虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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結社編 二章:神の研究

奴隷の少女

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 エリクは研究施設への侵入を成功させた。
 その一区画では培養液漬けにされた魔物や魔獣、更には合成魔獣も発見する。
 更に奥へ侵入したエリクが発見したのは、牢獄に捕らわれた黒髪の少女だった。

「……子供か?」

 鉄扉の小窓から粗末なベットで横たわる少女を見て、エリクはどうするかを考える。
 アリアを発見できず、証拠となる物は発見しても持ち帰れる規模の物は無い。
 侵入してから行き詰っていたエリクは、閉じ込められている少女に声を掛けた。

「おい」

「……」

「おい、生きているか?」

「……っ」

 何度か呼び掛けると、少女は反応して起き上がり、小窓から覗くエリクと視線が合う。
 黒髪と黒い瞳を持つ少女が、呟くように聞いた。

「……誰?」

「それは俺が聞きたい。……お前は誰だ? どうしてここにいる?」

「ここに、連れて来られたから……」

「……誘拐されたのか?」

「分からない……。……マギルスを待ってたら……」

「!?」

 少女の口から聞き覚えがある名前が呟かれ、エリクは驚きの表情を浮かべる。
 その中で初めて、エリクは目の前に居る少女が自分の知る少女だと認識した。

「お前、マギルスが盗んだという奴隷か?」

「……おじさん。マギルスを知ってるの?」

「ああ。どうしてマギルスが盗んだ奴隷が、ここにいる?」

「盗んでないよ」

「!」

「マギルスは、私を助けてくれたの」

「……どういうことだ?」

「私、お店の部屋で寝てたの。そうしたら変な人達が現れて、私を連れて行こうとして……」

「……」

「そうしたら、マギルスが窓から私を助けてくれて……。一緒に逃げてたけど、契約書の話をしたら取ってくるって、隠れてる所からマギルスが出て行って、戻って来たと思ったら違う人で……」

「……少し、分かってきた。そういうことか」

 少女の話を聞き、マギルスが今まで起こしていた不可解な行動をエリクは理解する。

 マギルスは何かしらの因果で奴隷の少女と出会い、盗み出されようとした少女を救う為に奴隷商の店へ窓から侵入した。
 そして少女を連れ出したマギルスは何処かで身を潜め、少女を解放する為に必要な奴隷契約書が保管されていた傭兵ギルドを襲った。
 しかしその最中、少女は別の何者かに誘拐されここに連れて来られて囚われの身となる。

 そこまで察して考えた時、エリクは疑問に思う。
 それを確認する為にエリクは少女に小窓越しで問い質した。

「……質問がある」

「?」

「奴隷の契約書の事を、マギルスに話したか?」

「うん。私の契約書が、お店の金庫にあるって教えた」

「……店にあると言ったのか?」

「うん」

「……」

 少女に問い質した際、エリクは疑問を深める。
 マギルスが少女を解放する為に契約書を盗み出すのなら、それが保管されている奴隷商の店を再び襲うのが当然だろう。
 しかし少女の奴隷契約書は、奴隷商の店ではなく傭兵ギルドに預けられており、それを知る人物も傭兵ギルドと奴隷商、そして奴隷商から聞き出した自分達だけ。

 そう考えた時、マギルスが奴隷商の店を襲わずに傭兵ギルドを襲った理由に説明が付かない事を、エリクは考える。

「……」
 
 考えても分からない事に対する思考を止めたエリクは、目の前に問題に意識を切り替えてどうするかを悩んだ。
 エリクが潜入したのはアリアを奪還する為であり、その目的を果たす前に誘拐された奴隷の少女を発見してしまうのはエリクの予想の範疇に無い。

 このまま奴隷の少女を連れて行くか、それとも放置するか。
 その決断を迫られた時、エリクはアリアの事を思い出し、こういう時にどうするだろうかと考え、結論を出した後に少女に尋ねた。

「ここから出たいか?」

「……出してくれるの?」

「ああ。だが、俺もここまで来た目的がある。それが済めば外に出る。それまで邪魔せず、大人しくすると約束できるか?」

「……うん」

「分かった。ドアから離れて、壁際に寄っておけ」

 エリクはそう忠告すると、言われた通りに少女は部屋の奥に移動する。
 そしてエリクは鉄扉を数度で蹴破り、驚く少女に話し掛けた。

「行くぞ」

「は、はい」

「……聞いておく。もう一人、ここでで金髪の女が捕まっていなかったか?」

「ううん。ここにいたのは、わたしだけ」

「……そうか」

「でも……」

「?」

「私を連れて来た人達が言ってた。少し前に、ここに女の人を運んだって」

「!」

「前みたいに大事に運ばなくてもいいから楽だって、そう言ってた」

「……その場所が何処か、知っているか?」

「知らない。でも私を閉じ込める時に、上の階にある牢屋ほうでいいのかって話してた」

「……だとすると、更に牢屋が地下にあるということか」

「多分。……おじさん、その女の人を探してるの?」

「ああ」

 少女の話を聞き、ここにアリアが連れて来られたのだとエリクは確信する。
 それを聞いた後に縛った見張りを牢獄へ放り投げて閉じ込めると、エリクは少女を抱えた。

「しっかり掴まっていろ」

「うん」

 少女はエリクの胸に抱かれて服にしがみ付き、エリクは地下へ降りる場所を探す。
 人の気配が増え始めた事を察したエリクは、細心の注意を払いながら物陰に隠れつつ更に奥へと足を運んだ。

 しかし地下に近付けば近付く程に警備兵が増えていき、どうしても通過が必要な場所に警備兵が居れば、エリクは躊躇せず奇襲して気絶させる。
 そうして地下への階段を発見した直後、施設内にサイレンが鳴り響いた。

「!!」

「おじさん、この音……」

「……気付かれたか」

 サイレンの音が響くと、その階に居た者達の気配が変わる。
 そして何かを探すような複数人の声が聞こえ始めると、エリクは少女を抱えたまま一気に駆け下りた。

「おじさん、後ろから……」

「分かっている」

 階段を駆け下りて通路を走り抜けるエリクと抱えられた少女は、来た階段から複数の足音が鳴るのに気付く。
 侵入者である自分エリクがこの場所を通った事に気付かれ、追跡が開始された知らせとなる。
 そしてエリクは走りながら少女に呼び掛けた。

「このまま一気に地下まで走り抜ける。場合によっては戦闘をする。その時は、俺からすぐ降りて隠れろ」

「は、はい」

「……来たぞ」

 エリクが前方の通路を走る中、向かい側の通路から警備兵が立ち塞がる。
 狭い通路で長さのある武器が使用出来ない代わりに、警備兵は長さ一メートル前後の棒状の何かを構えた。

 警備兵が持っていたのは人間大陸の国家条約で使用禁止とされている、『銃』という武器だった。
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