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堕ちた悪魔
傷の代償
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結界の中へと入ろうとしたとき、アシャレラが私を呼び止めた。
「リビちゃん、ちょっと待って。」
アシャレラは真剣な表情で私の包帯の巻かれた腕を掴む。
「今リビちゃんの体はフェニックスの灰によって異変が起きている状態だ。そして、悪魔である俺の力を使うことによって体はダメージを受けている。その亀裂の肌は劇薬のせいだったよね。もう一度その薬を使えば、正直、生き残るのは難しいと思う。」
アシャレラの言葉に私以外が衝撃を受けている。
ソラも心配そうな表情を浮かべていて、私はソラの頭を撫でた。
「堕ちた悪魔を封印できなければ、それこそこの世界の終わりだって言ったじゃないですか。同じことです。」
「同じじゃない。妖精の羽を使って劇薬を飲んで、全員の悪魔をどうにかできるわけじゃないでしょ。悪魔全員の寿命を奪えるかどうかなんて分からない。タイムリミットがあって、さらには悪魔の寿命が残りどれだけあるのかも分からない。悪魔を封印しきれずにリビちゃんが死ぬ方が皆困るだろ。以前も思ったけど、リビちゃんのやってることは無謀だよ。結果的に成功したから生きてるだけ。今回も運よく生き残れるわけじゃないんだよ。」
アシャレラの言うことは最もで、私は反論する言葉を持ってはいなかった。
私はぎりぎりのところを運良く切り抜けて生き残っているだけ。
いつ死んでもおかしくない場面が山ほどあった。
それでも、それ以外方法が見つけられないから選んできた道だった。
「今の状態でヒカルさんは加護をするのは不可能です。ということは残りは、ルリビによるダメージを与えるのみ。私はこれも劇薬を使う予定でした。でも、弱らせるよりも命を削る方がいいのではと判断しました。少しでも寿命を減らせればこの世界への影響を減らせるかもしれない。」
「減らしただけじゃ駄目なんだよ。リビちゃんが死んで残された人間だけでどうにかできるものじゃないんだ。闇の神に魔法を与えられたきみは、それだけ重要な役割を担っているということなんだよ。きみが欠けたらそこで何もかも終わる。」
いつになく真剣なアシャレラは私の腕を強く握りしめる。
でも、一度崩れてフェニックスによって再生された腕は一切の痛みを感じない。
「リビちゃんは、俺のこと信じてくれる?」
「どういう意味ですか。」
「悪魔の魔法を使うには条件がいるって話。」
アシャレラはそう言うと、深呼吸をする。
「俺の魔法は、痛みを共有して半分にできる。この魔法を使えば、これからリビちゃんが受ける物理的な痛みも傷も半分。そして、心の痛みも俺と共有して半分にできる。」
「アシャレラは、自分の魔法を言いたくないのかと思ってましたが。」
「言いたくなかったよ、こんな残酷な魔法。でも、この魔法を使わないとリビちゃんは無理をして死にそうだから言うしかないんだ。」
アシャレラの様子を見れば、本当に話したくなかったのだと分かる。
ドウシュはそれを見て、口を開いた。
「残酷というのはどういう意味なんだ?アシャレラ自身も傷を受けるから、という意味ではないのだろう?」
「そうだね、問題はそこじゃない。傷が半分になるというのは、俺も同じだけの傷を負うってことだ。でも、痛みが半分というのは、リビちゃんの感覚を失うってことなんだよ。この魔法を使えば、手の感覚、足の感覚を失うことになる。心の痛みを半分にするには、感情が欠落するってことなんだよ。悪魔らしい魔法だよな。」
痛みを感じにくくするために感覚を失う、か。
この世に存在している魔法は本当に万能にはなり切れないというわけだ。
人々が崇める光魔法でさえ、治せないものがある。
どんなに便利に見える魔法でも、リスクを伴うことがある。
そして、神が与えたとしてもそこには致命的な欠陥があったりする。
魔法とは全ての欲望を叶えられる夢の力にはなれない。
「確かにアシャレラの言う通り悪魔らしい魔法かもしれませんね。願いを叶えるのに代償を伴うところは。ですが、アシャレラ自身も傷を負わなければならないというのは、太陽の神が平等だからと言いそうで気に食わないです。」
「俺が傷を負うことよりも、リビちゃんが感覚を失うことを心配してよ!あらゆる感覚を失えば、生活に支障をきたす。感情の欠落によってどんな影響が出るか分からないんだ。」
「でも、私が死ぬまではアシャレラがいてくれるから。腕が動かなくなったら手伝ってくれるんでしょ。」
私の言葉にアシャレラは息を飲み、それから仕方ないなという顔を見せた。
「リビちゃんは劇薬を飲まない選択肢はないんだね。」
「はい。脅迫するみたいで申し訳ないけど、魂のない私が死んだら困るでしょ。そうならないためにはアシャレラは魔法を使うしかない。堕ちた悪魔のところに行こう。」
差し出した私の手をアシャレラは掴んだ。
心配そうにするソラを抱きしめて、それから私は劇薬と妖精の羽を準備する。
ソラはハルに任せて、私はアシャレラと一緒に結界の中へと再び入った。
結界の中に入ると、衝突音が響いているのが分かる。
このヒサメの結界は、堕ちた悪魔を出さないようになっているから、それを壊そうとしているのだろう。
私とアシャレラは音のする方に走って向かう。
ヒサメがどこにいるのか、早く探さないと。
そうして前方に見えたのはエナと戦うフブキと、周りを警戒するアイルだった。
「アイル先生!!」
私たちは、エナとフブキから少し離れたところにいたアイルに駆け寄った。
「リビ!光の加護が発動してないってことは何か問題が起こったってことだね?ミーカさんたちは避難してるから、安心するさね。」
「それは良かったです、アイル先生はどうしてここに。」
私が問いかけた瞬間、エナの怒鳴り声が響く。
「あーくそっっ!!お前誰だよ!!その強さなんだ!!?」
「フブキだ、結界は壊させない。」
エナの魔法は幻覚を見せる魔法だ。
つまり今二人は、単純に武術で戦っているということだ。
本来ならばフブキは、戦闘においてヒサメの右腕になれる逸材だ。
白銀の国に居続けたらならば、最強の騎士になっていただろう。
「あたしは、フブキとあの堕ちた悪魔が1対1で戦えるよう壁の役割のために残ったのさ。あの強いフブキでも二人の堕ちた悪魔を相手にするのはきついだろう?だから、分断するように仕向けたわけさね。」
周りには分厚い氷の痕跡が残っていて、他の悪魔は別の場所から結界を壊そうと判断したのだろう。
アイルの強い魔法のおかげで、悪魔はバラバラに行動しているということだ。
「フブキがやってるのはあくまで結界が壊されないようにするための時間稼ぎさね。この緊急事態を対処するためにリビはきたんだろう。できそうかい?」
「はい、やってみせます。アシャレラ、いい?」
「ああ、勿論、任せて。」
アシャレラの魔法が発動し、私の体に触れた。
劇薬の小瓶の蓋を開け、一気に飲み干す。
その薬が体を駆け巡るその前に、妖精の羽を口に入れる。
ツキさん、力を貸してください。
体の体温が徐々に上がり、器の中にある魔力が溢れて留まる。
前回は手が震え、眩暈を引き起こしていたが今回は二度目だ。
もう知ってる、うろたえる必要はない。
「エナ!!!」
私の叫びにエナとフブキがこちらを振り向く。
寿命を奪えるか、分からない。
寿命が何年残っているのかさえ、分からない。
それでもツキが渡したからには必ずやり遂げなければならないとそう思った。
「私があなたを殺します。」
「は?何言って・・・!!」
エナが呼吸を詰まらせる。
妖精の寿命を奪う魔法が、闇魔法の黒い光がエナを包む。
黄金の国の時よりも、強く、激しく、そして残酷に。
躊躇わない、情けをかけない。
それが出来ている自分が恐ろしいとすら思えなくなってきた。
「な、んで・・・?俺がお前に、何かしたかよ・・・?」
地面にひれ伏したエナは、苦しそうな掠れた声でそう言った。
体の端から崩れて、塵になってサラサラと無くなっていく。
「自分の生きやすさを選んで、何が悪いんだよ・・・!!」
魔法を使っている感覚として、もうエナの命が残っていないことが分かった。
ボロボロと崩れていくその姿を見下ろして、私は言った。
「時間ないからもう行きますね、さようなら。」
劇薬にはタイムリミットがあるから、早く次にいかないと。
私はさっさと他の堕ちた悪魔を探すために歩き出す。
「はは・・・お前が一番、悪魔だろ・・・。」
後ろからそう聞こえたが、時間がないので振り返らなかった。
「アイル先生、フブキさん。向こう側にソラたちがいるので結界を出てください。時間稼ぎありがとうございました。」
私が会釈して通り過ぎると、アイルとフブキは戸惑っているように見えた。
でも、そんなの気にしてる時間はない。
「アシャレラ、急ごう。」
「分かってる、今度は向こうから音がするね。」
私とアシャレラは走って次の場所へ向かう。
「リビちゃん、魔法は切れてない?」
「発動し続けてるから急がないと。でも、4人全員はさすがに持たないですよね。」
走りながらそう言えば、アシャレラは声を震わせる。
「リビちゃん、気付いてる?感情が欠落してきてる。他者を殺す罪悪感、恐怖、悲しさ、戸惑いの感情が、消えてるよね?」
「全くないわけではないはずですが。でも、そうですね。エナを殺すことに時間をかけてはいられないと、考えていました。このツキさんの魔法で一番殺さなくてはならないのはシュマなので。」
そうして進んでいれば、前方にはルージとローザがいた。
「シュマに会いたかったんですが、ルージも殺せるなら手間が省けますね。」
私は二人の後ろから、手を翳す。
「ローザさん、退いて下さい。」
「え、リビ様?」
状況を把握していないローザは、それでもリビの軌道上から移動した。
「ルージ、あなたを殺します。」
「よりにもよって、魔法が効かない貴方ですか。どうやって、僕を殺すつもりで・・・っ!!」
ルージは苦しそうに膝をつく。
信じられないものを見る目で私を見る。
震える手で心臓を掴み、体の端から塵に変わる。
「どうして、でしょうね・・・思い通りにいくはずの魔法を持っていながら、この世は思い通りにならないなんて・・・。」
手の指からボロボロと崩れていき、ルージの穏やかな表情を浮かべる顔も徐々に塵になる。
「最期に、聞かせてくれませんか・・・どうして僕の魔法が効かないのか。どうして僕の思い通りにならないのか。」
最期に気になるのがそれなのか。
自分の思い通りに動かせることが、それほど彼にとって大事だったのか。
すると、私の代わりにアシャレラが答えた。
「お前の魔法は、相手の心に訴えかけるんだろ?相手の情報を集めて、興味のあることがらで話に引き込み、そうして心の隙間に入り込むんだろ。そういう魔法は本当の名前が、魂が必要だ。リビちゃんは、それが無いんだよ。」
ルージは作り笑顔すら出来ずに、苦しそうな顔で私を見た。
「ああ、そういうこと。その上貴方は、入り込む心さえ、捨てたんですね・・・。」
命が終わった感覚を確認して、私は移動を始める。
「ローザさん、結界を壊すのを阻止してくれてありがとうございます。あなたはもう、結界の外に出てください。」
「リビ様、お待ちください!!包帯が・・・!」
「あ、近づいちゃダメです。寿命を奪うことになるから。ローザさんは、グウル国王のところにちゃんと帰って下さいね。」
「リビ様・・・。」
ローザが戸惑う声が聞こえたが、本当に時間がない。
シュマはどこにいるんだろう。
早く見つけないと、殺しきれないから。
「リビちゃん、ちょっと待って。」
アシャレラは真剣な表情で私の包帯の巻かれた腕を掴む。
「今リビちゃんの体はフェニックスの灰によって異変が起きている状態だ。そして、悪魔である俺の力を使うことによって体はダメージを受けている。その亀裂の肌は劇薬のせいだったよね。もう一度その薬を使えば、正直、生き残るのは難しいと思う。」
アシャレラの言葉に私以外が衝撃を受けている。
ソラも心配そうな表情を浮かべていて、私はソラの頭を撫でた。
「堕ちた悪魔を封印できなければ、それこそこの世界の終わりだって言ったじゃないですか。同じことです。」
「同じじゃない。妖精の羽を使って劇薬を飲んで、全員の悪魔をどうにかできるわけじゃないでしょ。悪魔全員の寿命を奪えるかどうかなんて分からない。タイムリミットがあって、さらには悪魔の寿命が残りどれだけあるのかも分からない。悪魔を封印しきれずにリビちゃんが死ぬ方が皆困るだろ。以前も思ったけど、リビちゃんのやってることは無謀だよ。結果的に成功したから生きてるだけ。今回も運よく生き残れるわけじゃないんだよ。」
アシャレラの言うことは最もで、私は反論する言葉を持ってはいなかった。
私はぎりぎりのところを運良く切り抜けて生き残っているだけ。
いつ死んでもおかしくない場面が山ほどあった。
それでも、それ以外方法が見つけられないから選んできた道だった。
「今の状態でヒカルさんは加護をするのは不可能です。ということは残りは、ルリビによるダメージを与えるのみ。私はこれも劇薬を使う予定でした。でも、弱らせるよりも命を削る方がいいのではと判断しました。少しでも寿命を減らせればこの世界への影響を減らせるかもしれない。」
「減らしただけじゃ駄目なんだよ。リビちゃんが死んで残された人間だけでどうにかできるものじゃないんだ。闇の神に魔法を与えられたきみは、それだけ重要な役割を担っているということなんだよ。きみが欠けたらそこで何もかも終わる。」
いつになく真剣なアシャレラは私の腕を強く握りしめる。
でも、一度崩れてフェニックスによって再生された腕は一切の痛みを感じない。
「リビちゃんは、俺のこと信じてくれる?」
「どういう意味ですか。」
「悪魔の魔法を使うには条件がいるって話。」
アシャレラはそう言うと、深呼吸をする。
「俺の魔法は、痛みを共有して半分にできる。この魔法を使えば、これからリビちゃんが受ける物理的な痛みも傷も半分。そして、心の痛みも俺と共有して半分にできる。」
「アシャレラは、自分の魔法を言いたくないのかと思ってましたが。」
「言いたくなかったよ、こんな残酷な魔法。でも、この魔法を使わないとリビちゃんは無理をして死にそうだから言うしかないんだ。」
アシャレラの様子を見れば、本当に話したくなかったのだと分かる。
ドウシュはそれを見て、口を開いた。
「残酷というのはどういう意味なんだ?アシャレラ自身も傷を受けるから、という意味ではないのだろう?」
「そうだね、問題はそこじゃない。傷が半分になるというのは、俺も同じだけの傷を負うってことだ。でも、痛みが半分というのは、リビちゃんの感覚を失うってことなんだよ。この魔法を使えば、手の感覚、足の感覚を失うことになる。心の痛みを半分にするには、感情が欠落するってことなんだよ。悪魔らしい魔法だよな。」
痛みを感じにくくするために感覚を失う、か。
この世に存在している魔法は本当に万能にはなり切れないというわけだ。
人々が崇める光魔法でさえ、治せないものがある。
どんなに便利に見える魔法でも、リスクを伴うことがある。
そして、神が与えたとしてもそこには致命的な欠陥があったりする。
魔法とは全ての欲望を叶えられる夢の力にはなれない。
「確かにアシャレラの言う通り悪魔らしい魔法かもしれませんね。願いを叶えるのに代償を伴うところは。ですが、アシャレラ自身も傷を負わなければならないというのは、太陽の神が平等だからと言いそうで気に食わないです。」
「俺が傷を負うことよりも、リビちゃんが感覚を失うことを心配してよ!あらゆる感覚を失えば、生活に支障をきたす。感情の欠落によってどんな影響が出るか分からないんだ。」
「でも、私が死ぬまではアシャレラがいてくれるから。腕が動かなくなったら手伝ってくれるんでしょ。」
私の言葉にアシャレラは息を飲み、それから仕方ないなという顔を見せた。
「リビちゃんは劇薬を飲まない選択肢はないんだね。」
「はい。脅迫するみたいで申し訳ないけど、魂のない私が死んだら困るでしょ。そうならないためにはアシャレラは魔法を使うしかない。堕ちた悪魔のところに行こう。」
差し出した私の手をアシャレラは掴んだ。
心配そうにするソラを抱きしめて、それから私は劇薬と妖精の羽を準備する。
ソラはハルに任せて、私はアシャレラと一緒に結界の中へと再び入った。
結界の中に入ると、衝突音が響いているのが分かる。
このヒサメの結界は、堕ちた悪魔を出さないようになっているから、それを壊そうとしているのだろう。
私とアシャレラは音のする方に走って向かう。
ヒサメがどこにいるのか、早く探さないと。
そうして前方に見えたのはエナと戦うフブキと、周りを警戒するアイルだった。
「アイル先生!!」
私たちは、エナとフブキから少し離れたところにいたアイルに駆け寄った。
「リビ!光の加護が発動してないってことは何か問題が起こったってことだね?ミーカさんたちは避難してるから、安心するさね。」
「それは良かったです、アイル先生はどうしてここに。」
私が問いかけた瞬間、エナの怒鳴り声が響く。
「あーくそっっ!!お前誰だよ!!その強さなんだ!!?」
「フブキだ、結界は壊させない。」
エナの魔法は幻覚を見せる魔法だ。
つまり今二人は、単純に武術で戦っているということだ。
本来ならばフブキは、戦闘においてヒサメの右腕になれる逸材だ。
白銀の国に居続けたらならば、最強の騎士になっていただろう。
「あたしは、フブキとあの堕ちた悪魔が1対1で戦えるよう壁の役割のために残ったのさ。あの強いフブキでも二人の堕ちた悪魔を相手にするのはきついだろう?だから、分断するように仕向けたわけさね。」
周りには分厚い氷の痕跡が残っていて、他の悪魔は別の場所から結界を壊そうと判断したのだろう。
アイルの強い魔法のおかげで、悪魔はバラバラに行動しているということだ。
「フブキがやってるのはあくまで結界が壊されないようにするための時間稼ぎさね。この緊急事態を対処するためにリビはきたんだろう。できそうかい?」
「はい、やってみせます。アシャレラ、いい?」
「ああ、勿論、任せて。」
アシャレラの魔法が発動し、私の体に触れた。
劇薬の小瓶の蓋を開け、一気に飲み干す。
その薬が体を駆け巡るその前に、妖精の羽を口に入れる。
ツキさん、力を貸してください。
体の体温が徐々に上がり、器の中にある魔力が溢れて留まる。
前回は手が震え、眩暈を引き起こしていたが今回は二度目だ。
もう知ってる、うろたえる必要はない。
「エナ!!!」
私の叫びにエナとフブキがこちらを振り向く。
寿命を奪えるか、分からない。
寿命が何年残っているのかさえ、分からない。
それでもツキが渡したからには必ずやり遂げなければならないとそう思った。
「私があなたを殺します。」
「は?何言って・・・!!」
エナが呼吸を詰まらせる。
妖精の寿命を奪う魔法が、闇魔法の黒い光がエナを包む。
黄金の国の時よりも、強く、激しく、そして残酷に。
躊躇わない、情けをかけない。
それが出来ている自分が恐ろしいとすら思えなくなってきた。
「な、んで・・・?俺がお前に、何かしたかよ・・・?」
地面にひれ伏したエナは、苦しそうな掠れた声でそう言った。
体の端から崩れて、塵になってサラサラと無くなっていく。
「自分の生きやすさを選んで、何が悪いんだよ・・・!!」
魔法を使っている感覚として、もうエナの命が残っていないことが分かった。
ボロボロと崩れていくその姿を見下ろして、私は言った。
「時間ないからもう行きますね、さようなら。」
劇薬にはタイムリミットがあるから、早く次にいかないと。
私はさっさと他の堕ちた悪魔を探すために歩き出す。
「はは・・・お前が一番、悪魔だろ・・・。」
後ろからそう聞こえたが、時間がないので振り返らなかった。
「アイル先生、フブキさん。向こう側にソラたちがいるので結界を出てください。時間稼ぎありがとうございました。」
私が会釈して通り過ぎると、アイルとフブキは戸惑っているように見えた。
でも、そんなの気にしてる時間はない。
「アシャレラ、急ごう。」
「分かってる、今度は向こうから音がするね。」
私とアシャレラは走って次の場所へ向かう。
「リビちゃん、魔法は切れてない?」
「発動し続けてるから急がないと。でも、4人全員はさすがに持たないですよね。」
走りながらそう言えば、アシャレラは声を震わせる。
「リビちゃん、気付いてる?感情が欠落してきてる。他者を殺す罪悪感、恐怖、悲しさ、戸惑いの感情が、消えてるよね?」
「全くないわけではないはずですが。でも、そうですね。エナを殺すことに時間をかけてはいられないと、考えていました。このツキさんの魔法で一番殺さなくてはならないのはシュマなので。」
そうして進んでいれば、前方にはルージとローザがいた。
「シュマに会いたかったんですが、ルージも殺せるなら手間が省けますね。」
私は二人の後ろから、手を翳す。
「ローザさん、退いて下さい。」
「え、リビ様?」
状況を把握していないローザは、それでもリビの軌道上から移動した。
「ルージ、あなたを殺します。」
「よりにもよって、魔法が効かない貴方ですか。どうやって、僕を殺すつもりで・・・っ!!」
ルージは苦しそうに膝をつく。
信じられないものを見る目で私を見る。
震える手で心臓を掴み、体の端から塵に変わる。
「どうして、でしょうね・・・思い通りにいくはずの魔法を持っていながら、この世は思い通りにならないなんて・・・。」
手の指からボロボロと崩れていき、ルージの穏やかな表情を浮かべる顔も徐々に塵になる。
「最期に、聞かせてくれませんか・・・どうして僕の魔法が効かないのか。どうして僕の思い通りにならないのか。」
最期に気になるのがそれなのか。
自分の思い通りに動かせることが、それほど彼にとって大事だったのか。
すると、私の代わりにアシャレラが答えた。
「お前の魔法は、相手の心に訴えかけるんだろ?相手の情報を集めて、興味のあることがらで話に引き込み、そうして心の隙間に入り込むんだろ。そういう魔法は本当の名前が、魂が必要だ。リビちゃんは、それが無いんだよ。」
ルージは作り笑顔すら出来ずに、苦しそうな顔で私を見た。
「ああ、そういうこと。その上貴方は、入り込む心さえ、捨てたんですね・・・。」
命が終わった感覚を確認して、私は移動を始める。
「ローザさん、結界を壊すのを阻止してくれてありがとうございます。あなたはもう、結界の外に出てください。」
「リビ様、お待ちください!!包帯が・・・!」
「あ、近づいちゃダメです。寿命を奪うことになるから。ローザさんは、グウル国王のところにちゃんと帰って下さいね。」
「リビ様・・・。」
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早く見つけないと、殺しきれないから。
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