【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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堕ちた悪魔

約束

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急がなければ、劇薬の効果が切れてしまう。
早く、殺さなければ。
私が走りながら考えていたのはそんなことだった。
アシャレラが心配そうな顔でこちらを見ているのは分かっていたが、でも今はそれを気にしている時間はない。
魔法を途切れさせない集中力を保てたのは、余計な感情を抱かないからかもしれない。
だから、悪いことばかりでもないのだけど。
周りから見た私は、どう映っているのか分からない。

ようやく見つけたシュマが戦っていたのはヒサメだった。
どこかそんな気はしていたから驚きもない。
ヒサメには負の魔力を入れられた前例があるから、シュマの相手をするならばヒサメが適任だろう。
白銀の国王が二度同じ手を食らうはずもない。

「あ、リビ!」

誰よりも真っ先に私に気づいたシュマは、何を考えて私に笑顔を向けるのだろう。
「ヒサメ様、交代しましょう。私がシュマを殺すので。」
「殺す?どうやら、聞き間違いじゃないようだな。エナとルージを殺したか?」
ヒサメは耳がいいから、エナとルージの最期の言葉まで聞こえていたのかもしれない。
「はい、殺しました。説明は省きます、時間が無いので。」

私がシュマに手を翳せば、黒い光がシュマを包む。
エナとルージのように息が苦しそうになりながら、それでもシュマは倒れなかった。
一歩こちら側に踏み出して、さらに一歩進む。

「ねぇ・・・リビ。あたしのことが憎い?嫌い?殺したいほどに。」
「いえ、今はあまり。堕ちた悪魔をなんとかするのが、私の役目なので。」
「なにそれ・・・酷いね、ほんとに酷い。リビはあたしのこと恨んでくれなきゃダメだよ、許さない、恨み続けてやるって思わなきゃダメなの・・・!!」

命が削られているはずなのに、シュマはどれだけ苦しくても歩みを止めない。
まっすぐに立っている私に向かってくる。
そうして、ようやく私の元にたどり着いて、崩れそうな両手を私の胸に付いた。

「負の魔力を入れますか?」
「・・・言ったじゃん、リビには、魔法かけないの。」

息をするだけで皮膚が崩れていくシュマにとどめを刺そうとしたが出来なかった。
劇薬の効果が切れたのだ。
まだ、シュマの寿命は残っている気がする。
でも、皮膚は崩れているからこのまま塵になればいいけど。
劇薬のせいで、自分の肌に亀裂が入っていく。
アシャレラも同様に顔に酷いヒビ割れの亀裂が入る。
感覚が鈍ってきているのか、亀裂に思っていた以上の痛みはない。
前回は気絶してしまったけど、今回はそれもなさそうだ。

「リビ、もう終わり・・・?」
「あなたが殺した妖精の羽で殺したかったんですが、時間切れです。どうしましょうか。」

引き出された魔力もかなり減ってしまった。
これ以上魔法は使えないか。

シュマは立ってすらいられなくなって、その場に座り込んだ。
ボロボロと崩れる皮膚は再生できないのかもしれない。
悪魔にとっての寿命は、全てなのかもしれない。
シュマの残りの寿命は、思っていたより少ないのだろうか。
私はシュマの目線に合うように膝をついて、ルリビを差し出した。

「今はこれ以上魔法をかけられない。あなたの手足を崩して動けなくしてもいいけど、私としてはルリビを食べてもらった方が楽なのですが。」
「違うでしょリビ。ちゃんと、最期まで責任持ってよ。」

シュマはそう言って私の手でシュマの首を掴ませた。

「あたしを殺した感触をずっとずっと忘れないで。魔法でもなく、自分のこの手で殺したんだって刻んでおいて。リビは、あたしのことを忘れないでくれるって言ったもんね・・・?」

悪魔なのに、そんなに私の言葉を信じているなんてどうかしてる。
両手に力を込めれば、皮膚に指がめり込む感触がする。
こんなにも恐ろしいことなはずなのに、私の手は震えもしない。

「その約束だけは守ります。」
「良かった・・・じゃあ、もういいや・・・。」

掴んでいた首は崩れ落ちて、地面に転がった頭も塵となっていく。
最期まで少女みたいに笑う悪魔だったな。

「リビ殿。」

立ち上がるとヒサメが私の名前を呼んだ。
ヒサメの手が私の頬を撫でるので首を傾げた。
「どうしました?」
「亀裂が増えている、劇薬を使ったのは一目瞭然だ。加えて、何をした?」
「ああ、アシャレラの魔法で傷を半分にしたんです。それに伴って、手足の感覚が鈍くなり、感情も欠落しています。」

私がすらすら説明すれば、アシャレラが蒼褪めた顔をする。
ヒサメは私を見つめたまま、その長い指で傷に触れる。
「痛いか?」
「いえ、あまり。」
「オレが触れるのは嫌か?」
「いえ。なんですか?」

触れる手が優しいのは感覚が鈍くても分かる。

「リビ殿はオレのなんだ?」
「近衛騎士、です。あと、友人?」
「オレとの約束は?」
「死なないこと。」

ヒサメが顔を近づけるから、彼の髪が私の顔にかかる。

「ああ、ちゃんとリビ殿だな。覚えていないと言われたらどうしてやろうかと思った。」

少しだけ背筋がぞくりとしたのは、感情があるときの名残だろうか。
ヒサメは手を放すと、状況の共有を始めた。

光の加護が発動しなかったこと。
ヒメがヒカルを治癒していること。
アヴィシャ以外の堕ちた悪魔を、寿命を奪って殺したこと。

そこまで話したとき、また山が大きく揺れた。
空を見上げればヒビ割れが増えて、闇が覗いている。

「ヒカルさんのところに戻ります。最後の一人、アヴィシャをなんとかしないと。」
「オレも行く。リビ殿はもう魔法が使えないのだろう?それならば、戦うことなどできないはずだ。」
「いえ、ヒサメ様は結界の外に出て、フブキさんたちと居てください。」

歩き出した私の腕を当然のように掴むヒサメは国が傾きそうな美しさで微笑んだ。

「太陽の神の記憶操作について、オレはまだ何も聞いていないが?」

私とアシャレラは視線を合わせ、冷や汗をかく。
感情が欠落していっているとはいえ、私はヒサメを知っている。
ヒサメがどんな人か、分かっているのだ。
そして、この微笑みがただ美しいだけじゃないってこともちゃんと知っている。

「話すつもりでした、タイミングが無かっただけで、本当に。」
「そうそう、リビちゃんは国王にも話さなきゃねって言ってたの、本当に!」

私とアシャレラの言葉にヒサメは首を傾ける。

「ほう?なら、今聞こう。太陽の神に誓約に関する記憶を全て消されて操作される話を。」
「全部知ってるじゃん!?国王様、その話どこで??」
「ヒメから聞いた。ヒメは、キミたちが堕ちた悪魔と行動している時、姿を消してずっと側にいたんだよ。神々の頂に到着してオレのところに来た。情報伝達はヒメの役回りだからな。そうして、教会のところでキミたちと合流し、今治癒魔法を施している最中というわけだ。」

全く気付いていなかった。
そういえば、アヴィシャが接触してきた瞬間からヒメは姿を消していたのかもしれない。
だから、誰にも気づかれていなかったんだ。
堕ちた悪魔でさえも。

「聞いていたのならそれが全てです。これから現れる太陽の神は記憶を消すかもしれない。記憶を捏造されるかもしれない。そうならないためにも話合いたいところですが、聞く耳を持つか分かりません。」
「それならオレも太陽の神と話す。堕ちた悪魔を封印する結界を背負わせておいて、その何もかもの記憶を改竄されているのはあまりに理不尽だろう。リビ殿の魂を奪っていることも、オレたちに全てを押し付けていることも、言いたいことが山のようにある。」

そんなヒサメに掴まれた逆の手を己の胸に当てる。
騎士としての敬礼を国王に向けて。

「今現在、各国は全ての光の加護が止まって混乱しているはずです。白銀の国の騎士と兵士が対応にあたっているはずですが、ヒサメ様の指示が必要な場面もあるでしょう。ヒサメ様は、フブキさんたちのところでお待ちください。」
「・・・オレを遠ざけるときばかり、騎士のように振舞うよな、キミは。」

太陽の神が一筋縄でいくはずがない。
アヴィシャの魂を取り返す話も決着がついていない今。
太陽の神とアヴィシャの争いにヒサメを巻き込むわけにはいかないのだ。
ヒサメの役目は、堕ちた悪魔を封印すること。
アヴィシャ以外は私がこの手で殺した。
そして、そのアヴィシャも結界内にいるのは間違いない。
ヒサメは役目を全うしたのだ、これ以上危険な目に合う必要がない。

「ヒサメ様との約束は守ります。ですので、結界を出て・・・」
「オレとの約束は、あの堕ちた悪魔の、シュマの約束よりも大事か?」
「・・・約束に優劣は無いかと。」

そんな返答にヒサメはフッと口許を緩めた。

「リビ殿らしい答えだ。何を失ったとしても、キミがキミであることは変わらない。感情を失っても、手足を失おうとも、キミはオレの騎士だ。いいな?」
「それは・・・はい。私はヒサメ様が不要だと言うその日まで部下だと言いました。ちゃんと覚えていますよ。」

そう答えれば、ヒサメはようやく腕から手を放した。
「助けが必要なら叫べ。結界の外からでも問題なく聞こえる、オレの狼の耳ならな。」



ヒサメと分かれた私とアシャレラは教会へと急ぐ。
山はずっと揺れ続けている。
「アシャレラ、顔の傷ごめんね。」
私の傷を半分にするために受けた傷は、アシャレラの顔に酷い亀裂を残している。
何故かとてつもなく、謝らなければならない気がしたのだ。
アシャレラの顔に傷があることで、何故か胸がざわついた気がしたのだ。

「傷だらけのリビちゃんに謝られてもね。本当に痛そうだけど、感覚は鈍って分からないんだよね?」
「はい、痛みはあまり。アシャレラこそ痛いんじゃないですか?半分なはずなのに、こんなに大きく亀裂が。」

私が軽く触れればアシャレラは少し驚いたような顔をして苦笑いをした。

「痛いよ、痛いけどね。俺はそれよりも、リビちゃんの感覚を奪ってる方がきついよ。」
「本当に悪魔に向いてない悪魔ですね。私は今、感覚が鈍ってありがたいです。感情の欠落によって、今助けられています。アシャレラの魔法のおかげで私は、役目を放りだすこともなく生きている。私と契約することを選んでくれてありがとうございます。」

私のお礼にアシャレラは納得のいかない顔で微笑む。

「リビちゃん、変なとこ優しいな。好きになっちゃうよ。」
「1000年以上一人を想い続ける人に好きなんて言われても冗談にしか聞こえないです。・・・口に出すと恐ろしい年月ですね。」
「悪かったね、重くて。」

拗ねたフリをするアシャレラは、よほど自分の魔法を使いたくなかったのだろう。
私が脅したから使うしかなかっただけで、彼自身は苦しかったんだ。
自分が傷を負うよりも、ずっと苦しい。
そんな人なんだ、アシャレラは。

「愛したあの人を一人にしておけないんでしょ。だから、私の魂を取り返してアシャレラにあげるから。もう少しだけ、私に付き合ってくださいね。」
「当然でしょ、俺はリビちゃんの悪魔だからね。」




目の前に建つ小さな教会にもヒビが入っているのが見えた。
そして、教会の外で空を見上げているアヴィシャがいる。
そして、顔をぐるりと曲げてこちらを見る。

「リビ、仕事の時間だよ。ちゃんとやらないと、この世界は今まで通りではいらなれないよ。」

教会の上に大きな光の幕が現れ、神秘的なその様は闇の神と話した時とは比にならないほどに輝いていて。
金色に輝くその姿は、男か女か分からない美しさだ。
教会の中にいるヒカルはどうなったのだろうか。
私が教会へ入ろうとするとアヴィシャが目の前に来た。

「太陽の神が見えるでしょ。つまり契約主の聖女は生きてるってことだから、とりあえずリビは仕事してよ。」
「仕事って、私はもう魔法の暴走は止めました。魂を取り返すのに必要な交渉材料なんてもう無いですよね。」
「ちゃんと頭使ってよ、話聞いてた?太陽の神はスイッチだよ?」

アヴィシャの強制的に魔法を暴走させる魔法は、太陽の神が発動の引き金だ。
だから、上界と下界を繋いでいる魔法陣を壊して繋がりを消した。

「太陽の神が発動スイッチである限り、魔法陣が繋がれば何度だって魔法の暴走は起きるってこと。今は、一時的に静まっているだけだよ。でもさ、このままずっと光の加護を使用しないなんてできるかな?記憶を消すならなおさら、下界に生きる者は魔法陣を使いたがるよね。そして、太陽の神も魔法陣を使って貰わなきゃ困るよね?」

アヴィシャの大きな声に、太陽の神がゆっくりと瞼を開ける。

『貴方は本当に、つくづく、失敗作ですね。』

温度のない声が聞こえた。
濁りなく澄んでいて、頭がすっきりするような美しい声。
でも、言ってることは全然美しくもなんともない。
そして、私とも目が合った太陽の神は憂いた顔をした。

『なんて傷だらけで、みすぼらしい姿。可哀想に。』
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