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結社編 閑話:舞台袖の役者達
和平の道 (閑話その二十六)
しおりを挟む新年を明けてから二ヶ月が経過する。
アリアがエリク達と共にルクソード皇国を旅立った時期と重なり、ガルミッシュ帝国にも進展が訪れた。
ベルグリンド王国へ送った使者が戻り、改めてウォーリス王からの親書が届けられる。
内容は以前に届いた書簡と同じく、侵攻への謝罪と国境沿いの占領地の解放、そして帝国との和平協定を望む事が伝えられた。
そして前回の最後にも書かれていた、ユグナリス皇子とリエスティア姫の婚姻の件も記載されている。
しかしウォーリス王とアリアに関する婚姻の件は書かれておらず、その事に関する情報を使者伝手にゴルディオスとセルジアスは聞いた。
「――……なるほど。ウォーリス王はアルトリア嬢が出奔した件を知らなかったが、前回の侵攻時にその情報を得たのか。ならば前回、送られてきた二枚目の書状に書かれていたのは、それを知る前に書いていたということか?」
「そうですね。しかしそうなると、ウォーリス王は侵攻前から和平を結ぶ事を考えていた事になります」
「うむ、それはおかしい。反乱貴族達と王国側は内通していたからこそ国境への侵攻を始め、クラウスの率いる領軍を包囲したのではないのか? ウォーリスなる者が和平の望む言葉と行動が、全く一致しておらぬ」
ゴルディオスはウォーリス王の書状の内容と、実際に起こしている行動の違いを指摘し、表情を顰める。
それを聞いたセルジアスは、思考を巡らせ閃きを浮かばせた。
「……陛下。仮にウォーリス王が帝国との和平を望む際、彼の思惑に沿わない邪魔な存在が帝国側にあると考えた時、それは何者であると考えますか?」
「……?」
「私が考えるに、それは内乱を企てている帝国貴族達です」
「!」
「仮に内乱貴族達が決起しないまま和平を進めようとすれば、それを妨害する為に反乱貴族達は動きます。あるいは和平の会談を結ぶ時期を見計らい、反乱を決起する事も考えられる」
「……確かに、そうだな」
「ウォーリス王か和平を本当に望んでいたとしたら、その邪魔となる存在を出来る限り排除したいと考えるでしょう。だからこそ王国側は内乱貴族達と通じて決起を早め、我々に明確な反意を見せた反乱勢力を一掃させようと考えた可能性もあります」
「……つまり、ウォーリス王は和平を結ぶ為に帝国内部の反乱勢力を決起させ、我々に排除させたかったということか?」
「現実に王国側の侵攻は国境付近で留まり、反乱貴族達と追従し帝都の占拠までは行わなかった。……本気で反乱貴族達と手を結んでいたのなら、王国側は帝都を拠点とし、ローゼン領と各領の攻略を行うはずです」
「……」
「そう考えれば、王国側の動きが消極的だった理由も理解できます。彼等の侵攻目的は、和平を結ぶ際に邪魔となる存在の排除。つまり、反乱貴族の撲滅だったと……」
セルジアスの推論を聞き、ゴルディオスは表情を険しくさせながら幾分かの納得を見せる。
反乱貴族と王国の兵力が合わされば、ローゼン公爵領と同盟領の兵力とは二倍差以上に及んでいた。
あのまま協力して侵攻を続けていれば、反乱貴族と王国側の勝利にも手が届き得たかもしれない。
その機会を自ら失わせるように王国側は早い段階で撤退し、結果として反乱貴族の勢いを大幅に弱めた。
後の反乱勢力を鎮圧する際も、セルジアスが予想するより早く終わる事が出来ている。
奇しくもローゼン公爵家とウォーリス王の思惑は重なり、反乱貴族を一網打尽に出来る機会を作った事になった。
それがセルジアスには驚きであり、ウォーリス王なる人物に対して興味を抱かせる事にも繋がる。
「……ゴルディオス陛下。私は帝国宰相として、ベルグリンド王国のウォーリス王を帝都へ招き、和平を結ぶ事を提案します」
「!」
「幸い、今回の反乱でベルグリンド王国に対する帝国民の敵意は薄い。被害のほとんどが反乱貴族達によるモノでしたからね。……戦死者達の喪も、年明けと共に終わりました。元反乱領の治安も落ち着き、今なば王国との和平を結ぶ事に強い反発を抱く者達も少ないでしょう」
「……」
「それに、こうして無事に使者が戻り親書への返事を求められた以上、返答をしなければ無礼となります。……和平を結ぶか、このまま王国と相対するか。陛下の御意向を国に拡げる必要があります」
「……そうだな。この国の皇帝として、余の責務を果たすとしよう」
ゴルディオスはセルジアスを下げさせ、後日に帝国の官僚を集めて会議を行う。
その場で正式に皇国側から和平の親書が届いた事が伝えられ、官僚達に驚きを浮かべた。
それに対する答えとして、皇帝ゴルディオスは親書に対する答えを述べた。
「――……ゴルディオス=マクシミリアン=フォン=ガルミッシュの名で、この親書に対する返答を行う。余は、ベルグリンド王国ウォーリス=フォン=ベルグリンド王に対し、正式に和平を結ぶ事を告げる!」
「!!」
「そしてベルグリンド王ウォーリスを帝都へ招き、和平の調印を行う。その際に結ぶ協定に関して、法の制定や随所の調整を兼ねた場を設けようと思う。各々、和平に必要と思える情報を取り纏め、その時までに準備を整えておくように!」
「ハッ!」
「騎士団と兵団は国境沿いの警備を強化。来客が訊ねて来た際には、警備を万全にして帝都へ送り届けよ。道中で客人達が害されるような事があれば、帝国の名誉を傷つけたも同然と思え!」
「ハッ!!」
「ローゼン公、各自の采配は委ねる。このガルミッシュ帝国とベルグリンド王国の和平を成功に導けるように、尽力せよ」
「承りました。陛下」
「各々の責務を全うするよう、皇帝ゴルディオスから命ずる! 以上、解散!!」
こうして皇帝ゴルディオスが和平を受諾し、改めて使者をベルグリンド王国へ送る。
宰相であるセルジアスを筆頭に、各官僚達は和平の為に準備を開始した。
そして王国へ赴いた使者が、ベルグリンド王国から魔道具の通信を届ける。
ゴルディオスが和平を受諾した事を感謝すると伝え、ベルグリンド王国側も赴く準備を行い始めたと知らせた。
それから一ヵ月後。
ベルグリンド王国からウォーリス王と共に和平の使者が国境を越えたと伝えられ、帝国騎士団の護衛の下で帝都まで導かれる。
更に十数日後。
ベルグリンド王国の来訪者達が、ガルミッシュ帝国の都に辿り着いた。
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