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螺旋編 五章:螺旋の戦争
金属の正体
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マギルスが合成魔人製造施設に辿り着いていた頃。
地下へ通じる入り口を探す為に地上の都市中央部に布陣していたシルエスカ率いる同盟国軍は、今も入り口を見つけられずに索敵を続けていた。
そしてエリクとマギルスが降下してから三十分以上が経過していたが、二人が降りた数分後には通信が一考に届かない事に地上組は気付いている。
シルエスカはそれに対して表情を強張らせながら思考し、冷静に別の入り口を探す為に各部隊を散開させて索敵を続けさせた。
「――……地下の出入り口は、見つからないか?」
『……やはり見つけられません』
「そうか……」
その結果、地下の出入り口を発見する事に失敗する。
シルエスカは渋い表情を浮かべながらマギルスの開けた穴を見て、降下用のロープを繋ぎ合わせて自身と少数で地下に降りる事を考えた。
しかしその判断は、箱舟を経由した一つの通信で踏み止まる。
『――……こちら、箱舟三号機! シルエスカ元帥、お伝えしたい情報が!』
「!」
『現在、グラド将軍が率いる部隊が敵魔導人形を製造している地下施設を発見したと、報告が届きました!』
「!!」
「!」
その報告は、シルエスカを始めとした各部隊の通信機にも届く。
丁度この頃、グラド達はケイルと共に地下へ降り施設を発見し、通信が繋がらない為に少数の人員を地上に戻して施設発見の報告を届けさせていた。
それが箱舟に伝わり、経由してシルエスカと率いる部隊にも届く。
その知らせは、同時に指揮者たるシルエスカにとって新たな選択を考えさせた。
「グラド達が地下に入り、施設を発見した。その報告に間違いは無いか?」
『はい。地下へ降りられるリフトを発見したそうです』
「……だとすると、入り口は工場地帯だけなのか……?」
『元帥?』
「……施設を発見後、グラドはどう動いている?」
『グラド将軍は部隊の四分の一を率いて地下へ降り、施設の破壊準備を行うそうです』
「……中央部では間に合わないな。そこの地下から中央まで行ければと思ったが……」
シルエスカはグラド側の状況を汲み取り、都市北部への移動を諦める。
もし時間に余裕があるのであれば、シルエスカならグラドに時限爆弾の設置を遅らせる指示も考えた。
しかし各国で魔導人形の侵攻が開始されたからには、自律行動を補助する施設がある可能性が高い魔導人形製造施設の破壊は最優先で行うべきだとシルエスカは考え至る。
そう諦めの声を通信越しで漏らしたシルエスカに、ある声が通信機から呼び掛けた。
『――……そっちは、やっぱり見つかっていないようだね。シルエスカ』
「クロエか? ……その言い方、お前には我々の現在が視えていたのか?」
『ある程度はね』
通信機から呼び掛けたクロエの声に、シルエスカは渋い表情を浮かべる。
自分達が地下の出入り口を見つけられない未来が視えていたにも関わらず、それを今になって教えるクロエに良い表情は出来るはずがない。
そんなシルエスカの心情を無視するように、クロエは話を続けた。
『それより、マギルスとエリクさんは近くにいないね?』
「ああ。二人は地面を切り取り、先に地下へと降りて行った」
『言っておくと、君達は後を追わない方がいい』
「なに……?」
『私も半信半疑だったけど、実際にこの都市の状況を見て確信したよ。……ここは箱庭の一つだ』
「箱庭……。なんだ、それは?」
クロエはそう話し、都市の事を『箱庭』と呼ぶ。
そして呟くように疑問を述べるシルエスカに、クロエは応えるように語った。
『箱庭。もしくは、【天界】と呼ぶべきかな』
「天界だと……! まさか、五百年前の天変地異の……!?」
『流石は元七大聖人だ。そうした知識は、聖紋で継承されていたようだね』
「ここが……いや魔導国の都市が、本当に天界の一つなのか?」
『厳密に言えば、魔導国は五百年前に落下した箱庭の上に建てられた国だったという事さ』
「――……げ、元帥。天界とか、箱庭とか、どういう……?」
シルエスカとクロエが互いに【天界】について話す中で、意味が分からない他の兵士達は通信機から届く謎の会話に疑問を浮かべている。
それを代表するように近くに居た一人の兵士がシルエスカに話し掛け、疑問を述べた。
そうした兵士達の疑問にシルエスカが答えるより先に、クロエが通信機で説明をする。
『――……箱庭。通称【天界】は、大昔にこの空の遥か頭上に存在した星……というか、場所なんだけどね。そこは何十万年も前に、初めの私や神と称される者達が住んでいた場所でもある』
「!?」
「神……?」
「神様が住んでた……!?」
「そんな場所があるのか……?」
『本当に在ったんだよね。でもその【天界】と呼ばれる箱庭が五百年前に崩壊して、それぞれの区画がこの地上に落下した。それが人間大陸に伝えられている、五百年前の天変地異という歴史なんだよ』
「!?」
『箱庭はとても巨大でね。崩落した箱庭の区画は、そのまま地上のあらゆる場所に落下して、大陸になってしまう程だった』
「え……!?」
「た、大陸になったって……」
「そんな馬鹿な……」
『馬鹿も何も、君達が暮らしているアスラント同盟国がある大陸も、その一つだよ?』
「!?」
「へ……!?」
『他だと、ガルミッシュ帝国やマシラ共和国があった大陸なんかも。というより、ほとんどの国がそうじゃないかな?』
クロエが当然のように語る話に、兵士達全員が呆気を見せて硬直する。
そして次々と述べられる大陸とその国名に、兵士達は更なる驚きを見せて言葉を失った。
そんな兵士達に追い打ちをするように、クロエは更に語り続ける。
『というかね、五百年前に旧人間大陸はほとんど消失してしまっているんだよ。攻め込んだ神兵が国や大陸ごと消し飛んだり、落下した箱庭のせいで旧大陸が国ごと海に沈んだり、大陸と箱庭の一部が覆い被さるようになってしまってね』
「……!?」
『だから旧文明のほとんどは、土や海の中だったりしてる場合が多い。旧文明の国で残ってるのは、フォウル国とそれに隣接してたアズマ国くらいかな?』
「……は、初めて聞いた……」
「天変地異って、確か大きな地震や大洪水で人類が滅びそうになったって話だったよな……?」
「げ、元帥。これって、本当の話なんですか?」
「……事実だ」
「!!」
クロエの話に兵士達は唖然とし、語り継がれる天変地異の詳細を初めて知る。
それを確認するようにシルエスカの近くに居た兵士は話し掛け、頷き呟く姿に唖然とした様子を見せた。
「……初代『赤』の七大聖人ルクソードは、その天変地異に巻き込まれ滅んだ国の人々を救い、落下した【天界】で出来た大陸に渡った」
「!」
「そして新たな大陸と共に堕ちてきた天界の民と新大陸で出会い、彼等と盟約を交わしてその大陸で暮らして国を築いた。……それがアスラント同盟国の前進、ルクソード皇国だ」
「……!!」
「この情報は七大聖人になる時に得られる聖紋によって知識を受け継いだ事で、我自身も知った。他の七大聖人も同様のはず。違うか? クロエ」
『そうだね。少なくとも黒や白以外の七大聖人は、そうして知識を受け継いでいるはずさ』
シルエスカの証言でクロエが述べる【天界】が実在し、しかも自分達が暮らしていた大陸が崩落した【天界】だったのだと兵士達は知る。
その情報は人類史にとって驚愕すべき真実であり、誰もが知らない出来事だった。
そしてそれを知るシルエスカは、再びクロエに通信で尋ね聞く。
「――……それで、ここがその天界の一つだとどうして分かったんだ?」
『簡単だよ。君達の近くに、黒い金属の塔があるだろ?』
「ああ」
『それはね、箱庭の大地を支えていた基盤。つまり、箱庭の土台なんだ』
「土台だと……?」
『私達はその金属を、魔鋼と呼んでいた。その塔を構成している金属の砂粒一つ分の量が、王級魔獣の魔石以上の魔力濃度を秘めた物質と質量だと言えば、その凄さは分かるかい?』
「!?」
『魔力索敵機で観測できない程の魔力濃度と物質硬度。魔鋼は完璧な金属と称しても語弊は無い。今の文明レベルでは、超常物質と呼べる物だろうね』
「……この全てが、それなのか?」
『ああ。何せ、箱庭の土台全てが魔鋼だったからね。――……恐らく誰かが地上に埋まっていた魔鋼の浮遊機能を復活させて、この都市を浮かせたんだ』
「……!!」
通信機でシルエスカと兵士達は、クロエの冷静な状況分析を聞く。
それはあまりにも突拍子も無い情報であり、同時に尺度の大きすぎる目の前の塔に対して呆然とした様子を晒すには十分な話だった。
地下へ通じる入り口を探す為に地上の都市中央部に布陣していたシルエスカ率いる同盟国軍は、今も入り口を見つけられずに索敵を続けていた。
そしてエリクとマギルスが降下してから三十分以上が経過していたが、二人が降りた数分後には通信が一考に届かない事に地上組は気付いている。
シルエスカはそれに対して表情を強張らせながら思考し、冷静に別の入り口を探す為に各部隊を散開させて索敵を続けさせた。
「――……地下の出入り口は、見つからないか?」
『……やはり見つけられません』
「そうか……」
その結果、地下の出入り口を発見する事に失敗する。
シルエスカは渋い表情を浮かべながらマギルスの開けた穴を見て、降下用のロープを繋ぎ合わせて自身と少数で地下に降りる事を考えた。
しかしその判断は、箱舟を経由した一つの通信で踏み止まる。
『――……こちら、箱舟三号機! シルエスカ元帥、お伝えしたい情報が!』
「!」
『現在、グラド将軍が率いる部隊が敵魔導人形を製造している地下施設を発見したと、報告が届きました!』
「!!」
「!」
その報告は、シルエスカを始めとした各部隊の通信機にも届く。
丁度この頃、グラド達はケイルと共に地下へ降り施設を発見し、通信が繋がらない為に少数の人員を地上に戻して施設発見の報告を届けさせていた。
それが箱舟に伝わり、経由してシルエスカと率いる部隊にも届く。
その知らせは、同時に指揮者たるシルエスカにとって新たな選択を考えさせた。
「グラド達が地下に入り、施設を発見した。その報告に間違いは無いか?」
『はい。地下へ降りられるリフトを発見したそうです』
「……だとすると、入り口は工場地帯だけなのか……?」
『元帥?』
「……施設を発見後、グラドはどう動いている?」
『グラド将軍は部隊の四分の一を率いて地下へ降り、施設の破壊準備を行うそうです』
「……中央部では間に合わないな。そこの地下から中央まで行ければと思ったが……」
シルエスカはグラド側の状況を汲み取り、都市北部への移動を諦める。
もし時間に余裕があるのであれば、シルエスカならグラドに時限爆弾の設置を遅らせる指示も考えた。
しかし各国で魔導人形の侵攻が開始されたからには、自律行動を補助する施設がある可能性が高い魔導人形製造施設の破壊は最優先で行うべきだとシルエスカは考え至る。
そう諦めの声を通信越しで漏らしたシルエスカに、ある声が通信機から呼び掛けた。
『――……そっちは、やっぱり見つかっていないようだね。シルエスカ』
「クロエか? ……その言い方、お前には我々の現在が視えていたのか?」
『ある程度はね』
通信機から呼び掛けたクロエの声に、シルエスカは渋い表情を浮かべる。
自分達が地下の出入り口を見つけられない未来が視えていたにも関わらず、それを今になって教えるクロエに良い表情は出来るはずがない。
そんなシルエスカの心情を無視するように、クロエは話を続けた。
『それより、マギルスとエリクさんは近くにいないね?』
「ああ。二人は地面を切り取り、先に地下へと降りて行った」
『言っておくと、君達は後を追わない方がいい』
「なに……?」
『私も半信半疑だったけど、実際にこの都市の状況を見て確信したよ。……ここは箱庭の一つだ』
「箱庭……。なんだ、それは?」
クロエはそう話し、都市の事を『箱庭』と呼ぶ。
そして呟くように疑問を述べるシルエスカに、クロエは応えるように語った。
『箱庭。もしくは、【天界】と呼ぶべきかな』
「天界だと……! まさか、五百年前の天変地異の……!?」
『流石は元七大聖人だ。そうした知識は、聖紋で継承されていたようだね』
「ここが……いや魔導国の都市が、本当に天界の一つなのか?」
『厳密に言えば、魔導国は五百年前に落下した箱庭の上に建てられた国だったという事さ』
「――……げ、元帥。天界とか、箱庭とか、どういう……?」
シルエスカとクロエが互いに【天界】について話す中で、意味が分からない他の兵士達は通信機から届く謎の会話に疑問を浮かべている。
それを代表するように近くに居た一人の兵士がシルエスカに話し掛け、疑問を述べた。
そうした兵士達の疑問にシルエスカが答えるより先に、クロエが通信機で説明をする。
『――……箱庭。通称【天界】は、大昔にこの空の遥か頭上に存在した星……というか、場所なんだけどね。そこは何十万年も前に、初めの私や神と称される者達が住んでいた場所でもある』
「!?」
「神……?」
「神様が住んでた……!?」
「そんな場所があるのか……?」
『本当に在ったんだよね。でもその【天界】と呼ばれる箱庭が五百年前に崩壊して、それぞれの区画がこの地上に落下した。それが人間大陸に伝えられている、五百年前の天変地異という歴史なんだよ』
「!?」
『箱庭はとても巨大でね。崩落した箱庭の区画は、そのまま地上のあらゆる場所に落下して、大陸になってしまう程だった』
「え……!?」
「た、大陸になったって……」
「そんな馬鹿な……」
『馬鹿も何も、君達が暮らしているアスラント同盟国がある大陸も、その一つだよ?』
「!?」
「へ……!?」
『他だと、ガルミッシュ帝国やマシラ共和国があった大陸なんかも。というより、ほとんどの国がそうじゃないかな?』
クロエが当然のように語る話に、兵士達全員が呆気を見せて硬直する。
そして次々と述べられる大陸とその国名に、兵士達は更なる驚きを見せて言葉を失った。
そんな兵士達に追い打ちをするように、クロエは更に語り続ける。
『というかね、五百年前に旧人間大陸はほとんど消失してしまっているんだよ。攻め込んだ神兵が国や大陸ごと消し飛んだり、落下した箱庭のせいで旧大陸が国ごと海に沈んだり、大陸と箱庭の一部が覆い被さるようになってしまってね』
「……!?」
『だから旧文明のほとんどは、土や海の中だったりしてる場合が多い。旧文明の国で残ってるのは、フォウル国とそれに隣接してたアズマ国くらいかな?』
「……は、初めて聞いた……」
「天変地異って、確か大きな地震や大洪水で人類が滅びそうになったって話だったよな……?」
「げ、元帥。これって、本当の話なんですか?」
「……事実だ」
「!!」
クロエの話に兵士達は唖然とし、語り継がれる天変地異の詳細を初めて知る。
それを確認するようにシルエスカの近くに居た兵士は話し掛け、頷き呟く姿に唖然とした様子を見せた。
「……初代『赤』の七大聖人ルクソードは、その天変地異に巻き込まれ滅んだ国の人々を救い、落下した【天界】で出来た大陸に渡った」
「!」
「そして新たな大陸と共に堕ちてきた天界の民と新大陸で出会い、彼等と盟約を交わしてその大陸で暮らして国を築いた。……それがアスラント同盟国の前進、ルクソード皇国だ」
「……!!」
「この情報は七大聖人になる時に得られる聖紋によって知識を受け継いだ事で、我自身も知った。他の七大聖人も同様のはず。違うか? クロエ」
『そうだね。少なくとも黒や白以外の七大聖人は、そうして知識を受け継いでいるはずさ』
シルエスカの証言でクロエが述べる【天界】が実在し、しかも自分達が暮らしていた大陸が崩落した【天界】だったのだと兵士達は知る。
その情報は人類史にとって驚愕すべき真実であり、誰もが知らない出来事だった。
そしてそれを知るシルエスカは、再びクロエに通信で尋ね聞く。
「――……それで、ここがその天界の一つだとどうして分かったんだ?」
『簡単だよ。君達の近くに、黒い金属の塔があるだろ?』
「ああ」
『それはね、箱庭の大地を支えていた基盤。つまり、箱庭の土台なんだ』
「土台だと……?」
『私達はその金属を、魔鋼と呼んでいた。その塔を構成している金属の砂粒一つ分の量が、王級魔獣の魔石以上の魔力濃度を秘めた物質と質量だと言えば、その凄さは分かるかい?』
「!?」
『魔力索敵機で観測できない程の魔力濃度と物質硬度。魔鋼は完璧な金属と称しても語弊は無い。今の文明レベルでは、超常物質と呼べる物だろうね』
「……この全てが、それなのか?」
『ああ。何せ、箱庭の土台全てが魔鋼だったからね。――……恐らく誰かが地上に埋まっていた魔鋼の浮遊機能を復活させて、この都市を浮かせたんだ』
「……!!」
通信機でシルエスカと兵士達は、クロエの冷静な状況分析を聞く。
それはあまりにも突拍子も無い情報であり、同時に尺度の大きすぎる目の前の塔に対して呆然とした様子を晒すには十分な話だった。
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