虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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南国編 一章:マシラ共和国

お使いの後

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 宿から出たケイルとエリク、そしてアリアは前日に話した通り、二手に別れた。
 アリアは借家の室内の片付けをする為に下層へ。
 そしてエリクはケイルを伴い、リックハルトが出している中層の支店へと足を運んだ。

 エリクはケイルの案内で、【リックハルト】の看板が出された傭兵ギルド並に大きな店へ出向くと、商店の中には幾つかの商店が各空間で店を出し、食料を始めとして雑貨や様々な家具などを取り扱う店も存在した。
 その店内を眺めていたエリクに、ケイルは軽く説明をした。

「リックハルトは、各商店を取り仕切る大きなマーケットを経営してるんだ。店内の商店は、リックハルト傘下の商店だったり、契約して店内で商う事を許されてる店らしい」

「これは全部、あの商人の店ではないのか?」

「そうそう。リックハルトはなんというか、この支店では支配人みたいなもんなんだよ。でもコネクションは広いし、実際に自分でも商いをして成功させてる、凄い大商家だ」

「そうか。あの商人は、何処だろうな」

「店に居るとは限らないぜ。とりあえず、受付っぽいとこを探して聞いてみようぜ」

「ああ」

 ケイルの提案を受け入れたエリクは、店内で受付をしている場所を探して、数分後に見つけた。
 受付には警備を行う様相の男と共に、身嗜みと化粧を整えた女性受付が構えていた。
 エリク達は見つけた受付に歩み寄り、声を掛けた。

「すまない」

「はい。本日はどのような御用件で御越しでしょうか?」

「俺はエリクという。リックハルトに会いたい」

「……失礼ですが、面会の予約などされていますか?」

「いや、していない」

「それでは、リックハルト様にお会いする事はできません。最低でも一週間前には、面会予約を行って頂きませんと」

「む……」

 受付にリックハルトとの面談を拒否されたエリクは、表情を渋くさせて困った状態になった。
 そんなエリクをフォローする為に、隣に居るケイルが受付の女性に話し掛けた。

「あー、すまんね。アタシ等は二日前に、リックハルトさんを護衛してここまで来た傭兵なんだ。ちょっとその件で、リックハルトさんに通したい話があるんだよ」

「傭兵の方、ですか。失礼ですが、認識票を確認させて頂いても宜しいですか?」

「了解。エリクも認識票を見せろよ」

「あ。ああ」

 ケイルとエリクは鉄の認識票を受付の女性に見せた。
 認識票を確認する女性は静かに眺めつつ、手元にある球形状の魔道具を使って、受付女性が口を開いて言葉を囁いた。

「リックハルト氏に面会希望のお客様が。傭兵の【三等級】ケイル様と、【二等級】エリク様。確認をお願いします。――……しばらくお待ち下さい。確認を取らせて頂きます」

 受付の女性にそう言われて数分待つと、球形状の魔道具が光り、受付女性がそれに顔を近付けて耳を傾けた。
 魔道具から何か声が聞こえると、受付女性は僅かに顔を頷かせつつエリク達の方を見た。
 そして顔を離した後に、エリク達に声を掛けた。

「お待たせしましました。確認を取らせて頂きましたが、確かにリックハルト氏の来訪と共に護衛を行った傭兵の方々だと確認が出来ました。ご用件をもう一度、お伺いさせて頂きます」

「そうかい。出来ればリックハルトさんに直接話したい事なんだけどね。会えないかい?」

「申し訳ありません。リックハルト様は現在、多忙で支店には不在の状態となっていますので」

「そうか。じゃあ、しょうがないか。エリク、あの手紙を渡しておこう」

「ああ」

 エリクは懐からアリアの書いた手紙を出し、受付女性にそれを渡した。
 そしてケイルが補足するように説明した。

「その手紙を、リックハルトさんに渡しておいてくれ。アリアから用があるって一言伝えてくれれば、連絡を取ってくれるだろ」

「分かりました。御連絡先は?」

「傭兵ギルドで構わないよ。出来れば日時を指定して会って話せないかを検討しておいてほしいと、リックハルトさんに伝えておくれ。それじゃあ」

 ケイルはそう言ってエリクを伴い、受付から離れて他の場所へ移動を始めた。
 ケイルのそうした対応を見て、エリクは聞いた。

「あれで良かったのか?」

「ああ。受付にどうこう言ってもしょうがないし、伝言と手紙を渡せただけで十分だろ。後は連絡を待つことにして、アタシ等はアタシ等で必要なモノを買ってアリアの所に行こうぜ」

「そうか。じゃあ、そうしよう」

 ケイルの話にエリクは納得し、アリアに頼まれた幾つかの買い物を済ませ、二人はリックハルトの支店内部を巡った。
 そんな中で立ち止まったケイルが見ている物に、エリクも視線を向けた。

 ケイルが眺めていたのは、白と赤で装飾された薄い布地のドレス。
 まるで貴族のパーティに出るような服が、展示品として飾られていた。
 それを見ているケイルに、エリクは話し掛けた。

「その服がどうしたんだ?」

「あっ、いや。……なんっつぅかさ。女ってどうして、こんなヒラヒラしたもんを着けたがるのかなって」

「ケイルも女だろう?」

「女だけどさ。こういうのはアタシ、似合わないだろ。アリアみたいな御嬢様が着けた方が、華やいで見えるもんだと思うんだ」

「確かに、アリアに合うだろうな」

「だろ。……さぁ、さっさと買い物を済ませようぜ」

 見ていた服から目を背けたケイルは歩き出し、他の場所で頼まれた買い物を済ませようとする。
 それに付いて行くエリクは、後ろからケイルに声を掛けた。

「ケイル」

「なんだよ?」

「あの服を、着たかったのか?」

「ち、違うよ! 何言ってるんだよ、まったく」

「そうか。ケイルにも、似合うと思うぞ」

「えっ!?」

「俺やワーグナーが着るよりは、似合うだろう」

「……あ、うん。そうだな。それなら絶対、アタシの方が似合うな」

「ん、どうしたんだ?」

「……別に、なんでもねぇよ。さぁ、さっさと買い物を済ませるぞ」

「あ、ああ」

 複雑な表情を浮かべるケイルは、やや不機嫌な様子を見せつつ店内を歩いた。
 それを不思議そうに見るエリクも、買った荷物を抱えつつ買い物を続けた。
 二人は昼前には買い物を済ませ、買った物を持って借家へと向かった。

 そして借家に着いた時。
 ケイルとエリクは驚きながら、そこにある見慣れない光景を眺めていた。

「アリア、それは……」

「う、うん。ちょっとした、成り行きでね……?」

 エリクが呟いて聞き、アリアが視線を逸らしつつ事情を話そうとする。

 エリクとケイルが見慣れなかった光景とは、借家の室内にある床に、一人の子供が寝かされていたこと。
 そしてその子供がみすぼらしい格好ながらも、整えられた亜麻色の髪をした、肌の白い少年だったという事だった。

 アリアは二人が居ない間に、子供を拾っていた。
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