【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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真実の追究1

殺す選択

「ヒ・・・!?」
私はそれ以上の名前を言うことは出来なかった。
ハルの大きな手に口を塞がれたからだ。
「この話は一旦ここでおしまい。誰が聞いてるか分からないようなこの森で重要な話をする気はないわ。お嬢さんも、あの人の名前を呼ばないで。」
「分かりました。」
私は渋々頷いて、パンを齧った。


ハルは腕を組んで目を閉じている。
それが眠っているのか起きているのかは分からない。
だが、日が昇ったらまた出発だ。
少しでも体を休めておくことは必要だ。
だがこの森が安全とは言えず、隣にいるソラを見る。
「ソラ、眠っていいからね。一番大変なのは飛行しているソラだから。」
「キュ。」
「ソラ、今日は色んな話を聞いて疲れたよね。本当はあまり聞かせたくないこともあったけど、もう隠しておけない状況だったから、ごめんね。」
「キュ。」
ソラは何かを分かっていたかのように頷いて尻尾を枕にして丸くなる。

ドラゴンが狙われていること。
そのドラゴンの血を毒として使っていること。

こんな残酷な話を子供であるソラに伝えたくはなかった。
しかし、狙われている本人が何も知らないままでいられるわけがない。
周りの木が騒がしくなる。
風のせいか、それとも。
私はいつもモンスター相手に使っていた麻痺の薬草を口に入れる。
「相手を殺すことが怖いの?」
その声にハルの方を向いた。
「その薬草は麻痺を与えるためのものでしょう?モンスター相手に使うものとしては、かなり弱いものよね。あなたの魔法が強くなるのに比例して麻痺が強くなるにしても、相手に致命傷を与えることは出来ない。」
当然だ、致命傷を与えるつもりなどないのだから。
「相手を殺すのが怖いのは当然ではないですか。相手が人だろうと、モンスターだろうと、相手の命を奪うことに同じほどの抵抗があります。」

この世界はゲームなんかじゃない。
ファンタジーらしくドラゴンがいて、魔法があったとしても、モンスターを殺すことが怖い。
「ソラを守るなら、誰かを殺す必要があるかもしれないわよ。」
その言葉に、私は何も言えない。
「話合いで解決、なんて甘いこと考えてるわけじゃないわよね?お嬢さんが相手にしようとしている奴らは、今までに何十人、何百人と殺しているはずよ。そして、それに罪悪感を抱くなんてことはない。同じような思考を持っていると思わないで。この世界には必ず、理解できない考えを持っている者がいるの。」

そんなことはどの世界でも同じだ。
現代での快楽殺人。私はそれを理解したくもない。
同じ人間であっても、理解できない事は山ほどあるのだ。

「それでも私は、殺せないです。」

茂みの中から出てきた猪のようなモンスターに麻痺の魔法を当てると、ぎこちない動きでゆっくりと下がっていく。
麻痺だって、コントロール次第では呼吸がしづらくなる。
生き物はそのことに恐怖するらしく、おのずと逃げてくれる。
どうか、逃げて欲しい。
殺さなくて済むように。

私が手を下ろすと、ハルは呆れたように頬杖をついた。
「相手がモンスターだからまだいいけど、それ以外なら魔法同士で戦うことになるじゃない。そうなったら、相手を殺さないようになんて配慮してたら、殺されるわ。」
「魔法・・・そういえば、モンスターは魔法が使えないんですね。」
「は?」
ハルは信じられないものを見たような顔で凝視する。
「今更、何言ってるのよ。魔法が使えないからモンスターなんでしょ。」
「え?」
私がまったく理解していない顔をしたら、ハルははっとしたようにやれやれと首を振る。
「そういえば、転移者だったわね。だからあなたは、子供でも知っているようなことを知らない。そういうものよね。」
ハルは誰かと重ね合わせているかのような発言をした。
おそらくそれは、ヒバリのことだろう。
「この世界に生きる全てのものは魔力を持っている。光と闇の属性に分かれており、それぞれ適正のある加護の中では回復が早まったり、強化される。その逆では、魔力が徐々に失われ、最終的に死に至る。ここまではいいわね。」
「はい。」
「この世界には魔法を使えるものと使えないものがいる。一般的に動物と言われている馬や牛、そして人を襲うモンスターは魔法を使うことが出来ない。」
「動物とモンスターの違いはあるんですか?」
「魔力の器の大きさよ。モンスターは器が大きいことによって、通常の動物よりも強い力を持っている。魔法を使えなくても、その生物の特性を活かした攻撃ができる。よく見かけるのはさっき見たような獣型。そもそも、モンスターは動物の変異によって生まれたとされているの。魔力の器が大きいほど強くなり、そして暴走しやすくなる。そのせいで人を襲うということね。」

モンスターとは動物の変異。
その変異はおそらく、周りにある魔力の影響だろう。
本来の大きさより大きなを器持ったがために、その中の魔力が許容量を超えていて苦しい訳だ。
その上、魔法を使えないから自由自在に魔力を使って減らすことも出来ない。
闇属性のモンスターなら光の加護の中に入れば魔力を減らすことは出来るかもしれないが、本能的に死ぬかもしれない加護の中には入らないだろうな。

「でも、それなら加護を上手く使えばモンスターは暴走せずに済みそうですよね。」

そんなことを言えば、ハルは呆れた顔をした。
「こんなときにモンスターの心配してる場合?」
「いえ、モンスターの心配というか、それによっての被害を減らすことができるのではと思っただけです。結局、モンスターは自分で解放できない魔力のせいで暴走してるわけですし。闇属性なら光の加護、たとえば太陽の国の一部にモンスターを入れる区域を作って、定期的に開放したり入れたりする仕組みがあればいいのでは。」
「簡単なことじゃないわよ、そんなの。」
「ですよね・・・。」

私程度の考えなら、きっと誰しも思いついてるはずだ。
だけどそれを実現させるための金や人が足りないのかもしれない。

「皆誰しも自分のことで精一杯なのよ。お嬢さんだって今まで見てきたでしょう?理不尽な差別も、見て見ぬ振りも、手を差し伸べられない人間も。モンスターの件も一緒よ。結局は殺してしまう方が簡単なの。恐れているモンスターを救いたいなんて思っている人がどれだけいるでしょうね。何も考えず、人を襲うから殺してしまおう。そういう決断になるでしょう?」
「原因がはっきりとしていて、その対処法があるのなら私は、それを選びたいところですが。」
「殺さずに済む方法を?それが出来るならどれほどいいでしょうね。でも、そうするまでにはかなりの時間がかかる。考えなければいけないことが山積みで、ようやく試行できる段階まできたのに、新たな問題が浮上する。最終的に殺しておけばよかったという最悪の結果に終わることすらあり得る。そうなったとき、莫大な金と時間を失った状態で誰が責任を負うかという状況に追い込まれる。」

つらつらと話すハルの言っていることは理解できる。
そして、リスクばかり考えるその思考は私と似ている。
このネガティブな思考が悪いわけではないが、私はこの考え方のせいで動けなくなったことがたくさんある。
死ぬ前の私、そしてこちらの世界に来たばかりの私。
あらゆる状況を想定することは必要だ。
だけど、それが誰かを殺すことになるのなら私は立ち止まって考えたほうがいい。
殺した方が簡単だと、言いたくない。

「あら、納得がいかないって顔ね。でも、それでいいのよ。お嬢さんがそう思うのは、今まで両方の世界で生きてきた証だもの。こちらの世界で生まれていたら、そうはならなかった。変化はもう既に起きている。あなたが起こしている。そうなることをきっと、望んでいる。」

誰が?

そんな問いかけをしようとしたが私は口をつぐんだ。
まずはヒバリさんに会ってからだ。
ハルはきっと、ここで教えてくれるわけがない。
「お嬢さんも寝れるなら寝ときなさいね。周辺に異変を感じたら起こすけど。」
「はい。」
私は頷いて目を閉じた。
森の中で座って眠ることに慣れてしまった。
なんだか自分たち以外に誰かがいるような気配がするけど、警戒しているせいだろうか。
そう思いつつも、眠りに落ちていった。

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