虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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南国編 一章:マシラ共和国

亜麻色の髪の少年

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 四歳前後の亜麻色の髪をした少年を、アリアは拾った。
 その経緯を、アリアは掻い摘みながら二人に説明した。

「エリク達と別れた後に、一度お婆ちゃんの所に行って来たのよ。それで身体の方を診てあげてから、この借家の方に向かったのよね」

「……それで?」

「近道できる道はないかなって歩き回ってたら、なんか変な男達が路地裏で動く袋を担いで移動してるのを見つけたの。なにあれと思って見てたらバレちゃって、そいつ等が問答無用で襲ってきたのよ」

「……」

「大丈夫よ。凄く弱かったから。全員無力化させた後に、気になってその荷物を開けたら、この男の子が出て来て……」

「それで、連れて帰ってきたということか?」

「しょうがないでしょ。放って置くにしては幼すぎるし、あちこち怪我だらけで、苦しそうに咳もしてたのよ。とりあえずは事情を聞く為に、回復魔法と解毒魔法、ついでに浄化魔法も掛けて体を少し拭いて、家に連れ戻って様子を見ることにしたの」

「……」

「わ、分かってますよ。余計な厄介事に首を突っ込んじゃってるのは。でも、見捨てられなかったんだもん……」

 顔を背けつつ頬を膨らませて状況を伝えたアリアに、エリクとケイルは溜息を吐き出した。
 状況が状況とはいえ、少し目を離した隙に厄介事に巻き込まれているアリアに、流石の二人も呆れ気味な様子を見せる。
 そんなアリア自身は、幼い子供を掛け布で覆いつつ寝かせた姿を見ながら、エリクとケイルに聞くように尋ねた。

「それで、この子。どうしたら良いと思う?」

「どうしろって言われてもなぁ……」

「このまま役人に引き渡すのは、どうだ?」

 エリクが至極真っ当な意見を告げた後、アリアは悩みつつそれを否定した。

「止めた方がいいと思うわ」

「どうしてだ?」

「役人風の格好をした男と武装した守備兵達が、この子を担ぎ運んでいたから」

「!」

「この国に公然と子供を連れ去っても良いなんて法律は、確か無いはずよね。仮にこの子が国の役人や守備兵が関わる事で連れて行かれてた子供だとしても、コソコソ袋に詰めて連行するなんて普通はありえない。だったら誘拐されたという線が一番色濃いし、このまま役人や守備兵に引き渡すのは得策じゃないわ」

「しかし、どうにかした方がいいだろう」

 続けて放たれるエリクの正論に、アリアは頭を悩ませた。
 見て見ぬ振りで終わらせれば済む話だったモノが、アリアの行動で子供を連れて来てしまい、状況的に国の守備兵が関わるような犯罪に巻き込まれた状況になった。

 この状況の打開策の一つとして、まずアリアが考えていた事を述べた。

「一つ目は、この子の親探しね。この子に名前を聞いて、誘拐された先を見つけてコッソリ戻してあげるの。そして親に今回の事件を教えて対応してもらう。そうすれば私達に波風は立たない」

「二つ目は?」

「二つ目は、この子を拐おうとした犯罪組織を見つけ出して、こっちから強襲する。後顧の憂いは無くしておくのも最善よ」

「そうか」

 アリアとエリクは互いに状況を確認するように話し、今後の方針を決めようとする中で、ケイルがジト目を見せながら心境を吐露した。

「……おい、なんでそういう話の流れになるんだよ。アタシは嫌だからな。そんな子供一人の為に国が関わる犯罪組織一つを潰すとか、割にも合わねぇよ」

「そうよね。……ケイル、今回の事は見なかった事にして、しばらく私達と離れて行動して良いわよ?」

「え?」

「ただ、その代わりに。宿に置いてる私達の荷物を持ってきて欲しいのと、貴方にこの子を探している親元を見つけてほしいの。傭兵ギルドにも顔を出して、子供の誘拐組織の情報が無いかも確認してみて」

「それは良いけど、お前達はどうするんだよ?」

「私とエリクは、しばらくこの家でこの子の様子を見つつ、犯罪組織の強襲に備えるわ。私がこの子を連れて家の中に入ったのは誰にも見られてないから、しばらくは奴等も私を探す為に色々と探り回るはず。でも、私の髪の毛や瞳はこの国では目立つから、異国人の傭兵だってのはすぐに相手も分かるはずよ。ここを嗅ぎ付けるのも、時間の問題かもしれない」

「マジでやり合うのかよ。素直に役人に渡しておさらばしようぜ」

「この子を攫って私を襲って来た守備兵風の格好をした連中は、強さはともかく数はかなり多かった。あれが国の犯罪組織の末端だとしたら、この子を欲している何者かが国の上層部に居るはず。下手をすれば、この国の政府代表者の一人が関わってるのかもしれない。そう最悪を想定して動かないと、私達の足元が掬われちゃうわ」

「……」

「ごめんなさい、今回の件に巻き込んで。でも、まだケイルは私達と正式にチームを組んでいるわけじゃないし、その事実を知ってるのは極少数。私達と組む件を取り消して知らぬ存ぜんを貫き通しても構わないわ。でも、私は助けを求めてたこの子を見捨てたくない。……ケイル、少しだけ協力してくれたら嬉しいわ。エリクも協力して欲しい。お願い」

 そう頼んで頭を下げたアリアに、エリクとケイルは共に溜息を吐き出しながら話した。

「俺は君を守る。それだけだ」

「エリク……」

「……分かったよ。アタシも協力する。でもね、誘拐なんぞやってる犯罪組織とガチでやり合うのは勘弁だからな」

「ケイル、ありがとう。何か分かったら教えてくれるだけでも良いの。お願い」

 こうして、アリアの我がままに沿う形で、二人は子供誘拐の解決に協力をする事になった。
 そして一通りの事が決まった後に、アリアは立ち上がって二人に告げた。

「それじゃあ、室内の片付けをしましょうか」

「え?」

「こんな時にか?」

「あの子が起きない限り、話が進まないんだからしょうがないわ。それに、こんな時だからこそよ。ちゃんと頼んでた物は買ってきた?」

「あ、ああ」

「もう部屋の中は魔法である程度は綺麗にしたから、後は必要最低限の物を置いて家っぽくするわよ。ケイルは宿にある荷物を持って宿を引き払ってきて。リックハルトさんには手紙を渡した?」

「渡したけど、今からか?」

「今から。決まった事は素早く実行するべきってのが、私の生き方の指針なの。さぁ、二人とも動いた動いた!」

 アリアに促されるようにエリクとケイルは動き、それぞれの仕事を開始した。
 エリクは買ってきた物を広げて部屋の各所に物を置き、宿に戻ったケイルは荷物を抱えて借家に戻って来た。
 そうして再開される家の片付けは昼を過ぎ、買ってきた食料で昼食を行った。

「大まかな改装工事はリックハルトさんと相談するとして、とりあえずは寝食が出来る程度には部屋の中を片付けないとね。私とエリクの部屋も決めないと」

「俺は、何処でもいいが?」

「ダメ。ちゃんと自分の意見を持って部屋を決めなさい」

「……それじゃあ、入り口に近い部屋がいい。アリア、君は奥の部屋がいいだろう」

「どうして?」

「何者かが押し入った時に、真っ先に俺の部屋に侵入者は来る。君は押し入られたのに気付いて体勢を整えられるだけの時間が稼げる部屋がいい」

「そうか、そうね。分かったわ。ちなみに、ケイルは住むなら何処の部屋がいい?」

「住まねぇよ、こんな危険地帯」

「じゃあ、安全地帯になったら一緒に住みましょうね」

「なんで頑なに一緒に住まわせようとするんだよ!?」

「だって、私達はまだ仲間よ。一緒に居たほうが楽しいもの」

 そうやって笑いかけるアリアに、ケイルは顔を背けつつ嫌そうな表情を浮かべた。
 そんな二人の会話を見つつ口元を微笑ませたエリクだったが、肉を齧る最中に気配を感じ、視線を横に向けた。

「アリア、起きたぞ」

「!」

 エリクの言葉を聞いたアリアは、食事を中断して立ち上がり、部屋から出て少年を寝かした部屋へ訪れた。

 そしてエリクの言う通り、少年は起きていた。
 急に現れたアリアに驚き、部屋の隅に隠れるように移動しながら、少年は怯えを含んだ視線を見せつつ、身体の震わせていた。
 そんな少年に、アリアは優しく声を掛けた。

「起きたのね、大丈夫?」

「……!!」

「大丈夫よ、私は敵じゃないわ。貴方が連れていかれそうになってた時に見つけたの。貴方達を連れて来ていた男達は、全員倒したわ」

「……」

「ほら、怪我だって治ってるし、息が苦しいのも治ってるでしょ?」

「!」

「私は魔法使いでね。貴方の体を癒したの。大丈夫よ、怯えなくて。私達は、貴方の味方よ」

 少年にゆっくり歩み寄りながら説得するアリアは、後ろから付いてきたエリクとケイルを仲間と紹介しつつ、優しく微笑みかけた。

 少年は自分の体の状態を確認しつつ、本当に怪我や病気が治っている事を自覚し、怯えを含んだ表情が驚きの表情に変化し、目の前に来たアリアに視線を向けた。
 そんな少年に、アリアは続けて話し掛けた。

「私の名前はアリア。後ろのおじさんはエリクで、あっちの赤毛のお姉さんがケイル。それで、貴方の名前は?」

「……」

「何処から来たか覚えてる?」

「……」

「貴方の御両親や、家は何処か覚えてる?」

「……」

 そう聞いたが、少年は口を開いて答えない。
 代わりに首を横に振って答える少年に、アリアは驚きながら聞いた。

「もしかして、喋れないのかしら。言葉は分かる?」

「……」

「そう。言葉は理解してるけど、喋れないのか。怪我は全部治したし、精神的な原因かしら。……文字は書ける?」

「……」

「書けない、か。ちなみに、貴方のお父さんかお母さんが居る場所とか……?」

「……」

 首を横に振った少年に、アリアは万事が休することを察した。
 自分達で事態を動かせない状態となったのだ。

 言葉を話せず文字も書けず、親元の居所さえ分からない少年に対して、アリアは自信を持って答えた。

「うん、分かった。それじゃあ、なんとかして貴方をお父さんとお母さんがいる家まで戻す為に、この私やケイルお姉さんや、この強いエリクおじさんが守ってあげるからね」

「……」

 そう言われた少年は、アリアの後ろに居るエリクに顔を向けた。
 そのエリクを見つめる瞳には怯えが含まれていたが、震えつつも頭を頷かせて少年は守られる事を受け入れた。

 こうした形で、誘拐されたと思しき少年にアリアとエリク、そしてケイルは出会いを果たした。
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