【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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宝石山

銀色の狼

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宝石山に登る前にもう一つ村に野菜を売りに行くという道中のことだった。
私とソラ、そしてジャーマの乗る荷馬車が急停車する。
それが何故なのか私は察していた。
前方100m、別の荷馬車が襲われていたのだ。
盗賊らしき黒い被り物をした人間が5人。
そして商人のような男が2人荷馬車を守り、もう一人ガタイの良い男性が盗賊と闘っている。
私は頭にはてなを浮かべた。何故ならそのガタイの良い男性の頭にはふさふさの耳がついていたからだ。
犬、のような銀色の耳だ。
男性は盗賊を掴んで投げ飛ばし、殴り飛ばし、ラリアットを決めた。
商人の護衛ということだろうか。
加勢するまでもなく強そうな男性は盗賊をひとり、またひとり気絶させていく。しかし、手加減しすぎたのか意識のあった盗賊に後ろからナイフで刺されてしまったみたいだ。
その盗賊を振り払って顎に一撃入れると盗賊は動かなくなった。
後方から見ていた私たちは商人たちの荷馬車に近寄った。
「大丈夫ですか?盗賊を縛るのをお手伝い致します」
ジャーマは商人に話しかけ、ロープを用意する。
移動中の荷馬車が襲われるのはよくあることらしく、近くの村の警備隊に引き渡すのが通例とのこと。
ジャーマたちが手際良く盗賊たちを縛る中、私はガタイの良い男性に声をかけた。
顔色がすこぶる悪かったからだ。
「あの、商人さんの護衛の方ですよね?さっき刺されてましたけど、大丈夫ですか」
男性は背が高く、私を見下ろした。
汗が酷く、息も整っていない。
傷口は紫になっていた。
「…ナイフに毒が仕込んであったのだろう、効果はおそらく、痙攣、麻痺、意識、障害…」
そう言いかけて膝をつく。手の震え、そして苦しそうに深呼吸を繰り返す。
まずい、このままだと呼吸困難で命を落とすかもしれない。
そう思った私はジャーマと商人に話しかけていた。
「すみません、護衛の人が毒のナイフで刺されたみたいです!毒消しの薬草をお持ちではないですか?」
商人は頷いて荷馬車からいくつか薬草を出してくれた。

痙攣、麻痺、意識障害を引き起こす毒はいくつかある。

だからそれによって薬草は違うのだが、それを考えてる猶予はない。
見せてもらった薬草の効果は知っていたから、私はその薬草の全てを口に入れた。
ジャーマはもちろんのこと、商人にも驚かれた。
そういえば、魔法のことを詳しく開示していない。
それに、麻痺と傷直しの魔法だと嘘をついている。
でも、それさえも今はどうでもいい、考えてる暇はない。
膝をついたまま動けない男性に私は手を翳す。
薬草の効果を全て彼に付与する。
痙攣改善、麻痺直し、意識回復、睡眠改善、胃腸直し、とにかく、今食べた薬草の効果を選んでいる場合じゃない。
黒い光は男性を包み、紫になっていた肌の色は次第に消えていく。
刺された傷はそのままだが、なんとか毒の症状は抑えることに成功した。
護衛の男性は驚いたように瞬きし、口を開く。

「あんた、闇魔法を…」

そうして男性はその場に倒れた。
「え、そんな、大丈夫ですか!?」
魔法は失敗してしまった?
私は慌てて彼の脈を計る。少し速いが問題ない。
口元に手を翳すと呼吸も伺えた。
どうやら、寝てしまったようなのだ。

男性は商人たちの荷馬車に乗せてもらい、ジャーマと私とソラも自分たちの荷馬車に乗る。
商人たちの行き先もどうやら次の村のようで、一緒に移動することになった。
毒は抜けたとはいえナイフの傷はかなり深い。
次の村に急ごうと2台の荷馬車は急ぎ出発した。
私はどこか気まずくて荷馬車に乗ってすぐにジャーマに頭を下げた。
「魔法の効果を偽ってすみませんでした」
そんな私の謝りにジャーマは首を横に振る。
「謝ることなど何もありません。魔法を偽ることは悪いことではないのです。身を守り、他者を守ることに繋がるのなら些末なことなのです」
まぁ、ちょっと驚きましたけどね。と指二本で“ちょっと”とジェスチャーするジャーマはお茶目に笑って見せる。
「あ、商人の方に薬草のお金を払わないと」
「それなら必要ないとのことでしたよ。あの護衛の彼が動けない今、道中護衛ができるのはリビさんだけですから。それだけで十分だと仰っていました」
私が魔法を使っている間、ジャーマは商人たちと話をしてくれたのだろう。
スムーズな出発はジャーマのおかげだ。



村に着くと盗賊を警備隊に引き渡し、男性を病院へと連れて行った。
傷口を縫っている間も彼は目を覚ますことなくよく眠っていたらしい。
どうやら、薬草の効果である睡眠改善が彼に効果抜群だったらしく、医者にも驚かれてしまった。
今日は一晩入院とのことで、病院の外で商人の2人にお礼を言われた。
「彼を助けて頂きありがとうございます。彼は本当によく働いてくれて、今日も命を張ってくれてとても良い人なんですよ。だから、命を落とすことがなくて本当に良かった」
そんな心からの感謝に、私は助けることを躊躇わなくて良かったと思えた。
私に助けられるか?
そんな疑問は常に持っている。
それでもやらないと目の前の命が失われてしまうとき、昔の私ならきっと躊躇していた。
自分に力がないことももちろんだが、自信のなさは人一倍だったから。
魔法は万能ではない。
でも可能性を広げられるなら私は頑張ってみたい。
この仕事の目的である魔法の練習にもっと身が入る。
そんな実感を得られた彼との出会いはきっと、私にとって大きな変化になる。そんな気がした。



「本当に助かった、ありがとう」
病院のベッドの上で頭を下げる男性は、ふさふさの耳がぴこっと動く。

耳、かわいいな。

次の日の朝、病院にお見舞いにきた私は、彼のお礼を聞きながらそんなことを思った。
この耳、本物、だよね。
長い銀色の髪を後ろで縛っているから、本来人間の耳があるところに耳がないのは見えていた。
後ろには耳と同じ色のふさふさのしっぽも見えている。
ただ如何せん、初めて見る種族なので不思議だ。
鋭い黄金の瞳や口の隙間から見える鋭い牙。
顔は正直なところ強面なのだが、耳が、可愛いのである。
その視線を察してしまったようで男性は居心地悪そうに目を伏せた。
「…そんなに珍しいか」
「あ、すみません。私この世界に来たばかりで、色々と初めてで」
そんなことをうっかり言ってしまい、首を傾げられてしまった。
「ここらへんの人間じゃないってことか?まぁ、俺も見ての通り地元の人間じゃねぇが」
男性は姿勢を正すと、私の方に向き直る。
「俺はフブキという。狼の獣人だ」
「そうなんですね」
私の世間話のような返事に拍子抜けしたのか、フブキはどこか緊張を解いたように見えた。
「本当に何も知らねぇんだな。本来、狼の獣人は恐れられていてな。いつもは犬の獣人だと偽っているんだが、命を救ってくれたあんたに嘘をつくのは気が引けたんだ」
そんな事を言うフブキは、商人たちの言う通り良い人のオーラを感じた。

…あれ?フブキって、日本っぽい。

「あ、あの、日本って国知ってますか」
「いや、聞いたことないが」
フブキは首を横に振るが、その名前は絶対に日本語だ。
日本人が他にもいるのかもしれない。
「その名前の由来はなんですか?ご両親がつけてくれました?」
名前に何故そんなに食いつく?という顔をしながら、フブキは話してくれた。
「俺のいた国では神が名を授けてくれるんだ。とはいってもそれを伝えてくれるのは神官様だが」
つまり、神様が日本語を知ってる?
それを聞いてわけが分からなくなる。
神が日本語を話すなら、どうしてこの世界は知らない言語なのだろう。
いや、待てよ。
神官は日本語が分かるってこと?
神官は日本人ってことだろうか。
「あの、神官様はどうやったら会えますか?フブキさんの国に行けば会えるってことでしょうか」
フブキは驚いたあと、苦い顔をして目を伏せた。
「神官様は別の国から来てた人だった。今もいるかは分からない。それに、人間なんかが入れる国じゃねぇんだ」
ベッドのシーツを握りしめ、フブキは深いため息をついた。
「白銀の国、そこは狼の獣人しか暮らせない大きな国で、要塞だ。軍隊を作り、他の国とは関わらず、言わば独裁政権のもと国が成り立っている。俺は10歳になる前に国を追い出され、両親は処刑された」
その言葉に息を飲んだ。
なんで、どうして。そんなことは声に出さずとも顔に出ていた。
フブキは息を吸って言葉を続けた。
「狼の獣人は闇魔法を持って生まれるのが当然なんだ。白銀の国は闇の加護を受ける国だから、誰しもがそれを疑わない。だから」
拳を強く握りしめ、そうして綺麗な白い光を苦しそうに見せたフブキは泣きたくても泣けない、そんな顔をした。
「闇の加護を受ける国で、光魔法を持つものは暮らせない。それ以前に、闇の加護を与える神への冒涜だと言われ殺されてしまう。だから、両親は俺を国から隠してくれた。生まれてから約10年、人前で魔法を見せず、時折国を抜け出して光魔法を消失させないようにした」
闇の加護の中では光魔法は暮らせない。
それはまるで、太陽の国では暮らせない私のようだ。
「だが、バレてしまった。俺にとって大切な人が怪我して、助けられるのが治癒の魔法を使える俺だけだったから。それによって、俺を匿った両親は処刑され、俺は国を追放された。二度と国に戻らないことを条件に、俺はこの15年生き永らえているってことだ」
その言い方はまるで、生きていてはいけないと言っているみたいだった。
「そんな顔をするな、俺はあんたに助けてもらって本当に感謝している。命を粗末にする気はないんだ、ただ、誰かを守って死ねたなら、少しは向こうに行ったとき両親に顔向け出来る気がするだけなんだ」
フブキは自分が辛いはずなのに、私の顔色を伺ってフォローまでして。
こんなに良い人なのに光魔法ってだけで差別されることが悔しかった。
「あんたにこの話をしたのは命の恩人だからでもあるが、闇魔法を持ってるからだ。あんたも、人間で闇魔法を持っていたら大変だっただろ」
慈愛に満ちた瞳に、少し泣きそうになる。
でも、私なんてフブキの苦しみに比べたら全然だ。
だって私はまだ、本当の差別に出会ってない。
太陽の国という法に守られた場所で、私が出会う人たちは良い人ばかりで。
そりゃあ、風上の村は酷かったけどそれも1日の出来事だ。
だから私はフブキに共感してもらえるようなそんな人間ではないのだ。
私はフブキの言葉に首を横に振ることしか出来ないでいた。
フブキは困ったように少しだけ眉を下げると私の顔を覗き込んだ。
「俺の命の恩人の名を知りたいんだが教えてくれないか」
私が名乗るとフブキは不器用に笑顔を作って名前を呼んだ。
「リビ、ありがとう」
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