【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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白銀の国3

受け継がれている

そよそよと吹く風でシグレの髪や耳が揺れる。
雪山だからそれなりに寒いな。
「あの、寒いので中に・・・」
「それならカーディガンとホットワインをお持ちしますよ。少し、お待ちください。」
シグレはそう言って中へと戻って行く。

え、私も中に入ればいいのでは?

今日も着ている騎士の制服は確かに温かいけども、じっとしているとやはり寒い。
バルコニーから見える町の明かりを眺めながら、シグレを待っていると後ろから毛布のようなものをかけられた。
「シグレさん、これカーディガンじゃな・・・ヒサメ様?」
振り向くとそこにはヒサメが立っており、ガラスのコップに入ったホットワインを渡される。
「酒、飲めるのか?」
「飲めなくはないですね。あの、交渉は終わったんですか?」
ヒサメは隣に来ると、バルコニーの石の手すりに背を預けた。
「一旦休憩だ。話していると食事もできないだろう。」
ガラスの扉がふいに開いて、シグレが料理の乗った皿をバルコニーのテーブルへと置いた。

「では、ごゆっくり。」

そう言って扉が閉められて、私は頭にはてなを浮かべる。
「ここで食べるんですか?部屋の中じゃなくて?」
「オレがいては皆が休憩を取りずらいと思ってな。和やかに会話をしようと思っても仕事の話になってしまう。このバルコニーの窓は特別でな。ここに人がいても景色しか映さない。だが、外からなら部屋の中を見ることが出来る。」
「ここって、部屋の中の客人を観察するための場所ってことですか?」
「そういう使い方もあるな。誰と誰が手を組んでいて、王族に歯向かおうとする者の顔をよく観察できる。だが、もともとの目的は休憩場所だ。この場所を知るのは王や騎士で、入れるのも限られた者だけだ。この部屋はパーティー会場になることが多く、王族はひっきりなしに声をかけられる。その避難場所として作られた空間というわけだ。」
このバルコニーはそれなりの大きさで、テーブルや椅子も置いてある。
「この城もかなり古い歴史を持つ建造物だからな。あらゆる場所に仕掛けが施してある。このガラス扉もその一種で、ずっと受け継がれていると考えると面白いだろう?昔の王が何を考えながら、部屋の中を見ていたかは分からないが、オレはこの光景が見られて良かったと思う。」

ガラス窓には食事をする皆が見えている。
ビルとコラッロが何かを真剣に話していたり、ザッフィロとトゥアがソラを挟んで語り合ったり。アイルと見習いの子たちが、猟虎族の人たちと楽しそうに会話していたりと様々だ。
いろんな種族が集まったこの光景を、この白銀の国で見られるなんて本当に凄いことなのだろう。

「それでは座ってくれ。この光景を見せてくれたリビ殿と乾杯がしたい。」
「え、いや、皆で成し遂げたことじゃないですか。」
「ああ、勿論誰かが欠けていたら出来なかったことだ。だが、リビ殿。キミがいなければ、泉の谷の者と話すらできなかった。そして、静寂の海の人魚たちに交渉する機会すら与えてもらえなかったことだろう。キミが繋いでくれたんだ、ありがとう。」
差し出されたガラスのコップに控え目に当てると、澄んだ音がする。
ワインを口に含むと、酸味と渋み、ほのかな甘みが口に広がった。
「この城の仕掛け同様、オレの魔法は代々引き継がれている。この白銀の国を守るために、狼獣人しか入ることが出来ないようにする魔法だ。つまり、結界をはり、その結界に条件をつけることが可能なんだ。」
「・・・魔法開示は危険を伴うからしないという話だった、ですよね?」
「オレはリビ殿の魔法を知っている。以前から、鉱石浄化が成功したら話すと決めていたんだ。フェアじゃないからな。」
ヒサメはステーキをナイフで綺麗に切りわけ、その一つを口に入れる。
食べ方が綺麗だな、と感心している場合ではない。
「いや、フェアとか言ってる場合ですか!?しなくていいんですよ、魔法開示なんて!」
「狼獣人以外入れない時点で魔法内容の察しはつくだろう。この魔法は、この国の者なら誰でも知っていることだ。別に秘匿されていることではないから慌てることはない。」
そう言ってもぐもぐと食事をするヒサメは、大して気にしていない様子だ。
「いつか、この魔法がいらなくなることが理想だ。ペンダントなしでも他の種族が入れるそんな国になることがな。」

闇の加護に加えて、代々引き継がれる魔法によってこの国は守られている。
この国の民が安全に暮らしていくために必要なその魔法がいらなくなる日が来るのだろうか。
全部が全部、失くしてしまわなければならないほど悪い物でもないと思う。
きっとそれは、ヒサメも分かっていることだろう。
それでもヒサメは、その魔法をかけなくてもいい日が来ることを望んでいるのだ。

「食べないのか?」
「え、あ、食べます。」
パンに野菜とハムを挟んでかじりつく。
「そういえば、魔法が代々受け継がれているというのはどういう意味ですか?魔法って遺伝するんですか?」
「いや、そうではない。闇の神との交渉により、王族が同じ魔法を受け継ぐようにされたのだ。神の祝福と呼ぶものがいるが、オレは呪いだと考えている。神とは、下界が想像しえないような魔法を使うことが出来る。それが、生まれてくる子供の魔法を統一させるという馬鹿げたような神秘的な魔法だとしてもだ。」
ヒサメはそう言いながら、ワインの器に口付ける。
自分の魔法をあまり気に入っていないのかな。
「私からすれば、魔法そのものが馬鹿げていますけどね。」
「リビ殿の世界では魔法がない、ということか。」
「はい。魔法なんて物語の中だけでしか存在しません。私の世界は科学的なもので構成されていますので、人が氷を出したり、火を出したりすることが未だに不思議です。この世界に来ると、全員魔法が使えるようになるんですかね。」
ヒサメはステーキを食べ終わり、ドーナツを手にしている。
「転移者の仕組みは今のところ不明だが、元々魔法を使える素質があったんじゃないか?」
「どういう意味ですか?元居た場所では魔法はないんですよ?」
「そちらの世界には魔力がないんだろう。だから、体の中に魔力を貯める器があっても、魔力を貯めることができない。こちらの世界は空気中の酸素と同じように魔力があるからこそ、時間経過で回復することが出来るのだ。光の加護の中でオレたちが魔力を失うのは、空気中に自分とは反対の魔力が溢れているせいだ。多い方に吸い寄せられ、体から抜けてしまう。闇の加護も同じ仕組みだ。」
「でも、そうなると私には元々魔力を貯める器、が体の中にあることになりませんか?」

魔力が体力のようなものだとしたら、器は比喩ということにもなるが。

「その可能性もある。どの世界においても、その素質があったとしても、魔力の有無によってその素質が何の意味も持たないということだ。世界一の魔法を使えても、リビ殿の世界では無意味だ。生きる世界を選べればいいがな。」

生きる世界を選ぶ、か。
転移者はどうやって選ばれているのだろうか。
いや、選ぶも何も私たちは住んでいた世界で死ぬことによってこちらに来ている。
だから、選ばれて転移させられているとしたら死を選択させられていることにもなる。

「神は、人を死に誘導することもできるでしょうか。」

光魔法と闇魔法の人間は転移者しかいない。
彼らが転移するためには死ぬ必要がある。
神の誘導によって、私たちは死を選ばされたのだとしたら。

「神自身が人の生死を決めることはないはずだ。神の御慈悲でなさることは全て、この世界が均衡を保つためのものだと考えられている。オレが受け継がれている魔法も、光魔法が授けられる天使の翼も、それがこの世界に必要だと神が判断した結果だ。」

世界の均衡を保つため。
私たちの行動も、世界の均衡を保つために利用されているということだろうか。

「リビ殿は、神によって全ての行動を左右されていると考えているみたいだが。そんなことが神にできるなら、この世界の差別は全て消えると思わないか?戦争だって起こる必要はなかったはずだ。神は、世界の均衡を第一にしているからな。」

「神様全員が、そう望んでいるんですか。」

「下界の均衡が崩れるということは、この世界全てが崩れるということだ。それを望んでいないからこそ、約1000年前神に近しい存在が下界に現れたとされている。神の意思を伝えるためにな。」

この世界の共通認識である神に近しい存在によって、神様がどういうものか定義されている。
それによって神が世界の均衡を保つことを望んでいると認識されている。

「考えれば考えるほどドツボに嵌っていきそうです。知らないことが多すぎます。」
「議題が議題だからな。考えようと思えば無限に可能性は思いつく。リビ殿が一番気になっていることはなんだ?」
「私がこの世界に来た理由です。死んだら全員こちら側にくるなら転移者がたくさんいるはずですから、そうではない。何かの条件が合致することによって転移者はここに来る。それが天罰なのか、誘導なのか、利用されてるのか、それとも私の考えが全部違うのか。いずれにせよ、神様が関わっていると考えているんです。私たちは世界の均衡に関わっているはずなので。」

別の世界からの移動なんて均衡を乱しかねない。
それなのに転移者が来るということは、神様が良しとしているか。
それとも、神すら関与できない理由で転移しているか。

「今レビン殿が神に関する文献を調べてくれているが、それによってリビ殿が知りたいことも見つかるかもしれないな。神のことも悪魔のことも、転移者のことも、なにかしらの繋がりがあるのかもしれない。・・・結局、仕事の話をしてしまったな。」
ヒサメはそう言ってワインを煽った。

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