虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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結社編 二章:神の研究

消息の行方

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「誰がこんな化物になんかなりたいと思うかよ、馬鹿が!!」

「!?」

 合成魔人キメラとなり、訓練兵達を救う為の選択肢をグラドは拒否した。
 その返事に訓練兵の中に絶望にも似た表情が見えたが、グラドはザルツヘルムの言葉そのものを更に否定する。

「俺がイエスと言っても、口封じに訓練兵《うしろ》の連中を始末するつもりだろ! それとも、良くてそいつ等みたいに意思の無い化物に成り下がるかだな!」

「!?」

「戦ってりゃ分かる。キメラっつったか? 動きは確かに速くて力も強いが、どうも人間や魔獣と違って動きが硬くて攻撃や回避が単調だ。まるでホルツヴァーグ魔導国で造られてるゴーレムみてぇな動き方だぜ!」

「……!?」

「そのキメラになってる連中に自分の意思なんて無いんだろ! 大方、魔道具を身体に埋め込んで誰かが操縦してるって感じか!」

『……』

「おい、お前等! このまま死ぬのと化物人形にされるの、どっちがいい!?」

「……ッ」

「俺は、意思の無い化物人形に成り下がるのは死んでもごめんだぜ!」

 力強く拒絶するグラドの言葉に、訓練兵の誰もが反応できない。
 生き残りはするが意思の無い化け物にされるか、このまま死ぬかという二択を選ばされれば、誰もが沈黙を貫くしかない。

 拒否したグラドに向けられる反感が完全に失せた訓練兵達は、僅かに見えた希望が消えて絶望に打ちひしがれる。
 そんな訓練兵達を無視するように、グラドは再び斧槍と短剣を構えた。

「……すまん、カーラ。……ヒューイ、ヴィータ。父ちゃん、戻れそうにねぇわ」

 残してきた家族を思い浮かべて謝るグラドは、覚悟の目を宿す。
 そして沈黙していたザルツヘルムが落胆の声を漏らした。

『――……グラド訓練兵、君には失望したよ。君なら、我々の良き兵士になれただろうに』

「テメェの言ってる兵士ってのは、都合の良い人形のことだろうが!」

『そうだ。力の無い者達が強く生まれ変わり、国を守護する立派な兵士となる。その為ならば、意思の無い人形と成り果てても文句は無いだろう』

「兵士ってのは、後ろに守るモンを持つから戦えるんだよ!! 俺達みたいな傭兵は、戦争になったらそういう連中を相手にして戦うんだ。守るモンの為に戦う奴の意志と執念が、俺達みたい根なし草の傭兵には一番怖かったんだぜ!」

『フ……。戦いは意志では無く、質で行うのだ。意思や執念が戦いの結果に左右などされない。個々の戦力が高ければ高いほど、圧倒的な勝利を掴める』

「それをやれるのが、コイツ等ってワケか?」

『ああ、彼等は素晴らしい兵士になるだろう。皇国の未来と繁栄を担う、完璧な兵士にね』

 自信を持ってそう告げるザルツヘルムの言葉に、訓練兵達は困惑にも似た憤りを見せる。
 しかし逆に、グラドは豪快に笑った。

「ガッハッハッ!! ……なんだ、面は良さそうだったが、意外と頭の悪い馬鹿だったんだな? 師団長さんよ」

『……なに?』

「俺達みたいな練度の低い連中相手に散々と手こずって、三体も倒されるような奴等が完璧な兵士? 思わず笑っちまったぜ。なんかの冗談か?」

『……君こそ馬鹿じゃないか? 今回は対人試験だと言っただろう。性能実験として君達を相手に手加減していたのが、分からなかったようだね?』

「さっき自分で言ってたろうが。三体も倒されたのは予想外だってな。一ヶ月そこらしか訓練してねぇ兵士見習い相手に、手加減して予想外にも三体やられた? これが完璧な兵士だとか抜かすテメェは、馬鹿じゃねぇかって聞いてるんだ!」

『……』

「こんな馬鹿が師団長で、しかもこんな出来損ないの人形を完璧な兵士なんて言ってるような連中の底も知れるよなぁ、訓練兵同志諸君! ガハハハッ!!」

「……ハ、ハハッ……」

 そう言い放つグラドの言葉に、訓練兵達は疲弊しながらも笑いが込み上げる。

 完璧な兵士と呼ばれる合成魔人キメラが、一ヶ月そこ等の訓練兵に苦戦して三体も屠られる。
 当事者である訓練兵達はグラドの話で今の状況を理解し、自分達が行った成果がザルツヘルムの思惑から大きく離れていた事を察した。

 その笑いが起こる場に、ザルツヘルムが低い怒鳴り声を響かせた。

『……貴様等』

「ほれ、馬鹿な師団長様が図星を突かれて怒ってるぜ。次はどんな馬鹿を聞かせてくれるんだ?」

『……いいだろう。お前達は一思いには殺さん。苦しみ痛めつけながら殺してやる』

「なんだなんだ。だったら人形なんかに相手させずに、自分の手で俺等を殺しに来いよ。それとも、馬鹿で臆病な師団長様は自分が殺されるのが怖くて出て来れないんでちゅかねぇ?」

 グラドは言葉と行動でザルツヘルムを挑発する。
 この状況が絶望的であり対抗すべき手段が限られるが、短気を起こしたザルツヘルムが仮にこの場に現れるのなら、それこそ脱出できる絶好の機会となる。
 やけくそ気味ながらも一縷の望みとして挑発するグラドだったが、ザルツヘルムはそれを激怒したのか無視したのか反応を見せず、別の誰かに話し掛けた。

『……おい、例の験体を出せ』

「……?」

『――……構わん、奴の性能実験は既に終了している。用が済めば処分して構わない』

「……なんだ……?」

 それから数分間、合成魔人は動かずザルツヘルムも声を聞かせない。
 今の内に態勢を整えさせ手持ちの武器と戦える気力が残っている人員に構えさせ、負傷者を円陣の中に下げたグラド達は、再び響くザルツヘルムの声を聞いた。

『――……グラド。君は彼のことを良く知っているだろう?』

「……何の話だ?」

『彼は一年程前にここに連れて来た験体でね。合成魔人キメラの細胞を移植する際に貴重な実験データを取らせてもらった』

「一年前……? ……おい、まさか!?」

『さぁ、旧知との再会を喜ぶといい。元一等級傭兵グラド』

 その声が発せられた瞬間、グラド達の位置から正面の鉄扉が開かれる。
 そこから出てきた異形の怪物が開きかけの鉄扉を強引に手を差し挟んで抉じ開けた。

 手は巨大であり、その身体も巨大。
 潜る鉄扉に引っ掛かりながらも強引に入り込む全長で十メートル前後はあるだろうその巨体が、グラドと訓練兵達を見下ろした。 

「嘘だろ……」

 グラドは異形の巨人を見て驚愕を漏らす。
 その巨体に驚いたのではなく、グラドは巨体の顔となる部分を見て固まった。
 驚愕するグラドに後ろの元傭兵が話し掛ける。
 彼もその人物の顔を知っていた。

「グラド、アレは……もしかして……!?」

「……傭兵ギルドの、前のマスターだ……」

 バンデラスの前任者だった傭兵ギルドマスター。
 一年程前に消息を立ち、行方が捜されながらも捜索が中断され人物。

 彼が消息を断った理由が、思わぬ形でグラドに明かされた瞬間だった。 
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