虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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逃亡編 一章:帝国領脱出

診療所

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 旅の汚れを長風呂で発散したアリアは満足し、その長風呂を終えるまで待っていたエリクは、宿の部屋から出て、マウル医師がいる場所へ向かった。

 時刻は昼を越え、もうすぐ夕方に差し掛かる。
 黒髪と黒目に魔法で染めたアリアを見ながら、エリクは話し掛けた。

「アリア。そのマウルという医者がいる場所は知っているのか?」

「さっき、色んな所を回ったでしょ? その時についでに聞いておいたわ。町の中央にある白い建物だって」

「そうか」

「人数次第だけど、情報ではそこそこの人数が運ばれたのは聞いてたから。重傷者は今日中に、軽傷者は明日に魔法で治させてもらいましょう」

「魔法は、傷も治せるのか?」

「度合いによるかしら。少ない欠損程度なら回復できるけど、腕が丸ごと無くなってたら流石に無理ね。私でも傷口を塞ぐのが精一杯。ただ、斬られた部位を冷やして保管してくれていたら、繋げるくらいはできるわ。大きく欠損した肉体の部位を復活できる魔法。そういうのが出来るのは、魔族の中でも上位種に当たるエルフやハイエルフの魔術師達だけでしょうね」

「魔術? エルフ?」

「エルフも知らない? 私みたいに金髪碧眼ばっかりの、耳が長い種族よ。魔術は、魔力を体内に宿す魔族だけが使える、人間の魔法版みたいなものね」

「そ、そうか……」

「……よく分かってないわね? まぁ、この大陸にはエルフは滅多に見かけないし、しょうがないか。とにかく行きましょ!」

「ああ」

 そう聞いたエリクは納得し、先導するアリアの後を付いて歩く。

 知識も乏しく、人間以外は少ない大陸と国に住むエリクは、エルフを始めとした魔族という種族は、馴染みが少ないだろう。
 あるいはエリクが魔族と認識していないだけで、そういう者達を同じ人間だと思い、今まで接していた可能性はある。
 そんな事をアリアは秘かに考えながら、エリクを従えてマウル医師の病院へと向かった。

 北港町の中央に、やや大きめの四角形に模られた白い家が見えると、アリアとエリクは共に入り口から入り、中の様子を窺った。
 入り口の部屋にはそこそこの人数が居て、それぞれが何かしらの病気や怪我を患い、医者に掛かる為に来た病人達のようだ。

 その中から少し外れた場所に、忙しなく動く中年の女性が見え、アリアは受付場所に歩み寄り、声を掛けた。

「あの、ここはマウル医師の診療所で間違いありませんか?」

「え? ああ、そうだよ。あんた達も怪我人かい?だったら並んどくれ」

「いえ。私は検問所の兵士様に頼まれ、怪我人の治療へ来ました、魔法師のアリスと申します。これが証明です」

「魔法使い様かい! そりゃあ助かるよ、ちょっと待っておくれ! ――……マウルさん! マウルさん!」

 アリアが銀の首飾りを見せつつ、自身を魔法使いだと説明すると、受付役をしていたであろう中年女性が、驚きつつも嬉しそうに話し、マウル医師を呼びに奥の扉へ駆け込んだ。
 それを聞いていた入り口の者達が、魔法使いだと聞いたアリアに視線を集めた。
 その視線を遮るようにエリクはアリアの背後へ立ち、そういう者達からの視線を、さり気なく大きな身体で塞いだ。

「全員が、君を見ているぞ」

「魔法学園卒業者って、国に関わる機関や施設に大体が就職しちゃうから、野良の魔法師は珍しいのよ。存在は知られてても、見かけない一般市民は多いはずよ」

「そうなのか」

「この町に魔法使いが居ないのも、単純に魔法使いの人手が国に割かれ過ぎてるせいね。魔法の発展と新たな魔法技術に開発に、魔法師の殆どが時間も労力も傾いてるのよ。その恩恵として、便利な道具が市民に行き渡るように供給されるけど、市民の身近に魔法師が近づけない理由にもなってるのよね」

「……そ、そうか」

「はいはい、分かってないってことね。後でちゃんと理解できるように教えてあげるわ」

「助かる」

 そうしたやり取りをアリアとエリクは行いつつ、数分ほど待った二人の前に、白髪の老人男性と、比較的若い男性が赴いた。
 そして白髪の男性から、アリアとエリクに頭を下げつつ喋り出した。

「儂がこの診療所で医者をしています。マウルと申します」

「初めまして。私は魔法師のアリスと申します。こちらは私の父で、傭兵のエリオです。検問所の兵士様の依頼を受けて、怪我人の治療を手伝って欲しいと頼まれて来ました」

「おお、それはありがたい。回復魔法をお使えに?」

「はい。初級から中級回復魔法は完璧に。上級回復魔法は連続では使えませんが、日を置けば使えます」

「それは、とても助かりますわい!」

「私達は今日、町に着いたばかりですので。疲れがあるので全てとは言えませんが、早急に治療が必要な重傷者の治療に当たらせてもらえればと思います」

「是非、お願いします。ささ、こちらへ。そちらの、アリス様のお父様は……」

「父は魔法は使えませんので、そのまま私の傍で手伝いを」

「そうですか。では、ご一緒にこちらへどうぞ」

 アリアとマウル医師が一通りの話を終え、マウル医師と若い男性が導くように、診療所にある部屋の奥へ案内する。
 それにアリアとエリクは追従し、診療所の奥へと案内された。
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