大丈夫です、どのようなお仕事ですか」
「リビさんが今までなさったお仕事はほとんど、この国の薬師であるアイルさんから依頼されたものなのです。そして、今回の直接の依頼もそのアイルさんからです。仕事の内容は直接話すから店に来て欲しいと言付かっております。アイルさんはその、少々無理難題を仰ることもありまして依頼を受けるかどうかは話を聞いてから判断したほうが良いと思います」
眼鏡をくいっとなおすエルデは力無く微笑んだ。
「ただ、アイルさんが直接依頼するというのはリビさんの仕事を評価してのことだと思います。そのことに関しては喜んでいいと思いますよ」


役所を出て西にあると言われたアイルの店はすぐにわかった。
丸い形の窓がたくさんついていて、清潔感のある綺麗な白い建物はとても目立っている。
硝子の扉を開けて入ると、一人のご老人が店を出るところで、私は扉を開けて待っていた。
「ありがとうね」
「いえ」
そうして中に入ると、白衣を着て赤い髪をポニーテールにした女性が出迎えてくれた。
「ようこそ、薬屋へ。あらま、本当にドラゴン連れてんだねぇ!まぁ、座んな!」
元気ハツラツ、という言葉が似合いそうなその女性に診察室のような部屋に案内して貰い椅子に座らされた。
今から診察でもされる、そんな雰囲気だ。
ソラも隣の椅子に座って翼を小さく畳んでいる。
「エルデに言われて来てくれたんでしょ?あたしはアイル。ここで薬師をしてる。薬師って分かる?薬調合して、怪我とか病気とかを早く治す手助けをしてるのね。光魔法で治癒魔法を使えたら最高なんだけど、あたしは残念ながら持ってないんだよなぁ」
腕を組んで首を横に振るアイルは本当に残念そうだ。
ぱっ、と顔をあげると膝をたたく。
「あ、そうだ。エルデから聞いたけどこの世界に突然来て右も左も分かんないんでしょ?大変だったねぇ、迷いの森で暮らしてたって聞いて耳を疑ったもんさ!よくあの森で生き残った!えらい!君もえらいねぇ!」
アイルはソラの頭を撫で回す。
ソラはくすぐったそうに笑っていて、この人が悪い人では無いことが分かる。
ちょっと、マシンガントークな気はするけど。
「あ、名前聞くの忘れてたねぇ。ごめんね、あたし喋ると止まんなくって、あはは!」
豪快な笑い方だったが、不思議とこの人が薬師で国の人は安心だろうなと感じた。
「私はリビです、この子はソラ。お仕事を依頼したいと伺って参りました」
「リビとソラね!そーなのよ、最近二人があたしの依頼こなしてくれてたんでしょ?速いし、植物を間違えないし大助かり!植物について詳しいのは、魔法に関係してたりするのかい?」
少しだけ今までの雰囲気から変わった気がした。
真面目な空気、それが伝わってくる。
「あの、私は闇魔法を持っていて、植物を食べることでその毒の効果を魔法として使うことが出来るんです。なので、色々な毒を試すために図鑑をよく読んでいます」
「へぇ、それは珍しい魔法だね。今やって見せることはできる?あたしにやってみて」
「え、あの、まだコントロールも不十分で、それに、人に魔法をかけたことは無いんです。効果だって、色んな植物を食べているので、麻痺とか、混乱とか、神経毒で死ぬかもしれないし」
「あたしの魔法はね、水魔法」
そう言うとアイルは手のひらを上に向けた。
テニスボールサイズの丸い形の水が浮かんでいてなんとも不思議だ。
「こうやって空間にとどまらせることができるし、ぶつける速さによっては対象に穴が開く。細長くして人の体内に入れれば詰まった異物を流せるし、逆に内部から穴を開けることも出来るね」
にこっ、と笑顔で言うには物騒なことを言いながら、今度は水が氷に変化していく。
「水の強度を変えれば刃物にも、トンカチにもなる。もっと大きな水を操れば氷の城も建てられる。操る技術やセンスによって様々な姿に形を変える。使い方も千差万別。それが魔法ってもんだよ」
小さくなった氷をアイルは口の中に放り込んでガリガリと噛み砕く。
「水の純度を上げれば食べられるただの氷。自分の魔法は自分が一番信用してやらないといけないのさ」
アイルは手を差し出すと、リビにも手を差し出させた。
「あたしの手だけに魔法をかけてごらん。自分が今取り込んでいる毒の中で比較的安全なものを選べば怖くないでしょ?」
「部分的に、しかも毒を選ぶなんてそんな器用なこと出来ません」
「自分を信じてないからだよ、それは」
そう言われて私はとても怖くなった。
自分を信じたことなど無い。
いつも後ろ向きで臆病で何も進めないでいる自分を何故信じられるだろうか。
ソラを守るために生きなくてはと思えたことは変わったが、根本的な性格はまだ変わってはいないのだ。
「技術を磨くことは己を守ることになる。細かいコントロールが出来るようになれば、相手を殺さずに制圧できるってことさね。リビ、酷なことを言うけど闇魔法持ちはあんたの身が危険だよ。差別も偏見も減ってはいるが少なくないのが現状だ。心無い言葉をかける奴も、物理的に攻撃しようとする奴も必ずいる」
アイルは私の手をギュッと握りしめる。
「相手を殺してしまったらどうしようなんて考えてる内にリビが殺される。そうならないためには相手を殺さずに鎮める技術が必須なんだよ」
アイルのあまりの真剣さに気圧されて頷くことしかできない。
「やってごらん、場所はあたしの手、毒は麻痺。さぁ、覚悟決めな」
アイルの手に手を翳す。
手だけ、手だけに。
麻痺を、麻痺だけを。
背中には冷や汗が流れていき、手は震えている。
黒い光を纏いながら、麻痺だけをと念じるとアイルの手が少し黒く変色する。
「あ、あの、大丈夫ですか!?」
アイルは黒くなった手を見つめて、微笑んだ。
「手に麻痺だけ。良し、合格!!」
「え、合格?」
なにがなんだか分からない私を見て、アイルは笑いながら黒い手を払うように振ると黒い色が抜けていく。
「え、麻痺は」
「あはは、水魔法ですぐ浄化したから平気平気!魔法始めたてのひよっこ魔法があたしに害をなせる訳無いから安心しな。そもそも薬師よ、あたし」

そう言いながらアイルは改めて仕事の話をし始めた。
「さてと、合格したリビにはとある村にお遣いを頼みたいんだよね。そこにしか売ってない麻酔効果のある薬草なんだけど」
その村は2つほど森を抜け、山を登った山間部にあるらしい。
「かなり閉鎖的な村でね、他の村との交流もしない。ただ、山水で作られる薬草の質が良くてね。どうしてもほしいんだけど、誰も行きたがらないんだよねぇ」
頭を抱えるアイルはしかも、と付け足した。
「闇魔法をかなり嫌っているから、おそらく何かされること間違いなし!魔法が上手く使えない子だったら行かせるのやめようと思ってたけど、リビは魔法がちゃんと使えてるから任せられるって思ったんだけど、どう?」
「え、闇魔法嫌われてるなら私が行かないほうがいいのでは」
単純に考えて他の魔法が行ったほうが安全だろう。
「リビに行ってほしい理由は2つある。一つは山が過酷なこと。空を飛べば速いけど、空を飛ぶ従魔を従えてる人間は少ないんだよね。ドラゴンのソラがいれば、行くのは楽勝なのよ。2つ目は可能性の話。部分的に毒を付与することができるなら、植物の治癒の効果を部分的に施せるんじゃないかとあたしは思ってんのよ。傷薬の植物、麻痺直しの花、毒消しの効果。それが可能なら光魔法の治癒魔法に匹敵するって考えてるのよね。だから、麻酔効果のある植物が買えたらリビに食べてほしいの」
「私に、ですか?でも」
「さっきすれ違ったおばあさま、ずっと腰痛で眠れないでいる患者さんなのよ。治療には痛みを伴うから麻酔が必要なの。でも、そこらへんにある麻酔の薬草じゃ足りなくて、どうしてもその村の薬草じゃないと痛みに耐えきれない。薬草の麻酔の効果を抽出するのにはかなりの時間がかかる。でも、リビなら食べたすぐに魔法が使える、でしょ?」
アイルの言う通り、植物を食べた直後に毒の魔法を使うことができるというのは合っている。
でも、私はまだ自分の魔法を信じられていない。
「薬も魔法も万能ではない。でも、使い方で効率も便利さも格段に上がるはず。あたしは薬師としておばあさまの痛みを取ってあげたいの。協力して下さいませんか」
私に頭を下げるアイルは、患者さんに真摯に向き合っているんだと分かる。
ここで首を横に振れるほど私は後ろ向きではいられない。
「分かりました、仕事の依頼をお受けします」
アイルは顔をぱっ、とあげるとリビとソラに抱きついた。
「ありがとう!!村で何かあればあたしの名前を出してくれればいいからね!」


こうして私とソラは薬草のおつかいに行くことになった。
アイルの話を聞いてから私は毒の植物だけではなく、薬になる薬草も食べて試してみることにした。
結果はアイルの言う通り。
痛み止めや喉を潤す薬草、麻痺直しの薬草を付与することが可能だったのだ。
私は食べた植物の効果を魔法として付与できるとたった今知ることが出来た。

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