虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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結社編 一章:ルクソード皇国

ルクソード皇国

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 人間大陸の四大国家の一つ、ルクソード皇国。

 四大国家の中では一番若い歴史を持ち、創立したのは三百年ほど前になる。
 五百年前に起きた天変地異で人間大陸の過半数以上の国が滅び、人心は拠り所を失い各大陸に散らばった。
 その集結地としてルクソード皇国の基盤となる寄り合いが発祥とされている。

 主に貴族主義の社会で成り立ちながらも、その貴族達の大部分は正式な血筋ではなく、実力で地位を築く事で貴族に選ばれる。
 武力、知識、金銭など様々な形で実力を示す者達が社会の礎として立つ、実力社会。
 そのルクソード皇国は各地に植民地を設け、僅か三百年で四大国家に名を連ねた。

 ガルミッシュ帝国も、ルクソード皇族の分家が植民した傘下国。
 言わば大元締めとも言うべき本国に、皇族の血筋であるアリアと一行は訪れた。

「……ここが、ルクソード皇国の首都か」

 巨大な城壁が幾重にも並び、道は石畳が敷き詰められ、理路整然とした街並は近代建築技術の高さを物語っている。
 人々の服装も粗末に見える物は無く、市場や商業店舗も数多く存在し、並ぶ品々も手頃な物から手が届かない金額の物まで飾られる煌びやかな光景だった。
 それを見て驚くエリクに、髪の毛を黒に偽装したアリアが話し掛けた。

「そう。ここが四大国家の中では近代技術が最も発展した国。ガルミッシュ帝国の総本山よ」

「全員、貴族のような格好してるな。まさか全員、貴族か?」

「アレは市民にも流通してる服よ。服のデザイナーも多いから、小綺麗で豪華に見えても結構安いのよ。まぁ、この国の物価の話でだけど」

「そうなのか」

 荷車を厩舎に預けて入国した後、ベルグリンド王国やマシラ共和国の比にならない程の輝かしい街並に、エリクは驚きながら周囲を見ていた。
 マギルスも物珍しそうに周囲を見渡している。
 一方で、ケイルは落ち着いた様子を見せていた。

「ケイルは驚かないのね?」

「この国に来たのは初めてじゃねぇからな」

「そうなの?」

「王国の調査をする時に立ち寄ったからな。それにアタシの故郷、この大陸なんだよ」

「えっ!?」

「首都より離れた僻地だったけどな。アタシの姉貴や一族が奴隷に墜ちたのも、この大陸での話だ」

「……ケイル。貴方の一族って、全員が貴方やお姉さんみたいな髪だった?」

「知らねぇよ。なんだよ急に?」

「……」

「黙るなよ。姉貴や親父達の事はもう二十年近く昔の事だし、お前が生まれる前の事なんだから気にしてもしょうがねぇだろ?」

「……そうね。それじゃあ、まずは泊まれる宿を探しましょうか。行くわよ、マギルス!」

「はーい」

 ケイルの話で訝しげな表情を一瞬浮かべたアリアだったが、すぐに宿探しの為に一行を伴って街中に入る。
 物珍しい建物に興味を示すエリクは、歩きながらアリアに聞いた。

「あの透明な壁は、氷なのか?」

「ガラスよ。知らないの?」

「ああ。初めて見た」

「そういえば、帝国にマシラ共和国にもガラス製品は見当たらなかったわね。それほど普及してないのかしら」

「どういうものなんだ?」

「詳しく言っても分からないだろうけど、色んな物を混ぜ合わせて溶かして固めて作る物なの。ああやって窓の形に合わせて嵌めつけたり、装飾品に模ったり、飲み水を入れる器にしたりもするのよ」

「そうか。硬いのか?」

「いいえ。私が思いっきり殴っても割れちゃうくらいだから、柔らかいわ。もしそういうガラス製品を手に取る場合は、扱いに注意してね。金属や木製の物より壊れ易いから」

「分かった」

 珍しくエリクが周囲を見ながら物珍しい視線を見せる中、マギルスも不思議そうにアリアに聞いてきた。

「ねぇねぇ、アリアお姉さん」

「ん?」

「この街、外より暖かいね。それに、壁の内側を何かが覆ってる感じがする。これ何?」

「結界でしょうね。外壁に複数の魔道具を設置して、首都全体を覆うように展開してるのよ。結界の効果で外気が遮断されて、内側の暖かさ滞留してるんでしょうね」

「へぇ。その結界って強いのかな?」

「耐久力の話なら、ここ百年以上は誰にも破られてないらしいわよ」
 
「へー」

「……破ろうとしないでよ?」

「しないよー?」

「本当に止めなさいよね。やったら皇国そのものを敵に回すんだから」

「はーい」

 つまらなそうにするマギルスに溜息を吐き出すアリアは、思い出すように街中を歩き続ける。
 そんな様子を見て、エリクが再び尋ねた。

「アリア、この街に来たことがあるのか?」

「子供の頃に一度だけ。旅行者や外来商人と一緒に市民が往来出来る流民街と、市民の家が多く建ってる市民街。そして貴族以外は立ち入っちゃいけない貴族街もあるの。私達が今いるのは流民街よ」

「そうなのか」

「一応、皇都にはガルミッシュ帝国皇族用の館もあるから、貴族街には絶対に近寄らないわよ」

「バレるからか?」

「そうよ、だから私の髪は偽装してるの。帝国から皇国に要請して私が来たら送り返すように言われてる可能性もあるからね」

「この街に居るのは、危険じゃないか?」

「大丈夫。市民街に入る貴族達は滅多に居ないし、そもそも私が来たのは七歳前後の時だから、私の事を知ってても髪さえ偽装してれば一目では分からないわよ」

「そうか」

 断言するアリアにエリクは頷くが、ケイルは声を細めて忠告した。

「油断すんなよ。それと、今回は騒動を起こすのも関わるのも無しだからな」

「わ、分かってますよぉだ」

「金の方は冬の間は持つだろうが、傭兵ギルドには寄らないようにした方がいい。この間の町で起こした騒動で狙われてるかもしれないからな。宿は偽名で泊まるぞ」

「そうね、そうしましょう」

 ケイルの説得にアリアは応じ、宿のある区画まで歩み続ける。
 その道中、一行が横切る路地へマギルスだけが視線を向けた。
 立ち止まったマギルスに気付き、アリアが声を掛けた。

「マギルス、どうしたのよ?」

「……ううん。なんでもないや」

「?」

「早く宿に行こうよぉ。僕、お腹空いたぁ」

「だったら立ち止まらないでよ」

「はーい」

 マギルスは気付いた事をアリア達に告げず、そのまま宿まで歩いた。
 大きめの宿を見つけて泊まる際、傭兵認識票は提示せずに二人部屋を取ると、男女に分かれて部屋に入って荷物を置き、宿の食堂で夕食を済ませた。

 こうしてルクソード皇国での滞在一日目は、何事も無く終わった。
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