187 / 1,360
結社編 一章:ルクソード皇国
初討伐依頼
しおりを挟む
傭兵ギルドから出たアリア達は、そのまま宿に戻る道へ入った。
その道中、マギルスとエリクが確認し合うように話した。
「エリクおじさん。気付いた?」
「ああ」
「奥に居た人、他の人達と違って人間じゃないね。多分、僕等と同じ魔人かな」
「そうか」
「ゴズヴァールおじさんよりは弱そうだったけど、今のエリクおじさんとなら良い勝負できるかもね」
「そうなのか」
「僕の勘だけどね!」
傭兵ギルド内に魔人が居た事に、エリクとマギルスは気付いていた。
そんな二人の会話を耳にしたアリアは、ケイルに疑問を述べた。
「ケイル。魔人も傭兵ギルドに所属してるの?」
「当たり前だろ。エリクもマギルスも魔人だってのを忘れたのか?」
「魔人の絶対数自体、結構少ないはずよね。マギルスやエリクは例外にしても、こんな頻繁に魔人に会えるものなの?」
「さぁな。そもそも異常な力を見せない限りは、人間の姿をしてても魔人とすら疑われないだろ。普通の人間には、相手が魔人かどうか見分けが付かないワケだからな」
「エリクとマギルスは魔人だから、相手を魔人だと気付いた?」
「そうじゃねぇかな。感覚的なもので、アタシやお前には理解出来ないんだろうけどな」
「なら、相手もエリクとマギルスが魔人だと気付いたわけよね」
「!」
「もし他に魔人が近くに居たとして。エリクとマギルスは魔人だと判別できるし、相手も二人を魔人だと判別できる。そういう意味よね?」
「……何考えてるんだよ、お前」
「魔族の肉体的構造は、魔獣に似通ったものなの。そして魔族の血を引く魔人には、体内に芳醇な魔力を生み出す器官が存在してる」
「それが?」
「魔獣は本来、人間を好んで食べようとはしないわ。飢えてたり、棲み処に入り込んだ敵として危険性を感じたり、人間側から危害を加えられない限りはね。魔獣が人間を食べない大きな理由は、人間の体内には魔力が無いからでもあるの」
「……まさか、お前……」
「斑蛇が進化する為に魔物や魔獣を食べ尽くしたとして。進化した斑蛇は更に進化する為に芳醇な魔力を持つ新たな餌を探すはず。……上級魔獣に進化して繁殖し始めたら、飢えを解消する為に人間を襲う危険性が高くなる。そうなったら手が付けられなくなるわ」
「……やるのかよ? 斑蛇の討伐」
「今から傭兵ギルドが皇国軍に報告しても、迅速な調査を開始して討伐する為の軍備を整えて発見場所に向かうと最低でも三日は掛かる。その間に斑蛇が別の地域に移るかもしれない。それだったら、私達が行ってマギルスとエリクの魔力を餌に、斑蛇を誘き出して討伐した方が速いわ」
「……はぁ……」
「貴方が言ったのよ? 傭兵の仕事を受けておくべきだって。今回はその相手が、危険種指定の魔獣というだけの話よ」
「分かった、やりゃあいいんだろ。でもアタシは、はっきり言って上級魔獣を相手にタイマンできる自信なんて無いからな?」
「そこはほら、私とエリクとマギルスでどうにかするわ。二人共、やれるわね?」
「ああ」
「蛇の魔獣かぁ。僕、それは初めて見るかも。ちょっと楽しみ!」
アリアの言葉に二人は反応すると、ケイルは諦めながらアリアに従った。
全員が同意を見せると、アリアが改めて今回の討伐目的を指定する。
「斑蛇の依頼が出された村は、この皇都から馬車で四日掛かる場所。マギルスの馬なら往復二日で済む場所よ。今から宿に戻って荷物を持って目指しましょう。そして斑蛇を討伐して、討伐依頼を達成するわよ」
「はーい!」
「ああ」
「……ったく、分かったよ」
行動指針を示したアリアに、一同が同意する。
こうして宿に戻った面々は荷物を持ち、宿の部屋を確保したまま厩舎へ向かった。
そこに置いた自分達の荷車に消えていた青馬を出現させて繋ぎ、門を出て目的地へ駆け出した。
新しい耐寒着で寒さを凌ぐ中、ケイルはアリアの方を見て疑問を浮かべた。
「お前、それなんだ? その手に持ってる白いの」
「これ? カイロっていう物で、鉄の粉末が酸化する効能を利用して暖を取る物なの。こうやって手で軽く擦ると鉄の粉末に熱が生じて、温まるのよ」
「そんなもん、いつ買ったんだよ」
「服を買いに行った時に、一緒に売ってあったから買っておいたの。皇国で作られてるだけあって質は良いわよ。皆の分も買ってあるけど、ケイルも使ってみる?」
「まぁ、試しに使うわ」
「エリクは?」
「俺は寒くはない」
「そう。マギルスは?」
「使うー!」
「擦り過ぎるとどんどん熱って包んでる合成布が溶けちゃうから気をつけてね。せいぜい、人肌より温かい程度でね」
アリアは鞄の中から同じ物を二つ取り出し、それぞれに投げ渡す。
ケイルは試しに手の中で擦り、マギルスも真似しながら擦った。
そして数十秒後に効果が現れ、二人は僅かに驚きの表情を浮かべる。
「確かに、温かいな」
「ちょっと熱いや」
「マギルスは擦り過ぎ。暖めれば少しの時間は持続するわよ。服の中に入れてお腹を暖めたり手足が冷たくなるのを防げるから、冬場には最適の物よ」
「……なぁ、アリア」
「なに、ケイル?」
「これ、一個で幾らした?」
「えっ、金貨一枚よ」
「……おい、御嬢様よ。節約って言葉を知ってるか?」
「知ってるわよ。でも冬の旅では必需品なのよ! 荷車では暖も取れないし、移動中はこれで我慢するしかないでしょ!」
「……おい。金の管理はアタシがやるから、お前の財布を渡せ」
「えー、なんでよ!?」
「お前に財布を握らせておくのがヤバイって気付いただけだ。こんなしょうもねぇもんを買い込みやがって……」
「しょうもなく無いわよ! ケイルだって、さっきからずっと擦ってるじゃない!」
「勿体無いから使ってるだけだっての」
「嘘! 実は結構気に入ってるでしょ!?」
「うっせぇ!」
そんな言い争いをする二人を他所に、マギルスが再びアリアに話し掛けた。
「ねぇねぇ、アリアお姉さん。これフーフーしてもどんどん熱くなるんだけど?」
「だから鉄の粉末の酸化を利用して熱を発生させてるって言ってるでしょ。 熱を持った状態で息を吹きかけたら余計に熱くなるのは当たり前よ」
「えー、そもそもサンカってなに?」
「……しまったわ。酸化も知らないのね……」
「むっ。もしかして馬鹿にしてない?」
「してないわよ。しょうがないわね、教えてあげるわ。そういえば最近、エリクの授業も止まってたわね。ついでにしましょうか」
「……そ、そうだったか?」
アリアが思い出したように話す内容に、エリクは僅かに顔を逸らす。
そんな様子を無視して、アリアは指を突きつけながら告げた。
「そうよ。エリクも数字の計算や読み書きはかなり出来るようになったけど、今度は科学の知識も覚えてもらうわよ。良いわね?」
「……そ、それは、君の護衛に必要なのか?」
「必要よ。だから覚えなさい。コレは雇用主としての命令だからね?」
「……わ、分かった」
そうした話になり、マギルスとエリクは目的地に着くまでアリアから科学の知識を教えられた。
エリクは計算や文字の読み書き以上に疑問符を浮かべ、マギルスは面白そうにアリアの話を聞く。
ケイルはそれを横目にしながら荷馬車を動かし、その日は街道を半日ほど駆けて移動し夜に野宿を行った。
次の日の昼前。
一行は斑蛇討伐の依頼が出された村に到着した。
「……今のところは、まだ襲われてないわね」
「だな」
「なーんだ、つまらないなぁ。いっぱい蛇が襲って来てると思ったのに」
「不謹慎なこと言わないでよ」
アリアとケイルが村の様子を確認し、マギルスがつまらなそうに呟く。
村に魔獣被害が遭ったような痕跡は無く、住民も数十名程が見えている。
村の入り口を潜り、荷車から降りたアリア達は村人に尋ね、斑蛇の討伐依頼を出した村長の下へ足を運んだ。
村長は白髪が見える五十代程の男性で、アリア達は傭兵認識票を見せて件の討伐依頼の話をした。
「斑蛇らしき魔物を目撃したというのは、本当でしょうか?」
「ええ、もう一ヶ月近く前ですかねぇ。山に入ったここの者達が『デカイ蛇が山に居る』と言うので、依頼を出したんですわ」
「具体的な特徴を、教えて頂いても?」
「茶色っぽい色の鱗で、黒い斑模様があるとかで。魔物の類じゃねぇかってことでねぇ」
「そうですか。依頼の後に、その斑蛇を目撃した人達は?」
「依頼を出した後は、山には近付かないよう言いましたわ。……ああ、そういえば……」
「そういえば?」
「いやね。随分前から山に居った動物や魔物等の姿が、大蛇を見てからいなくなったみたいなんですわ。少し前までは、畑なんかを狙って来てたんですがね?」
「そうですか。ちなみに、他にもこの近辺で魔物の討伐依頼を出していましたよね? 見かけなくなったのに、依頼は取り下げなかったんですか?」
「依頼を下げるのも金が掛かるんでねぇ。一年ほど経ったら向こうで依頼は取り下げられると聞いてたんで、そのままにしてましたわ」
「ここの領主や皇国軍には、魔物の報告は?」
「したんですがねぇ。冬場の蛇ならもう冬眠に入るだろうて、討伐は動き始める春先で良いだろうと、見送られてしまったんですわ」
「そうですか。……分かりました。貴重な情報、ありがとうございます」
「いえいえ。娘さん等も無理せずに気をつけてくださいねぇ。幸い、村にある薪や食糧も春まで余裕はあるんで。……というか、子供連れの娘さん等で、本当に魔物を倒すんですかね?」
「はい。私達、こう見えても強いんですよ」
そう微笑みながらアリアは村長との話を終え、四名で情報の整理と擦り合わせをした。
「私の推察通り、やっぱり斑蛇は山に篭って進化と繁殖の為に力を蓄えてるわね。しかも、悪い方向に皇国側も情報を受け取って楽観的になってる」
「どうする?」
「今日は休んで……と言いたいところだけど、斑蛇がどのくらい成長してるのか分からない。移動したり繁殖し始める前に、討伐をした方が良いでしょうね。既にいなくても、移動したという情報自体も欲しいわ」
「じゃあ、今から行くのか?」
「ええ。皆、体調の方はどう?」
「平気だ」
「大丈夫ー!」
「問題ねぇよ」
「それじゃあ、今から山に入りましょう。目標は山の深部。そこを斑蛇は根城にしてるわ」
話し合いを終えた一行は荷車を置いて必要な荷物を持ち、森が見える山へ入った。
目指すはその深部。
そしてそこに棲む魔獣として進化を試みる斑蛇の討伐。
アリア達にとって初めての魔獣討伐依頼が、開始された。
その道中、マギルスとエリクが確認し合うように話した。
「エリクおじさん。気付いた?」
「ああ」
「奥に居た人、他の人達と違って人間じゃないね。多分、僕等と同じ魔人かな」
「そうか」
「ゴズヴァールおじさんよりは弱そうだったけど、今のエリクおじさんとなら良い勝負できるかもね」
「そうなのか」
「僕の勘だけどね!」
傭兵ギルド内に魔人が居た事に、エリクとマギルスは気付いていた。
そんな二人の会話を耳にしたアリアは、ケイルに疑問を述べた。
「ケイル。魔人も傭兵ギルドに所属してるの?」
「当たり前だろ。エリクもマギルスも魔人だってのを忘れたのか?」
「魔人の絶対数自体、結構少ないはずよね。マギルスやエリクは例外にしても、こんな頻繁に魔人に会えるものなの?」
「さぁな。そもそも異常な力を見せない限りは、人間の姿をしてても魔人とすら疑われないだろ。普通の人間には、相手が魔人かどうか見分けが付かないワケだからな」
「エリクとマギルスは魔人だから、相手を魔人だと気付いた?」
「そうじゃねぇかな。感覚的なもので、アタシやお前には理解出来ないんだろうけどな」
「なら、相手もエリクとマギルスが魔人だと気付いたわけよね」
「!」
「もし他に魔人が近くに居たとして。エリクとマギルスは魔人だと判別できるし、相手も二人を魔人だと判別できる。そういう意味よね?」
「……何考えてるんだよ、お前」
「魔族の肉体的構造は、魔獣に似通ったものなの。そして魔族の血を引く魔人には、体内に芳醇な魔力を生み出す器官が存在してる」
「それが?」
「魔獣は本来、人間を好んで食べようとはしないわ。飢えてたり、棲み処に入り込んだ敵として危険性を感じたり、人間側から危害を加えられない限りはね。魔獣が人間を食べない大きな理由は、人間の体内には魔力が無いからでもあるの」
「……まさか、お前……」
「斑蛇が進化する為に魔物や魔獣を食べ尽くしたとして。進化した斑蛇は更に進化する為に芳醇な魔力を持つ新たな餌を探すはず。……上級魔獣に進化して繁殖し始めたら、飢えを解消する為に人間を襲う危険性が高くなる。そうなったら手が付けられなくなるわ」
「……やるのかよ? 斑蛇の討伐」
「今から傭兵ギルドが皇国軍に報告しても、迅速な調査を開始して討伐する為の軍備を整えて発見場所に向かうと最低でも三日は掛かる。その間に斑蛇が別の地域に移るかもしれない。それだったら、私達が行ってマギルスとエリクの魔力を餌に、斑蛇を誘き出して討伐した方が速いわ」
「……はぁ……」
「貴方が言ったのよ? 傭兵の仕事を受けておくべきだって。今回はその相手が、危険種指定の魔獣というだけの話よ」
「分かった、やりゃあいいんだろ。でもアタシは、はっきり言って上級魔獣を相手にタイマンできる自信なんて無いからな?」
「そこはほら、私とエリクとマギルスでどうにかするわ。二人共、やれるわね?」
「ああ」
「蛇の魔獣かぁ。僕、それは初めて見るかも。ちょっと楽しみ!」
アリアの言葉に二人は反応すると、ケイルは諦めながらアリアに従った。
全員が同意を見せると、アリアが改めて今回の討伐目的を指定する。
「斑蛇の依頼が出された村は、この皇都から馬車で四日掛かる場所。マギルスの馬なら往復二日で済む場所よ。今から宿に戻って荷物を持って目指しましょう。そして斑蛇を討伐して、討伐依頼を達成するわよ」
「はーい!」
「ああ」
「……ったく、分かったよ」
行動指針を示したアリアに、一同が同意する。
こうして宿に戻った面々は荷物を持ち、宿の部屋を確保したまま厩舎へ向かった。
そこに置いた自分達の荷車に消えていた青馬を出現させて繋ぎ、門を出て目的地へ駆け出した。
新しい耐寒着で寒さを凌ぐ中、ケイルはアリアの方を見て疑問を浮かべた。
「お前、それなんだ? その手に持ってる白いの」
「これ? カイロっていう物で、鉄の粉末が酸化する効能を利用して暖を取る物なの。こうやって手で軽く擦ると鉄の粉末に熱が生じて、温まるのよ」
「そんなもん、いつ買ったんだよ」
「服を買いに行った時に、一緒に売ってあったから買っておいたの。皇国で作られてるだけあって質は良いわよ。皆の分も買ってあるけど、ケイルも使ってみる?」
「まぁ、試しに使うわ」
「エリクは?」
「俺は寒くはない」
「そう。マギルスは?」
「使うー!」
「擦り過ぎるとどんどん熱って包んでる合成布が溶けちゃうから気をつけてね。せいぜい、人肌より温かい程度でね」
アリアは鞄の中から同じ物を二つ取り出し、それぞれに投げ渡す。
ケイルは試しに手の中で擦り、マギルスも真似しながら擦った。
そして数十秒後に効果が現れ、二人は僅かに驚きの表情を浮かべる。
「確かに、温かいな」
「ちょっと熱いや」
「マギルスは擦り過ぎ。暖めれば少しの時間は持続するわよ。服の中に入れてお腹を暖めたり手足が冷たくなるのを防げるから、冬場には最適の物よ」
「……なぁ、アリア」
「なに、ケイル?」
「これ、一個で幾らした?」
「えっ、金貨一枚よ」
「……おい、御嬢様よ。節約って言葉を知ってるか?」
「知ってるわよ。でも冬の旅では必需品なのよ! 荷車では暖も取れないし、移動中はこれで我慢するしかないでしょ!」
「……おい。金の管理はアタシがやるから、お前の財布を渡せ」
「えー、なんでよ!?」
「お前に財布を握らせておくのがヤバイって気付いただけだ。こんなしょうもねぇもんを買い込みやがって……」
「しょうもなく無いわよ! ケイルだって、さっきからずっと擦ってるじゃない!」
「勿体無いから使ってるだけだっての」
「嘘! 実は結構気に入ってるでしょ!?」
「うっせぇ!」
そんな言い争いをする二人を他所に、マギルスが再びアリアに話し掛けた。
「ねぇねぇ、アリアお姉さん。これフーフーしてもどんどん熱くなるんだけど?」
「だから鉄の粉末の酸化を利用して熱を発生させてるって言ってるでしょ。 熱を持った状態で息を吹きかけたら余計に熱くなるのは当たり前よ」
「えー、そもそもサンカってなに?」
「……しまったわ。酸化も知らないのね……」
「むっ。もしかして馬鹿にしてない?」
「してないわよ。しょうがないわね、教えてあげるわ。そういえば最近、エリクの授業も止まってたわね。ついでにしましょうか」
「……そ、そうだったか?」
アリアが思い出したように話す内容に、エリクは僅かに顔を逸らす。
そんな様子を無視して、アリアは指を突きつけながら告げた。
「そうよ。エリクも数字の計算や読み書きはかなり出来るようになったけど、今度は科学の知識も覚えてもらうわよ。良いわね?」
「……そ、それは、君の護衛に必要なのか?」
「必要よ。だから覚えなさい。コレは雇用主としての命令だからね?」
「……わ、分かった」
そうした話になり、マギルスとエリクは目的地に着くまでアリアから科学の知識を教えられた。
エリクは計算や文字の読み書き以上に疑問符を浮かべ、マギルスは面白そうにアリアの話を聞く。
ケイルはそれを横目にしながら荷馬車を動かし、その日は街道を半日ほど駆けて移動し夜に野宿を行った。
次の日の昼前。
一行は斑蛇討伐の依頼が出された村に到着した。
「……今のところは、まだ襲われてないわね」
「だな」
「なーんだ、つまらないなぁ。いっぱい蛇が襲って来てると思ったのに」
「不謹慎なこと言わないでよ」
アリアとケイルが村の様子を確認し、マギルスがつまらなそうに呟く。
村に魔獣被害が遭ったような痕跡は無く、住民も数十名程が見えている。
村の入り口を潜り、荷車から降りたアリア達は村人に尋ね、斑蛇の討伐依頼を出した村長の下へ足を運んだ。
村長は白髪が見える五十代程の男性で、アリア達は傭兵認識票を見せて件の討伐依頼の話をした。
「斑蛇らしき魔物を目撃したというのは、本当でしょうか?」
「ええ、もう一ヶ月近く前ですかねぇ。山に入ったここの者達が『デカイ蛇が山に居る』と言うので、依頼を出したんですわ」
「具体的な特徴を、教えて頂いても?」
「茶色っぽい色の鱗で、黒い斑模様があるとかで。魔物の類じゃねぇかってことでねぇ」
「そうですか。依頼の後に、その斑蛇を目撃した人達は?」
「依頼を出した後は、山には近付かないよう言いましたわ。……ああ、そういえば……」
「そういえば?」
「いやね。随分前から山に居った動物や魔物等の姿が、大蛇を見てからいなくなったみたいなんですわ。少し前までは、畑なんかを狙って来てたんですがね?」
「そうですか。ちなみに、他にもこの近辺で魔物の討伐依頼を出していましたよね? 見かけなくなったのに、依頼は取り下げなかったんですか?」
「依頼を下げるのも金が掛かるんでねぇ。一年ほど経ったら向こうで依頼は取り下げられると聞いてたんで、そのままにしてましたわ」
「ここの領主や皇国軍には、魔物の報告は?」
「したんですがねぇ。冬場の蛇ならもう冬眠に入るだろうて、討伐は動き始める春先で良いだろうと、見送られてしまったんですわ」
「そうですか。……分かりました。貴重な情報、ありがとうございます」
「いえいえ。娘さん等も無理せずに気をつけてくださいねぇ。幸い、村にある薪や食糧も春まで余裕はあるんで。……というか、子供連れの娘さん等で、本当に魔物を倒すんですかね?」
「はい。私達、こう見えても強いんですよ」
そう微笑みながらアリアは村長との話を終え、四名で情報の整理と擦り合わせをした。
「私の推察通り、やっぱり斑蛇は山に篭って進化と繁殖の為に力を蓄えてるわね。しかも、悪い方向に皇国側も情報を受け取って楽観的になってる」
「どうする?」
「今日は休んで……と言いたいところだけど、斑蛇がどのくらい成長してるのか分からない。移動したり繁殖し始める前に、討伐をした方が良いでしょうね。既にいなくても、移動したという情報自体も欲しいわ」
「じゃあ、今から行くのか?」
「ええ。皆、体調の方はどう?」
「平気だ」
「大丈夫ー!」
「問題ねぇよ」
「それじゃあ、今から山に入りましょう。目標は山の深部。そこを斑蛇は根城にしてるわ」
話し合いを終えた一行は荷車を置いて必要な荷物を持ち、森が見える山へ入った。
目指すはその深部。
そしてそこに棲む魔獣として進化を試みる斑蛇の討伐。
アリア達にとって初めての魔獣討伐依頼が、開始された。
8
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!
心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。
これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。
ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。
気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた!
これは?ドラゴン?
僕はドラゴンだったのか?!
自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。
しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって?
この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。
※派手なバトルやグロい表現はありません。
※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。
※なろうでも公開しています。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる