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泉の谷
行き場のない怒りと
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訓練12日目。
魔法が一度だけシグレの体を掠めて動きが少し緩やかになったような気がした。
もちろん、爪を避けれるはずもなくしっかりと傷付いた。
「今のはとても良いですよ。でも、もっと強い麻痺をかけないと意味がありませんね。もう一度やってみましょう」
そんなことをにこやかに言われて、やっと当たったのにと泣きたくなる。
昔から運動はそんなに得意ではなかった。
特に球技が苦手で投げたボールがどこに行ったのか分からなくなるくらいだった。
魔法だって軌道が見えないけど上手く放っている気がしない。
真っ直ぐではなく、うねうねと彷徨いながらやっとのことでシグレの元まで届いてるんじゃないだろうか。
「あの、私の魔法って、発動が遅いとかないですか」
「いいえ、そんなことはありませんよ。ただ、感覚的に魔法を使っている印象はありますね」
初めて魔法を使おうとした時、私はツキに魔法を教えてもらった。
とはいえ、細かいことは教えてくれず見様見真似だったから感覚的なのもそのせいかもしれない。
「私、師匠が妖精で、魔法のやり方は割と大雑把に習ってしまったのでそれが要因だと思います」
「妖精、ですか。つくづく貴女はおかしな方ですね。どう生きれば妖精に魔法を習おうだなんて思うんです?…家族には教えてもらえなかった複雑なご事情があるのですね」
突然真剣な表情をしたシグレは誰を思い浮かべているのだろう。
「私、魔法を使えるようになったのは最近なんです。それに、家族もいませんし」
この世界では、だけど。
シグレの瞳が揺れて、それから手を握りしめるのが見えた。
「そうでしたか、それならやはり、貴女の魔法の発動は早いと思います。息をするように魔法を使える妖精に教えてもらったことで、その技術を感覚的に捉えたのでしょう。成長を感じにくく焦る気持ちは分かりますが、そんな心配はいりません。確実に身になっています」
私の不安を見透かすように宥めるシグレは切り替えるように手を構えた。
「さぁ、もう一度やってみましょう。魔力をもっと込めないと駄目ですからね」
「はい、お願いします」
深呼吸をして、また風を切る爪が迫ったその時だった。
キンッ、と鋭い刃物がぶつかるような音と、銀色の髪が目の前に現れた。
「!!お前っ!」
「・・・シグレ?」
「フブキさん!?」
「キュ!!」
全員おのおの驚きの声が上がり、そよ風の音が聞こえるほどに静まり返った。
フブキがふと振り返り、私の腕やら足にある傷を見る。
「リビ、大丈夫か」
「はい、あの、違うんです。シグレさんは魔力強化の特訓を」
「フブキ、何しに来た」
シグレの声はいつもより低く、そして敬語ですらない。
「俺はすぐ近くの町で仕事が終わったから、リビの様子を見に来たんだ。泉の谷へ行くことを知っていたし、もしかしたらまだいるかと思ってな。そうしたら、狼獣人の気配もするし、走ってきてみればリビが襲われてると思ったが、違うみたいだな」
シグレはフブキから目を逸らさない。
「俺は、ヒサメ様直属の部下であり側近になった。努力でようやくここまで登り詰めた。悔しいか?」
フブキがシグレを見る瞳は懐かしいそうで柔らかい。
「良かったな、シグレ」
そのフブキとは対照的にシグレはフブキを鋭い眼光のまま見つめている。
「良かったな、じゃねぇよ。お前、ヒサメ様がこの15年間どうやって生きてきたか分かってるか?大事にしてたお前が国を追放され、お前の両親が殺されたその夜からヒサメ様はずっと前王ザラ様を殺すことばかり考えていた。ザラ様側についている大臣や貴族や兵士、その家族をこちら側に引き込んで、ザラ様を殺しても黙らせられるように長い年月行動してこられたんだ。そのためには冷酷な判断を下すことも、敵味方かまわず切り捨てることもあった。そんなヒサメ様を守るために俺がどれだけのことをしてきたと思う?」
「・・・白銀の国はトップクラスの戦闘能力を有している。その中でヒサメ様の側近ともなれば、並大抵の者には務まらないだろうな」
「その俺の攻撃をお前はさっき止めたんだ。俺が躊躇したとはいえ余裕でな。それがどういう意味を持つか、分かるだろ」
フブキは何も答えない。答えられない。
拳を強く握りしめたシグレは、その拳でフブキの胸を思いきり殴った。
「お前がなるべきだった、お前がヒサメ様と約束したんだろうが!!ヒサメ様を守るって。そんな約束のせいでヒサメ様は自分のせいでああなったと心が壊れてしまったんだ!!」
感情が入り乱れて叫ぶその声は掠れて苦しそうだ。
「ヒサメ様は誰も信用なさらなくなった。傍にいる俺でさえ、いつ裏切るかと恐怖しているはずだ。お前だけだ、分かるだろ。フブキのことだけを信じているんだ。・・・責任とれよ」
真に迫ったその言葉に、フブキは静かな声で話し始める。
「俺は・・・白銀の国の騎士にはなれない。シグレこそ分かってるだろ」
「・・・分かってるから気に食わないんだよ、この馬鹿狼」
シグレは舌打ちすると、強めにフブキの肩を押した。
それでもフブキは全然よろめかない。
「ヒサメ様の側に、シグレがいて良かった」
「・・・お前のそういうところが嫌いなんだよ、昔から」
シグレはその苦しそうな表情を隠すようにフブキとは反対の方を向いた。
魔法が一度だけシグレの体を掠めて動きが少し緩やかになったような気がした。
もちろん、爪を避けれるはずもなくしっかりと傷付いた。
「今のはとても良いですよ。でも、もっと強い麻痺をかけないと意味がありませんね。もう一度やってみましょう」
そんなことをにこやかに言われて、やっと当たったのにと泣きたくなる。
昔から運動はそんなに得意ではなかった。
特に球技が苦手で投げたボールがどこに行ったのか分からなくなるくらいだった。
魔法だって軌道が見えないけど上手く放っている気がしない。
真っ直ぐではなく、うねうねと彷徨いながらやっとのことでシグレの元まで届いてるんじゃないだろうか。
「あの、私の魔法って、発動が遅いとかないですか」
「いいえ、そんなことはありませんよ。ただ、感覚的に魔法を使っている印象はありますね」
初めて魔法を使おうとした時、私はツキに魔法を教えてもらった。
とはいえ、細かいことは教えてくれず見様見真似だったから感覚的なのもそのせいかもしれない。
「私、師匠が妖精で、魔法のやり方は割と大雑把に習ってしまったのでそれが要因だと思います」
「妖精、ですか。つくづく貴女はおかしな方ですね。どう生きれば妖精に魔法を習おうだなんて思うんです?…家族には教えてもらえなかった複雑なご事情があるのですね」
突然真剣な表情をしたシグレは誰を思い浮かべているのだろう。
「私、魔法を使えるようになったのは最近なんです。それに、家族もいませんし」
この世界では、だけど。
シグレの瞳が揺れて、それから手を握りしめるのが見えた。
「そうでしたか、それならやはり、貴女の魔法の発動は早いと思います。息をするように魔法を使える妖精に教えてもらったことで、その技術を感覚的に捉えたのでしょう。成長を感じにくく焦る気持ちは分かりますが、そんな心配はいりません。確実に身になっています」
私の不安を見透かすように宥めるシグレは切り替えるように手を構えた。
「さぁ、もう一度やってみましょう。魔力をもっと込めないと駄目ですからね」
「はい、お願いします」
深呼吸をして、また風を切る爪が迫ったその時だった。
キンッ、と鋭い刃物がぶつかるような音と、銀色の髪が目の前に現れた。
「!!お前っ!」
「・・・シグレ?」
「フブキさん!?」
「キュ!!」
全員おのおの驚きの声が上がり、そよ風の音が聞こえるほどに静まり返った。
フブキがふと振り返り、私の腕やら足にある傷を見る。
「リビ、大丈夫か」
「はい、あの、違うんです。シグレさんは魔力強化の特訓を」
「フブキ、何しに来た」
シグレの声はいつもより低く、そして敬語ですらない。
「俺はすぐ近くの町で仕事が終わったから、リビの様子を見に来たんだ。泉の谷へ行くことを知っていたし、もしかしたらまだいるかと思ってな。そうしたら、狼獣人の気配もするし、走ってきてみればリビが襲われてると思ったが、違うみたいだな」
シグレはフブキから目を逸らさない。
「俺は、ヒサメ様直属の部下であり側近になった。努力でようやくここまで登り詰めた。悔しいか?」
フブキがシグレを見る瞳は懐かしいそうで柔らかい。
「良かったな、シグレ」
そのフブキとは対照的にシグレはフブキを鋭い眼光のまま見つめている。
「良かったな、じゃねぇよ。お前、ヒサメ様がこの15年間どうやって生きてきたか分かってるか?大事にしてたお前が国を追放され、お前の両親が殺されたその夜からヒサメ様はずっと前王ザラ様を殺すことばかり考えていた。ザラ様側についている大臣や貴族や兵士、その家族をこちら側に引き込んで、ザラ様を殺しても黙らせられるように長い年月行動してこられたんだ。そのためには冷酷な判断を下すことも、敵味方かまわず切り捨てることもあった。そんなヒサメ様を守るために俺がどれだけのことをしてきたと思う?」
「・・・白銀の国はトップクラスの戦闘能力を有している。その中でヒサメ様の側近ともなれば、並大抵の者には務まらないだろうな」
「その俺の攻撃をお前はさっき止めたんだ。俺が躊躇したとはいえ余裕でな。それがどういう意味を持つか、分かるだろ」
フブキは何も答えない。答えられない。
拳を強く握りしめたシグレは、その拳でフブキの胸を思いきり殴った。
「お前がなるべきだった、お前がヒサメ様と約束したんだろうが!!ヒサメ様を守るって。そんな約束のせいでヒサメ様は自分のせいでああなったと心が壊れてしまったんだ!!」
感情が入り乱れて叫ぶその声は掠れて苦しそうだ。
「ヒサメ様は誰も信用なさらなくなった。傍にいる俺でさえ、いつ裏切るかと恐怖しているはずだ。お前だけだ、分かるだろ。フブキのことだけを信じているんだ。・・・責任とれよ」
真に迫ったその言葉に、フブキは静かな声で話し始める。
「俺は・・・白銀の国の騎士にはなれない。シグレこそ分かってるだろ」
「・・・分かってるから気に食わないんだよ、この馬鹿狼」
シグレは舌打ちすると、強めにフブキの肩を押した。
それでもフブキは全然よろめかない。
「ヒサメ様の側に、シグレがいて良かった」
「・・・お前のそういうところが嫌いなんだよ、昔から」
シグレはその苦しそうな表情を隠すようにフブキとは反対の方を向いた。
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