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神々の頂
悪魔との交渉
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ドウシュが腕に傷をつけ魔法陣の上に血を一滴垂らす。
すると魔法陣が赤く染まっていき、全ての文字が染められた瞬間、魔法陣の範囲に黒い影が落ちる。
その空間だけが切り取られたように真っ黒で、光が差すかのように黒が差している。
その黒い空間に一人現れたその男はこちらを覗き込むようにして顔を近づけた。
顔は強面、言うなれば反社の上の方にいる人と言われるとしっくりくる。
見た目年齢からして若頭と呼ばれていそうだ。
黒髪長髪をオールバックにしていて、冷たい瞳が少しだけヒサメを思い出す。
「ドウシュちゃん久しぶりじゃない?元気してた?ドウシュちゃんが堕ちてから何十年経過したっけ?」
その怖い見た目とは裏腹に口調と声のトーンは明るくて余計に怖い。
見た目で判断してはいけないとは言うものの、借金のかたに内臓の売買を提案されそう。
ドウシュは平然としながらその男に話しかける。
「70年以上は経っているだろうな。堕ちた僕たちは病気もしないし、元気といえば元気だ。」
「相変わらずで安心したよ。ところで連絡くれるなんて初めてだね、俺とお喋りしたくなっちゃった?下界に堕ちて寂しくなっちゃったのかな?」
「いや違う。」
「あははっ、そこは即答しないでよ。変わらず俺に興味がないなぁ。」
豪快に笑っているのにどこか冷めている、そんな気がする。
そんな男は視線を滑らせて、ドウシュの隣にいた私を見た。
「それでドウシュちゃん、そろそろ紹介してよ。そこにいる傷だらけのお嬢ちゃんをさ。」
冷たい瞳が全身を下から上に眺めていく。
思わず後ずさってしまいそうなのを必死に我慢する。
「彼女はリビだ。シュマたちを封印するために動いている。できるだけ多くの情報を手に入れるために悪魔とも話したいそうだ。」
ドウシュがそう説明すると、男はさらに大きな声で笑った。
「あははははっ、悪魔と話したい?随分とイカれたお嬢ちゃんだ。悪魔の儀式がどんなものか知らないのか?楽しくお喋りする道具なんかじゃないんだ。汚い欲のために魔力を差し出させ、負の魔力を高めるために人を殺せと唆し、絶望を与えろと囁く。儀式をしたが最後、悪魔の言葉には逆らえず従うままに人生は破滅の一途を辿る。俺はおすすめしないね、そんな生き方。」
「案外、丁寧な事前説明をしてくれるんですね。」
私がそんなことを言えば、男は目を細めてにこりと笑う。
「俺ぐらいだよ、こんな忠告してくれる悪魔なんて。他の連中は飢えを凌ぐために必死だからね。さっさと魔力を食べたくて仕方がない。どんな手を使ってでも魔力を差し出させる。家族や友人を殺させて負の魔力を高めて回収しようとする。まぁ、抵抗感が強いほど失敗しちゃうからはじめは小さなことからやらせるのが常套手段だけどね。」
「あなたもそうすることで、長い間悪魔として存在しているということですね。」
私が息を飲むとドウシュがそれを否定した。
「いや違う。この悪魔は、変わり者だと言っただろう。飢餓の苦しみを耐え抜いているおかしな奴だ。」
「ちょっとドウシュちゃん、その説明はひどいな。俺は飢えに慣れてるから、必死に魔力を回収する悪魔の気持ちが分からないだけ。人間との交渉も面倒だしさ。下剋上したいとか、権力者になりたいとか、力が欲しいとか。人間の欲に興味がわかないんだよね。退屈で死にそうだよ。」
「そう言いながら、もう1000年くらいは悪魔なんだろう?」
「数えてないから知らない。でも、リビちゃんはお喋りしたいんだっけ?ここで長く悪魔やってると確かに色んな情報は持ってるかもしれないね。ということは、悪魔の俺と話したいっていうのは理にかなってるわけだ。ああ、大丈夫。それでもリビちゃんはしっかりイカれてるよ。」
大丈夫な要素はどこにあるんだ。
そう思いつつも、私は話を続けた。
「悪魔のあなたが知っていることを教えてください。シュマたちが戦争を起こした場合の利点など悪魔的観点から何か分かることはありませんか?」
「当然、このお喋りもタダというわけにはいかないよ。リビちゃんは何を差し出せるのかな?」
「私の魔力はそれなりに負を纏っていると思いますが。」
人を殺し、魔獣を殺し、そうしてその覚悟がなければ堕ちた悪魔を封印できない。
負の感情が常に自分の中にあると言っていい。
「うん、確かにリビちゃんはたくさん負の魔力をくれそうだ。でも、俺はそんなものに興味はない。退屈で死にそうな俺を楽しませてくれるようなそんな話を聞かせてくれよ。」
「話、ですか?」
「そう、今回リビちゃんは悪魔とのお喋りを要求した。俺は楽しいお喋りのついでに重要な情報を話すかもしれない。退屈な話なら、俺も大したことないつまらない嘘を話すだろうね。」
それはつまり、私の話術次第で内容が変わるということだ。
とてつもなくハードルが上がったと同時、それが嘘か真か判断する術がこちらにはない。
「あなたの話を真実だと見極められないのは困るんですが。」
「あはは、面白いこと言うね。悪魔の話が本当かどうかなんて考えるんだ?」
「・・・そもそも、面白いの定義なんてあなた次第じゃないですか。つまり、面白くても退屈だと嘘をつくこともできるじゃないですか。」
「あ、気付いちゃった?良かった、そうやって悪魔に騙される人間はたくさんいるんだよね。今回の対価はただの話だったけど、普段ならこれが魔力なんだ。リビちゃんは気を付けようね?」
冷たく微笑むその男の顔面に拳を叩きつけたくなった。
「殴っていいですか?」
思わず口に出ていた。
「魔法陣で繋がった悪魔に物理攻撃はできないぞ。」
ドウシュに冷静に言われて、私はやるせない気持ちで拳を震わせる。
「分かってます!」
ドウシュと私のやりとりを見ていた男は、腹を抱えて笑っている。
「ドウシュちゃんとリビちゃんは面白いね。二人を見てると退屈が和らぐよ。このまま3人で楽しいお喋りしない?」
「そんな時間はありません。私はこれから魔獣の暴走を止め、シュマたちを封印しなければならないんですから。」
そう言ってのけると男は悪魔らしい囁きをした。
「じゃあ、俺と契約する?」
悪魔と契約なんて怪しいことこの上ない。
「契約者に嘘はつけない。聞かれたことに何でも答えるよ。定期的に魔力をよこせなんて言わないし、唆したり騙すこともできない。1000年以上存在する悪魔は結構希少だし、優良悪魔だと思うよ。」
「それが嘘かもしれないじゃないですか。」
「学習していて偉いね。でも、これはドウシュちゃんも知ってるよね?」
男の言葉にドウシュは頷く。
「契約とはそういうものだからな。契約主に嘘をつけない、危害を加えられない、騙すことも唆すこともできない。従魔契約に近いものだ。ただひとつ大きく違うとすれば契約主が死ねば悪魔はその魂を貰える。」
ドウシュの話を聞きながら、私は大して驚かなかった。
なんだか聞いたことがあるような話だからだ。
意外性はないが、使い道が分からない。
「魂って何に使うんですか?負の魔力が糧だから、食べないですよね?」
「この世界に生きるものは皆、魂がある。悪魔と神を除いてな。魂を持ってると転生することができるが、悪魔は魂を持たないため消滅するしかない。だから俺は転生するために魂が欲しいわけだ。」
「転生したいんですか?なんのために?」
私の問いかけに男は少し黙って、それから口を開く。
「生まれ変わったら結婚しよう、って約束した人がいたんだよ。だから、生まれ変わるためには魂が必要だ。」
「嘘っぽいですね。というか、あなたは人間のときの記憶があるんですか?」
「あるよ。悪魔の契約は人間の記憶がある奴しか適用されない。だって、記憶がないやつは転生したいなんて思えないからな。だからドウシュちゃんも悪魔のままだったら人間と契約して転生できたのにな。」
そう言われたドウシュは、少しだけ悲しそうな顔をしたように見えた。
生まれ変わったら、だなんて夢物語にもほどがある愛のセリフだが、それが本当の意味を持つことがあるんだな。
私は生まれ変わろうなんて思ったことがないから、魂が欲しいなんて言われてもピンとこない。
正直なところ、一度死んでいるのに死後の世界なんてないと思っている派だ。
死んだ後に魂を渡すことにデメリットが浮かばない。
「魂をあげたら私は転生できないってことですね。それ以外に私に不利益がないなら契約します。」
「きみ、正気か?」
ドウシュの引き気味な台詞に頷く。
「たとえ生まれ変わったとして、それは私ではないでしょ。記憶が維持できるわけでもなし、見た目も性格も何もかも違う別人になる。つまり、自分が転生したかも分からないのに転生したいという願望はないです。」
さらりと言えば、ドウシュは頭を抱え、男は複雑そうな顔をする。
「あのなリビちゃん。魂は何もかも刻まれてる。生き方のすべて、愛や想い。だから魂は惹かれ合い、前世での約束を果たすことができる。リビちゃんの前世もそうやって引き継がれてるはずだ。」
「それって、死ぬまで独身だったら惹かれ合う魂がいないってことですか。」
「いや、タイミングの問題もあるだろ。惹かれ合うはずの魂の時期がずれることもあるし。とにかく、転生さえできればいつか、会いたい魂に会えるんだよ。リビちゃんはそれを放棄してもいいのか?」
「事前説明しないと気が済まない人なんですね。そんなことしてるから、今まで魂もらえなかったんですか?」
そんな言葉に男は黙ってしまった。
どうやら、攻撃力の高い言葉を投げつけてしまったようだ。
ドウシュに助けを求めれば、僕に聞くなという顔をされてしまった。
「えっと、契約しましょう。生まれ変わって会いたい魂とかいないので。」
「そんな人間、いるわけない。誰しもみな、大事な人にもう一度会いたいと思うものだよ。」
「その会いたい気持ちが強いから、悪魔になって魂がなくなってもチャンスが巡ってきたんじゃないですか?記憶が維持できている悪魔は稀でしょ。他の悪魔にはできない契約というやり方で魂が貰えるならやらない手はない。葛藤や迷いを捨てて、チャンスを掴むべきでは?」
「・・・悪魔の囁きをされるとは思ってなかったな。」
男は一瞬戸惑いを見せてから、悪魔らしい表情をしてみせた。
今更そんな顔をしても、人柄の良さが滲み出ているのはバレているのに。
すると、男は手を差し出した。
「俺の名はアシャレラ。この手の上にリビちゃんの血をくれる?」
短剣で浅く切り血を垂らせば、アシャレラの首に黒い模様が現れた。
「これから先、俺は嘘偽りなくリビちゃんに答えるよ。俺の知識も考えもできうる限りリビちゃんのために使う。これから俺はどんな人間とも交渉できないし、魔力を受け取ることも出来ない。」
「え、そうなんですか?」
「元々、人間との交渉はやってないから言わなかったの。はい、続けるよ。リビちゃんを騙し唆すことも、傷つけることも、脅かすこともしないと契約に誓おう。その代わり、リビちゃんは死んだら俺にその魂を・・・。」
アシャレラの口上が止まる。
私とドウシュは首を傾げて、問いかける。
「どうしました?」
「あのさ、魂がないんだけど・・・。」
「はい??」
「だから、リビちゃんの魂がリビちゃんの中にないんだけど!?!」
すると魔法陣が赤く染まっていき、全ての文字が染められた瞬間、魔法陣の範囲に黒い影が落ちる。
その空間だけが切り取られたように真っ黒で、光が差すかのように黒が差している。
その黒い空間に一人現れたその男はこちらを覗き込むようにして顔を近づけた。
顔は強面、言うなれば反社の上の方にいる人と言われるとしっくりくる。
見た目年齢からして若頭と呼ばれていそうだ。
黒髪長髪をオールバックにしていて、冷たい瞳が少しだけヒサメを思い出す。
「ドウシュちゃん久しぶりじゃない?元気してた?ドウシュちゃんが堕ちてから何十年経過したっけ?」
その怖い見た目とは裏腹に口調と声のトーンは明るくて余計に怖い。
見た目で判断してはいけないとは言うものの、借金のかたに内臓の売買を提案されそう。
ドウシュは平然としながらその男に話しかける。
「70年以上は経っているだろうな。堕ちた僕たちは病気もしないし、元気といえば元気だ。」
「相変わらずで安心したよ。ところで連絡くれるなんて初めてだね、俺とお喋りしたくなっちゃった?下界に堕ちて寂しくなっちゃったのかな?」
「いや違う。」
「あははっ、そこは即答しないでよ。変わらず俺に興味がないなぁ。」
豪快に笑っているのにどこか冷めている、そんな気がする。
そんな男は視線を滑らせて、ドウシュの隣にいた私を見た。
「それでドウシュちゃん、そろそろ紹介してよ。そこにいる傷だらけのお嬢ちゃんをさ。」
冷たい瞳が全身を下から上に眺めていく。
思わず後ずさってしまいそうなのを必死に我慢する。
「彼女はリビだ。シュマたちを封印するために動いている。できるだけ多くの情報を手に入れるために悪魔とも話したいそうだ。」
ドウシュがそう説明すると、男はさらに大きな声で笑った。
「あははははっ、悪魔と話したい?随分とイカれたお嬢ちゃんだ。悪魔の儀式がどんなものか知らないのか?楽しくお喋りする道具なんかじゃないんだ。汚い欲のために魔力を差し出させ、負の魔力を高めるために人を殺せと唆し、絶望を与えろと囁く。儀式をしたが最後、悪魔の言葉には逆らえず従うままに人生は破滅の一途を辿る。俺はおすすめしないね、そんな生き方。」
「案外、丁寧な事前説明をしてくれるんですね。」
私がそんなことを言えば、男は目を細めてにこりと笑う。
「俺ぐらいだよ、こんな忠告してくれる悪魔なんて。他の連中は飢えを凌ぐために必死だからね。さっさと魔力を食べたくて仕方がない。どんな手を使ってでも魔力を差し出させる。家族や友人を殺させて負の魔力を高めて回収しようとする。まぁ、抵抗感が強いほど失敗しちゃうからはじめは小さなことからやらせるのが常套手段だけどね。」
「あなたもそうすることで、長い間悪魔として存在しているということですね。」
私が息を飲むとドウシュがそれを否定した。
「いや違う。この悪魔は、変わり者だと言っただろう。飢餓の苦しみを耐え抜いているおかしな奴だ。」
「ちょっとドウシュちゃん、その説明はひどいな。俺は飢えに慣れてるから、必死に魔力を回収する悪魔の気持ちが分からないだけ。人間との交渉も面倒だしさ。下剋上したいとか、権力者になりたいとか、力が欲しいとか。人間の欲に興味がわかないんだよね。退屈で死にそうだよ。」
「そう言いながら、もう1000年くらいは悪魔なんだろう?」
「数えてないから知らない。でも、リビちゃんはお喋りしたいんだっけ?ここで長く悪魔やってると確かに色んな情報は持ってるかもしれないね。ということは、悪魔の俺と話したいっていうのは理にかなってるわけだ。ああ、大丈夫。それでもリビちゃんはしっかりイカれてるよ。」
大丈夫な要素はどこにあるんだ。
そう思いつつも、私は話を続けた。
「悪魔のあなたが知っていることを教えてください。シュマたちが戦争を起こした場合の利点など悪魔的観点から何か分かることはありませんか?」
「当然、このお喋りもタダというわけにはいかないよ。リビちゃんは何を差し出せるのかな?」
「私の魔力はそれなりに負を纏っていると思いますが。」
人を殺し、魔獣を殺し、そうしてその覚悟がなければ堕ちた悪魔を封印できない。
負の感情が常に自分の中にあると言っていい。
「うん、確かにリビちゃんはたくさん負の魔力をくれそうだ。でも、俺はそんなものに興味はない。退屈で死にそうな俺を楽しませてくれるようなそんな話を聞かせてくれよ。」
「話、ですか?」
「そう、今回リビちゃんは悪魔とのお喋りを要求した。俺は楽しいお喋りのついでに重要な情報を話すかもしれない。退屈な話なら、俺も大したことないつまらない嘘を話すだろうね。」
それはつまり、私の話術次第で内容が変わるということだ。
とてつもなくハードルが上がったと同時、それが嘘か真か判断する術がこちらにはない。
「あなたの話を真実だと見極められないのは困るんですが。」
「あはは、面白いこと言うね。悪魔の話が本当かどうかなんて考えるんだ?」
「・・・そもそも、面白いの定義なんてあなた次第じゃないですか。つまり、面白くても退屈だと嘘をつくこともできるじゃないですか。」
「あ、気付いちゃった?良かった、そうやって悪魔に騙される人間はたくさんいるんだよね。今回の対価はただの話だったけど、普段ならこれが魔力なんだ。リビちゃんは気を付けようね?」
冷たく微笑むその男の顔面に拳を叩きつけたくなった。
「殴っていいですか?」
思わず口に出ていた。
「魔法陣で繋がった悪魔に物理攻撃はできないぞ。」
ドウシュに冷静に言われて、私はやるせない気持ちで拳を震わせる。
「分かってます!」
ドウシュと私のやりとりを見ていた男は、腹を抱えて笑っている。
「ドウシュちゃんとリビちゃんは面白いね。二人を見てると退屈が和らぐよ。このまま3人で楽しいお喋りしない?」
「そんな時間はありません。私はこれから魔獣の暴走を止め、シュマたちを封印しなければならないんですから。」
そう言ってのけると男は悪魔らしい囁きをした。
「じゃあ、俺と契約する?」
悪魔と契約なんて怪しいことこの上ない。
「契約者に嘘はつけない。聞かれたことに何でも答えるよ。定期的に魔力をよこせなんて言わないし、唆したり騙すこともできない。1000年以上存在する悪魔は結構希少だし、優良悪魔だと思うよ。」
「それが嘘かもしれないじゃないですか。」
「学習していて偉いね。でも、これはドウシュちゃんも知ってるよね?」
男の言葉にドウシュは頷く。
「契約とはそういうものだからな。契約主に嘘をつけない、危害を加えられない、騙すことも唆すこともできない。従魔契約に近いものだ。ただひとつ大きく違うとすれば契約主が死ねば悪魔はその魂を貰える。」
ドウシュの話を聞きながら、私は大して驚かなかった。
なんだか聞いたことがあるような話だからだ。
意外性はないが、使い道が分からない。
「魂って何に使うんですか?負の魔力が糧だから、食べないですよね?」
「この世界に生きるものは皆、魂がある。悪魔と神を除いてな。魂を持ってると転生することができるが、悪魔は魂を持たないため消滅するしかない。だから俺は転生するために魂が欲しいわけだ。」
「転生したいんですか?なんのために?」
私の問いかけに男は少し黙って、それから口を開く。
「生まれ変わったら結婚しよう、って約束した人がいたんだよ。だから、生まれ変わるためには魂が必要だ。」
「嘘っぽいですね。というか、あなたは人間のときの記憶があるんですか?」
「あるよ。悪魔の契約は人間の記憶がある奴しか適用されない。だって、記憶がないやつは転生したいなんて思えないからな。だからドウシュちゃんも悪魔のままだったら人間と契約して転生できたのにな。」
そう言われたドウシュは、少しだけ悲しそうな顔をしたように見えた。
生まれ変わったら、だなんて夢物語にもほどがある愛のセリフだが、それが本当の意味を持つことがあるんだな。
私は生まれ変わろうなんて思ったことがないから、魂が欲しいなんて言われてもピンとこない。
正直なところ、一度死んでいるのに死後の世界なんてないと思っている派だ。
死んだ後に魂を渡すことにデメリットが浮かばない。
「魂をあげたら私は転生できないってことですね。それ以外に私に不利益がないなら契約します。」
「きみ、正気か?」
ドウシュの引き気味な台詞に頷く。
「たとえ生まれ変わったとして、それは私ではないでしょ。記憶が維持できるわけでもなし、見た目も性格も何もかも違う別人になる。つまり、自分が転生したかも分からないのに転生したいという願望はないです。」
さらりと言えば、ドウシュは頭を抱え、男は複雑そうな顔をする。
「あのなリビちゃん。魂は何もかも刻まれてる。生き方のすべて、愛や想い。だから魂は惹かれ合い、前世での約束を果たすことができる。リビちゃんの前世もそうやって引き継がれてるはずだ。」
「それって、死ぬまで独身だったら惹かれ合う魂がいないってことですか。」
「いや、タイミングの問題もあるだろ。惹かれ合うはずの魂の時期がずれることもあるし。とにかく、転生さえできればいつか、会いたい魂に会えるんだよ。リビちゃんはそれを放棄してもいいのか?」
「事前説明しないと気が済まない人なんですね。そんなことしてるから、今まで魂もらえなかったんですか?」
そんな言葉に男は黙ってしまった。
どうやら、攻撃力の高い言葉を投げつけてしまったようだ。
ドウシュに助けを求めれば、僕に聞くなという顔をされてしまった。
「えっと、契約しましょう。生まれ変わって会いたい魂とかいないので。」
「そんな人間、いるわけない。誰しもみな、大事な人にもう一度会いたいと思うものだよ。」
「その会いたい気持ちが強いから、悪魔になって魂がなくなってもチャンスが巡ってきたんじゃないですか?記憶が維持できている悪魔は稀でしょ。他の悪魔にはできない契約というやり方で魂が貰えるならやらない手はない。葛藤や迷いを捨てて、チャンスを掴むべきでは?」
「・・・悪魔の囁きをされるとは思ってなかったな。」
男は一瞬戸惑いを見せてから、悪魔らしい表情をしてみせた。
今更そんな顔をしても、人柄の良さが滲み出ているのはバレているのに。
すると、男は手を差し出した。
「俺の名はアシャレラ。この手の上にリビちゃんの血をくれる?」
短剣で浅く切り血を垂らせば、アシャレラの首に黒い模様が現れた。
「これから先、俺は嘘偽りなくリビちゃんに答えるよ。俺の知識も考えもできうる限りリビちゃんのために使う。これから俺はどんな人間とも交渉できないし、魔力を受け取ることも出来ない。」
「え、そうなんですか?」
「元々、人間との交渉はやってないから言わなかったの。はい、続けるよ。リビちゃんを騙し唆すことも、傷つけることも、脅かすこともしないと契約に誓おう。その代わり、リビちゃんは死んだら俺にその魂を・・・。」
アシャレラの口上が止まる。
私とドウシュは首を傾げて、問いかける。
「どうしました?」
「あのさ、魂がないんだけど・・・。」
「はい??」
「だから、リビちゃんの魂がリビちゃんの中にないんだけど!?!」
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