虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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逃亡編 三章:過去の仲間

互いの変化

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 顔合わせを済ませたアリアとエリクは、共に傭兵ギルドから出た所で待っていた赤髪のケイルに声を掛けられた。
 それに対応したのはエリクだ。

「よぉ」

「ケイル。どうしてお前が依頼に加わっているんだ」

「アタシは元々、この場所から離れようと思ってたんだ。それを考えてた時に、ギルド側から声を掛けられた。それに乗ったんだ」

「……皆は知っているのか?」

「知ってるよ。ちゃんとワーグナーからも了承は貰ってる」

「そうか」

「元々、アタシとアンタ達との付き合いも三年程度だろ。腕が立つから入ってた傭兵部隊だ。エリクが抜けた今は、こうやって離れる事もあるさ」

「……俺のせいか」

「違うよ、違う。……まぁ、とにかく。明日からの護衛はちゃんとやってやるから、安心しなよ」

 そうエリクに軽く言うケイルは、横に居るアリアに視線を移した。
 睨む形に近い姿で見つめ合うアリアとケイルの内、先に口を開こうとしたのはアリアだった。

「……ケイルさ――……」

「アタシは、訂正しないからな」

「!」

「アタシにとって。そしてエリクやあいつ等にとって。王国貴族ってのはそういう奴等だったんだ。ポッと出の御嬢様が何を言おうが、貴族って奴の見方も、言葉も訂正するつもりはねぇ」

「……そうですか。なら、私も言う事はありません」

「依頼はちゃんとしてやる。そして大人しくエリクに守られてな。そうすりゃ、生きて南の国に逃げられるだろうさ」

 アリアと言葉を交えたケイルは、そのまま振り返ってエリク達から離れた。
 エリクはアリアが睨むようにケイルを見ているのを見て、何気なく声を掛けた。

「アリア」

「……」

「ケイルは、君と争いたいわけではない」

「……でも、貴族の御嬢様だって甘く見てる。違う?」

「それは……」

「ごめん、分かってはいるの。あの人の言う事は貴族の姿の一端でもある。ううん、王国に限っていえば、あんな貴族が一般的になってるのよね」

「……そうだな」

「だからあの人は、私が話す貴族の在り方を認めてくれない。ちゃんと分かってるから、大丈夫」

「……そうか」

「……お腹空いちゃったわ。何か食べに行きましょう?」

「ああ」

 アリアはドルフとケイルとの話題で調子を下げた様子が見え、心配するエリクはアリアに付いたまま食堂で食事を摂った。
 この旅でアリアの胃袋も多少は丈夫になったのか、調子を落としながらも一人前分を完食したアリアは、予め用意していた残りの買い物分をエリクと共に済ませ、宿に戻って出発の準備をしつつ、風呂と食事をとって休んだ。
 その日もベットで寝る事を強いられたエリクは、横になった状態で天上を眺めていたところに、横で寝ようとしているアリアが声を掛けた。

「――……エリク?」

「なんだ?」

「何か、話をしましょう」

「早めに寝たほうがいいぞ」

「なんだか眠れないの。だから、話をしましょう」

「……そうか」

「何を話しましょうか……」

「俺は、話す事がない」

「そうよね。……じゃあ、私が質問するから、エリクの事を教えて」

「ああ」

 そう提案したアリアは少し考えてから再び目を開け、エリクに対して質問をした。

「エリクの好きな食べ物は?」

「……特に無いな」

「何かあるでしょ?」

「そうだな。……強いて言えば、肉か」

「じゃあ、嫌いな食べ物は?」

「……特に無いな」

「何かあるでしょ」

「そうだな。……樹海で食べた幼虫を齧るのは、始めは苦手だった」

「……思い出させないでよ。私も食べちゃってたんだから……。パールが勧めるから断れなかったし……」

「そ、そうか」

「そうね、次は……。エリクって、恋をしたことある?」

「こい?」

「えっとね……。男が女を好きになる、女が男を好きになる。そういうのを、経験したことある?」

「……よく、分からないな」

「例えば、ケイルさんとか。好きになったことは?」

「……何を、言っているんだ?」

「多分、ケイルさんは、エリクのこと、好きなんだと思うよ」

「!?」

 唐突な話題に驚くエリクは、思わず体を起こしてアリアの方を見た。
 そんなエリクを見つつ、アリアは横になったまま話を続けた。

「ケイルさん、私と初めて話した時に、突っかかって来たでしょ」

「そうなのか?」

「そうなの。あれで一発で分かっちゃった。ケイルさん、エリクの事が好きなんだって」

「……」

「もしかしたら、私達があの依頼を受けた事を知って、ケイルさんは付いてきたのかもね」

「……そうなのか?」

「もしかしたらね。……エリクは、ケイルさんのこと、女性として好きになれそう?」

「……よく、分からない」

「そっか。……ねぇ、エリク」

「なんだ?」

「南の国に行って、追っ手がいなくなったら。……もしケイルさんに旅に誘われたら、一緒に行ってあげて」

「……君は?」

「私は、お邪魔虫になりたくないわ。そのまま南の国に住むか、他のところに旅して、自分が住めそうな場所を探すわ」

「なら、俺も付いて行こう」

「なんでそうなるの?」

「俺は、君に雇われた。だから、雇われ続ける」

「……払えるモノなんて、私に無いわよ?」

「それでも、君に付いて行くと決めた。君が俺の、そして俺が君の面倒を見ると、そう話しただろう」

「……エリク。一時の情に流されて、自分の道を狭めないで」

「一時の、情?」

「エリクが私に拘る必要はないの。ここまで来れたのは、間違いなくエリクの力もあるんだから。……だから、私とエリクがいつか違う道を歩む時、その道を否定しないで」

「……」

 エリクはアリアの言う事が、上手く理解が出来なかった。
 約束したにも関わらずそう話すアリアの言葉は、初めてエリクに矛盾を感じさせた。
 そして胸の内で急に生み出される何かに、エリクは痛みにも似た僅かな感覚を抱いていた。

 必死に次の言葉を考えている内にアリアが寝息を立てて眠っている姿を見て、再び横になったエリクは目を閉じて言葉を呟いた。

「……俺は、君と一緒に旅をしたい」

 聞こえない程の小さな声で、そう呟いたエリクは緊張しつつ睡眠に入った。
 そして朝早くに起きたエリクは、着替えて出発の準備を完全に済ませ、アリアが起きるまでアリアの顔を見ていた。
 エリクの中で、僅かな変化が訪れつつあった。

 そしてアリアが起きた時に、寝顔をじっと見つめているエリクに驚き、枕を勢いよく顔面に投げたのだった。
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