【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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神々の頂

隻眼のドラゴン

深い霧の中を進みながら次第に足がもつれる。
足元に雪が積もり始めたせいだ。
風が強くなり始め、山頂に登るのを阻まれているような気がする。
「ソラ、大丈夫?」
「キュ!」
ソラは思いのほか元気そうで、やはり寒さには強いようだ。
ソラは私の先を進んで風よけをしてくれている。
「ありがとう、ソラ。」
白銀の騎士の制服の防寒とソラに助けられながら、山を登ること数時間。
登山に慣れていない人は、本当に登山について勉強したほうがいい。
この神々の頂の標高は分からないが、それなりの高さがあることは明らかだ。
富士山で高山病になって下山したという例を聞いたことがある。
それを考えると、この山でもそれは起こりうるだろう。
高山病になれば、めまいや吐き気頭痛に襲われて、最悪死に至る。
この山は未知の植物による毒も問題だが、この雪と標高も厄介だ。
白銀の国の気圧に慣れていたことが多少幸いだったが、それでもきつくなってきた。
一体、ブルームーンドラゴンはどこにいるのだろうか。
他の魔獣たちは、無事なのだろうか。
そして、堕ちた悪魔はどこにいるのか。
吐き気止めの薬草、鎮静の効果のある薬草を口に入れつつ少しずつ山を上がっていくがその歩みは遅くなっていく。
顔面に冷たい風と雪当たり続け、定まらない視界がぐらりと揺れる。
「キュキュ!?」
ソラの慌てるような声が聞こえて、私は転んだことに気づく。
仰向けに寝転がり、そうして空を見上げるが木々と吹雪で何も見えない。
「ソラ、少し、休憩していい?」
「キュキュウ!」
ソラは寝ないで、と体を揺すってくる。
雪山とかで眠たくなるのはなんでだったっけ。
そんな暢気なことを考えていると、大きな影が見えた。
私の顔を覗き込むその片眼には大きな傷が入っている。
「キュキュ!?」
『耳元で大声出すんじゃねぇ。また悪魔かと思いきや今度は人間か。』
鋭い爪がついた大きな手に胴体を鷲摑みされて、私はさすがに慌てた。
「ま、待ってください、私たち、怪しい者では・・・!」
『暴れんな人間。握りつぶされてぇのか。』
あまりに迫力のあるバリトンボイスに、久々に体が縮こまった。
そんな得体の知れない存在に体を掴まれたまま、私は身動きも取れずまな板の上の鯉状態だ。
『ついてきな、チビすけ。』
おそらくソラに言ったであろうその言葉で、どれだけ大きいのだろうかと私は見上げる。
そうして顔と体がなんとなく見えてきてようやく、それがブルームーンドラゴンだと気付いたのだった。



連れてこられた場所は、より一層吹雪が酷い標高の高い場所。
そうして氷で作られた洞窟の中だった。
大きな手からようやく解放されて、ソラが抱き着いてきた。
「キュキュキュ!」
「大丈夫、潰れてないよ。」
ソラを撫でていると、目の前の大きなブルームーンドラゴンがため息をつく。
『人聞きが悪いな、力加減くらいできる。まぁ、小枝程しかないお前なら折るのも容易いが。』
「キュキュキュ!!」
全力で首を横に振るソラを見て、目の前のドラゴンは大笑いした。
『まだまだ子供だな、チビすけ。母親にでも会いにきたのか?』
私は体を起こして、そのドラゴンの目つきの悪い顔を見つめた。
「母親をご存知なんですか。」
『ご存知も何も、そいつの母親はこの山の長だ。ここを住処にしてる奴なら全員知ってる。』
「どこにいますか?知っているなら教えてください。」
『チビすけが会いに行くって言うなら止めないぜ。ただし、人間。お前には会わせられない。』
空気がぴりついた。
ドラゴンの顔が怖いので余計に恐怖感が増す。
ソラは成長しても可愛いままだよね、怖い顔にならないよね?
そんなことを心の中で考えないと余裕がなくなりそうなくらい怖い。
「ソラの母親が生みの親であれば、私は育ての親と言っても過言じゃないです。ご挨拶くらい罰は当たらないでしょ?それとも、私が危険人物に見えるってことですか!?」
こんな恐怖の中、こんな反論ができるなんて私は本当に成長した。
そんな自画自賛にドラゴンは呆れたような目を向けた。
『別に害を成すなんて思ってねぇよ。チビすけの様子見てたら分かる。そうじゃなくて、今ソラの母親は治療中だ。チビすけを逃がした後、堕ちた悪魔共からこの山を守るために戦った。その戦闘で負った傷が今もなお体を蝕み続けている。だがもう、おそらく長くない。』
まだ生きている、それが分かっただけでも大きなことだ。
「それなら、それこそ会いに行かないと。私に会わせたくない理由は何ですか?納得できるものであれば、ソラだけでも会わせてあげてください。」
私がそう言うと、ドラゴンはその青い瞳を向けた。
『ただ会いに来るだけならチビすけだけでいいはずだ。だが人間。お前はなんのためにこの山に来た?』
「ブルームーンドラゴンの保護、それから協力の要請です。各地で暴れている魔獣の鎮静化のために強い魔法を持つ貴方たちに手助けしてもらいたい。そして堕ちた悪魔たちを封印するためにソラの母親の存在が必要です。悪魔たちを弱らせるためには、光の加護の儀式の場に強いブルームーンドラゴンが必要で・・・」
『保護だと、笑わせる。』
ドラゴンは鼻で笑い、羽を少し動かした。
その羽が動いたことで突風が起こる。
『暴走する魔獣で手を焼いている人間が、どうやってブルームーンドラゴンを保護するというのだ?ここはこの世界で最も安全な場所だ。植物の影響、気温や天候、気圧と酸素濃度。全てにおいてごく少数の生物しか生存できない環境にある。』
「でも、堕ちた悪魔にその環境は関係ないでしょ。だからこそ、貴方たちは何頭も殺されたんじゃないんですか?そして、ソラの母親は致命傷になるような傷を負わされてるんじゃないんですか?」
『そうだとして、結局保護などと言いながら俺たちの魔法を利用したいという意味だろう。ここから連れ出すということはリスクが増えるだけだ。こんなに巨大なドラゴンはそういない。格好の的として狙いやすいだろうな。むしろ、そこが狙いだったりするのか?』
「ええ、その通りです。」
私がはっきりと肯定を示せば、呆れたように見下ろされた。
『やはり、さきほど握り潰せばよかったな。』
「私を殺せば、闇の神の呪いで死にますよ。」
『なに?』

フェニックスに聞いた神の呪いの話が本当か嘘か、この際どうでもいい。
使える情報は全て使おう。

「私は闇の神の愛し子、お気に入りです。そして、その神が地上に授けた魔法を2つも持っています。一つは、こうしてドラゴンの貴方ともスムーズに会話できる特殊言語。」
そういえば、というような顔をドラゴンはする。
「そしてもう一つは、体内に入れた物の効果を相手に付与できる魔法です。だから私は、この山の植物の毒は効かないし、ルリビの効果も付与できる。いいですか、暴走する魔獣に手を焼いているのはできるだけ殺したくないという縛りがあるせいです。それがないのなら、全て殺してしまえばいい。それだけの話です。」
『脅してるつもりか?ブルームーンドラゴンにルリビの毒は効かない。チビすけを連れているお前なら知っているはずだ。』
「脅しではなく、選択肢の話です。私の中に今あるカードは2枚。貴方たちドラゴンの凍らせる魔法で魔獣の動きを止めてから、救えるか否か考える策と、私がこの世界で暴走する魔獣を皆殺しにする策です。」

私の言葉にブルームーンドラゴンは瞳が揺れた。

『闇の神のお気に入りっていうのは、随分と冷酷なんだな。これなら、どっちが堕ちた悪魔か分かりやしない。』
「どっちがだなんて聞き捨てなりません。堕ちた悪魔が今までどれだけの者を殺していると思っているんですか。そして、貴方たちのようなドラゴンもたくさん殺されたはずでしょう?そんな奴らと比較されるいわれは・・・」
『今、長を治療してるのは、その堕ちた悪魔だ。』

その言葉でようやく合点がいった。
フェニックスが言っていたこの山にいる堕ちた悪魔は、ドクヘビじゃない。

「彼は、治療をずっと続けているんですか?」
『もう、1年以上は経過している。命が途切れないだけで精一杯みたいだがな。・・・まさか、お前知り合いか?』
「私の考えが正しければ知っている人ですね。一方的に知っているだけですが。私は彼に会わないといけない。だから、ソラの母親のところに行かせてください。」
私がそう言って立ち上がれば、ドラゴンは諦めたように背を向けた。
『止めても行く人間なんだろうな、お前は。どうせチビすけの育ての親を殺す訳にもいかねぇし、闇の神を後ろ盾にした人間に何を言おうが無駄だろう。さっさと乗れ。』


ブルームーンドラゴンは私とソラを乗せて低空飛行で移動し始めた。
ソラをも乗せられるなんて、大人の猫又以来だな。
ソラはもふもふの背中にしがみつきながら少し楽しそうだ。
私はというと振り落とされないように必死だ。
「私をソラの母親と会わせたくなかったのは、治療しているのが堕ちた悪魔だったからですか?」
何気なく問いかければ、ドラゴンは振り向くことなく答える。
『堕ちた悪魔がブルームーンドラゴンを狙っていることは、そのチビすけを連れていたら知っているだろうと思った。だから、堕ちた悪魔は全般憎い可能性があるだろう。治療中だというのに邪魔されるのは困ると考えた。』
「なるほど。事前情報がなければ、奴らと同じ堕ちた悪魔だと思ったかもしれません。」
ヴィントから聞いた情報、そしてヒバリとハルとアルから聞いた情報。
これらがあったことによって、私は堕ちた悪魔がすべて悪いわけではないことを知れたのだ。

吹雪の中を飛び抜けて、大きな木が見えた。
その大樹の根元に横たわるとても大きなブルームーンドラゴン。
その空間に雪はひとつもなく、青々とした植物が生え、湖もあった。
そこだけ切り取られたように違う空間にも思えた。
そうしてそのブルームーンドラゴンの傍らに一人の青年が立っていた。
痩せこけた頬と目の下に真っ黒な隈、それからすり切れた手。
そうして、なにより驚いたのはその青年の頭が白髪だったことだ。
ゆっくりと振り向いたその青年は生気の薄い瞳で私たちを見た。

「誰だあんた。」

抑揚のないその声が聞こえた次の瞬間、目の前に顔があった。

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