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逃亡編 一章:帝国領脱出
優劣の無いモノ
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診療所の治療を終えたアリアは、エリクを伴い夜に染まった外に出ていた。
火の光を浴びつつマウル医師も外まで出向き、見送るように二人に礼を述べた。
「ありがとう、魔法使い様。おかげで皆、怪我を治すに至りました」
「いえ。まだ完治ではありませんので、くれぐれも皆様には安静にと、ちゃんと伝えてくださいね。今回の報酬は、明日の夕方に受け取りに来るということで」
「はい、用意してお待ちしております。……やはり、魔法とは凄いですな」
「え?」
「私や息子のように、魔法の才を持たぬ者には、あのように癒すことは不可能ですからな。この歳ながら、改めて思うのですよ。私等のような医者の医学は、やはり魔法には達しえないと」
「そんなことはありません」
マウル医師の魔法を称賛する声と、自身が得てきた医学を卑下する言葉を、アリアは一刀両断するように否定した。
「確かに、魔法は才を持つ者しか行えません。だからこそ、貴方達のような医学を用いる者は、必ず必要なのです」
「……そうですかな?」
「医学は学ぶ事で誰でも得られる、人間が築き上げてきた技術と知識の集合体です。対して魔法とは、一部の才能によって成り立つ不完全な知識と技術。そんなモノが長い年月、人々を支えるモノにはならない。……現に私が赴くまで、彼等を生かし続けたのは、貴方や息子さんの医学です。貴方達という医者がいなければ、彼等は救えなかった。私の才で得ただけの魔法と、マウル医師が持つ医学の知識と技術は、決して優劣を着けるべきモノではありませんよ」
「……ありがとう、魔法使い様。そう言われると、嬉しいものですな」
アリアの持論を聞くマウル医師が、自分達が得てきたモノが、魔法に劣るモノではないと伝えている事に、感謝と共に微笑んで頷いた。
アリアはそれに安心したように微笑み、軽く頭を下げて診療所から離れた。
その後を追うエリクに、マウル医師は軽く声を掛けた。
「お嬢さん、本当に出来た娘さんですな」
「……そうだな」
「貴方達は傭兵だと仰っておりましたが、いつまでこの町に?」
「定期船というのに乗り、南の港まで向かうと、あの子が言っていた」
「そうですか、残念ですな。是非、この町で雇われて欲しいですが……。あれほどの娘さんと御一緒なのだ。他に厚遇される場所は、あるでしょうな」
「そうなのか。……俺は、医学というモノを知らない。だが、あの子の言うように、凄いモノだと思う」
「?」
「俺は、自分が生きる為に殺すことしか習わなかった。だがお前達は、誰かを生かす為にそれを習った。俺にはできない事だからこそ、凄いと思うんだろうか」
「……そうですな。多かれ少なかれ、自分にできない事を羨むのが、人間なのでしょうな」
そうエリクとマウル医師は話し、マウル医師が御辞儀をして下がり、先に歩いていくアリアをエリクは追った。
そして宿に戻ったアリアはベットに倒れ込んだ。
黒い髪が金色に戻り、瞳も青色に戻った途端に、大きな溜息を吐き出したアリアに、エリクは声を掛けた。
「はぁぁああ――……」
「どうしたんだ?」
「体力切れぇ……。魔法を使い過ぎたぁ……」
「魔法は、体力を使うのか?」
「魔法ってのはねぇ、空気中の魔力を魔法師の肉体を触媒にして、『魔法』っていう形に留めてるの……。だから、精神力とか集中力とか体力とか、その他諸々を全部使って、やれるもんなのよぉ……」
「……よく分からないが、凄いんだな」
「あー、ちゃんと説明は後でというか、明日ね。とにかく、私はもう寝るからぁ……」
「メシは食べないのか?」
「あー、うー……。お腹は空いたけどぉ……。食堂行くの、面倒臭いぃ……。エリクぅ、何か持ってきてぇ……」
「俺がか?」
「お願いぃ……。何でもいいからぁ……。財布、私の鞄の中ねぇ……」
「分かった」
アリアに頼まれたエリクは、鞄の中から皮袋と紐で締められた財布を取り出し、そのまま部屋を出て階段を降り、宿屋にある食堂へ赴いた。
流石に北港町で一番大きな宿屋だけあり、広い食堂には宿泊客が入り、給仕の者達が食事を運んで、机でそれを食べている。
エリクは入り口辺りで周囲を見渡し、どうやって食事を頼めばいいか考えていたが、先に給仕の女性がエリクの前まで来た。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「あっ、えっと。俺一人だが、部屋にもう一人、連れがいる。食事を持って行きたい」
「分かりました。それでは御一人様分はお持ち帰りで、御一人様はこちらでお食べにということで、よろしいですか?」
「あ、ああ。それでいい」
「それでは、こちらへどうぞ」
給仕の女性に言われるがまま、エリクは食事を注文し、席へ案内された。
案内された席にエリクは座り、給仕が持ってきたメニューの羊皮紙を渡された。
「持ち帰り用の御弁当は、帰りの際にお渡ししますね。こちらで食べる食事は、そのメニューの中から御選び頂けますので、ご注文がお決まりになりましたら、お声掛けくださいませ」
「あ、ああ」
そう言われたエリクは、去っていく給仕の背中を見送りつつ、メニューの内容を読んでみた。
エリクにはメニュー内の文字が、全く読めなかった。
火の光を浴びつつマウル医師も外まで出向き、見送るように二人に礼を述べた。
「ありがとう、魔法使い様。おかげで皆、怪我を治すに至りました」
「いえ。まだ完治ではありませんので、くれぐれも皆様には安静にと、ちゃんと伝えてくださいね。今回の報酬は、明日の夕方に受け取りに来るということで」
「はい、用意してお待ちしております。……やはり、魔法とは凄いですな」
「え?」
「私や息子のように、魔法の才を持たぬ者には、あのように癒すことは不可能ですからな。この歳ながら、改めて思うのですよ。私等のような医者の医学は、やはり魔法には達しえないと」
「そんなことはありません」
マウル医師の魔法を称賛する声と、自身が得てきた医学を卑下する言葉を、アリアは一刀両断するように否定した。
「確かに、魔法は才を持つ者しか行えません。だからこそ、貴方達のような医学を用いる者は、必ず必要なのです」
「……そうですかな?」
「医学は学ぶ事で誰でも得られる、人間が築き上げてきた技術と知識の集合体です。対して魔法とは、一部の才能によって成り立つ不完全な知識と技術。そんなモノが長い年月、人々を支えるモノにはならない。……現に私が赴くまで、彼等を生かし続けたのは、貴方や息子さんの医学です。貴方達という医者がいなければ、彼等は救えなかった。私の才で得ただけの魔法と、マウル医師が持つ医学の知識と技術は、決して優劣を着けるべきモノではありませんよ」
「……ありがとう、魔法使い様。そう言われると、嬉しいものですな」
アリアの持論を聞くマウル医師が、自分達が得てきたモノが、魔法に劣るモノではないと伝えている事に、感謝と共に微笑んで頷いた。
アリアはそれに安心したように微笑み、軽く頭を下げて診療所から離れた。
その後を追うエリクに、マウル医師は軽く声を掛けた。
「お嬢さん、本当に出来た娘さんですな」
「……そうだな」
「貴方達は傭兵だと仰っておりましたが、いつまでこの町に?」
「定期船というのに乗り、南の港まで向かうと、あの子が言っていた」
「そうですか、残念ですな。是非、この町で雇われて欲しいですが……。あれほどの娘さんと御一緒なのだ。他に厚遇される場所は、あるでしょうな」
「そうなのか。……俺は、医学というモノを知らない。だが、あの子の言うように、凄いモノだと思う」
「?」
「俺は、自分が生きる為に殺すことしか習わなかった。だがお前達は、誰かを生かす為にそれを習った。俺にはできない事だからこそ、凄いと思うんだろうか」
「……そうですな。多かれ少なかれ、自分にできない事を羨むのが、人間なのでしょうな」
そうエリクとマウル医師は話し、マウル医師が御辞儀をして下がり、先に歩いていくアリアをエリクは追った。
そして宿に戻ったアリアはベットに倒れ込んだ。
黒い髪が金色に戻り、瞳も青色に戻った途端に、大きな溜息を吐き出したアリアに、エリクは声を掛けた。
「はぁぁああ――……」
「どうしたんだ?」
「体力切れぇ……。魔法を使い過ぎたぁ……」
「魔法は、体力を使うのか?」
「魔法ってのはねぇ、空気中の魔力を魔法師の肉体を触媒にして、『魔法』っていう形に留めてるの……。だから、精神力とか集中力とか体力とか、その他諸々を全部使って、やれるもんなのよぉ……」
「……よく分からないが、凄いんだな」
「あー、ちゃんと説明は後でというか、明日ね。とにかく、私はもう寝るからぁ……」
「メシは食べないのか?」
「あー、うー……。お腹は空いたけどぉ……。食堂行くの、面倒臭いぃ……。エリクぅ、何か持ってきてぇ……」
「俺がか?」
「お願いぃ……。何でもいいからぁ……。財布、私の鞄の中ねぇ……」
「分かった」
アリアに頼まれたエリクは、鞄の中から皮袋と紐で締められた財布を取り出し、そのまま部屋を出て階段を降り、宿屋にある食堂へ赴いた。
流石に北港町で一番大きな宿屋だけあり、広い食堂には宿泊客が入り、給仕の者達が食事を運んで、机でそれを食べている。
エリクは入り口辺りで周囲を見渡し、どうやって食事を頼めばいいか考えていたが、先に給仕の女性がエリクの前まで来た。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「あっ、えっと。俺一人だが、部屋にもう一人、連れがいる。食事を持って行きたい」
「分かりました。それでは御一人様分はお持ち帰りで、御一人様はこちらでお食べにということで、よろしいですか?」
「あ、ああ。それでいい」
「それでは、こちらへどうぞ」
給仕の女性に言われるがまま、エリクは食事を注文し、席へ案内された。
案内された席にエリクは座り、給仕が持ってきたメニューの羊皮紙を渡された。
「持ち帰り用の御弁当は、帰りの際にお渡ししますね。こちらで食べる食事は、そのメニューの中から御選び頂けますので、ご注文がお決まりになりましたら、お声掛けくださいませ」
「あ、ああ」
そう言われたエリクは、去っていく給仕の背中を見送りつつ、メニューの内容を読んでみた。
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