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遠霧山
封印
こちらに歩いてくる一人の狼獣人は黒髪と黒い尻尾を風に靡かせて、太陽の光に照らされたその姿はまるで絵画のように美しかった。
長い睫毛がゆっくりと持ち上がり、その瞳が私を捉えるのが分かった。
口許を緩ませるヒサメのその高尚な笑みに、私は恐怖した。
思わず私はヒバリの後ろに移動しようとしたが時すでに遅し。
音もなく一瞬で目の前にいるヒサメは、殺されそうになった時くらい速かった。
ヒバリもソラも目を丸くして驚いているし、ハルはその速さに蒼褪めている。
アルは驚きのあまり笑うしかないといった表情でヒサメを見上げている。
「おかしいな、リビ殿。キミは白銀の国で療養しているはずなんだが。」
低い声が体に響く。
私が一歩下がると、ヒサメは距離を詰めてくる。怖い。
「シグレさんたちから聞いてると思いますが、太陽の国に加護の儀式の件で呼ばれて、それに加えて闇魔法の人間の悪評が広がってて、その大元であるドクヘビの奴らを捕まえるためにヒバリさんに会いに来ました。」
「ヒバリ・・・?あの植物図鑑のか。」
ヒサメと目が合ったヒバリは柔らかく微笑んだ。
「ほう、やはり見た目が若いな。ヒバリ殿がどのように関与しているかは後で聞こう。リビ殿、怪我の具合は?」
「頭の傷はもう塞がってます。全身の亀裂は相変わらずですが、そこまで痛みはないです。」
するとヒサメが私の手首を掴んで持ち上げる。
「槍で刺された傷は、まだ痛むだろう?」
「気にしなければ、そんなには。それよりヒサメ様、ここに来て良かったんですか?シグレさんたちを置いてきたんですよね?業務に差し障るんじゃ。」
「リビ殿はオレの部下である自覚はあるか?」
声の温度が下がった気がする。
ここで答えを間違えるわけにはいかない。
「ありますよ、勿論。騎士の制服を簡単に脱げると思うなと仰ったこと覚えています。ヒサメ様こそ、国王として騎士の心配を受け入れるんでしたよね?」
「無論だ。ちゃんと覚えているならいい。逃げられないと知っているなら、いい。」
ヒサメはようやく手首を離すと、ヒバリたちにお辞儀をした。
「挨拶が遅れて申し訳ない、白銀の国王ヒサメだ。部下であるリビ殿が聞いたお話、是非オレにもお聞かせ願いたい。」
硝子のドラゴンから聞いた話を要約してヒサメに伝えた。
ソラの母が伝承のブルームーンドラゴンであること。
堕ちた悪魔のこと。
そして堕ちた神、ルールのこと。
そして、これまでヒバリやハルに聞いた話もかいつまんで説明することにした。
「ひとつひとつの情報は理解した。頭は追い付いていないが、それは自身で折り合いをつける。それで、封印についての話を今からするところだったのだろう?聞かせてくれ。」
ヒサメに促された硝子のドラゴンはゆっくりと頷いた。
『堕ちた悪魔は寿命でしか死ぬことは出来ない。ゆえに、奴らの行動を止めるとしたら閉じ込めるしか方法はないのだ。そこで、必要なのはお主の魔法だ、ヒサメ王。』
硝子のドラゴンが首を垂れる。
『白銀に受け継がれるその魔法は、今でこそ自国を守るために使われているようだが本来は違う。一番初め、その魔法を神が授けたのは堕ちた悪魔を封印させるためだったのだ。』
「そのような話は聞いたことがないが、神がわざわざ授けるのだからそれ相応の理由があるとは思っていた。」
『本来の使い道は、堕ちた悪魔に関与すること。神の誓約によって追及されなくなる。戦争が起こってから、その結界魔法は自国を守るために使われるようになった。そうなるのは自然なことだったのだ。』
狼獣人しか入ることができないように条件づけられた結界。
この強力な結界魔法が王族に引き継がれたおかげで、結果として国民は守られていたのだ。
「堕ちた悪魔、つまりドクヘビの奴らを結界で閉じ込めるということだな。しかし、閉じ込めるとなると魔光石が必要になるんじゃないか?」
『そうだな。結界の範囲は広くなくてもいいが、それなりの大きさの魔光石が必要になるだろう。』
そのときソラが手を挙げた。
「キュッキュ。」
『そうだな、神々の頂にある魔光石をそのまま使えばいい。白銀の国のように国全体を囲うのではなく、東西南北に鉱石を配置する。その中に堕ちた悪魔を誘導するのだ。』
「以前の封印は、そのようにしたということですよね?」
私の質問に硝子のドラゴンは少し迷いを見せる。
「前回と今回とで何か違うことがあるんですか?」
『以前、封印された堕ちた悪魔は一人だった。そのまた昔も同じく一人。だが今回はそうではないだろう。』
一人は、人を操る闇魔法を持っている。
一人は、人の記憶から幻覚を見せる魔法を持っている。
黄金の国で商人が二人来たことから、最低でも二人はいるということになる。
『ただでさえ、堕ちた悪魔は強い魔力を持っている。それが二人以上いるとなると封印は困難になるだろう。以前の封印は、結界をはる狼獣人の王と堕ちた悪魔を弱らせるための光魔法の聖女二人で成し遂げた。だが正直この二人は規格外だ。真似できるものではないのだ・・・。』
歯切れの悪い硝子のドラゴンは遠い目をしている。
「詳しく教えて貰えませんか?今回の封印を成功させるためにも成功例を聞いておきたいです。」
私の問いかけに賛同するようにヒバリとヒサメも頷いている。
硝子のドラゴンは羽を折りたたんで丸くなった。
『前回の封印は戦争終了直後。その当時の狼獣人の王は、軍を率いて先頭で戦うようなカリスマ性のある男だった。国民を大切に思い、曲がったことが嫌いな真っすぐな性格。そして勘が鋭い男でな。此度の戦争に悪魔の儀式が絡んでいることを知り、独自に調べたらしい。そして、夜明けの国に乗り込んだ。神と話をさせろとな。』
この世界の者は、誓約に関わる知識は与えられることはないはず。
それでもなお、その誓約に逆らおうとした者がいたということだ。
『その男は調べて何も出てこないことがおかしいと闇の神官に言ったそうだ。そのことに気づけること自体おかしいのだが、彼は結界の魔法を与えられている王族だ。自分の魔法が神によって受け継がれていることに疑問を持った時点で、彼をないがしろにするわけにはいかなかった。何故なら彼の魔法が必要とされる時だったからだ。』
堕ちた悪魔の封印には、白銀の王族が持つ結界の魔法が必要。
それなのに、本来の用途であるその封印に関することは全て神の誓約で知ることが許されない。
神の誓約って一番邪魔なのでは?とも思ったが、神すら守らされているその誓約をどうこうできるはずもない。
『闇の神は、その男の問いに全て答える羽目となった。的を射た質問ばかりで正直恐怖を覚えるほどだった。少ない情報を組み合わせ、可能性を導き出すことが出来るほど頭の回転の速い男だったのだ。そして男は神に言った。”お前らの誓約のせいで遠回りさせられた。俺が神に与えられているこの魔法、意味があるっていうならお前が説明しろ”とな。神は肯定か否定しか示せない。それもそのはず、神の言葉を下界に生きる者は理解できないからだ。だから、ワシは堕ちることにした。』
「堕ちたとして、どうやってその狼獣人に説明したんです?私と同じ特殊言語を持っていた人間がいたということですか?」
『その通り。夜明けの国にいた者が特殊言語を持っていた。彼の翻訳により、狼獣人の男は堕ちた悪魔の存在を知ることとなった。そして全てを知った狼獣人の王は、光の加護を施すことが出来る光魔法を持つ者たちに頼みに行ったのだ。当時、戦争によってそれぞれの国にある教会はほとんど壊されてしまっていた。ゆえに、光魔法を持つ聖女や神官と会うことは容易だったわけだ。だが、協力に応じてくれたのは一人の聖女のみだった。』
悪魔が堕ちて、それを封印するための人材が揃わされる。
結界魔法を持つ狼獣人も、特殊言語を持った者も、光魔法の聖女も必要だったわけだ。
しかし、今回のドクヘビを封印するための人材はなかなか揃わなかった。
だから、何十年ものあいだ野放しになっていたのだ。
「ザラ王は、神の誓約に近づこうとしていたんでしょうか。彼も結界魔法を引き継いでいた一人でしょう?それならば、独自に悪魔の儀式について調べようとしたのも頷ける。でも、彼自身は辿り着くことは出来なかった。」
「親父の考えていたことなど、今となってはもう分かり得ない。人を信じることなど出来ない男だ、たとえ条件が揃っていたとしても親父に何かできたとは思えない。」
ヒサメは冷めた目をしてそう言った。
『そうだな。転移者が身近にいないのにも関わらず、神の誓約に近づけたのはワシを堕とした獣人王のみ。そして、一人で魔法陣を完成させ光の加護を施した聖女の強い祈りによって封印は完成した。』
「話を聞く限り、そこまで規格外というほどでもないような。」
『二人がこの封印に命を捧げたとしてもか?』
私はその言葉に息を飲む。
『堕ちた悪魔一人、それを封印するために聖女と獣人王は命と魔力を削ってようやっと封印できた。正直、危うかったがこの二人は成し遂げたのだ。』
「もっと光魔法の人たちがいれば、二人は死ぬことはなかったのでしょうか。」
『そうとは限らない。たとえ、何人光魔法持ちがいたとしても、堕ちた悪魔の抵抗に耐えられる者は少ないだろう。この二人は、自分の命を賭してでも封印するという覚悟があった。戦争直後、周りの者は自分のことや家族のことを考えることで精一杯だった。大切な人が死に、自分も傷つき、生きる気力さえ持てない中、堕ちた悪魔を封印するという荒唐無稽な話を信じる者はほとんどいなかったのだ。悪魔の儀式をした国でさえ、責任から逃れるために口をつぐみ、沈黙を貫いた。ましてや、それを戦争で恐怖を与えた狼獣人が言っているなど誰が信じてくれる?ただ一人、その聖女だけが獣人王の言葉を信じ、命をかけてくれたのだ。』
「・・・今回の封印でも、ヒサメ様に命をかけろと言うんですか。光魔法の聖女に命を捧げてくれと頼めということですか。」
私は冷静でいなければと思いながらも強い口調になっていた。
そんな私の肩にヒサメの手が触れる。
「リビ殿。」
「私はまだ冷静です。今回堕ちた悪魔は二人以上。光魔法が何人いようと耐えられる者はわずかというのなら、今回は何人の犠牲が必要だというのですか?これからも、堕ちる悪魔は絶対にいる。そいつらのために、これから何人の狼獣人と聖女が命をかけないといけないの?」
冷静だと言ったそばから私は声を荒げていた。
世界の均衡を保つためという名目で与えられた結界の魔法。
その封印をするために、命をかけなければいけないならばそんなものは生贄と一緒だ。
大勢を救うためならば多少の犠牲はやむなしとでも言いたいのか。
ヒサメはそんな私の肩を引き寄せて、顔を真正面から突き合せた。
「落ち着いて、深呼吸。まだ、死ぬと決まっているわけではない。そうだろう、硝子の竜。」
『そうだな。以前とは状況が違う。まずひとつ、戦争はまだ起きていない。次に、ヒサメ王。お主はワシを堕とした獣人王と同等かそれ以上の魔力を持っている。そして、当時より光の加護の精度は上がっている。最後に、リビとやら。お主ならば神と話せるかもしれぬ。』
長い睫毛がゆっくりと持ち上がり、その瞳が私を捉えるのが分かった。
口許を緩ませるヒサメのその高尚な笑みに、私は恐怖した。
思わず私はヒバリの後ろに移動しようとしたが時すでに遅し。
音もなく一瞬で目の前にいるヒサメは、殺されそうになった時くらい速かった。
ヒバリもソラも目を丸くして驚いているし、ハルはその速さに蒼褪めている。
アルは驚きのあまり笑うしかないといった表情でヒサメを見上げている。
「おかしいな、リビ殿。キミは白銀の国で療養しているはずなんだが。」
低い声が体に響く。
私が一歩下がると、ヒサメは距離を詰めてくる。怖い。
「シグレさんたちから聞いてると思いますが、太陽の国に加護の儀式の件で呼ばれて、それに加えて闇魔法の人間の悪評が広がってて、その大元であるドクヘビの奴らを捕まえるためにヒバリさんに会いに来ました。」
「ヒバリ・・・?あの植物図鑑のか。」
ヒサメと目が合ったヒバリは柔らかく微笑んだ。
「ほう、やはり見た目が若いな。ヒバリ殿がどのように関与しているかは後で聞こう。リビ殿、怪我の具合は?」
「頭の傷はもう塞がってます。全身の亀裂は相変わらずですが、そこまで痛みはないです。」
するとヒサメが私の手首を掴んで持ち上げる。
「槍で刺された傷は、まだ痛むだろう?」
「気にしなければ、そんなには。それよりヒサメ様、ここに来て良かったんですか?シグレさんたちを置いてきたんですよね?業務に差し障るんじゃ。」
「リビ殿はオレの部下である自覚はあるか?」
声の温度が下がった気がする。
ここで答えを間違えるわけにはいかない。
「ありますよ、勿論。騎士の制服を簡単に脱げると思うなと仰ったこと覚えています。ヒサメ様こそ、国王として騎士の心配を受け入れるんでしたよね?」
「無論だ。ちゃんと覚えているならいい。逃げられないと知っているなら、いい。」
ヒサメはようやく手首を離すと、ヒバリたちにお辞儀をした。
「挨拶が遅れて申し訳ない、白銀の国王ヒサメだ。部下であるリビ殿が聞いたお話、是非オレにもお聞かせ願いたい。」
硝子のドラゴンから聞いた話を要約してヒサメに伝えた。
ソラの母が伝承のブルームーンドラゴンであること。
堕ちた悪魔のこと。
そして堕ちた神、ルールのこと。
そして、これまでヒバリやハルに聞いた話もかいつまんで説明することにした。
「ひとつひとつの情報は理解した。頭は追い付いていないが、それは自身で折り合いをつける。それで、封印についての話を今からするところだったのだろう?聞かせてくれ。」
ヒサメに促された硝子のドラゴンはゆっくりと頷いた。
『堕ちた悪魔は寿命でしか死ぬことは出来ない。ゆえに、奴らの行動を止めるとしたら閉じ込めるしか方法はないのだ。そこで、必要なのはお主の魔法だ、ヒサメ王。』
硝子のドラゴンが首を垂れる。
『白銀に受け継がれるその魔法は、今でこそ自国を守るために使われているようだが本来は違う。一番初め、その魔法を神が授けたのは堕ちた悪魔を封印させるためだったのだ。』
「そのような話は聞いたことがないが、神がわざわざ授けるのだからそれ相応の理由があるとは思っていた。」
『本来の使い道は、堕ちた悪魔に関与すること。神の誓約によって追及されなくなる。戦争が起こってから、その結界魔法は自国を守るために使われるようになった。そうなるのは自然なことだったのだ。』
狼獣人しか入ることができないように条件づけられた結界。
この強力な結界魔法が王族に引き継がれたおかげで、結果として国民は守られていたのだ。
「堕ちた悪魔、つまりドクヘビの奴らを結界で閉じ込めるということだな。しかし、閉じ込めるとなると魔光石が必要になるんじゃないか?」
『そうだな。結界の範囲は広くなくてもいいが、それなりの大きさの魔光石が必要になるだろう。』
そのときソラが手を挙げた。
「キュッキュ。」
『そうだな、神々の頂にある魔光石をそのまま使えばいい。白銀の国のように国全体を囲うのではなく、東西南北に鉱石を配置する。その中に堕ちた悪魔を誘導するのだ。』
「以前の封印は、そのようにしたということですよね?」
私の質問に硝子のドラゴンは少し迷いを見せる。
「前回と今回とで何か違うことがあるんですか?」
『以前、封印された堕ちた悪魔は一人だった。そのまた昔も同じく一人。だが今回はそうではないだろう。』
一人は、人を操る闇魔法を持っている。
一人は、人の記憶から幻覚を見せる魔法を持っている。
黄金の国で商人が二人来たことから、最低でも二人はいるということになる。
『ただでさえ、堕ちた悪魔は強い魔力を持っている。それが二人以上いるとなると封印は困難になるだろう。以前の封印は、結界をはる狼獣人の王と堕ちた悪魔を弱らせるための光魔法の聖女二人で成し遂げた。だが正直この二人は規格外だ。真似できるものではないのだ・・・。』
歯切れの悪い硝子のドラゴンは遠い目をしている。
「詳しく教えて貰えませんか?今回の封印を成功させるためにも成功例を聞いておきたいです。」
私の問いかけに賛同するようにヒバリとヒサメも頷いている。
硝子のドラゴンは羽を折りたたんで丸くなった。
『前回の封印は戦争終了直後。その当時の狼獣人の王は、軍を率いて先頭で戦うようなカリスマ性のある男だった。国民を大切に思い、曲がったことが嫌いな真っすぐな性格。そして勘が鋭い男でな。此度の戦争に悪魔の儀式が絡んでいることを知り、独自に調べたらしい。そして、夜明けの国に乗り込んだ。神と話をさせろとな。』
この世界の者は、誓約に関わる知識は与えられることはないはず。
それでもなお、その誓約に逆らおうとした者がいたということだ。
『その男は調べて何も出てこないことがおかしいと闇の神官に言ったそうだ。そのことに気づけること自体おかしいのだが、彼は結界の魔法を与えられている王族だ。自分の魔法が神によって受け継がれていることに疑問を持った時点で、彼をないがしろにするわけにはいかなかった。何故なら彼の魔法が必要とされる時だったからだ。』
堕ちた悪魔の封印には、白銀の王族が持つ結界の魔法が必要。
それなのに、本来の用途であるその封印に関することは全て神の誓約で知ることが許されない。
神の誓約って一番邪魔なのでは?とも思ったが、神すら守らされているその誓約をどうこうできるはずもない。
『闇の神は、その男の問いに全て答える羽目となった。的を射た質問ばかりで正直恐怖を覚えるほどだった。少ない情報を組み合わせ、可能性を導き出すことが出来るほど頭の回転の速い男だったのだ。そして男は神に言った。”お前らの誓約のせいで遠回りさせられた。俺が神に与えられているこの魔法、意味があるっていうならお前が説明しろ”とな。神は肯定か否定しか示せない。それもそのはず、神の言葉を下界に生きる者は理解できないからだ。だから、ワシは堕ちることにした。』
「堕ちたとして、どうやってその狼獣人に説明したんです?私と同じ特殊言語を持っていた人間がいたということですか?」
『その通り。夜明けの国にいた者が特殊言語を持っていた。彼の翻訳により、狼獣人の男は堕ちた悪魔の存在を知ることとなった。そして全てを知った狼獣人の王は、光の加護を施すことが出来る光魔法を持つ者たちに頼みに行ったのだ。当時、戦争によってそれぞれの国にある教会はほとんど壊されてしまっていた。ゆえに、光魔法を持つ聖女や神官と会うことは容易だったわけだ。だが、協力に応じてくれたのは一人の聖女のみだった。』
悪魔が堕ちて、それを封印するための人材が揃わされる。
結界魔法を持つ狼獣人も、特殊言語を持った者も、光魔法の聖女も必要だったわけだ。
しかし、今回のドクヘビを封印するための人材はなかなか揃わなかった。
だから、何十年ものあいだ野放しになっていたのだ。
「ザラ王は、神の誓約に近づこうとしていたんでしょうか。彼も結界魔法を引き継いでいた一人でしょう?それならば、独自に悪魔の儀式について調べようとしたのも頷ける。でも、彼自身は辿り着くことは出来なかった。」
「親父の考えていたことなど、今となってはもう分かり得ない。人を信じることなど出来ない男だ、たとえ条件が揃っていたとしても親父に何かできたとは思えない。」
ヒサメは冷めた目をしてそう言った。
『そうだな。転移者が身近にいないのにも関わらず、神の誓約に近づけたのはワシを堕とした獣人王のみ。そして、一人で魔法陣を完成させ光の加護を施した聖女の強い祈りによって封印は完成した。』
「話を聞く限り、そこまで規格外というほどでもないような。」
『二人がこの封印に命を捧げたとしてもか?』
私はその言葉に息を飲む。
『堕ちた悪魔一人、それを封印するために聖女と獣人王は命と魔力を削ってようやっと封印できた。正直、危うかったがこの二人は成し遂げたのだ。』
「もっと光魔法の人たちがいれば、二人は死ぬことはなかったのでしょうか。」
『そうとは限らない。たとえ、何人光魔法持ちがいたとしても、堕ちた悪魔の抵抗に耐えられる者は少ないだろう。この二人は、自分の命を賭してでも封印するという覚悟があった。戦争直後、周りの者は自分のことや家族のことを考えることで精一杯だった。大切な人が死に、自分も傷つき、生きる気力さえ持てない中、堕ちた悪魔を封印するという荒唐無稽な話を信じる者はほとんどいなかったのだ。悪魔の儀式をした国でさえ、責任から逃れるために口をつぐみ、沈黙を貫いた。ましてや、それを戦争で恐怖を与えた狼獣人が言っているなど誰が信じてくれる?ただ一人、その聖女だけが獣人王の言葉を信じ、命をかけてくれたのだ。』
「・・・今回の封印でも、ヒサメ様に命をかけろと言うんですか。光魔法の聖女に命を捧げてくれと頼めということですか。」
私は冷静でいなければと思いながらも強い口調になっていた。
そんな私の肩にヒサメの手が触れる。
「リビ殿。」
「私はまだ冷静です。今回堕ちた悪魔は二人以上。光魔法が何人いようと耐えられる者はわずかというのなら、今回は何人の犠牲が必要だというのですか?これからも、堕ちる悪魔は絶対にいる。そいつらのために、これから何人の狼獣人と聖女が命をかけないといけないの?」
冷静だと言ったそばから私は声を荒げていた。
世界の均衡を保つためという名目で与えられた結界の魔法。
その封印をするために、命をかけなければいけないならばそんなものは生贄と一緒だ。
大勢を救うためならば多少の犠牲はやむなしとでも言いたいのか。
ヒサメはそんな私の肩を引き寄せて、顔を真正面から突き合せた。
「落ち着いて、深呼吸。まだ、死ぬと決まっているわけではない。そうだろう、硝子の竜。」
『そうだな。以前とは状況が違う。まずひとつ、戦争はまだ起きていない。次に、ヒサメ王。お主はワシを堕とした獣人王と同等かそれ以上の魔力を持っている。そして、当時より光の加護の精度は上がっている。最後に、リビとやら。お主ならば神と話せるかもしれぬ。』
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