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南国編 一章:マシラ共和国
補う二人
しおりを挟む夕食時に起床したアリアに、エリクが話してケイルを誘って夕食を行う事になった。
アリアとケイルはあの一件での出来事と治療から、僅かにだが良好な関係が築き始めている。
その食事中に、エリクがアリアに聞いてきた。
「アリア」
「ん、どうしたの?」
「俺にも、魔法は使えるか?」
「……どうしたの? 急に」
突然そんな事を聞いてきたエリクに、アリアは驚きながらもフォークとナイフを置いて聞き返した。
「俺は、あの男に負けた」
「ログウェルの事ね」
「ああ。……もし、あの老人のような強さを持つ者がこの大陸にいて、敵対してきたら。俺は君を守れない」
「……だから、魔法を使えるようになりたいの?」
「ああ」
エリクのその言葉にアリアは内心で驚きつつも、考えるように目を閉じて、鼻で溜息を吐きながら考えた。
そうした空気の中で、同じ食卓を囲むケイルがエリクに言った。
「エリク。魔法ってのは才能がある奴しか出来ないよ」
「俺には、魔法の才能が無いのか?」
「アタシも詳しくは分からないけどさ。魔法って何か特殊な事をして才能があるかどうか判別するらしい。でも、それを調べるのも王国じゃ金が要るし、貴族じゃなきゃ魔法使いにはなれなかったさ」
「そうなのか? アリア」
ケイルの話が事実か聞いたエリクに、目を開けたアリアが魔法に関する知識を教えた。
「……厳密に言えば、魔法の才能を確認するのに、特殊な装置が必要なの」
「装置?」
「各種属性魔石を取り入れた解析装置。一種の魔道具ね。それに触れると、魔石を消耗して適合した魔法属性を持つ適正者、つまり魔法を扱える才能を持つ人間を割り出せるのよ」
「それが、高いのか?」
「単純に、作るのが凄く苦労するの。装置の開発と製作には国単位の金額が必要な場合もある」
「そうなのか」
「帝国では、希望者がいれば帝都で検査を受ける事が出来るわ。貴族は強制で、才能があると見出された貴族の子弟は人格的に問題さえ無ければ、強制に近い形で魔法学園に送られて訓練を施される。そして、帝国魔法師として仕事に就いたり、領地の当主となったりするの」
「アリアも、そうだったのか?」
「私の場合、全属性の適性があると判断されてね。二つや三つの属性に適性を持つ魔法師も珍しいのに、八属性の魔法に適性を持つ私に色々確認したいからと、魔法学園側から入学の推薦状が届いたのよ」
「それで入ったのか」
「一応、私は皇子の婚約者だったから選択肢はあったわ。でも息が詰まる実家で嫁ぐまで皇后になる修業をさせられるより、魔法学園で自己鍛錬が出来る方が良かったから、入学したわ」
「そうか。……つまり、その装置がないと、魔法を使えるか確認できないのか」
エリクが話しつつ辿り着いた結論に、気落ちした表情を浮かべた。
そんなエリクを見て、ケイルがアリアに問い掛けた。
「何とかならないのか、アリア」
「……例え適性が有っても、それに応じた適正訓練を数年以上受けないと、まともに魔法が扱えないわよ?」
「エリクがこんな顔するのも珍しいんだ。何とかしてやれないか?」
「うーん……」
ケイルの頼みとエリクの表情を見たアリアが悩みながら考え、そして苦し紛れに近い声を漏らした。
「……南の国の何処かに、帝国と同じ装置があるはずよ。それで検査すれば、適性は分かるかも」
「本当か?」
「そもそも魔法技術と魔法文学の発祥は、人間大陸の中央から流れて伝わったモノよ。南の国にも魔法師がいるなら、私達と同じように魔法適正の検査を何処かでしてるはず」
「そうか。そこで俺も検査を受ければ……」
「後でリックハルトさんに聞いてみましょう。何か知ってるかもしれない」
「ああ、分かった」
「今は食事よ。お腹ペコペコなんだから」
そうして話を一括りに収めたアリアは、再びフォークとナイフを持ってステーキを切り分けて食べた。
ケイルとエリクもそれに習うように食事を行い、その日は夕食を終えてアリア達はケイルと部屋の前で別れた。
そして部屋の中に入ったアリアは、エリクに向けて忠告した。
「エリク、さっきの話だけど」
「魔法の話か?」
「……もしかしたら、だけど。貴方は適正を持ってても、魔法を使えないかもしれないわ」
「!?」
「貴方の体内には、魔族と同様に魔力を生み出す器官が存在してるはず。例え貴方自身に適性があっても、体内に魔力を持つ貴方が、私達ような魔法師と同じように体外の魔力を吸収して、魔法を扱える可能性は低いと思う」
「……俺は、魔法を使えないのか」
「まだ話には続きがあるから、ちゃんと聞いて」
「!」
「だからこそ、貴方に扱えるモノがある。それが貴方の体内に存在して循環している、貴方自身の魔力よ」
アリアは突き付けるようにそれを言った。
その言葉を理解できず、アリアに聞いた。
「どういうことだ?」
「魔族はね、私達が使う『魔法』とは別の、『魔術』と呼ばれるモノを扱うの」
「魔術?」
「魔法も魔術も根本は同じらしいわ。魔力を扱って、それを別の形へと成し創る。貴方は魔法は使えないけど、もしかしたら貴方自身の魔力を使って、魔術を行使する事は出来るかもしれない」
「俺が、魔術を使う……?」
「現に貴方は、無意識に魔力を使って肉体を強めたり治したりしてる。それを無意識にではなく、意識的に切り替えて使えるようになったとしたら。貴方の強さは、もしかしたら今より更に跳ね上がるかも」
「!」
「……エリク。しばらく私が、魔法の訓練方法を教えてあげる」
「魔法の?」
「魔法も魔術も同じモノだとしたら、貴方が魔術を行使する為に必要な方法が、魔法の訓練の中にもあるはず。それを私が貴方に教えるから、自分自身で魔術へ至れるコツを掴んでみて」
「……魔術を使う為の、コツか」
「手っ取り早いのは、魔族に直接聞いて教えてもらうことだけど。南の国に住んでる魔族がいるか分からないし。とにかく、やれるだけの事はやってみましょう」
「ああ、分かった」
エリクはそう納得し、アリアの魔法の訓練を受ける事を受け入れた。
そしてアリア側も提案するように告げた。
「その代わり。エリクも私に戦い方を教えて」
「戦い方を、教える?」
「……悔しいけど、私はユグナリスに負けた、完敗だった。あいつ、この短期間で痩せた上にとんでもなく強くなってた。それがログウェルとの修行の成果だとしたら。……私、凄く悔しい」
「……」
「だから、私も強くならなきゃいけないの。貴方に守られるばかりだけじゃダメ。私自身も強くなって、貴方の負担を少しでも軽くしないと」
「だから、俺に戦い方を教わるのか」
「ええ。言葉で教えなくていい。貴方は体で教えて。具体的な考えは私がする。……魔法の訓練の後か前か。私が本気でエリクに挑む時間を作って、エリクと模擬戦をやるわ。私の動きで悪かった所や、改善すべき点をエリクなりに教えてほしいの。いい?」
「ああ」
「よろしい。それじゃあ明日は、町の外で訓練できる場所を探しましょう。そして南の国に向かいながら、魔法と戦闘の修行よ!」
「分かった」
こうしてエリクとアリアは、自分達に足りないモノを補い合うように求めた。
エリクは魔術を扱う為の訓練を。
アリアは戦闘に必要な技術の向上を。
二人は互いに成長しなければならないと考えていた、似た者同士でもあった。
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