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結社編 三章:神の兵士
青を破る炎
しおりを挟む場面は、結界内で秘術を発動させたガンダルフがアリアと共に光を帯びた瞬間に戻る。
秘術の発動を止められず光に覆われる二人を、シルエスカは苦々しい思いと表情を見つめる。
アリアは約定を守りランヴァルディアの暴走を止めたにも関わらず、自身はガンダルフの野望を止めなかった後悔がシルエスカを苦しめた。
しかし、発光から数秒にも満たない間に不可解な事態が発生する。
結界内の二人が別々の光を肉体に宿し、反発するように離れた。
そしてアリアは投げ出されるように倒れ、ガンダルフは錫杖を手から離して地面へ倒れる。
そんな二人に驚くシルエスカは、表情を強張らせ睨むようにアリアを見るガンダルフに気付いた。
「――……クソッ、クソッ!! せっかくの身体を、このような形で……ッ!!」
錫杖を握り直したガンダルフは立ち上がり、アリアを睨みながら杖の高く上げる。
それが魔法を発動させる動作だと気付いたシルエスカは、不可解ながらもアリアを救う為に駆け出した。
アリアの肉体を手に入れようとしていたはずのガンダルフが、その身体を傷つける意思で攻撃魔法を発動させようとする。
しかし錫杖の先が地面へ着くより先に、別の人物が行動を起こしてガンダルフを止めた。
「ガァアアアッ!!」
「!?」
ガンダルフを襲ったのは、大剣で攻撃を加えようとする人間の姿をしたエリク。
氷塊がシルエスカの炎で解凍され、幾らかの氷を振り払い自身で抜け出しながらガンダルフに襲い掛かった。
ガンダルフが張る結界が大剣に触れ、瞬く間に氷膜を生成してエリクを再び凍らせる。
再び凍結されそうになるエリクは、森の賢人を焼き払った時と同様に大剣に炎を発生させると、ガンダルフの氷結を止めた。
「……何故、炎が凍らない……!?」
ガンダルフが驚くのは、シルエスカの時のように炎が凍らせられないという事態が起こった為。
魔力で生み出した炎を氷へと変換する方法を使いながらも、エリクの生み出した炎をガンダルフは氷へと変換できなかった。
「……そうか!! これは魔法ではなく、魔術……!?」
エリクの炎がシルエスカの炎と同じように凍らせる事が出来ない理由を、ガンダルフは一瞬で理解する。
シルエスカの炎は、空気中の魔力を利用し基礎構築式を用いた魔法で生み出した炎。
それであれば、同じ基礎構築式を用いるガンダルフが炎を氷に変換する事もできる。
しかしエリクの炎は自然の魔力ではなく、エリク自身が体内に持つ魔力で生成して生み出された炎。
これは魔族が用いる魔術であり、大気に含まれる魔力と生物的に生み出される魔力の法則は大きく違う為に、ガンダルフはエリクが生み出す魔力の炎を操る事が出来なかった。
以前にアリアがエリクの重傷を回復魔法で治癒出来なかった理由も、体内にあるエリクが生み出す魔力と自然の魔力の法則性が違う為である。
その驚きが隙と時間を生み出し、エリクは両腕に力を込めて炎を纏う大剣を再び振り上げた。
そして二度目に触れた時、ガンダルフの身を守る結界が打ち砕かれる。
「な――……!?」
「ガ、ァアッ!!」
結界が破壊されるという予想外の事態に驚くガンダルフを、エリクの大剣が襲う。
それを錫杖で防ぎ受け流したガンダルフだったが、その衝撃で杖を持つ右腕が折れてしまった。
凄まじい力を発揮するエリクの攻撃は、ガンダルフに対して更に続ける。
それを回避する為にガンダルフは折れた右腕の手を動かして錫杖の先を地面に着け、地面から突き出す氷の杭をエリクへ刺し向けた。
しかしエリクは周囲の地面ごと大剣で薙ぎ払い、突き出る氷の杭を先に砕き割ってしまった。
「先に、儂の杭を……!?」
ガンダルフはエリクの対応力の高さに驚き、迎撃が不可能だと即座に判断すると水溜りのある場所まで後退する。
それを追うエリクは大剣を振り上げ、ガンダルフの脳天を狙い上段から振り下ろした。
しかし次の瞬間、ガンダルフの肉体が水溜りの中に吸い込まれ、エリクの大剣は地面へと激突するだけに留まる。
「……!!」
エリクはガンダルフの消失に気付き、周囲を見渡し何処に逃げたかを確認した。
しかしエリクが探す予想外の位置にガンダルフは出現し、錫杖を振るいエリクを狙う。
「後ろだ!!」
「!」
シルエスカの声でエリクは気付き、後ろを咄嗟に振り向く。
そこにあるのは、炎で溶かされつつある氷の壁が存在し、その氷壁の内部にガンダルフが移動して中から攻撃魔法で襲おうと狙っていた。
エリクは大剣を振り氷壁を襲うより早く、生み出された氷の弾丸がエリクを襲い傷を付け倒れさせる。
そして起き上がろうとするエリクに追い討ちをする為に、ガンダルフは次なる魔法を実行しようとした。
その時、ガンダルフの収まる厚い氷壁に一閃が下される。
氷壁はガンダルフの肉体諸共に切り裂かれ、手足が切り離されたガンダルフが氷塊と共に地面へ転がった。
それを見たエリクとシルエスカは、ガンダルフを切り裂いた人物に目を向ける。
氷壁の外側から斬ったのは、右腕を付けて大鎌を振るうマギルス。
魔人の二人が復帰し、ガンダルフ討伐に加わった。
「あー、冷たかった!」
「マギルス!」
「エリクおじさんの方が先に出てたのかぁ、残念!」
エリクとマギルスが互いに復帰した事を確認し、切断したガンダルフの氷塊を見る。
ガンダルフは凄まじい形相で倒れ伏し動く様子も見えず、死んだようにしか見えない。
しかしそれを否定したのは、シルエスカとマギルスだった。
「おじさん、コイツ偽物だ!」
「ガンダルフは身代わりを使う! 本体は地中の何処かにいるはずだ!」
そう二人が言い放った瞬間、氷塊の中にいるガンダルフが泥人形へと姿を変える。
三名は周囲を見渡しながらアリアを囲むように集まり、背中合わせに固まった。
「奴は何処から来る? 土の中か?」
「奴は水を伝って身体を移動できる。水がある場所は危険だ」
「なら、水を全て焼く。マギルス、アリアを馬に乗せて守れ」
「はーい」
エリクがシルエスカから情報を聞き出し、現状の打開策を行う。
大剣を地面へ突き刺したエリクは、自身の魔力を練りながら大剣へと伝えると、凄まじい炎を生み出した。
青馬の背にアリアを乗せたマギルスとシルエスカは、大剣を燃やすエリクを見ながら異変に気付く。
エリクの大剣を中心に炎が地面から噴き出し、水分という水分を蒸発させる為に駆け巡る光景が見えるのだ。
これで周囲の水分は蒸発し、ガンダルフは自由な移動が地中で出来なくなる。
更に焼ける地中に耐え切れずにガンダルフが飛び出て来る可能性を考えたシルエスカとマギルスは、待ち構えるように周囲を見回した。
しかし二人の予想を上回り、エリクの生み出す炎は半径百メートル以上の地中を業火で襲う。
地面の亀裂から吹き出る炎が巻き上がり、エリクは自身が生み出す魔力の炎を制御できずに暴れ回った。
その数秒後、地中から水の塊が地面を突き破り出て来る。
それに気付いたシルエスカとマギルスは、水の中に入り込んでいるガンダルフに気付いた。
「クッ!!」
「出たぞ!」
「おじさん!」
シルエスカとマギルスの呼び掛けでエリクは大剣を地面から引き抜き、ガンダルフが纏う水の塊を目にする。
そしてエリクは炎を纏う大剣を持ちながら駆け出し、水を纏うガンダルフに飛び掛かった。
「このぉ、鬼めガァッ!!」
「貴様は、俺が殺すッ!!」
ガンダルフは錫杖を振り翳して、氷の杭と氷の弾丸を生み出してエリクを襲う。
杭と弾丸が身体に命中し氷膜で肉体を覆うとしながらも、エリクの魔力で生み出される炎と熱がそれを阻み氷を溶かした。
そして炎の大剣がガンダルフを纏う水の障壁を叩き斬ると、内部の身体は錫杖と共に斬り飛ばされる。
「ば、馬鹿な……ッ!?」
ガンダルフは上半身と下半身が腕と共に切断され、そのまま地面へと落下する。
そして着地したエリクはガンダルフの頭に狙いを定めて大剣を振り上げた。
「――……貴様等如きに、この儂が……ッ!!」
「死ね」
振り上げた大剣がガンダルフの頭部へ直撃する。
こうしてエリクが生み出した炎が『青』のガンダルフの破り、数多の時間を生き続けた男の計画と命を絶たせる事に成功した。
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