虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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結社編 閑話:舞台袖の役者達

部族の歩み (閑話その二十五)

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 一方その頃。

 ヴェルフェゴールに襲撃され樹海に漂流した前ローゼン公爵クラウスは、センチネル部族でありアリアの友であるパールに保護され、森の部族達に対して『生き残る為の戦い方』を教えていた。
 それは原始的な生活を行い続けていた森の部族達に対して、刺激と違和感の強いモノとなる。

 クラウスは三ヶ月に満たない期間で、森の部族に様々な近代知識を教え込んでいた。 

「――……ふむ。木製だが素晴らしい出来栄えだ。手先が器用だな、森の部族は。製鉄の部品を作れる場所と資材が無いのが、ちと残念ではあるが」

「……いったい、何を作らせているんだ?」

 クラウスが森の部族に作らせた木製部品を眺め悪そうな笑みを浮かべる後ろで、パールは訝しげな目と声を向ける。
 それに応じるようにクラウスは顔を向けた。

「うむ。弩弓《ボウガン》だ」

「ぼうがん?」

「お前達が狩猟で使う弓があるだろう? それと同種の武器だ」

「矢を飛ばす武器か。なら弓で十分だろう?」

「矢を的確に当てられる名手を育てるのは、相当の時間を要する。それを簡略化できる策で生み出された武器だ」

「矢を飛ばすのが、簡単になる?」

「まぁ、この森で作れるボウガンでは矢は無理だな。せいぜい石だが、それでも強力だ」

「石を投げるのに、わざわざ道具を使うのか? 手で投げれば済むだろう」

「腕と弩弓で投げた石では、威力が違う。実際に見た方が早いだろう。完成を楽しみにして待っていろ」

「……」

 勇士である森の部族達は、クラウスが訪れてから奇怪な道具ものを作らされ続けている。

 主に自身の肉体能力を駆使して狩猟を行う森の部族が使う武器は、木を尖らせた槍や矢、良くてパールのような勇士が持つ鉱石を叩き削った石槍や斧くらい。
 武具の文明レベルが帝国と比べても明らかに低過ぎると戦いの時に察したクラウスは、まず武器の種類を増やす事を考えた。

 森の部族で手先が器用な者達を集めさせると、クラウスは地面や木板を削り書いた製図を理解させて武器となる部品を作らせる。
 始めこそ集められた者達はクラウスが話しパールが翻訳する言葉の真意を理解できず、部品作りに難色を示していた。

 そこでクラウスは自身でとある事を行い、森の部族達に自分が話す物がどういう物かを理解させた。

『お前達は罠を作るか?』

『罠は作る。穴を掘って追い込んだ獲物を落としたり、獲物の肉を置いて別の獲物を誘き寄せたり、樹液を塗って獲物を引き寄せる』

『それだけか? アルトリアが来た時、それを見て何も言わなかったのか?』

『アリスは魔法という業で獲物をすぐに仕留めていた。そもそも罠が必要なかった』

『アルトリアめ、横着をしおって。……仕方ない。俺が手本を見せてやろう』

『手本?』

『本当の罠という物を、貴様達に教えてやる』

 そう悪そうな笑みを浮かべるクラウスは、次の日から自身の武器と短剣を手にして樹海の一部地域に足を運び続けた。
 それを訝しげに思うパールや集められた森の部族達は静観に留まっていたが、二日後にクラウスがパールと森の部族達に告げる。

『お前達、今から向こうの森へ行ってみろ。無事に戻って来れたら、私の指示に従わなくていいぞ』

『……?』

『ただし自力で戻って来れない時は、俺の言う事に従ってもらう。いいな?』

 クラウスがそう話している事をパールは伝え、集められた勇士達は条件を飲み、それぞれが武器を持って指定された場所へ向かう。
 それに同行しようとしたパールだったが、クラウスに止められた。

『安心しろ、命に関わるようなモノは仕掛けてはいない。まぁ、打ち所が悪ければ死ぬかもしれんが』

『!?』

『すぐに答えが聞こえるだろう』

 悪そうな笑みでそう述べるクラウスの顔と、アリアが悪巧みを思い付いた時の顔がパールに重なる。
 数十分後に森の部族達が向かった場所から絶叫が木霊する。
 パールは急いで向かうと、武器を持つ十数人以上の勇士達が不様な姿を晒していた。

 複数の勇士達は蔦を足に引っ掛け高い木の上に吊るされ、薄い木の板が飛び出している複数の場所では数人が掘られた地面へ突き落とされている。
 更に雑草が生い茂る場所で足に取られ起き上がれない勇士達を蔦の投網が覆い、土が薄く張られた木の板を踏み、身体を落とし穴へ落下している勇士も見えた。

 森に慣れているはずの勇士達が、クラウスの仕掛けた罠に悉く嵌り倒れ伏している姿を見たパールは、後ろから付いて来ていたクラウスを見る。
 そして予想通り、クラウスは悪そうな笑みを浮かべていた。

『――……仮の話だが。私達が樹海へ入った際にこうした罠を幾つも仕掛けられ兵士達を負傷なり死傷なりさせていれば、我々はあの遺跡に辿り着くまでに大きく疲弊していたか、侵攻そのものを諦めていただろう』

『……!!』

『私一人が僅か二日で仕掛けた罠が、十数人の勇士を仕留めた。更に悪辣な罠を仕掛けていれば、この罠に掛かった全員が死んでいた』

『……ッ』

『もしお前達がこの技術を学べば、少数であっても樹海を活かした罠で圧倒的な数を誇る兵士達を退ける事も可能になる。……少しは学ぶ気になったか? 敗北者達よ』

 実績を見せられたパールと巧みな罠に掛かった勇士達は、クラウスに対して何も反論する言葉が無くなってしまう。
 それから勇士達は約束通り、クラウスが話す道具の作らされ続けた。

 そして弩弓の部品が全て完成し、それが組み上げられた十数日後。
 樹海中央に位置する遺跡の集落へ、部品を作り上げた勇士達とパールを始め、各部族の族長達が集められた。

 その前に立つクラウスは、組み上げた武器を高々と掲げて見せる。
 それを見た各部族長は、始めの勇士達と同じように訝しげな視線を向けた。

「『――……パール。アレがあの者の言っていた、強くなる為の武器か?』」

「『はい』」

「『奇怪な形をしておる……。あれが本当に武器か?』」

「『槍のように鋭くもなく、斧のように石で出来ていない』」

「『あれでは、獲物すら仕留められそうにないぞ』」 

 弩弓の形を見て口々に愚痴を漏らす族長達は、クラウスに対する疑惑を向ける。
 それを鎮めるように、高齢の大族長は手を挙げた。

 それで静まり返る周囲に応じるように、大族長の補佐する壮年の男性がパール伝手に伝える。

「『それでは、あの武器がどのようなものか見せてみろ』」

「武器の強さを見せろと、そう言っている」

「そうか、では存分に見てもらおうか」

 口元をニヤりとさせるクラウスは、まず弩弓を置いて適度な大きさの石飛礫を手に持つ。
 そして予め十メートルほど離れた木の板を的にし、クラウスは石飛礫を投げ放った。

 木の板に命中した石飛礫はそのまま弾かれ、地面へ落下する。
 それを見せられる者達は、何をやっているのだと疑問を浮かべた。

 その後、クラウスは同じ位置で弩弓を持ち、先程と同じ大きさの石飛礫を弩弓へ嵌め込む。
 そして弩弓を構え、引き金に指をかけて石飛礫を放った。
 同じ位置と大きさで放たれる石は木板へ命中すると、先程と違い木板は割れ砕けた。

 その結果に各族長達と森の部族達は驚きを見せる。
 そして部品を作らされていた森の部族達も、初めて見る武器の威力に驚かされた。

「――……こんなものだろうな。各部を鋼で補強できれば更に威力も上がり、貫通できるのだがな」

 森の部族達の驚きを他所に、クラウスは不満の声を漏らす。
 人間の腕力で投げた石と、クラウスの弩弓で放たれた石の威力が全く違う結果に、族長達は驚きの視線をクラウスへ移した。

 その視線を感じ取ったクラウスは、森の部族達に対して再び弩弓を見せる。
 先程とは真逆の視線を向ける森の部族を確認したクラウスは、パールに向けて話し掛けた。

「パールよ、奴等に言ってやれ。お前達が使っている武器は、そもそもお前達の武器として意味を成していないのだと」

「!?」

「お前達はこの樹海で鍛えられ、恵まれた肉体を持った。故に、肉体ばかりに頼った戦い方をしてきた。そうだな?」

「……そうだ」
 
「そのせいでお前達は『身体を鍛える』という発想に至っても、『武器を強くする』という発想に至らなかった。あるいは、その発想を得られる機会を逃し、放棄し続けたのだ」

「!!」

「私の領軍が使っていたのは、言わばお前達が持つ武器を原型とし進化させた武器。木の槍が鉄として形を成し、耐久性と貫通性を高めた進化した武器となった。弓も、この弩弓も同じだ。魔法に至っては未知の物にしか見えていなかっただろう?」

「……」

「改めて言うが、お前達はこの大自然で鍛え抜かれた身体があり、森から得た知識がある。それはお前達にとっての立派な『武器』だ。それは誇って良い」

「!」

「武器の性能や数で圧倒的に上だった我等に対し、お前達は粗末な武器だけで短くも対抗した。ならば持ち得る武器を増やして進化させ、更に森を活かす戦術を得られれば、貴様達はこの森において最も強い存在となれるだろう」

「……!!」

「戦いに必要なのは、『個』と『群』の技量。そして己の武器を使った『戦術』だ。それを学んで実践し、貴様達がこの大陸で本当に強い部族だという事を、私に証明してみせろ!」

 そう告げるクラウスの言葉を聞いたパールと、帝国語が学んでいた勇士達は驚きを見せる。

 クラウスは敵として森の部族と相対し、彼等の肉体能力の高さを認めていた。
 それに伴う武器と戦術を持たないだけに、惜しいと思う気持ちさえ抱いていたのである。

 森の部族はクラウスに強さを認められていた事を知り、その強さを更に伸ばせる事を認識した勇士達は、森の部族としての誇りに熱を灯らせる。
 そしてセンチネル部族の族長ラカムから言葉が訳され、各部族長と大族長はクラウスの伝える事に納得を示して頷いた。

 これを機に、クラウスは森の部族達に認められる。
 そして森の部族を強くするという役目を、正式に担う事となった。
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