虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
334 / 1,360
螺旋編 二章:螺旋の迷宮

遺跡の役割

しおりを挟む

 この別世界の砂漠が『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』を模したモノだと気付いたアリアは、俯き気味だった態度を止める。
 そして廃村で発見した旅人の遺体が一年前に死んでいた【結社】の魔法師だと分かり、残された荷物と手帳から持ち主がこの別世界に迷い込んだ理由を調査した。

 それに同行するエリクは、二人で遺体があった家とその周辺を確認し始めた。

「――……エリクの方は、何か見つかった?」

「いや……」

「やけに状態が良い物とか、家具の古さに見合わない道具とか」

「無いな。やはり死体が持っていた荷物以外、無いんじゃないか?」

「いいえ。荷物の中に、あるはずの物が足りないの」

「足りない物?」

「逆に質問するけど、魔法師が必ず持っている物は何だと思う?」

「……魔法を使う杖か?」

「正解。もしくは、それに類する物ね。今の私が使ってる手袋と同じ、魔法を行使する為に必要な魔石付きの道具よ」

 アリアが探している物を理解したエリクは、更に家の中と周辺を探索する。
 しかし魔石の付いた道具は何処にも無く、アリアとエリクは遺体を埋め直して拠点としていた建物に戻った。

 そして虚ろだった様子からアリアは一変し、死んだ魔法師の手帳に描かれた暗号文を解析し始める。
 アリアが精力的に動き始める様子を確認したエリクは、心に安堵を宿しながら次の指示を待った。

 更に三時間後、自身が持つ紙に手帳に書かれた暗号を解析したモノを、アリアは写し終えた。
 それをアリアは読み聞かせるように、エリクと話し始める。

「――……暗号の解析が出来たわ。随分と複雑な書き方をしてあったわね」

「そうか。何が、書いてあったんだ?」

「この手帳の持ち主が、どういう研究を行っていたか。主にそれが主軸だったわ。どうやら、遺跡探索者としては専門家スペシャリストだったみたいね」

「専門家か」

「そして、この手帳とミイラ化していた遺体の持ち主が同じだとすれば、彼はフラムブルグ宗教国で魔法を専門とした僧侶だったみたい」

「フラムブルグの……?」

「エリクとケイルが読めないと言っていた部分。あれはフラムブルグ宗教国で使われてる古代文字で、他の国では普及されたモノじゃないの。それを使うとしたら、フラムブルグに所属する魔法専門の神官か僧侶しかあり得ない」

「そうなのか。……それで、どうしてその僧侶がこの砂漠に?」

「フラムブルグ宗教国の大司祭から密命を与えられて、この大陸と砂漠に入ったそうよ。三十年前に終わったはずの戦争区域で、ホルツヴァーグ魔導国が何かしらの動きをしていた事を観測したみたい」

「それを調べる為に、一人で?」

「それだけの実力者でもあったんでしょう。……そして彼は、ホルツヴァーグ魔導国が砂漠で魔法実験を行っているのだと当たりを付けて、砂漠地帯の中心を目指した」

「例の遺跡だな」

「ええ。ただ、問題はそれからだった」

「問題?」

「彼は遺跡の発見に成功し、入り口を見つけ出した。そして遺跡の内部を探索したけど、そこはホルツヴァーグ魔導国が実験を行っているような施設も、そして遺跡として機能する魔道具も存在していなかった」

「……?」

「遺跡が遺跡と呼ばれる所以は、太古に使用されていた魔法文字が構築式として機能し、遺跡そのものが魔道具のような装置的役割を果たしているの。……エリクは、私達が滞在した樹海の遺跡を覚えてる?」

「ああ」

「樹海にあった遺跡も、崩れてはいたけれど遺跡そのものの機能は失われていなかった。あの遺跡は魔力を利用して土地を豊かにし、こんな砂漠にしないようにする装置としての役割を担っていたのよ」

「!」

「樹海の森林が巨大に育っていた理由は、その遺跡が少し働きが強まる誤作動を起こしていたから。それはこっそり、修正しておいたけど」

「そんな事をしていたのか?」

「ええ。……話を戻すけど、この砂漠の遺跡にそうした機能的役割が無い事を、専門家だった僧侶の彼もすぐに理解した。そして砂漠から去ろうとしたら、彼も私達と同じようにこの『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』に閉じ込められた事に気付いた」

「……」

「ただ私と違って、彼はその現象がどういうモノかを理解していなかった。でもこの現象そのものが、ホルツヴァーグ魔導国が行っている魔法実験なのではと考え至ったようね」

「……この世界が、魔法の実験で作られた世界?」

「あり得ない話じゃないわ。魔力とは、それだけ万能な物質なのよ。こんな世界を作り出す事も、確かに可能と考えても不思議じゃない。……私の見解とは異なるけどね」

「?」

「僧侶の彼は、この現象がどういう物かを記録し続けた。……砂漠地帯を抜けたと思ったら、いつの間にか入り口に逆戻りされる。その都度、彼の周囲で砂嵐が起きていたそうよ」

「砂嵐……」

「どうやらこの砂漠に発生している砂嵐自体が、この世界に閉じ込める為の入り口であり機能を役割としているみたいね。……私達も、自然の砂嵐とその砂嵐に見分けが付けられず、この別世界に巻き込まれてしまった」

「……!!」

「彼の場合、私みたいに『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』に対する先入観が無かったから、砂嵐がこの別世界に取り込まれた原因だとすぐに察した。だから何度も、砂嵐に発生する度にその中に入った。……でも、元の世界には戻れなかったようだけどね」

「……」

 僧侶かれの末路を知っているエリクとアリアは、その試みが失敗した事を察する。
 そして手帳を解析し記された事を話すアリアは、最後に記されていた事を述べた。

「彼は最後に、こう推測している。この世界は現世に近しい環境であり、現世とは異なる法則によって生み出されている。恐らく魔力が無い理由も、その法則性に関わるものだろうと。……魔法師として、彼を尊敬するわ。最後まで考える事を止めず、この世界の中で正気を失わずに生き延びようとし続けたんだから」

「……」

「そんな彼のおかげで、この世界がどういうモノなのか、私にも理解できたわ」

「!」

 アリアが手帳から目を逸らし、その視線をエリクに向ける。
 それから告げる言葉は、エリクを驚かせながらも微笑ませた。

「……いつもの君らしくなってきたな」

「そう? ……でも、理解は出来ても手が足りない。それは変わらない事実よ」

「どういう意味だ?」

「私も、そして死んだ僧侶かれも、この世界に魔力が無いから何も成し得なかった。……この世界の法則性を破る為には、やはり魔力の存在が必要不可欠なのよ」

「……何も、出来る事は無いのか?」

「……」

「昨日言っていた方法は、どうなんだ?」

「駄目よ。その方法だけは、絶対にしない」

「俺が、死ぬからか?」

「……ええ。貴方を犠牲にしてこの世界から抜け出すくらいなら、他の方法を探し続ける。死ぬまでね」

「……」

 断言するアリアに、エリクは渋い表情を見せる。
 そして溜息を吐き出しながら、アリアは水筒に入れていた水を飲んだ。

「……この世界が、『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』を模したモノだと分かった。そして私の考えが正しければ、この世界の生まれ方も理解できる」

「……問題は、この世界からの脱出か?」

「ええ。……気になるのは、やはり僧侶かれが持っていたはずの魔法を使う為の触媒が無い事ね。……手帳に記していないけど、彼は何かを試そうとした。それに魔石が付いた触媒を用いて、喪失した。……それがどういう意図で行われたのか、そしてどうして喪失したのか。それが分かれば、更に情報が得られるのに……」

「ただ失くしただけではないのか?」

「魔法師にとって、魔法を使う為の触媒は必須よ。よほどの事がない限りは、うっかり失くしたりしないわよ。……彼の手元にそれが無いとしたら、必ず何かに使ったはず。それが分かれば……」

「どうする? それを、また探すか?」

「……そうね。探しながら、遺跡に行ったケイル達を待ちましょう。もしかしたら、遺跡にそれらしい物があるかもしれないし」

 自身の考察を話し終えたアリアは、再び外に出て廃村の探索を行う。 
 それにエリクは同行し、僧侶が持っていた魔法の触媒を探した。

 しかしその日、二人はそれを発見できなかった。
 そしてケイル達も戻らない事で、向こうが遺跡を発見したのだと判断する。

 こうしてその日は終わり、二人はケイル達が戻るまで廃村の中を探索し回った。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む

凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

処理中です...