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太陽の神
失敗作
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私たちを見下ろしている太陽の神は、蔑んでいるようにも憐れんでいるようにも見えた。
「リビの魔法って私にも神の声が聞こえるんだ?便利だね。」
アヴィシャはそう言って太陽の神を見上げた。
堕ちた悪魔は流れている噂や、捕まえた翼のエルフによってこちらの現状を把握していたはずだ。
私の魔法の詳細までは知ることが出来なかったのだろうか。
それとも、魔法の能力が強くなる前の情報までしか手に入らなかったということだろうか。
「もう気付いているよね、神様。私が魔法を解除するまで、魔法の暴走の繋がりは切れることがない。魔法陣を繋げれば、また暴走が起こる。まだ、暴走が起こっていない奴もたくさんいるんだよね。光の加護がある国以外で暮らしている奴も、加護の内側に入れば当然暴走が起こる。人々はそれを恐れて加護をやめるようになるだろうね。そうならないために、私の魂を返してよ。」
アヴィシャの言葉に太陽の神はあからさまなため息をついた。
『どうせ壊れているのなら、潔く死を受け入れてくれればいいのに。それすら出来ないのですか?』
「壊れてるのはあんたのせいだろ。自分のこと棚上げすんなよ、みっともない。」
太陽の神とアヴィシャの間にある不穏な空気に私は水を差す。
「アヴィシャと太陽の神の関係性が見えないんですが。」
「私の魂はこの世でたった一つしかない、太陽の神の手作りなんだよ。つまり、私は太陽の神の作品ってことだね。だから、魂の記憶をずっと引き継ぐことができる特別製ってわけだ。その特別製を失敗作だってさ。ほんと、自分勝手だよね。」
太陽の神は無表情のまま、アヴィシャを見ている。
『やはり、全て覚えているのですね。私の魔法が魂に入りこんだせいで、記憶を維持してしまっている。そんなものは人間とは呼べません。早く破棄せねばならないのです。』
「違うな、神様。入り込んだのはあんたの魔法だけじゃなく、あんた自身。だからこそ、あんたが私を何故作ったかも知ってる。あんたは闇の神との対決で負けたんだ、それを潔く認めれば良かっただけなのにな。」
太陽の神は少し押し黙る。
「闇の神との対決ってなんですか?」
「リビちゃんよくこの状況で聞けるね!?」
アシャレラはそう言って焦るが、今の私に空気を読もうという気はまったくない。
「約1000年前、神の御言葉を下界に伝えた奴がいたよね。それは、闇の神が作った魂を持った人間だった。本当は、私がそれをやる予定だったんだ。太陽の神が作った魂を持った私が。でもね、駄目だったんだ。失敗作だったからね。」
太陽の神はアヴィシャの言葉に反応し、少し顔を歪める。
『私が作った魂には心が無かったのです。そのせいで闇の神の作った魂が重要な役目を担うことになりました。闇の神が作った魂を持った人間は清らかで誠実で心の優しい者でした。闇の神が作ったのに、その性質は光側だった。理解できなかった。納得がいかなかった。でも、私が何かしなくてもその人間は、他の人間に殺されてすぐに死んでしまいました。それで思ったのです、優しい心を持った魂の方が間違いだったのではないかと。私が作った魂が正しかったのではないかと。そこで破棄していれば良かったものを、私はその魂を生かしてしまったのです。』
「生かしてしまった?ハハハ、確かに最初はそうかもね。最初だけは私もただの人間だった。子供らしく、子供らしい思考で、そうして子供のまま死んだし。2回目、3回目と死ぬ回数をこなせば、記憶を引き継いでいることに気づく。そうすると、だんだんと子供らしくいられなくなってくる。すると大人は気味悪がって捨てたり、殺したりすることが分かったから、今度はまた子供らしくするようになった。この頃からもう、ただの人間ではいられない。私は人間と天使を行き来して、情報を集めるようになった。」
『作った魂は、次第に私の制御が出来なくなっていました。記憶を引き継いでいると気付いたときにはもう遅かったのです。私の言うことを聞くはずもなく、その魂は魔法のない世界で暴走を始めました。』
アヴィシャは不気味に笑うと、首を傾げる。
「暴走なんて大袈裟だな。記憶を何度も引き継いでいる私は楽しみを見つけたんだよ。人間って些細なことで関係が崩れちゃうんだ。小さな隙を突くとボロボロと相手の悪いところが見えてくる。それで、喧嘩したり、時には相手を殺すほど憎くなっちゃう。それを眺めるのが楽しくてさぁ。」
『私は魂を回収しようとしました。ですが、人間のときも天使の時も魂を回収することはできなかった。だからせめて、魂の行き先をずらすことにしました。魂と入れ物が合わないことで、その魂の人生を早く終わらせることが出来るからです。』
「本当に酷いと思わない?自分で作って、身勝手な考えで生かしたくせに、何度も私を殺したんだ。時には戦争で死に、時には災害で死に、時にはちゃんと親に殺されたよ。力のない赤子の時にね。」
私はアヴィシャと太陽の神の話を聞きながら、戦争みたいだなと思った。
力を持つ者同士が争うことで、周りの皆が巻き込まれている。
太陽の神が作り出した魂は、最初はただの純粋な魂のはずだった。
それを歪ませたのはきっと、周りと太陽の神なのだろうけど。
「初めて人を殺したら、悪魔になったんだ。殺さなければ殺されていた状況だった。その状況を作ったのは神様なのに。魂を回収したくて仕方なかったんでしょ。でもさ、ここからがいいとこじゃない?二つの世界を理解した今、私ならもっと楽しく生きれるようになるんだ。今度はもっと上手くやれる、だって全てを知り尽くしているから。魔法のない世界も、魔法のある世界も両方理解したよ。人は中身なんて見てないってね。心なんかなくても、何も問題ないよ、取り繕うことは簡単だ。いくらでも信じさせることが出来るよ、私は心ある人間だとね。」
『神でもないのに知りすぎている貴方を生かすことは出来ません。誓約違反以前の問題です、破棄以外ありえない、失敗作とはそういうものです。』
「それならいいんだね?今後魔法陣を使うことは出来ない。私はこれから封印の結界を壊して、下界の人間を殺しまわることにするよ。リビはもう私を殺すほどの魔力は残ってないし、この世界に私を殺すことが出来る者はいない。どんな奴が止めようとしても、死ねない私に殺される。均衡は絶対に崩れるよ。でも、魂を返してくれるなら今後誰も殺さないよ。もっと、上手に生きてみせる。私の魔法も解除してあげる。どちらを選べばいいかなんて、明らかでしょ。」
魂を返さなければ、アヴィシャによってたくさんの人が殺されて均衡が崩れる。
魂を返せば、アヴィシャはこれからも転生を繰り返し、自分の手は汚さずに誰かを傷つけるかもしれない。
そんな究極の二択を迫られる太陽の神と目が合った。
『この教会にいる聖女の治癒ならば、貴方の魔力を回復できるかもしれません。』
「何の話ですか?」
『今ならば、妖精を殺すことにも目を瞑りましょう。』
そこまで言われてようやく理解した。
太陽の神は最後まで私にやらせようという訳だ。
「ヒカルさんは今生死をさまよってる、そんなヒカルさんに魔法を使えって言ってるんですか。罪のない妖精を捕まえて、羽をむしれって言ってるんですか。」
『均衡を保つために犠牲はつきものです。全ての生物には尊い命がありますが、その全てはこの世界が成立するために存在しています。ですから、その成立のために命を使うのは普通のことではありませんか。何もおかしなことではありません。それに貴方はもう、何回も殺してるでしょう?今更、そんなことを気にするフリはやめてください。』
感情を失ってきているとはいえ、何も感じないという訳にもいかない。
今まで私は、誰かを殺すことを恐れていた。
殺したかもしれない二人の人間を忘れることも出来ず、それがずっと自分の中で引っ掛かっていた。
夜明けの国を襲った魔獣たちを殺すときだって、申し訳ない気持ちと悲しい気持ちがあった。
堕ちた悪魔である彼らを殺すとき、確かに既に感情を失っていたけれど。
シュマを忘れるわけにはいかないという気持ちは本物だ。
できることなら、誰も殺したくなかった、それが私だ。
「アヴィシャに何度も失敗作だと言ってますけど、アヴィシャは太陽の神自身が入っているはずでは?闇の神と違って、太陽の神は魂を上手く作る事すらできなかった。闇の神の方が周りに認められて、それが理解できなかった太陽の神は身勝手で我儘な行動をしただけ。それがまた上手くいかなかったからって、私に尻ぬぐいさせるのやめてください。」
私のきっぱりとした物言いに太陽の神は色のない瞳で私を見る。
『均衡が崩れて困るのは貴方も同じですよ。崩れれば、この魔法の世界と魔法のない世界が交じることになる。そうなれば、魔力耐性のない人間たちがどうなるか分かるでしょう?貴方の両親、友人、知人、ほとんどの人が命を失うことになるのですよ。』
二つの世界が交ざり合う。
この世界にある魔力が、もう一つの世界を壊すことになる。
「それならアヴィシャに魂を返したらどうですか?ついでに私の魂も返してください。」
『誰かを殺すような者に魂は返せません。』
「元はと言えば仕向けたのは太陽の神でしょ。それって、アヴィシャと全く同じことをしてるってことですよ。やっぱり、アヴィシャは太陽の神そのものなんですね。さすが、太陽の神が作った同等の存在ってわけだ。」
『失敗作と私を一緒にするな!!!』
声を荒げた太陽の神の逆鱗はとても分かりやすかった。
だからこそ私は続けた。
「闇の神が作った魂を持つ神と同等の存在は1000年語り継がれる素晴らしい人なのに、太陽の神が作ったのはまさしく失敗作でしょ。人間であっても人との輪を乱し、堕ちた悪魔になっても人を殺して世界を崩そうとしてる。でも、それが太陽の神と同等の存在ってことでしょ。」
『違う、違う、違います、そんなはずはない、こんなガラクタは私じゃありません!!』
山が揺れて足元が揺らぐ。
アヴィシャが私の右腕を強く掴んで、バキバキと骨が折れる音が聞こえる。
「リビ、私も不快なんだけど。どういうつもり?」
「交渉しろと言ったのはアヴィシャでしょ、ちゃんと仕事してるんだから黙って見ててください。」
私が無表情にそう言えば、アヴィシャは黙り込んだ。
「太陽の神は他の神の賛同を得られなかった。力があるとは言っても所詮その程度なんですね。他の神は、闇の神の意見を飲み、闇の神の魂がふさわしいと思ったんですから。でも、当然ですよね。闇の神はいつだって、下界のことを考えてくれていたんですから。太陽の神と闇の神は決定的に違う部分がある。闇の神は、1000年前の同等の存在を愛し子と言って慈しんでいた。一度だって、闇の神は失敗作だとガラクタだと蔑んだことはないですよ。闇の神は、堕ちることはなくとも人間を気に掛けることはあったってことです。太陽の神と違って。」
『・・・違うのは当然です。私は一度だって下界を気に掛けたことなんてありませんよ。』
冷たい温度のその言葉は、太陽の神の全てを表しているように思えた。
『ええ、そうです、そうですよ。私は誓約さえ守れればそれでいい。この世界の均衡を保つことこそが役目。それ以外は全部、どうでもいいのです。』
「リビの魔法って私にも神の声が聞こえるんだ?便利だね。」
アヴィシャはそう言って太陽の神を見上げた。
堕ちた悪魔は流れている噂や、捕まえた翼のエルフによってこちらの現状を把握していたはずだ。
私の魔法の詳細までは知ることが出来なかったのだろうか。
それとも、魔法の能力が強くなる前の情報までしか手に入らなかったということだろうか。
「もう気付いているよね、神様。私が魔法を解除するまで、魔法の暴走の繋がりは切れることがない。魔法陣を繋げれば、また暴走が起こる。まだ、暴走が起こっていない奴もたくさんいるんだよね。光の加護がある国以外で暮らしている奴も、加護の内側に入れば当然暴走が起こる。人々はそれを恐れて加護をやめるようになるだろうね。そうならないために、私の魂を返してよ。」
アヴィシャの言葉に太陽の神はあからさまなため息をついた。
『どうせ壊れているのなら、潔く死を受け入れてくれればいいのに。それすら出来ないのですか?』
「壊れてるのはあんたのせいだろ。自分のこと棚上げすんなよ、みっともない。」
太陽の神とアヴィシャの間にある不穏な空気に私は水を差す。
「アヴィシャと太陽の神の関係性が見えないんですが。」
「私の魂はこの世でたった一つしかない、太陽の神の手作りなんだよ。つまり、私は太陽の神の作品ってことだね。だから、魂の記憶をずっと引き継ぐことができる特別製ってわけだ。その特別製を失敗作だってさ。ほんと、自分勝手だよね。」
太陽の神は無表情のまま、アヴィシャを見ている。
『やはり、全て覚えているのですね。私の魔法が魂に入りこんだせいで、記憶を維持してしまっている。そんなものは人間とは呼べません。早く破棄せねばならないのです。』
「違うな、神様。入り込んだのはあんたの魔法だけじゃなく、あんた自身。だからこそ、あんたが私を何故作ったかも知ってる。あんたは闇の神との対決で負けたんだ、それを潔く認めれば良かっただけなのにな。」
太陽の神は少し押し黙る。
「闇の神との対決ってなんですか?」
「リビちゃんよくこの状況で聞けるね!?」
アシャレラはそう言って焦るが、今の私に空気を読もうという気はまったくない。
「約1000年前、神の御言葉を下界に伝えた奴がいたよね。それは、闇の神が作った魂を持った人間だった。本当は、私がそれをやる予定だったんだ。太陽の神が作った魂を持った私が。でもね、駄目だったんだ。失敗作だったからね。」
太陽の神はアヴィシャの言葉に反応し、少し顔を歪める。
『私が作った魂には心が無かったのです。そのせいで闇の神の作った魂が重要な役目を担うことになりました。闇の神が作った魂を持った人間は清らかで誠実で心の優しい者でした。闇の神が作ったのに、その性質は光側だった。理解できなかった。納得がいかなかった。でも、私が何かしなくてもその人間は、他の人間に殺されてすぐに死んでしまいました。それで思ったのです、優しい心を持った魂の方が間違いだったのではないかと。私が作った魂が正しかったのではないかと。そこで破棄していれば良かったものを、私はその魂を生かしてしまったのです。』
「生かしてしまった?ハハハ、確かに最初はそうかもね。最初だけは私もただの人間だった。子供らしく、子供らしい思考で、そうして子供のまま死んだし。2回目、3回目と死ぬ回数をこなせば、記憶を引き継いでいることに気づく。そうすると、だんだんと子供らしくいられなくなってくる。すると大人は気味悪がって捨てたり、殺したりすることが分かったから、今度はまた子供らしくするようになった。この頃からもう、ただの人間ではいられない。私は人間と天使を行き来して、情報を集めるようになった。」
『作った魂は、次第に私の制御が出来なくなっていました。記憶を引き継いでいると気付いたときにはもう遅かったのです。私の言うことを聞くはずもなく、その魂は魔法のない世界で暴走を始めました。』
アヴィシャは不気味に笑うと、首を傾げる。
「暴走なんて大袈裟だな。記憶を何度も引き継いでいる私は楽しみを見つけたんだよ。人間って些細なことで関係が崩れちゃうんだ。小さな隙を突くとボロボロと相手の悪いところが見えてくる。それで、喧嘩したり、時には相手を殺すほど憎くなっちゃう。それを眺めるのが楽しくてさぁ。」
『私は魂を回収しようとしました。ですが、人間のときも天使の時も魂を回収することはできなかった。だからせめて、魂の行き先をずらすことにしました。魂と入れ物が合わないことで、その魂の人生を早く終わらせることが出来るからです。』
「本当に酷いと思わない?自分で作って、身勝手な考えで生かしたくせに、何度も私を殺したんだ。時には戦争で死に、時には災害で死に、時にはちゃんと親に殺されたよ。力のない赤子の時にね。」
私はアヴィシャと太陽の神の話を聞きながら、戦争みたいだなと思った。
力を持つ者同士が争うことで、周りの皆が巻き込まれている。
太陽の神が作り出した魂は、最初はただの純粋な魂のはずだった。
それを歪ませたのはきっと、周りと太陽の神なのだろうけど。
「初めて人を殺したら、悪魔になったんだ。殺さなければ殺されていた状況だった。その状況を作ったのは神様なのに。魂を回収したくて仕方なかったんでしょ。でもさ、ここからがいいとこじゃない?二つの世界を理解した今、私ならもっと楽しく生きれるようになるんだ。今度はもっと上手くやれる、だって全てを知り尽くしているから。魔法のない世界も、魔法のある世界も両方理解したよ。人は中身なんて見てないってね。心なんかなくても、何も問題ないよ、取り繕うことは簡単だ。いくらでも信じさせることが出来るよ、私は心ある人間だとね。」
『神でもないのに知りすぎている貴方を生かすことは出来ません。誓約違反以前の問題です、破棄以外ありえない、失敗作とはそういうものです。』
「それならいいんだね?今後魔法陣を使うことは出来ない。私はこれから封印の結界を壊して、下界の人間を殺しまわることにするよ。リビはもう私を殺すほどの魔力は残ってないし、この世界に私を殺すことが出来る者はいない。どんな奴が止めようとしても、死ねない私に殺される。均衡は絶対に崩れるよ。でも、魂を返してくれるなら今後誰も殺さないよ。もっと、上手に生きてみせる。私の魔法も解除してあげる。どちらを選べばいいかなんて、明らかでしょ。」
魂を返さなければ、アヴィシャによってたくさんの人が殺されて均衡が崩れる。
魂を返せば、アヴィシャはこれからも転生を繰り返し、自分の手は汚さずに誰かを傷つけるかもしれない。
そんな究極の二択を迫られる太陽の神と目が合った。
『この教会にいる聖女の治癒ならば、貴方の魔力を回復できるかもしれません。』
「何の話ですか?」
『今ならば、妖精を殺すことにも目を瞑りましょう。』
そこまで言われてようやく理解した。
太陽の神は最後まで私にやらせようという訳だ。
「ヒカルさんは今生死をさまよってる、そんなヒカルさんに魔法を使えって言ってるんですか。罪のない妖精を捕まえて、羽をむしれって言ってるんですか。」
『均衡を保つために犠牲はつきものです。全ての生物には尊い命がありますが、その全てはこの世界が成立するために存在しています。ですから、その成立のために命を使うのは普通のことではありませんか。何もおかしなことではありません。それに貴方はもう、何回も殺してるでしょう?今更、そんなことを気にするフリはやめてください。』
感情を失ってきているとはいえ、何も感じないという訳にもいかない。
今まで私は、誰かを殺すことを恐れていた。
殺したかもしれない二人の人間を忘れることも出来ず、それがずっと自分の中で引っ掛かっていた。
夜明けの国を襲った魔獣たちを殺すときだって、申し訳ない気持ちと悲しい気持ちがあった。
堕ちた悪魔である彼らを殺すとき、確かに既に感情を失っていたけれど。
シュマを忘れるわけにはいかないという気持ちは本物だ。
できることなら、誰も殺したくなかった、それが私だ。
「アヴィシャに何度も失敗作だと言ってますけど、アヴィシャは太陽の神自身が入っているはずでは?闇の神と違って、太陽の神は魂を上手く作る事すらできなかった。闇の神の方が周りに認められて、それが理解できなかった太陽の神は身勝手で我儘な行動をしただけ。それがまた上手くいかなかったからって、私に尻ぬぐいさせるのやめてください。」
私のきっぱりとした物言いに太陽の神は色のない瞳で私を見る。
『均衡が崩れて困るのは貴方も同じですよ。崩れれば、この魔法の世界と魔法のない世界が交じることになる。そうなれば、魔力耐性のない人間たちがどうなるか分かるでしょう?貴方の両親、友人、知人、ほとんどの人が命を失うことになるのですよ。』
二つの世界が交ざり合う。
この世界にある魔力が、もう一つの世界を壊すことになる。
「それならアヴィシャに魂を返したらどうですか?ついでに私の魂も返してください。」
『誰かを殺すような者に魂は返せません。』
「元はと言えば仕向けたのは太陽の神でしょ。それって、アヴィシャと全く同じことをしてるってことですよ。やっぱり、アヴィシャは太陽の神そのものなんですね。さすが、太陽の神が作った同等の存在ってわけだ。」
『失敗作と私を一緒にするな!!!』
声を荒げた太陽の神の逆鱗はとても分かりやすかった。
だからこそ私は続けた。
「闇の神が作った魂を持つ神と同等の存在は1000年語り継がれる素晴らしい人なのに、太陽の神が作ったのはまさしく失敗作でしょ。人間であっても人との輪を乱し、堕ちた悪魔になっても人を殺して世界を崩そうとしてる。でも、それが太陽の神と同等の存在ってことでしょ。」
『違う、違う、違います、そんなはずはない、こんなガラクタは私じゃありません!!』
山が揺れて足元が揺らぐ。
アヴィシャが私の右腕を強く掴んで、バキバキと骨が折れる音が聞こえる。
「リビ、私も不快なんだけど。どういうつもり?」
「交渉しろと言ったのはアヴィシャでしょ、ちゃんと仕事してるんだから黙って見ててください。」
私が無表情にそう言えば、アヴィシャは黙り込んだ。
「太陽の神は他の神の賛同を得られなかった。力があるとは言っても所詮その程度なんですね。他の神は、闇の神の意見を飲み、闇の神の魂がふさわしいと思ったんですから。でも、当然ですよね。闇の神はいつだって、下界のことを考えてくれていたんですから。太陽の神と闇の神は決定的に違う部分がある。闇の神は、1000年前の同等の存在を愛し子と言って慈しんでいた。一度だって、闇の神は失敗作だとガラクタだと蔑んだことはないですよ。闇の神は、堕ちることはなくとも人間を気に掛けることはあったってことです。太陽の神と違って。」
『・・・違うのは当然です。私は一度だって下界を気に掛けたことなんてありませんよ。』
冷たい温度のその言葉は、太陽の神の全てを表しているように思えた。
『ええ、そうです、そうですよ。私は誓約さえ守れればそれでいい。この世界の均衡を保つことこそが役目。それ以外は全部、どうでもいいのです。』
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