364 / 1,360
螺旋編 三章:螺旋の未来
治まらぬ憎悪
しおりを挟む三十年前に『螺旋の迷宮』を脱出していたアリアの行動の一部が、ダニアスから語られ説明される。
そしてクロエが付け加えるように、アリアの行動と残した品々から予測に近いアリアの思考を話し伝えた。
アリアは『螺旋の迷宮』に囚われたエリク達を救い出す情報を求め、魔導国に降る。
その方法の一つとして、エリク達を捕らえている『螺旋の迷宮』そのものを多くの死者達の魂を取り込ませながら拡大し、世界規模の『螺旋の迷宮』を作り出しているとクロエが推測した。
その推測はその場にいる全員の表情を強張らせ、様々な思いを宿らせるように内面に感情を煮え滾らせる。
そうした雰囲気を察するクロエは、改めて前置きを話した。
「――……さて。ここまで偉そうに話したけれど、これはあくまで私の推測で、真実じゃない」
「!」
「エリクさんが言うように、アリアさんが魔導国に身を置いて戦争を起こしている張本人とは限らない。何より、アリアさんが姿を消したのは二十年前。そして魔導国の首都が空に浮かんだのは十五年前。僅か五年で一都市を浮かび上がらせるなんて、流石にアリアさんの知識を用いても実現できる期間じゃないよ」
「……」
「恐らく、魔導国は始めから都市を空に浮かべる程の魔導装置を使い、各国に対する戦争準備をしていた。戦争自体を始めたのは魔導国の首脳陣達の判断で、アリアさんは目的を持って魔導国側に身を置いているという事だろうね」
「……ッ」
「アリアさんはこの戦争を始めた張本人ではない。けれど魔導国側に身を置くには、ある程度の協力をしなければならない。その代償として、あの魔導人形や飛空艇の性能を向上させている手伝いはしていると思うよ。……本来は操作する術者が必要なのに、無人の魔導兵器が構築式で自動操縦されているなんて、従来の魔導兵器では考えられない仕様だからね」
「……アリアが、あの兵器を……」
「『螺旋の迷宮』が人間大陸を覆い始める程に拡大しているのも、この十五年間で数千万人という人間が死んだ影響だろうね。そして拡大した分、内包された死者達の領域は薄まった。その影響で、この三人は死者の怨念から解放されて動ける身となった。そう考えるのが、理に適っていると思うよ」
「……」
「私から言える事は、どう足掻いても魔導国は戦争を起こしただろうということ。……アリアさんや、ましてや貴方達のせいで戦争が起きたわけじゃない。それは、安心していいよ」
そう微笑みながら話すクロエに、エリクとケイルは顔を逸らしながら渋い表情を見せる。
他に聞いていたダニアス等もクロエの念押しの意見に概ね納得し、エリク達を責める意思は見せなかった。
そうした中で、マギルスが不思議そうにクロエに尋ねる。
「――……ねぇねぇ。今、この世界ってさ。『螺旋の迷宮』っていうあの世界に、取り込まれてるんだよね?」
「そうだね」
「それって、マズいんじゃない?」
「うん、凄くマズいね」
「!!」
「さっきも言ったけど、人間大陸に充満していた魔力が急速に喪失している。恐らく死者達の魂に魔力が吸い尽くされて、それが『螺旋の迷宮』を形成し拡大させているからだ」
「……もし、このまま広がり続けたら?」
「広がり自体は、人間大陸の全土で留まるだろうね。……でも、大気に魔力が無くなった人間大陸は、死の大陸と化す。動植物が生きて育まれない環境となり、あの砂漠と同じような状況に陥ると思うよ」
「……!!」
「それを止める為にも、死者を増やす魔導国を討ち、人間大陸を覆い始めた『螺旋の迷宮』を破壊する必要がある。……その為にこの秘密基地で作ってたのが、あの飛空艇さ」
クロエは話しながら腕を翳し、壁に備わる画面に映し出された飛空艇に手を向ける。
そこには三隻の飛空艇が映し出され、改めて飛空艇の説明に入った。
「あれは一応、私が知ってる古代技術を参考にして作った空飛ぶ船。通称『箱舟』だよ」
「ノア……」
「本来は宇宙空間でも航行可能な代物だけれど、搔き集めて作れる資材だと、せいぜい大気圏内の飛行しか無理だろうね」
「……そ、そうか」
「この『箱舟』に戦力を乗せて、魔導国の首都を襲撃する。襲撃の目的は、敵都市の飛行機能を不能にすること。そして首都にいる魔導国の首脳陣を捕らえるか、もしくは倒すこと。その二つが、主な目的になるだろうね」
「……」
「乗り込む人選は、同盟国の軍部を司るシルエスカに任せてるけど。少なくとも、私は一緒に乗って行くつもりだ。……そして私から推薦する人達も、乗船してもらう」
「……俺達か?」
「そう。エリクさん、ケイルさん、そしてマギルス。この三人を乗船させた上で、魔導国を襲撃する。そして魔導国にいるだろう、アリアさんを確保してもらう」
「……」
そう伝えて要請するクロエの言葉に、エリクは無言ながらも頷いて承諾する。
それを予想していたケイルは口から溜息を洩らしながら頷き、マギルスもそれに承諾して頷いた。
三人の了承を取れたクロエは、表情を強張らせたシルエスカに目を向ける。
敢えて口を閉ざすシルエスカの様子に、クロエは微笑みながら訪ねた。
「シルエスカには、この三人の乗船に異論はある?」
「……無いと言えば、嘘になる」
「その理由は?」
「……仮にアルトリアが魔導国に身を堕とし、自ら進んで戦争に力を貸していた時。そしてこの三人がアルトリアと対峙した時。……お前達は、アルトリアと戦えるか?」
「!」
「それに、仮に否応なく捕らえられ力を貸さざるを得ない状況にアルトリアが追い込まれていたとしても。アルトリアが作った魔導兵器が、多くの犠牲を生み出している事に変わりはないだろう」
「……」
「仮に魔導国の襲撃に成功し、アルトリアを含んだ首脳陣を捕らえたとしても。……それ等の者達は非道を行った大罪人として、処刑する事になるだろう」
「……!!」
「魔導国は、多くの人間を殺し過ぎた。しかも、自らの手を汚さぬままに。……私はそれを許せぬし、他の者達も許せないはずだ。アルトリアを、その例外にするわけにはいかない」
「……ッ」
「そうなると分かった上でお前達は乗船し、我々と共に魔導国を討つ為に協力できるのか? ……そそして、魔導国を討ち終わった後にアルトリアを庇うのか?」
シルエスカは真っ直ぐにエリクに視線を向け、問い質す。
アリアが何かを目的として魔導国に身を置き、この戦争に加担しているのだとしたら。
その事実はどうあれ、この戦争で親しい者達を失い悲しみと怒りを抱く者達にとって、アリアは身を切る程の憎しみを宿す相手となるだろう。
例えどのような形で関わっていたとしても、被害者である国々や民衆はアリアだけを許すわけにはいかない。
だからこそ、シルエスカは問う必要があった。
エリク達がアリアを救う為に手を貸したとしても、その後にアリアの為に敵対してしまっては元も子もない。
エリクがアリアを守る為に忠実であるという事は、シルエスカを含む元皇国人達にとって周知の事実なのだ。
下手をすれば魔導国との戦いが終わり、次はエリク達とシルエスカや同盟国は戦わなければならないだろう。
そう聞かれた時、エリク達は言葉に詰まる。
アリアという一人の女性の為に、世界を敵に回すのか。
それとも世界を救う為に、アリアを死を承諾するのか。
この問いに、エリクはその場では答える事が出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!
心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。
これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。
ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。
気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた!
これは?ドラゴン?
僕はドラゴンだったのか?!
自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。
しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって?
この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。
※派手なバトルやグロい表現はありません。
※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。
※なろうでも公開しています。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる