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組織の調査1
王の味方
「ベルへに他に聞きたいことはないか?」
ヒサメにそう言われベルへを見れば、優しく微笑まれる。
「ヒサメ様の幼少期は可愛いでしょうね。そんな前からベルへさんは白銀の国を担当してらっしゃるんですか。」
そんなことを言えば、ベルへは嬉しそうに微笑んで、ヒサメは少し目を逸らす。
「それもう可愛くて、連れて帰ってしまおうかと思うくらいでしたよ。」
「ベルへ、そこは掘り下げなくていい。」
「ははっ、畏まりました。ヒバリさんはフブキさんの代の子供たちの名前を付けたのを最後に、神官を私に引き継がれたのです。年に一度の加護の儀式や、白銀の国の祭典に神官はお呼ばれするので、多くて年に数回白銀の国には出入りしています。」
親交が長いとの話だったが、ベルへとヒサメはかなり仲が良さそうだ。
手紙のやり取りもしていたようだし、ヒサメにとっては味方になり得る大人だったのかもしれない。
「それにしても、白銀の国は以前よそ者を受け付けない国だったのに神官様は狼獣人の人はいないんですね?」
そんな疑問にヒサメは頬杖をついた。
「神官になれる条件を満たせなかったからだ。」
そんな台詞にいの一番に浮かんだのは、人の役に立つ功績、の部分だ。
「白銀の国王は歴代全員くそ親父みたいな思考の持ち主ばかりだ。王の命令にがんじがらめになっていた国民は国の外に出られない。唯一仕事で外に出られたとしても、彼らが遂行しなければならない任務は決して人の役に立つ功績などではなく、王の役に立つものばかりだ。」
外から入ってくる者も許されなければ、中から出ることも許されない。
どんなに暮らしが豊かでも、そんな縛りの中で生きていくのは苦しくなるはずだ。
自分の意思でそこにいるのと、誰かに命令されて留まるのとでは訳が違う。
「それに神官様になれるのは、強い闇魔法持ちなうえ、身体的な強さまで求められる。そんな逸材を神官様の職にくれてやる気はさらさらないだろう。その強さがあるなら騎士でも兵士でも、使い道はあるからな。」
平民の子供に教育を受けさせず、兵士になる道しか選ばせないほど武力に執着していた前王ザラ。
さらにその前の王もザラと変わらない考え方しかできていなかったわけだ。
「そんな一辺倒な考え方しかできなかったおかげで、神官様は狼獣人以外を選ばざるおえなかったわけだ。おそらくヒバリ殿は親父の父、つまりオレの祖父が選んだ神官だろうな。ベルへの話では、ヒバリ殿はあらゆる者に好かれる才を持っていた。オレの祖父に気に入られて神官を勤めることになったのだろう。」
ヒバリはそれだけ長い期間白銀の国の神官を勤めていたことになる。
ヒサメの世話役であるミゾレの名前も、そして前王ザラの名前もヒバリが付けたはずだ。
「それのおかげでオレはベルへから外の話を聞くことが出来た。王族のオレは外の世界のことも学んではいたが、同じ狼獣人から得られる知識は狭いものだった。人魚であり、神官として他の国にも行くベルへの話は子供だったオレにとって魅力的な話だったわけだ。」
そうしてヒサメは、平民の子供たちにも同じように話をしたのだろう。
読み書きや計算を教えながら、外の世界のことを教えたのだろう。
「ヒサメ様は他の国の様子を聞くのがお好きでしたね。人々の暮らしや、食べ物、仕事について聞かれた時には、もう既に王になることを考えているのだと感心したものです。」
「まぁ、王になることを見据えてはいたがな。外の世界の話をするとフブキが楽しそうに聞いてくれるのが嬉しくて。フブキの尻尾がそわそわと揺れるのが見たくてな。」
そんなヒサメの様子にベルへは笑みを溢す。
ヒサメ様は誰の前でもぶれないな。
「フブキさんと再会できて本当に良かったですね。これからは会いたい時に会いたいと言える。とはいっても、王であるヒサメ様がフブキさんに自由に会いに行くのは、何かと難しいかもしれませんが。」
「それでも昔よりマシだ。今は堂々とフブキの名を口に出来るからな。」
ベルへとヒサメのそんなやり取りに私は思わず聞いてしまった。
「え、フブキさんの名を口にしないことがあったんです?」
「流石に前王の耳に入らないようにはしていた。前王側の者が何を考えるか分からないからな。いくらフブキが強いとはいえ、手を煩わせるわけにもいかない。」
こんなことを言っているが、なにかとフブキさんの話をしていたのをボタンさんから聞いたような。
私が何かを言いたげな顔をすると、ヒサメは椅子から立ち上がった。
「オレは少し受付に行ってくる。今度の加護はオレが王になって初の儀式になるからな。手続きを申請しておかないといけない。リビ殿、聞いておきたいことは何でも聞いておけよ。オレの幼少期の話以外で頼む。」
そんなことを言い残し、ヒサメは受付へと歩いて行った。
「あんなことを言われたら、話したくなってしまうものですよね。少し昔話をしてもよろしいでしょうか?」
ベルへに問われた私は、もちろんです、と頷いた。
「本当に可愛かったんですよ、ヒサメ様。私のあとを一生懸命ついてくるんです。それで抱っこすると目を丸くして居心地悪そうにしてね。彼はきっと、周りにそうしてくれる大人がいなかったんです。」
ヒサメの母親は幼少期に亡くなっている話をボタンから聞いている。
とても体の弱い方だったそうな。
それに、父親はあの前王ザラだ。
抱っこなんてしてもらったことがないのかもしれない。
世話役であるミゾレもきっと、してあげたくてもできなかったのかもしれない。
「幼い時から頼れる存在が周りにいない彼のことを、私は気に掛けるようになっていました。ですが、私が白銀の国に滞在するのは長くても数日。そして、年に数回という短く少ない期間でしかない。そんな側にいてやれない私が、彼の支えになりたいだなんて言えるはずもない。それなのに、諦めが悪い私は手紙のやり取りをすることを彼に提案してしまいました。頻繁なやり取りではないものの、子供のうちは心の声を聞かせてくれたように思います。けれど、“今度はいつ来るの”と、そんなことを言わせてしまった。酷い大人でしょう?自己満足のように彼に手紙を書かせて、そうして成長するにつれてヒサメ様の心の中は見えなくなっていった。」
目を伏せるベルへは手を組んで、祈るような仕草をする。
それはまるで、懺悔のようだ。
「ヒサメ様の運命を変えたあの時、私がもっと気の利いたことが言えれば良かったのでしょうか。側にいれるようにあがいたら良かったのでしょうか。他人である私ができる範疇を越えて、ヒサメ様を親のように抱きしめることが出来れば何かが変わったのでしょうか。ヒサメ様が前王様を手にかけたことを聞いた私は、おこがましくもそんな過去の自分の行動を憂いたのです。私の行動ひとつでヒサメ様の人生が左右されるはずもないと分かっているはずなのに。」
手を組んだ指に力が入って震えている。
ベルへさんはヒサメ様に父親を殺すという行いをして欲しくなかったのだろう。
そんな非情な決断を下す立場にさせたくなかったのだろう。
でも。
「ベルへさんの言う通り、左右されないと思います。」
私の声にベルへは目を開けた。
「ヒサメ様の行動の理由はひとつ、フブキさんのためです。勿論王としての行動は国民のためだとしても、前王を殺すと決めたのはフブキさんのためですよ。その信念が周りからの言葉で変わるとは思えません。あの人の執着心ご存知でしょう?本人は自覚して依存してるとも言ってましたよ。フブキさんが関わっている以上、私たちにできることはヒサメ様の味方でいることだけなのでは?」
そんな私のあっけらかんとした台詞に、ベルへは組んでいた手をほどいた。
「私たち、ってことはリビさんはヒサメ様の味方でいてくれるんですか。」
「え、はい、そうですね。ヒサメ様にはお世話になってますし、頼ってしまう部分もあるので。頼りがいがあるって言って貰えるようにはなりたいですね。」
私が気合を入れるように拳をぎゅっと握って見せれば、ベルへは力の抜けたように笑った。
「私が言うのもおかしな話ですが、ヒサメ様に貴女のような友人がいて良かったです。彼の心は閉じ切っていなかった。私が何かしなくてはと思うのは余計なことだったのかもしれません。」
「それは違うと思います。ベルへさんとヒサメ様、とても仲が良さそうに見えましたよ。それに、笑うときに目を一瞬細めるのとかそっくりです。」
ベルへはそう言われて瞬きする。
「どんなに一緒に居た時間が短くても、ヒサメ様にとってベルへさんは味方だったんですよ。側にいられないことも、すぐには会えないことも、立場が違うことも、種族が違うことも、子供のヒサメ様は分かっていたと思います。貴方は酷い大人だと言ったけど、貴方に会いたいという気持ちを伝えられるほど、甘えても許される存在だと認識していたってことです。そんな貴方の思いが余計なわけないです。」
私は自分の父親のことを思い出していた。
私が幼い頃、仕事で忙しかった父とは平日会うことが出来なかった。
早くに仕事に出かけ、夜遅くに帰宅するので寝ている私としか会うことは出来ない。
だから私はテーブルにいってらっしゃいと書いたメモを置き始めた。
夜にはおかえり、のメモを置いた。
行ってきます、とただいまの文字がとてつもなく嬉しかったのを覚えている。
子供にとってそんなささやかな積み重ねは宝物になるものだって、私は思っている。
ヒサメ様もそうだったらいいと、身勝手にもそう思ってしまっている。
ベルへは目を細めて、そうして笑みを溢す。
「そうだと、嬉しいですね。」
優しそうに頷くベルへはやはり、父親のような存在だったのかもしれない。
そんな勝手な想像をしていると、後頭部にもふっと尻尾が当たった。
私とベルへが振り向くとそこにはヒサメが立っていた。
「申請が終わった。そろそろ夜明けの国を出ようと思うが、問題ないか?」
「あ、はい。そろそろ日が暮れますしね。ベルへさん、色々な話を聞かせて頂きありがとうございました。」
立ってお辞儀をすると、ベルへもお辞儀をした。
「いえ、こちらこそ。私ばかり話してしまってすみません。リビさんが聞きたいことがまだあったかもしれないのに。」
「いえ、たくさん情報を得られたので助かりました。でも、また聞きたいことがあったら来ても大丈夫ですか?」
そんな問いにベルへは穏やかに微笑んだ。
「ええ、勿論です。ヒサメ様もまた、いらしてください。」
「ああ。とはいえ、もうすぐ加護の儀式で会うだろう。その時はよろしく頼む。」
「畏まりました、ヒサメ様。」
ベルへは入口まで見送ってくれて、そうしてヒサメは夜明けの国を出る前に振り返る。
「手紙」
「はい?」
「手紙、待っている。次はキミの番だろ。」
そんなことを言われたベルへは瞬きして、それから目を細めて笑った。
「ええ、送りますよ。楽しみにしていてくださいね、ヒサメ様。」
ヒサメにそう言われベルへを見れば、優しく微笑まれる。
「ヒサメ様の幼少期は可愛いでしょうね。そんな前からベルへさんは白銀の国を担当してらっしゃるんですか。」
そんなことを言えば、ベルへは嬉しそうに微笑んで、ヒサメは少し目を逸らす。
「それもう可愛くて、連れて帰ってしまおうかと思うくらいでしたよ。」
「ベルへ、そこは掘り下げなくていい。」
「ははっ、畏まりました。ヒバリさんはフブキさんの代の子供たちの名前を付けたのを最後に、神官を私に引き継がれたのです。年に一度の加護の儀式や、白銀の国の祭典に神官はお呼ばれするので、多くて年に数回白銀の国には出入りしています。」
親交が長いとの話だったが、ベルへとヒサメはかなり仲が良さそうだ。
手紙のやり取りもしていたようだし、ヒサメにとっては味方になり得る大人だったのかもしれない。
「それにしても、白銀の国は以前よそ者を受け付けない国だったのに神官様は狼獣人の人はいないんですね?」
そんな疑問にヒサメは頬杖をついた。
「神官になれる条件を満たせなかったからだ。」
そんな台詞にいの一番に浮かんだのは、人の役に立つ功績、の部分だ。
「白銀の国王は歴代全員くそ親父みたいな思考の持ち主ばかりだ。王の命令にがんじがらめになっていた国民は国の外に出られない。唯一仕事で外に出られたとしても、彼らが遂行しなければならない任務は決して人の役に立つ功績などではなく、王の役に立つものばかりだ。」
外から入ってくる者も許されなければ、中から出ることも許されない。
どんなに暮らしが豊かでも、そんな縛りの中で生きていくのは苦しくなるはずだ。
自分の意思でそこにいるのと、誰かに命令されて留まるのとでは訳が違う。
「それに神官様になれるのは、強い闇魔法持ちなうえ、身体的な強さまで求められる。そんな逸材を神官様の職にくれてやる気はさらさらないだろう。その強さがあるなら騎士でも兵士でも、使い道はあるからな。」
平民の子供に教育を受けさせず、兵士になる道しか選ばせないほど武力に執着していた前王ザラ。
さらにその前の王もザラと変わらない考え方しかできていなかったわけだ。
「そんな一辺倒な考え方しかできなかったおかげで、神官様は狼獣人以外を選ばざるおえなかったわけだ。おそらくヒバリ殿は親父の父、つまりオレの祖父が選んだ神官だろうな。ベルへの話では、ヒバリ殿はあらゆる者に好かれる才を持っていた。オレの祖父に気に入られて神官を勤めることになったのだろう。」
ヒバリはそれだけ長い期間白銀の国の神官を勤めていたことになる。
ヒサメの世話役であるミゾレの名前も、そして前王ザラの名前もヒバリが付けたはずだ。
「それのおかげでオレはベルへから外の話を聞くことが出来た。王族のオレは外の世界のことも学んではいたが、同じ狼獣人から得られる知識は狭いものだった。人魚であり、神官として他の国にも行くベルへの話は子供だったオレにとって魅力的な話だったわけだ。」
そうしてヒサメは、平民の子供たちにも同じように話をしたのだろう。
読み書きや計算を教えながら、外の世界のことを教えたのだろう。
「ヒサメ様は他の国の様子を聞くのがお好きでしたね。人々の暮らしや、食べ物、仕事について聞かれた時には、もう既に王になることを考えているのだと感心したものです。」
「まぁ、王になることを見据えてはいたがな。外の世界の話をするとフブキが楽しそうに聞いてくれるのが嬉しくて。フブキの尻尾がそわそわと揺れるのが見たくてな。」
そんなヒサメの様子にベルへは笑みを溢す。
ヒサメ様は誰の前でもぶれないな。
「フブキさんと再会できて本当に良かったですね。これからは会いたい時に会いたいと言える。とはいっても、王であるヒサメ様がフブキさんに自由に会いに行くのは、何かと難しいかもしれませんが。」
「それでも昔よりマシだ。今は堂々とフブキの名を口に出来るからな。」
ベルへとヒサメのそんなやり取りに私は思わず聞いてしまった。
「え、フブキさんの名を口にしないことがあったんです?」
「流石に前王の耳に入らないようにはしていた。前王側の者が何を考えるか分からないからな。いくらフブキが強いとはいえ、手を煩わせるわけにもいかない。」
こんなことを言っているが、なにかとフブキさんの話をしていたのをボタンさんから聞いたような。
私が何かを言いたげな顔をすると、ヒサメは椅子から立ち上がった。
「オレは少し受付に行ってくる。今度の加護はオレが王になって初の儀式になるからな。手続きを申請しておかないといけない。リビ殿、聞いておきたいことは何でも聞いておけよ。オレの幼少期の話以外で頼む。」
そんなことを言い残し、ヒサメは受付へと歩いて行った。
「あんなことを言われたら、話したくなってしまうものですよね。少し昔話をしてもよろしいでしょうか?」
ベルへに問われた私は、もちろんです、と頷いた。
「本当に可愛かったんですよ、ヒサメ様。私のあとを一生懸命ついてくるんです。それで抱っこすると目を丸くして居心地悪そうにしてね。彼はきっと、周りにそうしてくれる大人がいなかったんです。」
ヒサメの母親は幼少期に亡くなっている話をボタンから聞いている。
とても体の弱い方だったそうな。
それに、父親はあの前王ザラだ。
抱っこなんてしてもらったことがないのかもしれない。
世話役であるミゾレもきっと、してあげたくてもできなかったのかもしれない。
「幼い時から頼れる存在が周りにいない彼のことを、私は気に掛けるようになっていました。ですが、私が白銀の国に滞在するのは長くても数日。そして、年に数回という短く少ない期間でしかない。そんな側にいてやれない私が、彼の支えになりたいだなんて言えるはずもない。それなのに、諦めが悪い私は手紙のやり取りをすることを彼に提案してしまいました。頻繁なやり取りではないものの、子供のうちは心の声を聞かせてくれたように思います。けれど、“今度はいつ来るの”と、そんなことを言わせてしまった。酷い大人でしょう?自己満足のように彼に手紙を書かせて、そうして成長するにつれてヒサメ様の心の中は見えなくなっていった。」
目を伏せるベルへは手を組んで、祈るような仕草をする。
それはまるで、懺悔のようだ。
「ヒサメ様の運命を変えたあの時、私がもっと気の利いたことが言えれば良かったのでしょうか。側にいれるようにあがいたら良かったのでしょうか。他人である私ができる範疇を越えて、ヒサメ様を親のように抱きしめることが出来れば何かが変わったのでしょうか。ヒサメ様が前王様を手にかけたことを聞いた私は、おこがましくもそんな過去の自分の行動を憂いたのです。私の行動ひとつでヒサメ様の人生が左右されるはずもないと分かっているはずなのに。」
手を組んだ指に力が入って震えている。
ベルへさんはヒサメ様に父親を殺すという行いをして欲しくなかったのだろう。
そんな非情な決断を下す立場にさせたくなかったのだろう。
でも。
「ベルへさんの言う通り、左右されないと思います。」
私の声にベルへは目を開けた。
「ヒサメ様の行動の理由はひとつ、フブキさんのためです。勿論王としての行動は国民のためだとしても、前王を殺すと決めたのはフブキさんのためですよ。その信念が周りからの言葉で変わるとは思えません。あの人の執着心ご存知でしょう?本人は自覚して依存してるとも言ってましたよ。フブキさんが関わっている以上、私たちにできることはヒサメ様の味方でいることだけなのでは?」
そんな私のあっけらかんとした台詞に、ベルへは組んでいた手をほどいた。
「私たち、ってことはリビさんはヒサメ様の味方でいてくれるんですか。」
「え、はい、そうですね。ヒサメ様にはお世話になってますし、頼ってしまう部分もあるので。頼りがいがあるって言って貰えるようにはなりたいですね。」
私が気合を入れるように拳をぎゅっと握って見せれば、ベルへは力の抜けたように笑った。
「私が言うのもおかしな話ですが、ヒサメ様に貴女のような友人がいて良かったです。彼の心は閉じ切っていなかった。私が何かしなくてはと思うのは余計なことだったのかもしれません。」
「それは違うと思います。ベルへさんとヒサメ様、とても仲が良さそうに見えましたよ。それに、笑うときに目を一瞬細めるのとかそっくりです。」
ベルへはそう言われて瞬きする。
「どんなに一緒に居た時間が短くても、ヒサメ様にとってベルへさんは味方だったんですよ。側にいられないことも、すぐには会えないことも、立場が違うことも、種族が違うことも、子供のヒサメ様は分かっていたと思います。貴方は酷い大人だと言ったけど、貴方に会いたいという気持ちを伝えられるほど、甘えても許される存在だと認識していたってことです。そんな貴方の思いが余計なわけないです。」
私は自分の父親のことを思い出していた。
私が幼い頃、仕事で忙しかった父とは平日会うことが出来なかった。
早くに仕事に出かけ、夜遅くに帰宅するので寝ている私としか会うことは出来ない。
だから私はテーブルにいってらっしゃいと書いたメモを置き始めた。
夜にはおかえり、のメモを置いた。
行ってきます、とただいまの文字がとてつもなく嬉しかったのを覚えている。
子供にとってそんなささやかな積み重ねは宝物になるものだって、私は思っている。
ヒサメ様もそうだったらいいと、身勝手にもそう思ってしまっている。
ベルへは目を細めて、そうして笑みを溢す。
「そうだと、嬉しいですね。」
優しそうに頷くベルへはやはり、父親のような存在だったのかもしれない。
そんな勝手な想像をしていると、後頭部にもふっと尻尾が当たった。
私とベルへが振り向くとそこにはヒサメが立っていた。
「申請が終わった。そろそろ夜明けの国を出ようと思うが、問題ないか?」
「あ、はい。そろそろ日が暮れますしね。ベルへさん、色々な話を聞かせて頂きありがとうございました。」
立ってお辞儀をすると、ベルへもお辞儀をした。
「いえ、こちらこそ。私ばかり話してしまってすみません。リビさんが聞きたいことがまだあったかもしれないのに。」
「いえ、たくさん情報を得られたので助かりました。でも、また聞きたいことがあったら来ても大丈夫ですか?」
そんな問いにベルへは穏やかに微笑んだ。
「ええ、勿論です。ヒサメ様もまた、いらしてください。」
「ああ。とはいえ、もうすぐ加護の儀式で会うだろう。その時はよろしく頼む。」
「畏まりました、ヒサメ様。」
ベルへは入口まで見送ってくれて、そうしてヒサメは夜明けの国を出る前に振り返る。
「手紙」
「はい?」
「手紙、待っている。次はキミの番だろ。」
そんなことを言われたベルへは瞬きして、それから目を細めて笑った。
「ええ、送りますよ。楽しみにしていてくださいね、ヒサメ様。」
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