【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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反撃開始

不明の魔法

私たちは宮殿を飛び出した。
大勢の人々が叫び声を上げていて、パニックになっていることだけが分かる。
「何があったんですか!?」
走って逃げている人間に問いかけると、動揺しながら答えてくれた。
「突然、何人かの魔法が暴走を始めたんだ。確かに魔獣によって怪我人は出ているし建物も壊れているが死人は出ていない。急激に負の感情が高まっている要因はないはずなのに。とにかく落ち着くまで離れないと危ないんだ!」
そうして人が逃げてくるその中心に向かって私たちは走って向かう。
そこには数十人の人間と獣人の魔法が溢れていた。
当然、自然魔法である火・水・土・風・雷がコントロールを失っている。
魔法の暴走をした場合、隔離させるか気絶させるか。
そんな話をヒサメに聞いたことがある。
暴走している人間以外は、宮殿から共に走ってきた騎士たち。
そして私とアシャレラ、ヒメとアル。
負の感情によって一時的に高まっている魔力の魔法は、どんな人間でも通常より強くなっている。
精鋭の騎士であったとしても気絶させるのはかなりの難易度だ。
それなら眠りの効果のある花を付与してみるしか。
その時、一人の暴走した獣人がこちらに叫んだ。

「助けてくれ!!!」

その場にいる誰もが一瞬動きを止めた。
「急に、魔法が溢れて、止まらないんだ!!自分じゃどうしようもできない!!」
そんな叫びにルミウルがこちらに駆け寄る。
「おかしいです。魔法の暴走とは負の感情の高まりによって理性を失うことでコントロールを失うものです。彼はどう見ても理性がある。これはただの魔法の暴走ではありません!」
ルミウルの言葉で今考えられる可能性はひとつ。
闇魔法によって強制的に暴走させられているということだ。
この状況は予想できたはずだ。
魔獣によって国に混乱をもたらしている今。
中にいる国民に接触することは何も難しくない。
人間の冷静さを崩すのにたくさんの仕掛けは必要ない。
ほんのわずかの動揺が波紋のように広がっていく。
「リビちゃん、この闇魔法は…」
「はい、魔法不明だった堕ちた悪魔の最後の一人アヴィシャの可能性が高いです。なんとか、私の眠りの魔法で解除ができれば!!」
そうして暴走している獣人に手をかざし、眠りの効果を付与しようとした。

できなかった。

はね返されたというのが正しい。
つまり、私の魔法の強さよりもアヴィシャの魔法が上だと知ることになった。
例えばこのまま、強制的に溢れる魔法が止まらない場合。
魔力が尽きて本人が死ぬことになる。
それを止めるために本人に近づくには、溢れ出ている魔法を打ち消すために有効な魔法で対抗するしかないが。
魔力増幅の効果を騎士たちに付与したとして、それを一人一人、暴走した相手に対応するまでに果たして間に合うだろうか。
ただでさえ、普通の暴走とは違う。
魔力が枯渇するまであとどのくらい保つのかさえ…。
「ヒメ!!暴走している人の魔力見えますか!?」
「見える!でもかなり減っている、このまま順当に減少すれば長くは保たない。」
とにかく、試せることを試さないと。
「ルミウルさん!魔力増幅の効果を付与します。火には水、水には土、それぞれ強い魔法をぶつけるんです。少しでも本人に近づければ気絶させることできませんか!?」
もちろん、あまりに魔法の力の差が激しければ難しい。
だからそれを私の効果付与でカバーする。
「一人で無理なら数人がかりで、暴走者一人の魔法を抑え込むんです!並んで!」
ルミウルが指示してくれたおかげで、各魔法ごとに騎士を分けてくれる。
騎士に増幅を付与し、魔法を押しながら少しずつ近づいて力技で気絶させる。
何人かはそれで気絶させることができた。
だが、私が効果を一度に付与できる人間にも限りがある。
そして、魔法を出し続ける騎士たちの体力も減少する一方だ。
光魔法でヒメとアルが補助してくれるが、彼らの治癒はあくまで疲労改善。
魔力をもとに戻せるわけではない。
「リビ、このペースじゃ間に合わない。」
ヒメはそう言って、まだ数十人いる暴走者の魔力を見る。
アルも首を横に振って視線を落とす。
「魔力が底を尽きそうだ…リビ嬢、すべての人を救う時間はない。」
周りにいる騎士も全力を出してくれている。
全力を出しても、数人しか気絶させられていない。
逃げる人、壊れた建物から救助を試みる人、避難誘導をする兵士。
ところどころ、火災が起きて黒い煙も見えている。
悲鳴と悲痛な助けを求める声。
国同士の大きな争いなんて要らなかった。
もうこの場も、他の国も、同じように混乱の最中に陥っているはずだ。
これはもう、戦争じゃないか。
堕ちた悪魔の望んでいた戦争が今まさに起こっているんだ。
人がたくさん死ぬ。
それによって負の感情が負の魔力を生み出していく。
誰もが周りのことなんて考えられなくなる。
心の余裕を蝕む世界は、必ず均衡を壊す。
「アシャレラ、他に方法はありませんか。」
「リビちゃんの魔法はアヴィシャに敵わない。それが分かっていながらどうしたいの?」
「暴走する人を止めたい。アシャレラの力を借りることはできませんか?一心同体になれば、私の魔法は悪魔ほどの力を持つことができるのではないですか。悪魔は、下界の人間たちよりもはるかに魔法が強いんでしょ。」
だからこそ、堕ちた悪魔にすら私の魔法は通用しない。
ハルに劇薬を作るようにお願いしていたが、貰うのを忘れていたのでこの場にはない。
だから、頼りになるのは悪魔であるアシャレラしかいないのだ。
「何度でも言うけど、悪魔の力借りるなんておすすめしない。負の魔力を吸収するだけだから血を吐いて内臓損傷するだけで済んでる。俺の力を借りて魔法を発動するとなると、もっと酷い反動が来るよ。」
「時間がありません。彼らの魔力が尽きる前に気絶させないといけない。血を、渡してください!」
アシャレラは私の目をじっと見る。
「リビ嬢、やめて!!きみがここで死ねば封印は困難になる。ボクたちの目的は堕ちた悪魔の封印だ、根源をどうにかしなければ被害の拡大は確定する。目の前の命を救っても、同じような被害者が増え続けるのは変わらないんだ!」
アルが言うことはもっともだ。
今私が命をかけて彼らを止めても、同じような被害者は山のように現れる。
根源である堕ちた悪魔がいる限り、増え続けるだけだ。
でも。
でもだからって、目の前の人は見殺しにしていいのか。
私だけが救える可能性があるのに?
英雄を気取るつもりはない。
私が命を握っているのだと傲るつもりもない。
ただ単純に、救えないことが怖い。

「お父さん!!!」
「近づいちゃだめよ!!」

幼い子供が暴走する獣人に駆け寄ろうとして止められた。
当然ながら、今目の前で命尽きようとしている人間たちには家族がいる。
だから、その命が尽きれば今度は、家族の負の感情が高まるのは目に見えていた。
幼い子供が伸ばすその手が父親に届くことはない。
母親の諦めたような瞳から大粒の涙が溢れていくのが見える。
「アシャレラ」
「…頑固だな、リビちゃん。」
アシャレラは目を細めると指の先の皮膚を歯で食いちぎる。
その指を私の唇に付けた。
「いいか、魂のないリビちゃんに今死なれても困るの。だから、ギリギリの力を貸す。死ぬことはない、でも死なないっていうのは無事って意味じゃない。いいね?」
「はい。分かってます。」
どんな反動が来るか分からない。
でも、こうしなければ道はない。
「リビちゃんかまえて。長々とやればリビちゃんの命が危険だから一瞬で終わらせる。出来るだけまとまってくれる?」
アシャレラの言葉に、魔法が尽きそうな人間たちは震える足で一歩ずつ真ん中に集まっていく。
魔法は弱っている、つまりもう枯渇寸前だ。
「リビちゃんの効果付与は物体対象だと思ってるでしょ。でも、きみの特殊言語は空間対象。それが使えるなら効果付与も空間対象に出来る。いや、出来なきゃここで全員死ぬ。やって。」
耳許で無茶を言うアシャレラの目は本気だ。
「魔法とは魔力の変換によって起こす現象だ。だからもっと汎用性が高いものなんだよ。って思い込めば少しは成功確率上がるんじゃない?」
「助言するならもっと上手く騙してくださいよ!」
「騙してない、俺はリビちゃんに嘘はつかない。ほら早くしないと間に合わないよ。」
暴走する彼ら全てに眠りの効果を付与する。
特殊言語のように空間全てに私の魔法を。
今できなければ、四人の堕ちた悪魔を封印することもできない。
私の役目を果たすために、この魔法は成功させなければならない。


黒い光が新緑の国中心部で眩く光る。
その光は宮殿にいる女王様やウミたちにも見えたことだろう。
暴走していた人間や獣人たちはその場に全て倒れている。
そして、手をかざした私の腕は肉片が崩れ内部の骨がむき出しになっていた。
口から溢れていく血液が地面に落ちる。
もうどこの痛みなのかも分からない。
「リビ嬢…」
アルが酷い顔をして私を見る。
声を出そうとしたが、それは音にならない。
アシャレラが私の体を抱き寄せてそのまま抱えた。
「他のみんなは人間たちの確認したほうがいいんじゃない?息はある?」
騎士たちはその言葉でようやく動き、倒れている人間たちの確認を行う。
「彼らは無事です!!眠っているだけのようです。」
魔法がきちんと付与されているのが確認できた。
「あの、リビ様は…。」
ルミウルの問いかけにアシャレラはさらりと答える。
「生きてるよ、あちこち皮膚が崩れてるけど。でもおかしいな。腕の一本二本、消し飛んでもおかしくないんだけど。」
「消し飛ぶ!?どういうことですか、あなたはリビ様の部下ではないんですか。どうしてそんなに冷静なんですか!?」
「俺はリビちゃんに忠実なだけさ。彼女が望むものを与えてあげる道具みたいなもの。彼女が死ぬまで彼女だけのために存在してるんだよね。だからとりあえず、宮殿の医療チーム呼んでくれる?」
「はい、ただちに!!」

新緑の国では一時的に暴走は収まった。
だが、こうしている間にも他の国で同じ事が起こっているはずだ。
私はルミウルの呼んだ医者がこちらに走ってくるのを、意識が失う前に瞳に映していた。

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